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シェレンベルガーから秋山和慶へ、新時代に突入する岡山フィル(その1) [岡山フィル]

 前回のエントリーで岡山フィルの首席指揮者:シェレンベルガーの退任と、その後を受けて秋山和慶のミュージック・アドバイザーへの就任のニュースに触れたが、楽団からも9月25日に正式なコメントが発表さた。

 シェレンベルガーへの熱い感謝の気持ちが込められ、あと半年間、3回の共演を「マエストロの指揮とともに、五感に刻みつけてくだされば」というコメントに心が動かされるものがあった。

 このニュースに接したときは、秋山&岡フィルの新時代の期待よりも、シェレンベルガーの退任への落胆の気持ちが強くて、少々落ち込んでいたが、楽団からのコメントや、SNSなどでの音楽鑑賞仲間からの励ましで、事実を受け入れる気持ちになった。

 特に仲間からの「タイプの違う常任指揮者に切り替ることは(運営がしっかりしているのであれば)とても有益なこと」というメッセージは心に響いた。確かに成長しているオーケストラを思うとき、前の指揮者と次の指揮者、持っているもの全く違う人が継ぐことによって、飛躍的に発展した例は多くあることに気付かされた。


 今年の春頃、岡山フィルの首席指揮者が交代する可能性を知り、シェレンベルガーにどうしても続けてほしかった私は、こんな記事を書いた。



 その中でも、なぜシェレンベルガーの続投が必要なのか、その理由を自分の中でまとめてみた結果

①オーケストラビルダーとしての卓越した能力

②楽団員と向上心を共有した良好な関係を築いている

③聴衆の圧倒的な支持

④シェレンベルガーと開拓すべきレパートリーがまだまだ存在する

⑤国内のオーケストラのヒエラルキーに属さない個性・独自性


 この5つの理由を挙げた。


 今から読むと、まあ、生意気な・・・不遜な記事を書いたものだなあと我ながら呆れ返っているところなのだが、実は頭の中には何人か候補を想定して書いたものだ。海外で経験を積んで、国内のオーケストラのシェフをやった経験があって、でも現在国内オーケストラのポストからは外れていて、だから「岡山フィルの仕事を引き受けてやろうか」という動機を持てる方。


 しかし、蓋を開けてみると秋山和慶がミュージック・アドヴァイザーを引き受けてくれるという。完全に私の想像を超えた結果になった。前回のエントリーでも書いたとおり、80歳になるマエストロは国内オーケストラからひっぱり凧で、とても岡山フィルの常任の指揮者を引き受ける余地はないだろうと思っていたからだ。

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※試しに「ぶらあぼ」で検索して見ると、出るわ出るわ・・・傘寿にして日本で一番忙しい指揮者じゃないかしら。よく岡山フィルの仕事を引き受けてくれたと思う。


 オーケストラ・ビルダーとしての実績は申し分なし。楽団員との関係やトレーナーという面では、シェレンベルガーが超一流の現役器楽奏者である「プレイングマネージャー」型の指揮者で、それゆえにソロや室内楽などの音楽演奏の中で自らの音楽性を伝える術がある点は、秋山さんには無い利点だったとは思う。


 海外の音楽シーンとのコネクションは、バンクーバー交響楽団の桂冠指揮者として毎年、カナダでの演奏会のタクトを振っていて、バンクーバーのご自宅には故人ではアラウ、ワッツ、アシュケナージ、ハレル、現役ではパールマン、エッシェンバッハ、ズーカーマン、ヨーヨー・マらが遊びに来たという。アルゲリッチ、藤村実穂子、マイスキーらが広響で共演したのも記憶に新しい。


 レパートリーに関しては、恐らく国内ナンバーワン、世界的に見ても秋山さんを超えるレパートリーを持つ指揮者は少ないだろう。



 秋山さんの就任によって、国内オーケストラにおける岡山フィルの知名度や地位は間違いなく向上するだろう。一方で、精彩のない演奏になった場合「秋山和慶が振って、この程度なのか」という評価になる可能性がある。シェレンベルガーが開拓した県外からの聴衆を繋ぎ止めるには、秋山さんがポストを持っている広響やセンチュリーに聴き劣りしない演奏を岡山フィルが聴かせる必要があり、これは相当ハードルが上がる。


 岡山フィルにとって、もっとも大きな利点は、秋山さんが最高のオーケストラ・ビルダーであり、東京交響楽団など破綻寸前まで追い込まれた楽団を再建する、あるいは岡山フィルと同じオーケストラ連盟準会員の中部フィルの育成などの経験で培われた具体的な問題解決策を持っていることと、全方位・全時代的にレパートリーの拡大が見込めることだろうと思う。


 秋山さんが来ることによって岡山フィルは、どのように変わっていくのか?ついては、また次回移行のエントリーでじっくり考えてみたい。

 この時期に発表されたことによって、一番大きいのはシェレンベルガー首席指揮者のファイナル興行が盛り上がるということ。

 しかし、それにあたってはシェレンベルガーが並々ならぬ意気込みと犠牲を払っていることを忘れてはならない。まず、2週間の隔離待機。期間が10日間に減少するという話も出ているが、それでもこの10日〜2週間を異国で閉じ込められた生活を強いられるのは、一流の音楽家にとっては大変な犠牲だと思う。
 10月の定期演奏会と同じ時期に予定されていた、シェレンベルガーが審査委員長を努めている国際オーボエコンクールは中止され、また、(シェレンベルガーのHPに掲載されていた)兵庫PACの定期演奏会も正式発表前にプログラムが差し替えられ、10月は岡山フィルとのたった1日の定期演奏会のために隔離待機を厭わず来日することになるようだ。その意気込みや岡山フィル・聴衆への思いを感じながら聴きたいと思う。

 12月の特別演奏会(第九中止に伴う代替公演)のプログラムからもシェレンベルガーの思いが伝わってくる。このコロナ禍によって岡山フィルとの共演だけでなく、岡山大学Jホールでの室内楽シリーズなど、シェレンベルガーのオーボエ演奏を聞く機会を奪われてしまった。そんな岡山の聴衆のために、シェレンベルガーが岡山フィルとの初共演で取り上げた思い出深いモーツァルトのオーボエ協奏曲を取り上げる意図は、岡山の聴衆への気持ちを現してくれていると思うのだ。

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 メインの「ジュピター」交響曲は2019年のニューイヤー・コンサートでも指揮しているが、期間を開けずに再び取り上げたのは何か意味があるに違いなく。私はこの曲の第4楽章の、延々と続くような「ド・レ・ファ・ミ」のフーガの重なりに、岡山フィルが今後も永続的に発展していくように、との願いが込められていると思う。

 最後の3公演で「シェフ」としてのお別れをする機会が得られたことは、ベルリンでの新しい仕事に打ち込むシェレンベルガーにとっても、秋山さんを迎えて新しいステージに向かおうとする岡山フィルにとっても、いい形でマイルストーンを置くことが出来る。岡フィルのシェフとしてのマエストロとの時間を、それこそ「五感に刻みつける」べく、楽しみにしたいと思います。



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