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岡山フィル第77回定期演奏会 指揮:デリック・イノウエ Pf:松本和将 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第77回定期演奏会


リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲

ラフマニノフ/パガニーニの主題による変奏曲

〜 休 憩 〜

チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調


指揮:デリック・イノウエ
ピアノ独奏:松本和将
コンサートマスター:藤原浜雄


2023年7月23日 岡山シンフォニーホール


20230723.jpg


・弦五部は12型(1stVn12、2ndVn10、Vc8、Va8、Cb6)で2管+αの編成。トランペット首席の小林さんとティンパニ特別首席の近藤さんが降り番で、その代役・・・というにはあまりにも大物のを招聘していた。トランペットはN響の長谷川さん、ティンパニは元広響の照沼さん。首席の空席が続いているホルンはニコ響でいつも見ている東響の上間さん(まさか岡山で生の音を聴けるとは!)、トロンボーンとファゴットの客演首席はお馴染みの小田桐さんに中野さん(京響)。トッティ奏者にもコンバスに藤丸さん(広響)、ホルンに倉持さん、金管を中心に強力な布陣・・・おっと忘れたらあかん、ピッコロに都響の小池さんが乗っているのにもビックリ、帰省も兼ねてだろうか?チャイ4の第3楽章のピッコロが笑けてくるほどうまくて、ロシアの仕掛け人形たちが魂を得て生き生きと動き出してきそうな瑞々しさがあった。

・お客さんの入りは75%ぐらいだろうか?例年は「夏枯れ」の季節になるが、よく入っている・・・と思いきや、3階席は高校生を動員(たぶん吹奏楽部や管弦楽部の生徒だろう)しているようだった。でも、今回の演奏は高校生にも聴きごたえがあっただろうな。

・順番は前後します。今日の白眉は松本和将さんがソロを取った、ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲である、というのが当日の演奏を聴いた聴衆の一致するところだろう。それほど凄い演奏だった。

・実はこの曲が大好きで、でもなかなか岡山で演奏されることは無く、何度も関西に遠征して聴きに行った。作曲年は1934年。「遅れてきたロマン派」などと言われたりするが、この曲や交響的舞曲などは、決して時代遅れなどではない、なかなか凝ったオーケストレーションになっている。同じくロシア生まれのストラヴィンスキーは、一度前衛に走ったあとに新古典流儀に傾倒していた時期だし、プロコフィエフは『ロメオとジュリエット』や『アレクサンドル・ネフスキー』などが作曲された時期で、どこなくこの頃のラフマニノフとは影響しあっている気もする。

・ピアノソロ部分については超絶技巧は勿論のこと、ラプソディの名の通りの叙情的な表現力、目まぐるしい変奏曲を描き分ける引き出しの多彩さ、協奏曲としてオーケストラと音楽を作っていく共創能力も求められる。
 松本さんの演奏は高次元ですべての要素を満たしていた。特にオーケストラとの絡みは本当に見事で、ソリストとオケが人馬一体、今まで聴いたどの演奏よりも感銘を受けた。特に第9〜10変奏,第13〜14変奏が圧巻。『悪魔に魂を売った』パガニーニのモチーフと、時折見え隠れする『怒りの日』のモチーフが絡み合い、ラフマニノフ晩年の鬼才っぷりを、松本さんのピアノと岡フィルが体現してくれたような演奏。恐ろしいほど妖しくも美しい、心の奥底に深く沈んでくる世界観だった。デリックさんの付けも見事で、ロシアの土臭さではなく、都会的で明るめの響きから、ラフマニノフがアメリカから受けた影響(この曲はスイス滞在中の作曲らしいが)を全面に出したような演奏だった。岡フィルも木管や藤原コンマスのソロには涙をさそわれる素晴らしさだった


・今回気づいたのだが、あの第18変奏は最高潮に達する直線まで、ヴィオラが入っていないんですね。ヴィオラが入った瞬間、音に厚みと深みが増して、聴き手の心が揺さぶられる。交響曲第3番の甘美な第3楽章の集結部はヴィオラが全部美味しいところを持っていったり、ラフマニノフはヴィオラの使い方が天才的。

・松本さんも、勿論岡フィルもホームグラウンドのホールで、去年のラフマニノフ2番を初め、共演を重ねたことが、単なるソロと伴奏にとどまらない、コンチェルトグロッソ的な愉悦を堪能させてくれたのだ。

・余談になるが、第22変奏は、交響曲第2番の第4楽章に酷似しているところがある。元ネタのモチーフは何なのだろう?

・ソリストアンコールはヴォカリーズ。弱音なのに芯がある、この一曲だけでも松本さんのソノリティを感じさせる演奏だった。




・一曲目のリムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲、この曲は管楽器が上手いと、まっこと映えますな。常々「岡フィル自慢の木管陣」と表現してきたけど、みなさんホンマに上手いです。そして浜雄さんのソロ、パガニーニ・ラプソディの第16変奏でも感じたのだが、いぶし銀のような渋みがありながら、どこか都会的で洒脱。グレン・ディクロウやシルヴァースタインのソロを思わせる。


・デリックさんは構えの大きい指揮でグイグイ牽引していく。一見大振りなようでいて、棒先だけに注目すると非常に緻密。予備動作も明確なので、オーケストラは演奏しやすそうだ。このあたり、この方はやはり齋藤秀雄直系だなあと思う。


・新日本フィルが上げてくれているデリックさんの動画を見てみると、秋山さんとの関係は師弟関係以上のものがあるようだ。
 https://youtu.be/iDvx2zsVv7Y


・第4曲のアンダルシア・ジプシーの歌の場面では オペラ指揮者の本領発揮でオケを歌いに歌わせて煽っていた。畠山さんの真珠のような輝きのフルートも印象的。

・メインのチャイコフスキー4番。正直な感想は「めっちゃ気持ちいい・・・・しっかし、疲れた!」である(笑)


・これまでの岡山フィルからは聴いたことがない鋼のような強靭なサウンドをデリックさんが引き出していた。明るくマッチョで力ずくで心を持って行くような強引さがある。管打楽器のホールを震撼させる鳴りっぷりも凄かったが、12型という編成にもかかわらず、管楽器に負けない音圧を繰り出す弦五部にも脱帽。

・ステージからの抗えぬ圧を感じながら思い出していた。私が初めて海外のオーケストラを聴いたのがロサンゼルス・フィルで、その時の感覚が蘇るような岡山フィルの演奏だったのだ。まさに北米のオーケストラのサウンドで、仮に今回の録音をCDに焼いて、『TELARC』レーベルを付けて「これ、最近評判の高いアメリカのオーケストラなんだって」と言って聞かせられると、違和感を持つ人はほとんど居ないんじゃなかろうか。

・そして、これだけ鳴らしても音が飽和せず、各パートの音が克明に聴こえてくる、バケモノ音響にも脱帽。岡山シンフォニーホールはファシリティとしては問題だらけのホールだが、だた一点、このバケモノ音響だけで名ホールというにふさわしい。

・ただし・・・(ネガティブ感想あり)
 第1楽章や第4楽章の盛り上がる場面では、途中からやや食傷気味になったのも事実(コンサート後の疲労感の原因は、酷暑とこれ)。

 強奏が続く場面でも、寄せては返す波のような「緊張と緩和」がないと、迫力に圧倒されるだけで、陶酔というところまではいかないのだ。


・いや、第2楽章などでの美しく聴かせる場面での歌心あふれる表現は素晴らしく、第1楽章の第2主題に入ったあたりのしっとりとした表現は、それはもう絶品だったのだが・・・強奏が続く場では、うーん・・・かなり力づくな印象で、シェレンさん時代以来の岡山フィルの美点=深い呼吸のなかで推進力を得て、豊かな響きで岡山SHの空間を満たすようなフォルテシモが聴かれず、やや一本調子になったのは惜しい気がする。
 会場の盛り上がりは相当なものだったから、私のような感じ方はごく少数派だろうが・・・

・10月にはホルン・トロンボーン・ファゴットなど、欠員の出ている首席奏者オーディションがあるようで、たぶん来年以降は新しい名手を迎えての体制になるのだろう。今回の様な強力助っ人陣での演奏もある意味貴重な機会だった。

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サンフランシスコ人

夏枯れの季節に、定期演奏会に行けて良かったですね.......
by サンフランシスコ人 (2023-08-01 02:01) 

ヒロノミン

〉サンフランシスコ人さん
 いいコンサートでした。しかし日本の夏は暑いです・・・
by ヒロノミン (2023-08-08 21:46) 

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