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岡山フィル第76回定期演奏会 指揮:秋山和慶 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第76回定期演奏会

ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」
  〜 休 憩 〜
ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」

指揮:秋山和慶
コンサートマスター:藤原浜雄

2023年5月20日 岡山シンフォニーホール

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・会場はほぼ満席、9割程度の入りだろうか。少し前までは1階席あたりは密集を嫌ってちらほら空席があったものだがこの日はS席にはほとんど空席は見られない盛況ぶり。カフェテリアも営業再開、レセプショニストによるチケットもぎりも復活して、普段どおりの雰囲気になった感じ。

・舞台上の奏者もマスク着用者は数人となった。一方で管楽器奏者の足元には結露吸収シートの設置、終演後の客席の分散退場(これは感染症対策というよりも、出口が狹く事故防止の効果もありそう)、客席のドアはなるべく客が触れないように開けっ放しで予鈴が鳴ったら係員が走り回って閉めてくれるなどの感染症対策は残している。

・プログラムはベートーヴェンの6番「田園」/5番「運命」というハイカロリー交響曲2番勝負という、私にとっては垂涎モノである。奇しくもシェレンベルガー時代の2017年3月定期と同じプログラムであり、その時との比較も楽しい。

・編成は弦五部は12型(1stVn12、2ndVn10、Vc8、Va8、Cb6)の2管編成。首席奏者は全員揃い踏み客演首席はホルンにシティフィルの小林さん、ファゴットもシティフィルの皆神さん、トロンボーンは最近、都響を勇退されたお馴染みの小田桐さん(もしかして特別首席への招聘があるか?)といった陣容。

・前半はベートーヴェン田園。これはちょっと凄い。素晴らしいサウンド。すべての楽器の音が溶け合い、輝いている。岡山フィルのアンサンブルは急速に良くなっていて、深みのある音が出るようになっていたが、さらに1ステージ上がった感がある。

・第1楽章の提示部からして心を奪われた。輝きとコクの深い音、第1楽章の再現部でベートーヴェンの喜びが爆発を表すかのような開放的なサウンドにも心が奪われる。なお、提示部の繰り返しあり。

・聞きものは第2楽章での木管陣のソロ。とりわけフルートの花の香りが匂い立つようなソロが素晴らしい。オーボエの少し翳りのある音もいい。クラリネットもファゴットも良かった。木管たちが音の表情をも見事に作っている。

・シェレンベルガー時代の2017年の演奏では、ソロ楽器にフォーカスを当て、さながら「オーボエ、クラリネット、フルートのための協奏交響曲」のようなアプローチだったのに対し、今回の秋山さんは全体の調和の世界の中で、絶妙のバランスでかっこう、風の音、小川のせせらぎ、鳥の声、などなどを職人芸で配置する。私の頭の中ではカミーユ・ピサロが描くフランスのエラニーの風景画が浮かぶ。海外一流オケも含め、今までこのホールで聴いた田園で1番美しい演奏かも知れない!と本気で思った。

・第4楽章の嵐のでのティンパニとチェロ・コントラバスの奮闘も記録しておきたい。近藤さんが黒色の硬質なマレットを手にした瞬間、雷神と化し、風神が宿ったチェロとコントラバスがそれに対峙する。近藤さんー松岡さんー谷口さんの低音パート首席ラインが連携しする破壊力抜群のサウンドに手に汗を握る。

・忘れてはならないのはヴァイオリン隊の弱音部の美しさ。1年前の秋山さんの就任披露定期ではヴァイオリンの弱音の処理に不満があった。しかし、今回はお見事というしか無い、純度は高いのにしっかり聴き手の心を絡め取る弱音の美しさだった。

・休憩に入って、名匠を秋山和慶を聴ける幸せを噛み締めていた。1週間以上経ってこの感想を書いている今でも心に、記憶に残っている素晴らしいベートーヴェンの田園だった。

・後半はベートーヴェン5番。5番の第4楽章は繰り返し無し。ちなみに2017年の演奏では繰り返しありだった。

・確信に満ちたテンポと解釈で、ズシリとした重みと疾風怒濤の運動性を両立した演奏になった。この曲の持つエネルギーの流転が透けて見えるような緻密な演奏。

・その秋山さんの緻密なタクトに応え、例えば第3楽章の中間部のフーガ第4楽章での各パート間の隙きのない対話に「これぞプロ!」と唸らされる。この6年でレベルも音色も段違いに良くなったことを実感。常にどこかで鳴っている『タタタターン』という動機の処理も巧み。

・田園に引き続いて弦楽器の弱音部分のアンサンブルの質の高さ。例えば第2楽章、あるいは第3楽章から第4楽章へ向かう部分の、ヴァイオリン隊を中心とした弱音の巧みな処理は聴衆を惹きつけ、客席を緊張感で包んだ。

・この日の演奏は、会場にいた聴衆のほとんどが満足感に包まれる演奏だっただろうし、私自身もそうだった。しかし・・・・・



(以下はちょいネガティブな感想あり)






・こうして1週間以上経ってみると、「田園」は文句なし!!しかし5番については何か物足りない・・・・引っ掛かるものが少ない・・・・だからだんだん記憶が薄れていく。あんなにいい演奏なのになんでやろ?と思っていたが、2017年3月定期の自分の感想を読み返して、理由が解った。

「シェレンベルガーのベートーヴェンを聴くのは4回目になるが、彼が棒を振るだけで、まさにベートーヴェンの音楽がホールに広がる。ベートーヴェンの音楽って何?と聞かれると答えに窮するのだが、私が子供のころからCDで親しんだカラヤン&ベルリン・フィルとの3つの全集(しかも3回目はシェレンベルガーのオーボエも聴こえる)、あるいはブロムシュテット&ドレスデン・シュターツカペレや、クーベリック&バイエルン放送交響楽団。これらの演奏と確実に「地続き」の音楽である、という確信が得られる演奏なのだ。
 そして改めて思ったのは、やはりシェレンベルガーのベートーヴェン演奏の重要な要素は、以前にも書いた通り、ベートーヴェンの『鼓動』であり、そしてベートーヴェンが感じていた『風と空気』だ。弦の刻み一つ一つからベートーヴェンの頬を撫でていたであろう、風が感じられた。」


・逆説的な言い方になるが、岡山フィルは上手くなったのだと思う。特にアンサンブル能力の向上と独自の輝きと深みのある音色は6年前には出せなかった音だ。ただ、まとまりが良くなった分、「田園」のようなタイプの曲にはハマるが、5番についてはシェレンベルガーとの演奏見せた粗削りだからこそ見えるこの曲が持つパッションの激しさや造形の彫りの深さや力感、有無を言わせぬ圧倒的な説得力。そういうものが薄まってしまったように感じる。


・これが秋山さんの5番に対する解釈なのか?とも思ったが、動画で見られる広響との演奏には、塊感というか、戦車が多少隊列を乱してでも突進してくるような迫力がある。

・とはいえ会場は本当にいい雰囲気だった。オケの方々も指揮者も聴衆も、「私達はもっと良くなっていく」「このオケはもっと良くなる」という思いを共有してる感じが確実にある。田園/運命という王道プロを、これほど真正面から真摯に取り組んで、それを固唾を飲むように見守る満席の聴衆がいる。

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待ちに待ったホルン:福川さんの登場!! 岡山交響楽団定期演奏会 [コンサート感想]

岡山交響楽団第75回定期演奏会


ヨハン・シュトラウスⅡ/皇帝円舞曲
グリエール/ホルン協奏曲

〜 休 憩 〜

シベリウス/交響曲第1番ホ短調


指揮:杉本賢志
ホルン独奏:福川伸陽


2023年5月14日 岡山シンフォニーホール

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・市民オケの岡山交響楽団の定期演奏会。今回も意欲的なプログラム。メインに大好きなシベリウスの1番に、コンチェルトは最近、とみに有名になったウクライナの作曲家:グリエールのホルン協奏曲。ソリストはなんと元N響首席という肩書以上に、私の中では邦人ホルン奏者の中で一番の名手、福川伸陽さん!

・今回は2020年5月に予定され、コロナ禍で中止になったプログラムを再度編成したようだ。福川さん、めちゃくちゃ忙しいだろうに、よく来てくれたなあと思う。作曲家がグリエール(ウクライナ)とシベリウス(フィンランド)という、プーチン・ロシアの魔の手が伸びている、伸びようとしている国の作曲家というのは、2020年時点では意図されたものではなかったとはいえ、なんとも因縁深い。

・編成は弦五部は、1stVn11、2ndVn9、Vc8、Va8、Cb6の2管編成。1曲めに皇帝円舞曲を持ってきたことで、ゲストのハープ奏者は大忙し。

・まあ、なんと言っても1曲目も福川さんのホルンですよ!!なんという柔らかくとろけるような音色!グリエールのホルン協奏曲は、首都圏や関西のオケではよく取り上げられていて、名前の語感からフランスあたりの作曲家だと思っていたが、「ウクライナの作曲家」だということを最近知った。ラフマニノフと同時代の人だが、ロマンチックなラフマニノフよりもさらに甘美な作風で、シュレーカーやコルンゴルトに近い。

・第2楽章はそんな甘美な和声進行を色気たっぷりに歌い上げる福川さん、最高です。第4楽章の強奏する場面でも耳に心地いい柔らかさは変わらない。大きなものに包まれるような音に魅了される。

・これだけの集客力と会場の聴衆を魅了する福川さん。ソロでも東京六人組でもお客さんはかなり入ると思うので、再度の岡山降臨を期待したい。

・シベリウス1番。このオケの弦の響きはやっぱりいいですね。特に第1楽章の再現部や、第4楽章のフィナーレのハープが絡んでいくところで涙腺が緩んだ。この曲、改めていい曲だな~と。プロの岡山フィルも負けずにレパートリーに入れるべき名曲

・入り口のセンサーによる検温やチケットのセルフもぎりなど、コロナ対策の名残はあったが、客席は満員、プログラムも岡響らしい県内の他オケの追随を許さぬ充実ぶりで、ようやく「普段」が戻ってきた感じが嬉しい。

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レコード芸術の休刊への雑感 [クラシック雑感]

 1ヶ月以上前のことになるが、レコード芸術の休刊のニュースに接した。これについて書こうと思いつつも、バタバタしているうちに時間が経ってしまった。




 SNSやブログなどでも事実上の廃刊を惜しむ声が多かったが、殆どの方々が「最近はあまり買っていなかった」と告白しているのが印象に残った。

 私はと言うと、もともと良き読者ではなかったが、イヤーブックが付いてくる1月号とリーダーズチョイスが掲載される2月号を毎年買っていた。


 ただ、「この音源の評価を読みたい」「この評論家の記事を読みたい」(大阪のFMの番組などで馴染んでいたでーやんこと出谷啓、黒田恭一の評論が好きだった。父は志鳥栄八郎を参考にしていた)という動機は強く持っていて、なんだかんだと図書館で借りていたように思う。岡山では県立図書館には置いてないが、市立の中央図書館と幸町図書館の2館に置いてあり、借りやすかったことも大きい。CDがまだ高く小遣いやバイト代のやりくりが必要だった大学時代は、「ババ」を掴みたくなくてレコ芸の記事が購入の決断の重要な材料だった。

 そして、実はここ2年はかつてないほど頻繁に買うようになっていた。おそらく珍しいパターンの読者だったと思う。理由は2020年11月号から電子書籍版が出るようになったことが大きい。以前のエントリーにも書きましたが、レコード芸術を購入する気になれなかった最大の理由は保管する場所が無いことだった。電子書籍で問題は解消され、今後はそこそこいい読者になれる・・・はずだったのだが・・・

 最近はCDを買うことが少なくなり、NMLやSpotifyなどのサブスク音源が鑑賞の中心で、気に入ったものはハイレゾ音源を購入する、という流れだったのだが、ストリーミングやハイレゾ音源にはライナーノートがついておらず、いつ・どこで・どういうメンバーで録音されたかの基礎的データが不足している。その点、電子書籍化されたレコード芸術は基礎的なデータが揃っている上、鑑賞上のスパイスとして重要なアーティストの声やバックグラウンドの「物語」を知ることも出来る。私にとってはストリーミングで取っ替え引っ替え聴くことが出来る現代だからこそ、必要性が増した媒体として非常に重宝していた。

 ただ、私のような活用の仕方は、この雑誌のスポンサーにとってはいい顧客ではなかっただろうし、伝統的スタイルに親和性がある従来の読者にとってはDXを見据えたドラスティックな改革を受け入れることは難いかっただったろう。

 「音楽の友」誌がBPhのデジタルコンサートホールを嚆矢とした欧米一流アーティストのストリーミングサービスの記事を充実させていたが、レコード芸術も「クラシック版インターネット配信音源ガイド」やオーディオコーナーでの音楽配信サービス、ハイレゾ音源、4Kの動画配信などを取り上げるなど、音楽鑑賞のスタイルの変化をキャッチアップへの取り組みはあったのだが、雑誌としてのぱっと見のフォーマットは変化が見られなかったため『旧態依然』な印象を与えていたのが惜しまれる。

音楽の友社のプレスリリースには

『レコード芸術』として70余年にわたり培ってきた財産をどのようにして活用していくべきか、音楽之友社として鋭意研究してゆく所存です。

とある。一度休刊してしまえばデジタル化への改革へのハードルも下がるだろうから、例えば評論記事をデータベース化して、私のようなサブスク中心のリスナー向けに読みたい記事の切り売りや、定額化するなどすれば活路を見いだせるのではないか。雑誌としての復活は難しいだろうが、ナレッジデータベースとしての存続を模索してほしいと思う。

 少しだけ雑感を書くつもりが長々とした文章になってしまった。自覚はなかったが喪失感がそれなりにあるのかもしれない。毎号欠かさず買っていた方は落胆も大きいのではないだろうか。

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