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岡山フィル ニューイヤー・コンサート2024 指揮・オーボエ:シェレンベルガー [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団 ニューイヤー・コンサート2024


ラヴェル/道化師の朝の歌
モーツァルト/フルートとハープのための協奏曲(オーボエ版)K.299*

〜 休 憩 〜

モーツァルト/交響曲第31番「パリ」K.297
ラヴェル/ボレロ
指揮・オーボエ独奏*:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ハープ独奏*:マルギット=アナ・シュース
コンサートマスター:藤原浜雄
2024年1月21日 岡山シンフォニーホール
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・今回のプログラムは、2022年3月に予定されていた、シェレンベルガーの岡山フィル首席指揮者最終公演として企画されていたが、コロナ感染拡大による入国禁止措置のために今回に延期になったもの。

・編成は道化師の朝の歌とボレロが1stVn12→2ndVn10→Vc8→Va8、上手奥にCb6の12型に、道化師の朝の歌の方は変則2管、ボレロは3管編成。パーカッションも多彩でホールに入った瞬間、所狭しと並ぶ楽器に『おおー』っと声を上げてしまう。2曲目のモーツァルトの協奏曲は1stVn8→2ndVn6→Vc4→Va5、上手奥にCb2の8型、3曲目のパリ交響曲は10型。

・昨年10月にTb、Hr、Fgの首席指揮者オーディションが行われたこともあり、今回からデビューがあるかと思ったが、流石に試用期間一発目でボレロは無かったか。今回も客演首席が多かった。トロンボーンは高井郁花(九響)さん、ホルンは細田昌宏さん(大響)、ファゴットは奈良和美さん(群響)、ボレロでソロがあるサックスは田畑直美さんと高畑次郎さん(ともに大阪シオン)という布陣。

・この日は近隣で注目コンサートが重なっていて、児島では福田廉之介&中桐望Duo、福山では京響の福山公演(しかもメインがボレロ+ハープ協奏曲もあるモロ被りプログラム)に客を取られないか心配していたが、私の心配をよそに客席は9割の大入り。

・1曲目前のチューニングのあと、シェレンベルガーさんが登場した瞬間、客席から沸騰するような盛大な拍手が起こった!この時点で目頭が熱くなる。やっぱ岡山人はシェレンベルガーさんが好きなんだな。

・プログラムは始めと締めにラヴェル、そのラヴェルに挟まれるモーツァルトの2曲はパリ滞在中に作曲された曲ということで、フレンチ色に彩られた粋なプログラム。
ラヴェル/道化師の朝の歌
・冒頭のピチカートが少し息が合わなかったが、トゥッティーではバシッと決めてくれる。最近、クラシックに興味のないと思っていた知り合いが、シェレンベルガーさんだけは聴きに行くという事を知って話をしてみると、「シェレンベルガーさんって、横乗りで演奏してくれるから好きになった」と言っていて、この演奏を聴いてなるほど!と。

・他のオケで聴いたときは、典型的な縦乗りのリズムで「ズンチャズンチャ」とズンドコ節になっていたのが、シェレンベルガーさんのタクトにかかれば、見事に優雅にスイングしているのだ。聴いていて楽しくなるし気持ちがいい。
・2曲目に吹き振りのコンチェルトがあることもあって、指揮台なしだったが、恐らく190cm近い身長があるので全く問題ないようだった。
モーツァルト/フルートとハープのための協奏曲(オーボエ版)K.299*
・2曲目では自らオーボエを持ち、奥方で元ベルリン・フィルのマルギットさんがハープを受け持つ。プログラムには
『オーボエとフルートは、同じ木管楽器の仲間であるが、発音システムを始め様々な事柄が違う。顕著な違いは演奏可能音域である。音域が違うという事は、音楽的に美しく響く音域も全く異なる』と、このフルートをオーボエに置き換えるプログラムがいかに困難であるかを説明にしてくれている。

・さらにプログラムには、この曲を取り上げシェレンベルガーの意図を『オーボエの曲はやりつくしてしまっていて、もうやる曲がない』とストレートに書いている(笑)ハイドン、モーツァルト、R.シュトラウスはやり尽くし、室内楽でもモーツァルトやハイドン、アルビノーニ、マルチェロなど主要曲はやり尽くしている。つまりは岡山の人々は世界一級のオーボエ奏者の演奏で、主要曲をほぼ聴き尽くしているという事で、これは本当に凄いことだ。

・このK.299は、マルギットさんと元祖フルートの貴公子:グリミネッリとの共演で2014年10月定期で採り上げている。同じ素材を一味違った味付けで岡山のファンを喜ばせてあげよう、というシェレンさんの思いがこもっている。

・演奏については、確かに、音の跳躍や息の長いフレーズではオーボエでは物理的に対応できない様子は散見された(それでももしかしたら全盛期のシェレンさんなら問題にしなかった可能性もある)。しかし、それを補って余りある美しく芳醇な音!!「オーボエってこんな音が出るんだ!」と。

・本来フルートのために書かれたこの曲を、独特の柔らかい音色を持つシェレンさんのオーボエから、さらに柔らかくブリランテな音色を引き出し、マルギットさんの明快かつ柔らかく深い音色と相まって、夢のような時間が流れた。私は「死んだあとにこんな音楽が流れている世界に行けると確約されたら、死は怖くなくなるよなぁ」とさえ思った。

・オーケストラも見事。リードはシェレンベルガー3:浜雄さん7ぐらいの割合で、コンマス:藤原浜雄さんのリードが光った。しかも、第2楽章の濃厚かつ優美な音、第3楽章での切れ味鋭いが優雅さも漂わせる音は、まさにシェレンベルガーさんと岡山フィルが作り上げてきた音だった。9年間の両者の音の彫琢プロセスを見てきた私にとっては、最高に熟した果実を口にするような喜びを感じた。

・アンコールはシューマンの歌曲から「月夜」。この曲はジャン・チャクムルのピアノの伴奏でアンコールで演奏された曲。ピアノよりも幻想的なハープの音をバックに人の声のようなオーボエの歌。身体に染みました。
モーツァルト/交響曲第31番「パリ」K.297
・後半1曲目はモーツァルトのパリ交響曲。岡フィルでは比較的珍しいノン・ヴィヴラートのプレーンな響きが誠に新鮮。ターラララララララ↑という音階上昇は完全にドイツ語圏のオケのディクションで、強力な推進力に駆動される、これこそがシェレンさんのサウンド

・驚いたのがティンパニの近藤さんが道化師〜やボレロと同じ釜なのに、完全にバロックティンパニのように響かせる神業を聴かせてくれたこと!

・やっぱりシェレンさんのモーツァルトは絶品だな。28番以降、まだ演っていない交響曲を必ず岡山でも演って欲しいよ。
ラヴェル/ボレロ
・ボレロはプロと言えども緊張する曲らしく、勝手にドキドキしながら聴き始めたが、フルート畠山の柔らかくブリランテに満ちた音で我に返った。シェレンさんはで各奏者を完全に信頼して奏者の一番いい音が奏でられるよう促すようなタクト。それに気付いて、聴き手の私も各奏者の名人芸を堪能することに集中。

・この日の演奏に共通するのだがエレガントかつブリランテな音を保ちつつ、音楽が高揚していくこと。Aメロのターータタタタタタタッタタター、が、ファーーラララララララッラララ~、という感じで音の輪郭に気品をまとい、優雅な音をホールに響かせる。この曲の生演奏を聴くのは、たぶん7回目ぐらいだと思うけど、こんな響きは初めて。

・前述のフルート以外の個人技の目立ったところでは、何と言っても九響から客演首席の高井さんの柔らかいグリッサンド、小太鼓の安定度、ミュートを付けても柔らかさを失わないトランペット、などなど,管打楽器の名手たちのエキシビションの様相。

・いよいよヴァイオリン隊が弓を持ち、デュナーミクが大きくなる。そこからの迫力が圧巻で、過去に聴いたボレロよりも強い音圧を感じた。Aメロ、Bメロともに彫りの深いフレージングで、稜線を描くようなデュナーミクの強弱、その山が徐々に徐々に大きくなっていく。私の脈拍は140ぐらいになり、汗ばんで来るほどだったが、音圧に身を任せるような快感が身体を貫く。

・この感覚と同じものを味わった事がある。それは京響の2017年11月定期で聴いた、ジョン・アダムズのハルモニーレーレだ。
 その時の感想を読み返すと「自分の心臓の鼓動が共鳴して音楽との不思議な一体感がたまらなかった」とあり、まさにこの感覚をシェレンさんと岡山フィルのボレロでも感じられた。
 ボレロはミニマル・ミュージック登場の40年も先駆けて、ミニマル・ミュージックを作っていた!そして、それをシェレンベルガーさんの絶妙なフレージングで、人間のプリミティブな感性を呼び覚まし、得も言われる快感に浸らせてくれた。

・豊かな倍音に包まれる幸福感に満ちたラスト。岡山シンフォニーホールの「バケモノ音響」を感じるに相応しい楽曲だった。あれだけ大音量で鳴っても、各パートの解像度が高いまま聴こえて来るのは驚異的。銅鑼やバスドラムの爆音に負けずに弦楽器や木管の音がハッキリ聴こえた。今年の7月にはマーラー5番がある、オーケストラ福山定期で採り上げられるアルプス交響曲とか、ショスタコーヴィチの交響曲とか、このホールの本領が発揮される音楽をもっと聴きたい。

・この日の会場で一番不幸(?)なのは、実はステージ上の奏者の皆さんだったかも。だって客席でこの音が聴けないなんて・・・そんなことを思ってしまった。

・今回のパリに因んだプログラムは、中間の2曲はフランス革命前のアンシャン・レジーム晩年の音楽で、貴族的な雰囲気が濃厚。道化師の朝の歌は1905年の作曲で、フランス革命以来100年に亘った政治的混乱期を脱して第三共和政の全盛期に入り、音楽文化の面でも世界の中心に君臨していた時期だろう。その当時の空気を内包し現代にも通じるセンスの塊みたいな曲。ボレロは第一次世界大戦を経た1928年の作曲。ロマン派の終焉と厭世的な時代の空気にラヴェル自身も動揺し、前衛や即物主義に押されつつも決然としたエネルギーをもって作られた、その魂を感じた。一言で「パリゆかりの選曲」と言っても、これほどの違いがある、その一方で人の心を捉え、感動させ、時代は代わっても受け継がれるものも感じさせた。本当にいいプログラムだった。

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コメント 2

サンフランシスコ人

「この日の会場で一番不幸(?)なのは、実はステージ上の奏者の皆さんだったかも...」

私も不幸だと感じます....

「この日は近隣で注目コンサートが重なっていて....」

東京みたいですね....
by サンフランシスコ人 (2024-02-08 08:37) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 あれから同じコンサートに行った人と話す機会があったのですが、『岡フィル、凄い音が出てたね』という意見で一致しました。
 東京はベルリン・フィルとウィーン・フィル、ロイヤルコンセルトヘボウのコンサートが重なったりしますので、比較にならないです。
by ヒロノミン (2024-03-08 22:34) 

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