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5月定期もシェレンベルガー来日できず [岡山フィル]

 コロナ禍の収束までなかなか見通しが立たない状況の中、岡山フィルの5月の定期演奏会にも首席指揮者のシェレンベルガーさんは来日できず、代役に太田弦さんが起用されることが発表された。

※岡山フィルのfaebookページより



【出演者変更のお知らせ】 5月23日の岡フィル第68回定期演奏会に出演予定でした首席指揮者ハンスイェルク・シェレンベルガー氏は、新型コロナウイルス感染症拡大により来日が不可能となりました。 来日を楽しみにお待ちいただいておりました皆様には心...

岡山シンフォニーホールさんの投稿 2021年4月18日日曜日

 太田さんは来年の岡山フィルのニュー・イヤーコンサートにも登場するのだが、この5月定期も若きソリストとの共演ということで、これはこれで楽しみにしたいと思う。

 いやーーー、でもなあーーー。シューマン4番はシェレンベルガーの引き締まった音楽づくりで聴きたかったなあああああああ(魂の叫び)。


 余談になるが、去年のゲルギエフ&ウィーン・フィルの来日公演以来、今月の東京・春・音楽祭に出演するリッカルド・ムーティーや、6月の来日が発表されたバレンボイムなど、一種の「特別扱い」で来日が可能になるアーティストがいる一方で、なかなか来日が叶わないアーティストも居る。ムーティーやバレンボイムなどはもとより雲の上のような存在で、それよりもシェレンベルガーが来日するほうが、岡山の都市文化への貢献度も高いのだがなあ。



 京響の4月定期に登場する、ジョン・アクセルロッドは「首席客演指揮者就任披露記念演奏会」ということで、アマティの関係者が奔走し、アクセルロッド自身もすでにホテルで2週間以上缶詰になって、なんとか登場するそうなので、全く門戸が閉ざされているわけではなさそうなのだが、ウィーン・フィルやムーティーが2週間以上ビジネスホテルに缶詰というわけではなさそうなので、どうにも釈然としないものがある。


 シェレンベルガーさんも70歳を超えており、一般的な分類では高齢者になるし、万が一感染して管楽器奏者としての能力に影響が出てもいけないので、決して無理はしてほしくは無いが、こうしたアーティストの入国管理にあたっては日本の文化芸術での貢献度などを客観的に説明できるような基準を設けて、納得度の高い運用をしてほしいと思う。

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岡山フィル第67回定期演奏会 Vn:竹澤恭子 指揮:熊倉優 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第67回定期演奏会

ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲
ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調
〜 休 憩 〜
ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調「英雄」

指揮:熊倉 優
ヴァイオリン独奏:竹澤 恭子
ゲストコンサートマスター:福田悠一郎


2021年3月14日 岡山シンフォニーホール


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 僕は本来、コンチェルトよりシンフォニーの方が好きで、たぶん一般的なコンサートゴーアーの方々よりもソリストに対する期待が淡白な方だと思うのだが、この日のコンサートはやはり竹澤さんのソロの素晴らしさ・凄さに圧倒された。どの瞬間を切り取っても凄かった・・・・。これまで岡山フィルに客演したヴァイオリンのソリストの中でも最も感銘を受けた。

 岡山フィルも「コンチェルトだから少々抑えめに」なんていうことは全く無く、(竹澤さんからも盛んにアイ・コンタクトを取っていたこともあって)並のソリストなら音が埋もれてしまいそうな結構な音量で演奏していた筈だが、そんな50人からなるオーケストラの音から突き抜けてくる竹澤さんのヴァイオリンの輝かしいこと!


 後半のベートーヴェンは、溌剌としていながら、豊かな響きで極上のアンサンブルにまとめ上げていた(特に木管・ホルンが絶品)。熊倉さん、まだ29歳。こりゃ只者ではないですな。若さに任せて強引に行ったり、逆に遠慮を感じさせたりという事がなく、オーケストラと隙のない対話を繰り広げながら、このオケが一番芳醇な音が出せるポイントに流れを導いていく感じ。オーケストラもとても気持ちよさそうに弾いている。

 僕は時々天井を見上げながら、「この豊かな響きはなんなんだろう」と陶然としながら聴いていた。熊倉優という指揮者は、僕の中では「倍音の魔術師」と呼ぶことにする。指揮台でタクトを振るいながら、その耳だけはホールの空間に置いて、全体の響きを調整していく・・・。この10年で感銘を受けた若手指揮者(ヤコブ・フルシャ、クシシュトフ・ウルバンスキなど)と共通するセンスや耳の良さを感じる。

 もっともオーケストラからすれば、「我々がその音を出しているんだよ」と言うだろうし、岡山フィルとシェレンベルガーが8年かけて作り上げてきた音がベースになっているのだが、共演2回目でこれだけの音を引き出すのは、やはり只者ではない。

 ほんとにいいコンサートでした。


 以下、4月15日の追記


 本来であれば、常任指揮者のシェレンベルガーが指揮し、元ベルリン・フィルのハープ奏者のシュースがハープ協奏曲を披露するプログラムだったが、ドイツ本国で再び感染が拡大。日本に生活拠点の無いアーティストの来日は困難になった。代役の指揮者はヨーロッパへの進出が足止め中の熊倉優の再登場、ソリストはなんと竹澤恭子が務めるという・・・聴き手としては全く不足のないプログラム。

 80年代後半から90年代にかけて、五嶋みどり、竹澤恭子、諏訪内晶子らの女性のヴァイオリニストが一気に世界に羽ばたいた。中でも竹澤さんはRCAと契約。コリン・デイヴィス&バイエルン放送交響楽団との共演によるブラームスのコンチェルトを筆頭にメンデルスゾーン、チャイコフスキー、エルガー、バルトーク、プロコフィエフなど膨大な録音を世に出した。メジャーレーベルと契約してこれだけの実績を残している日本人ヴァイオリニストは現在でも稀な存在だろう。その竹澤さんが来るというので、猛烈に楽しみにしていた。

 客席の入りは6割ぐらいか?大都市部での緊急事態宣言中に開催された2月の日本博のコンサートよりは入っているが、まだまだ客足が回復していない印象。この状態が続くと経営的にも厳しくなってくるだろうな。。。

 今回は、舞台上のSD(ソーシャルディスタンス)配置はほぼ解消(木管金管の横の距離は心持ち広いかな)されていて、ひな壇最上段にティンパニが指揮者と正対する配置にようやく戻った。下手から1stVn:10→2ndVn:8→Vc:6→Va:6、上手奥にCb:4の10型2管編成のストコフスキー型配置。

 1曲目のウェーバーはふわっとした入りを志向したものの、ややバラけた感じで始まったが、合奏部分に入ると岡フィルのアンサンブルの良さが感じられ、心の中で「いいぞ!今日の岡フィルもいいっぞ!」と聴き手の期待のボルテージが上がる演奏になった。今日のホルンの客演首席は西日本ダントツの実力を誇る京響のホルンセクションを率いる柿本さんで、弱音の柔らかさやフォルテの時の輝かしい音色はさすがだった。

 2曲目の竹澤さんによるブルッフの1番。これはもう・・・心が震え、脳が解きほぐされていくような感動の演奏だった。
 竹澤さんの音は濃厚で強靭。34人のオーケストラの弦五部を相手にしても突き抜けてくるのだ。竹澤さんの弓さばきをみて驚いたのだが、とても繊細に弓をコントロールしている。大きな音を出すことができるヴァイオリニストは、たいていは深くボウイング(ときに弓を擦りつけるような)で出している人が多いと思うが、竹澤さんはそういう感じが全く無いのが驚きだった。
 素晴らしいのは竹澤さんが岡山フィルとの音楽の対話を心底から楽しんでいることだった。コンマスの福田さんはじめ、各パートに気を配って、どんどん音楽の深い世界に連れて行くような演奏で、岡山フィルの音もさらに艷やかに、濃厚に変化していく。
 第2楽章は、演奏の仕方によっては甘くロマンティックな世界になってしまうが、竹澤さんは心が澄み渡っていくような、磨き抜いた美しい音で表現していく。この曲は同時代のブラームスやチャイコフスキーの協奏曲のように長大な第1楽章を置いておらず、明らかにこの緩徐楽章に重心がある。竹澤さんの演奏もこの楽章に重心を置いた演奏で、繊細な表現の中に濃密な音が流れていく感覚がたまらなかった。私は2階席に座っているからわかるのだが、1階席にはハンカチや手で目を拭う人が何人も居た。岡フィルの弱音で支える伴奏も素晴らしかった。
 第3楽章に入ってオーケストラとの対話がどんどん高揚していく場面で、(僕の気のせいでなければ)竹澤さん自身も感極まる様子だったように見受けられた。同じコンサートを聴いた方のtweetに、竹澤さんが目に涙を浮かべていたという感想もあったので、僕の気のせいでは無かったはず。パリ在住の竹澤さんもコロナ禍の影響は甚大であったはず。クラシック音楽の本場の国々が次々にロックダウンする中で、コンサートが開催できている数少ない国となった母国での活動に賭けるものがあったのかもしれない。
 入国後の2週間隔離というのは、想像以上に大変なことのようで、3月中旬に入国されたソプラノ歌手の森野美咲さんも、その辛さについて言及されている。そういった入国にかかる困難さをおして来てくれた竹澤さんはじめ、海外在住アーティストの方々には感謝しかない。


 岡山フィルも伴奏という範疇を超えて、1人のソリストと50人のオケマンたちが、お互いに心を開いてセッションを展開している、そんな演奏だった。熊倉さんのタクトは目立たないがソリストとオケとの対話を邪魔せずにしなやかにバランスを取ってドライブしていく感じ。
 自分も、もう少し頑張ってみようか、そんな活力が得られる演奏だった。

 アンコールはバッハの無伴奏ソナタ第3番から「ラルゴ」。竹澤さんらしい高潔なバッハだった。

 後半のベートーヴェンの「英雄」この曲は2013年にシェレンベルガーが岡山フィル首席指揮者就任記念演奏会で採り上げた曲。それだけに、あの時からこのオーケストラはどのように変わってきたのかを知る演目と言っていい。
 快速テンポで若々しくエネルギッシュな演奏だが、昨今のピリオド系の演奏のようなザクザクとした弦の刻みやフレーズの最後をスパッと切るようなアプローチはほとんど採用せず、弦の音は艷やかに、フレーズの処理はとても自然。熊倉さんはN響でパーヴォ・ヤルヴィのアシスタントをされていたそうだが、パーヴォがDCFでやっていたようなピリオド系のアプローチではなかったのが意外。でも、こちらのほうが岡山フィルには合っている。

 そして(去年の10月にも思ったのだけれど)熊倉さんは管楽器のアンサンブル、弦と管のバランスのとり方、センスが抜群に良いと感じる。


 第1楽章冒頭のこの部分で、ターンターンと弦と管が同じリズムで和音を奏でる場面の深みのある音に、いきなり背筋がゾワゾワとする感動が来た。「今日の演奏も素晴らしいものになるぞ」とこの瞬間に確信した。

※オーケストラではなくMIDI音声が流れます



 そして、第1楽章のマイナーに転調してからの展開部、複雑な動きをする弦楽器の裏で鳴っている木管金管のタッタッタッタッタッタッターという和音が、トランペットを目立たせず、木管4部を中心にして木質感を醸し出しながら絶妙かつ極上のサウンドに仕上げる。
※オーケストラではなくMIDI音声が流れます



 こんな感じで全曲にわたって響きの質感にこだわった熊倉さんのセンスが光っていた。まだ29歳でよくこういう音が出せるな、と。冒頭にも書いたとおり、ホールの2階席・3階席の最前列あたりに耳を置いて、それを聴いてるんじゃないと・・・。
 そして、この上質なサウンドを奏でる岡フィルの管楽器陣も凄いと思う。

 木管といえば、一つ特筆すべきなのはオーボエの工藤さんの演奏。ベートーヴェンにとってオーボエというのは特別な楽器で、とりわけこの曲には第2楽章や第4楽章をはじめオーボエのソロが本当に多いのだが、どの場面でも素晴らしいソロを聴かせてもらった。そしてソロだけでなくて、管楽器でのアンサンブルも彼女の音が軸になってアンサンブルが作られていて、この演奏をシェレンベルガーが聴いていたら絶賛するのではないかと思う。


 第1楽章は、あっと言う間に過ぎ去っていった印象で、まずは提示部の繰り返しが無かったこと、そしてこの曲の演奏史ににおいて、暗黙の了解や慣例で演奏されてきた「溜め」をほとんど容認せず、畳み掛けるように曲を展開させていったことも大きい(その点では、パーヴォ・ヤルヴィのやり方を研究されたのかもしれない)。

 一つ、物足りなかった点があるとすれば、第2楽章。この交響曲はこの壮大にして劇的な第2楽章の存在感が半端なく大きい。この楽章のアプローチとしては、舞台上の指揮者や奏者が、このドラマティックな世界の主人公と二重写しになるような、いわば憑依型と言えるようなアプローチがある一方で、恣意性を排し再現芸術に徹することで、音楽との一体化を図り最後には「何かが降りてくる感覚」を志向するアプローチがあろうかと思う。熊倉&岡山フィルのこの日の演奏は、どちらかといえば後者に近いが、他の3楽章の鮮やかな印象とは対象的に、この楽章の存在感が希薄だったように感じ、もっと掘り下げた表現、ベートーヴェンはこの楽章で何を描いたのか?が欲しいと思った。とはいえ、中間部でのチェロバスの鳴りっぷりは壮絶なものだったし(まるで床ごと鳴る!といった感じだった)、楽章最後の息も絶え絶えな様子の弦の弱音の表現も良かった。


 第3楽章〜第4楽章は溌剌とした音楽に熱が帯びてくる。特に題4楽章の変奏曲はモチーフが複雑に、パズルを組み上げていくように音楽をしっかりと組み上げていく感じが見事だった。それと第4楽章は印象的な場面で長い休止があるが、オーケストラのアンサンブルが曲が進むにつれてどんどん純化していき、休止の際にホールに響き渡る残響が素晴らしかった。

 勢いに任せる派手な演奏はその時は熱狂するかもしれないが、早くに忘れてしまうものだ。去年の10月のシューベルトの未完成交響曲の音は、今でも思い出せる。今回の演奏も、そんな長く記憶に留めるコンサートになっただろうと思う。

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radikoで聴く!全国の民放クラシック音楽番組【分析編(上)】 [自己紹介]

 radikoプレミアムで全国のクラシック音楽を聴く企画。今回は分析編です。
 前回までのエントリー
 なぜ、自分がこれほど全国のローカル民放ラジオのクラシック音楽番組を聴いているかと言うと、ズバリ言えば、その内容のディープさにあります。基本的にはその地域のリスナーにとって有益な情報を放送しているので、その地域のホールやお店、時には出身高校の話になったりするわけですが、地域密着型ゆえのディープな話題が、他地域に住んでいる自分にとっては、逆に新鮮で面白かったりします。
 また、番組のパーソナリティも個性派が多い。NHKにも「×クラシック」や、その前身の「きらクラ」のような個性派パーソナリティによるトーク中心の番組がありますが、民放の番組はもっと濃いパーソナリティが多い。
 ここで、全国の32の民放クラシック音楽番組について、分析してみました。
【放送時間帯分析】
 まずは番組が放送されている時間帯を分析してみました。
radio 2jikantai.png
日曜日朝:15番組
土曜日朝:5番組
土曜日夜:4番組
日曜日夜:3番組
日曜日昼、日曜日深夜、月曜日夜、木曜日夜、金曜日夜:各1番組
 土・日の朝の放送枠の番組が63%を占める結果に。私が子供の頃から親しんできたABC朝日放送の「ザ・シンフォニーホール・アワー」も、ずっと変わらず日曜日の朝の時間帯。土日の午前中というのは、そもそもラジオ全体の聴取率も低い時間帯。そんな中でクラシック音楽の番組が持つイメージがスポンサー集めや土日朝のリスナー層にうまくマッチングしているのだと思う。
 一方で深夜時間帯の番組は1番組のみ。岡山フィルのラジオ番組「ブラボー!!岡フィル」の日曜日の午後3時30分というのは異例の「待遇」というのが解る。
 
【放送時間枠分析】
 次は番組の放送時間の長さについて。
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60分超    :1番組(75分)
30分超〜60分:11番組
15分超〜30分:14番組
15分以下   :6番組
 NHKのクラシック音楽番組は1時間以上2,3時間にわたるものが多く、長大な交響曲や管弦楽曲、ピアノソナタなどを全曲放送しているが、民放のクラシック音楽番組は情報コーナーやトークが中心。30分以下の番組が62.5%を占めているのが特徴。楽曲を流すのは短い曲や抜粋部分のみの紹介になるので、シンフォニーや管弦楽曲の対局をガッツリ聴くのではなく、音楽の話題やトークを主体に聞きたい人向けと言えます。
 1時間を上回る番組はFM大阪の「おしゃべり音楽マガジン くらコレ」のみ。ただ「くらコレ」も最近は短縮バージョン(45分)での放送が多くなっている。
 
【番組のタイプ分析】
 つぎに、番組のパーソナリティーの構成から、番組のタイプについて分類して分析してみました。
radio 3type.png
DJ単独型:10番組
演奏家+DJのコンビ型:6番組
オーケストラ広報型:5番組
演奏家単独型:5番組
DJ単独+演奏家ゲスト型:3番組
演奏家+演奏家のゲスト型:2番組
演奏家と演奏家のコンビ型:1番組
 上記の「DJ」にはアナウンサーやナビゲーターなども含みます。
 一番多いのは、アナウンサーやDJが独りで番組を担当する「DJ単独型」。そこに演奏家のゲストを招く「DJ単独+演奏家ゲスト型」を加えると40%を占めます。次に多いのは「DJと演奏家のコンビ型」で18.8%。この形は番組進行・アナウンスの専門家と音楽の専門家が役割分担するので安定感があります。
 他にも特定のプロ・オーケストラの広報を目的とした「オーケストラ広報型」が5番組。このオーケストラ広報型の番組については(下)の記事で触れようと思います。
 ほかは演奏家一人で番組を担当したり(3番組)、毎回違う演奏家をゲストに招いたりする形(2番組)、珍しいのが演奏2人でトークをする形(1番組)など、番組の進行から話のネタまで演奏家が一手に引き受けている番組も多い。
 クラシックの演奏家として活躍している方の多くは、音楽大学を卒業している。音大では演奏家としての技術の研鑽だけでなく、楽典や音楽史の勉強・研究もされており、多くの演奏家が楽曲の特徴や音楽史などについて語れる素養を持っている。
 また最近のコンサートにはレクチャー形式のものも多いので、番組の司会進行と選曲(いわゆるDJの能力)と専門的な話題をわかりやすく伝える能力の両方を持っている演奏家は、放送局や番組スポンサーにとっては使いやすい存在なのでしょう。
 ひとつ気づいたことがあるのが、長寿番組に共通すること。ABC朝日放送の「ザ・シンフォニーホール・アワー」のDJの堀江政生さんは永く同局の看板アナウンサーでありながら、クラシック音楽愛好家であり同局主催のコンサートやイベントの司会を務めています。それに加えてご子息はプロの演奏家。番組制作とクラシック音楽事情の両方に精通しているといえます。
 また、青森放送の「岡田照幸のタッチはピアニッシモ」のDJの岡田照幸さんは、青森でピアニストとしてコンサート活動を続ける一方で、青森放送のディレクターでもあり、地域の音楽イベントの会社を経営されている、という最強の人材が長寿番組を続けています。
 次回は、民法ラジオ番組の中で私が一番おもしろく聴いている、「オーケストラ広報型」の5番組について分析します。

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雪舟と玉堂 ーふたりの里帰りー 岡山県立美術館 [展覧会・ミュージアム]

雪舟と玉堂 ーふたりの里帰りー
岡山県立美術館
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岡山県立美術館HPから================================

岡山生まれの水墨画家といえば?

雪舟と玉堂です。

 室町時代の備中赤浜(現在の岡山県総社市)出身で、明時代の中国留学も果たした禅僧・雪舟等楊(1420〜1506?)。江戸時代の岡山城下天神山(現在の岡山市北区)に生まれ、琴を奏でた文人・浦上玉堂(1745〜1820)。雪舟は10代頃、玉堂は50歳で岡山を旅立ってから、多くの出会いを経験しながら日本各地で活躍しました。それぞれにユニークな人生の魅力もさることながら、時代に先駆けた彼らの作品群は、今なお私たちに新鮮な感動をもたらします。
 本展は雪舟生誕600年と玉堂没後200年を記念して、日本美術史上で燦然と輝く巨匠ふたりに揃って「里帰り」してもらうという、これまでにない企画です。さらにこのたびは門外不出の名宝である雪舟《四季山水図巻》(国宝・毛利博物館)を特別に迎え、国宝7点を含む160点を展観します。これら名品の数々によって、彼らの創意工夫や強烈な個性、そして意外な共通点が明らかになるとともに、水墨画の真髄に触れていただけることでしょう。

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 この展覧会の目玉はなんと言っても「山水長巻」だ。3年前の京博で開催された「国宝展」でも出展されていたが、この山水長巻はⅠ期・Ⅱ期の出展(しかもⅠ期は春夏。Ⅱ期は秋冬に分けて展示された)で、私が行ったのはⅣ期。「まあ、毛利美術館だったらいつでも行けるだろう」と思っていたが、この国宝が毛利美術館で展示されるのは年に2ヶ月足らず、これに時期を合わせて行く必要があり、なかなか見ることは出来ない。
 こうして岡山で、しかも四季揃って16メートルからなる展示が見られるのは、本当に本当に貴重な機会だった。
 玉堂については、水墨画絵師としての技術力は京博120周年の国宝展でみた海北有松や狩野探幽には及ばない印象を持っていて、今回、雪舟と並んで見せられると、玉堂よりも300年以上前の雪舟のすごさの方が際立ってしまう。
 ただ、雪舟は中国の南宋水墨画の構図や技法の影響がやはり強いのに対し、玉堂の水墨画はほとんど独自の発展を遂げていて、一つの到達点だと感じた。素朴でかわいらしさすら感じる味わいは、日本人なら誰でも親近感が湧くのではないか。
 雪舟と玉堂が対照的だと感じたのは、雪舟は余白を使いながら書いているのに対し、玉堂は(作品にもよるが)余白をほとんど使わず、背景を埋め尽くしていること。そして山水の自然の地形も、雪舟は寒山拾得の住まう世界で、日本人にはどこか違う世界の物語のように感じるが、玉堂の絵もモチーフは雪舟と同じなのに、まるで日本昔ばなしに出てきそうな親近感が湧く。
 玉堂は多趣味な風流人で、水墨画だけでなく音曲や書、詩歌にも才能を発揮していたようで、玉堂の号も中国伝来の「玉堂清韻」という七弦琴の名器の名前から得ている。クラシック音楽で言えば作曲・指揮・演奏・絵画にも才能を発揮したメンデルスゾーンを思い浮かべる。
 それでは印象に残ったものを。
◯雪舟等楊/四季山水図巻(山水長巻)【国宝】毛利美術館蔵
 間違いなくこの特別展の主役、16メートルからなる巻物は圧巻、雪舟はこれを67歳で描いたというのだから恐れ入る。歴代の所有者は巻物を少しづつ見ながら楽しんでいたのだろう。16メートルもの長巻物だが、本来はディテールを見て楽しむもの。幽玄だが、街道を行き交う人々や市に集まる人々など、人間の営みが生き生きと描かれているのが印象に残った。応仁の乱で荒廃した京に代わって国内の文化面での首都的位置付けだった大内氏の栄華まで伝わってくるような気がする。
 保存状態がすこぶる良好。西洋絵画でいえば、現存する作品数が僅少といわれるエル・グレコやフェルメールよりも古い、にもかかわらず、この状態で受け継がれてきたのは、水墨画の特性もあるだろうが、やはり大内氏から毛利氏へと大切に受け継がれてきたことが大きい。戦国後期の戦乱で大内氏を追い詰めた毛利氏が近代まで伝えてくれなかったら、我々はこれを目にすることも無かったというのも数奇な運命。
◯雪舟等楊/秋冬山水図【国宝】東京国立博物館蔵
 京博120周年の国宝展では雪舟の国宝6点はすべてⅠ・Ⅱ期の出展だったため、当然これも見れていない。絵に吸い込まれそうになるのは、ジグザグに配された構図による遠近感だそう。力強い筆線と繊細なぼかしに見入ってしまった。単眼鏡を持って来るべきだった・・・。
◯雪舟等楊/山水図巻、倣李唐牧牛図(牧童)(重文)山口県立美術館蔵
 山口県立美術館には雪舟の重文が数点所蔵されているようで、これは一度行かねばと思った。雪舟が影響を受けた李唐や夏珪などの南画も色々と見てみたい。岡山県美には玉澗の廬山図があるが、色褪せが強くてもう少し状態の良いものが見たい。
◯浦上玉堂/凍雲篩雪図【国宝】川端康成記念館蔵
 川端康成が愛した作品。流石に国宝で、玉堂の作品の中でも一際輝いて見えた。キャプションや音声ガイドでは「岩も凍てつくような寒さを表現」と言われていたが、自分はどこか温かみや優しさを感じた。
◯浦上玉堂/幽谷訪隠図 個人蔵
 浦上玉堂といえば、これ、という作風。背景を埋め尽くす山々の描写は、南宋水墨画には無いオリジナリティを感じる。
 ミュージアムショップで購入したもの。
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 気に入った絵の絵葉書は特別展のたびに買っている。真ん中はなんと山水長巻のマスキングテープ。しかも和紙製という懲りようで、600円でこの長巻物を堪能できる?かも?(笑)

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その2「人と緑の都心1kmスクエア構想」) [オーケストラ研究]

 2023年夏に開館する岡山芸術創造劇場について考えていくシリーズ。
 前回のエントリーで、立地場所からくる集客や将来性についての危惧する意見を述べた。
 今回は、市当局がなぜ、千日前地区にこだわったのか、その根本となる大きな構想について述べていきたい。
 その構想とは、1995年2月に岡山商工会議所から発表された「人と緑の都心 1kmスクエア構想」(以下、「大構想」と表記する)である。
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 この「大構想」は岡山商工会議所都市委員会(会長はベネッセグループの福武總一郎氏)が、5年の歳月をかけ、21世紀の岡山市都心のグランドデザインを描くため、岡山の政・財・学の総力を結集して、1995年に提言された。
 一般の岡山市民の間では、この大構想は忘れられつつあるが、四半世紀が経った今読んでみても、時代を先取りした内容であり、それだけでなく現在の大森岡山市政が意欲的に展開している政策のアイデアの元型が、すべてこの25年前の「大構想」にあると言って過言ではない。
 岡山芸術創造劇場についても、「なぜ、あの場所に建設が決まったのか、そしてこの劇場はどのような役割を果たしていくのか」という問題を考える上でも、この構想を抜きには語れない。
 1kmスクエアとは、岡山駅・城下交差点・新京橋西詰・岡山市役所前をつなぎ合わせた正方形の都心部のことであり、現在のオフィス街・繁華街に加えて、江戸時代以来の旧城下町の中心部がすっぽりと入るエリアである。
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 今回はこの「大構想」の中身と、現在進行中の様々な施策事業との関連について触れておきたい。
 構想の冒頭には「ここまで来た岡山都心の空洞化」と題して、岡山市都心に人々が集まらず、経済活動も停滞している現状を『もはや放置しておけないレベル』であるとして危機感を表明している。とりわけ都心部の商業販売額が低迷しており(岡山市:1,327億円)、これは広島市(4,565億円)の29%、高松市(2,681億円)の49%しか無い(いずれも1991年のデータ、岡山経済研究所調べ)。
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 以前にも触れたとおり、岡山市の政財官界は高松市を比較対象(いわゆるライバル視)とすることが多い。広島市は昭和時代からの大都市であるから、4倍近い差があるのは当たり前と捉えられ、危機感を煽られる存在ではない。商業販売額が高松市の半分しか無い、というのは当時の岡山の人にとっては、かなりショッキングなことではなかったか。
 
 この「大構想」の中には、「都心の磁力を取り戻す」ための3つのコア構想がある。
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 まず、①路面電車環状化構想。
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 この25年間の様々な紆余曲折を経て、ようやく具体的に動き出した。
 まず、路面電車とJR岡山駅への結節点を改善するための、駅前広場乗り入れへの工事が始まっており、2023年に完成する予定。それと同時に一昨年には路面電車の環状化・延伸構想が発表され、具体的に動き出した。
 岡山芸術創造劇場へのアクセス部分は「短期整区間」として選定され、優先的に整備が進んでいくものと思われる。
 さらに、郊外への交通網の延伸。
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 「大構想」では岡山〜倉敷〜総社を経由する「山手線」構想という壮大な計画を打ち出しているが、この構想の実現性は置いておくとして、広域的な公共交通の整備という観点では、桃太郎線(吉備線)のLRT化事業として、JRと岡山市・総社市が具体的な構想として動き出している。
※この記事をエントリーする直前の2020年2月9日、桃太郎線(吉備線)LRT化構想はコロナ禍の影響によるJR西日本の経営悪化・岡山市の財政悪化見通しにより中断との報道があった。
②文化公園都市構想
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 次に②つめのコア・プロジェクトの文化公園都市構想。南北の軸となる西川緑道公園沿いはすでに遊歩道の整備が進んでいて、市民の憩いの場として様々なイベントが開催されている。私が岡山に移住した頃は、この緑道公園の南半分の地域は治安も悪く、夜独りで女性が歩くのには不安があるような雰囲気だったが、「歩行者、生活社の視点からの街路整備」を推し進めた結果、現在では分譲マンションが林立するなど、住居地としても人気を集めるエリアになってきている。
 そして現在進行中なのが、東西の軸となる県庁通りの街路整備だ。
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 一般市民の間では、「イオンモール岡山のオープンにより、イオンに訪れた買い物客を周辺部へ流すための政策」という認識だが、この県庁通りの街路整備は25年前からあった計画だった。
 いよいよコア・プロジェクト③の「都心コーナー4拠点開発構想」に、岡山芸術創造劇場の立地する千日前地区が登場するのだが、それはまた次回に触れようと思う(引っ張るなあ・・・)。

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岡山の情景を音楽で語る旅 ピアノ:山地真美 柴田真郁指揮 [コンサート感想]

日本博イノベーション型プロジェクト
岡山の情景を音楽で語る旅
「〜音楽と映像と語りでたどる~桃太郎伝説が生まれたまち おかやま」
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〈1部〉岡山城と後楽園を巡って Piano & Orchestra
    ●岡山城と後楽園
    ・岡山城と後楽園の情景を描く「暁、時うつす蒼の水」
    ●岡山城
    ・岡山城主 宇喜多秀家の生き様に迫る「生きる」
    ・秀家と豪姫、つらぬいた夫婦愛「紅の想い/蒼い約束」
    ●後楽園
    ・幻想庭園の月夜を想って「幻園の彩り」
    ・空を優雅に舞う丹頂鶴の放鳥「鶴は舞う」


〈2部〉日本遺産の旅「桃太郎伝説の生まれたまち おかやま」
    Piano & Orchestra & Tell a story
    ・おかやま桃太郎物語「吉備津彦と温羅」
    ・オープニングおよびエンディングテーマ曲「光華光源」
ピアノ・作曲:山地真美
オーケストラ編曲:小松真理
第2部演出:みやもとたかひろ
第2部語り:クリストファー・J・クレイグトン
     :ジェーン・O・ハローラン
管弦楽:岡山フィルハーモニック管弦楽団
指揮:柴田真郁
コンサートマスター:高畑壮平
 少し時間が立ってしまったが、感想を。
 このコンサートは日本博のイノベーション型プロジェクトとして上演された。
日本博とは
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の機運醸成や訪日外国人観光客の拡大等も見据えつつ、日本の美を体現する我が国の文化芸術の振興を図り、その多様かつ普遍的な魅力を発信するため、日本全国を舞台に「日本博」を展開します。「日本博」では、総合テーマ「日本人と自然」の下に、「美術・文化財」「舞台芸術」「メディア芸術」「生活文化・文芸・音楽」「食文化・自然」「デザイン・ファッション」「共生社会・多文化共生」「被災地復興」の8つの分野にわたり、縄文時代から現代まで続く「日本の美」を国内外へ発信します。
 今回のコンサートは「音楽」だけではなく、「舞台芸術」「メディア芸術」の分野に跨がる大掛かりなものだった。
 久々に祝祭感のあるロビー
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 舞台上には超特大のディスプレイ1台を反響板中央に、特大ディスプレイ2台を上手と下手それぞれに配置。ディスプレイには後楽園や岡山城をはじめ、吉備津神社や鬼ノ城、吉備路など日本遺産の風景が映し出されると同時に、会場内の演奏者や語りの役者を7台のカメラ(専門業者さんのtweet情報)を切り替えながら映し出されていた。
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※ホールのトラックヤードに入りきれなかった専門業者の車であふれるホール裏のスペース。
 本来であれば東京オリンピック直前の2020年6月に上演される予定だったが、コロナ禍の影響で延期。結果的に2度目の緊急事態宣言発令(岡山県は対象地域外)中の最中の上演となり、客席はバルコニー席と3階席を閉鎖した状態で6割程度の入りだったから、800人ぐらいだっただろうか?寂しい客席となった。イベント企画当初に見込まれていたであろうインバウンドの聴衆も皆無。
 一方でオーケストラはほぼベストメンバー。先月の定期演奏会に引き続いて高畑コンマスの姿もあった(ドイツはロックダウン中で、音楽家の仕事も望めない状況だから、しばらくは日本におられるのかも知れない)。編成は1stvn8→2ndVn6-Vc4-Va4-Cb2の2管編成。
 前半は山地真美さんの語りと演奏。大画面に映し出される映像作品にピアノとオーケストラの演奏を付けていく形で、普段は見られないものを見させてもらった。柴田真郁さんの指揮も流石にオペラ指揮者らしい、見通しの良いアンサンブルながら迫力満点の音楽を引き出す。オペラと違い、ひたすら演奏者が映像に合わせていく形になるが、まるでオーケストラの音に映像が呼応しているように生き生きとした作品に仕上がった。
 山地さんの経歴を見るといわゆる音大卒ではなく、岡山大学法学部(ということは学部は異なるが後輩になるのか、と思うと親近感が湧く)の出身で、大学卒業後に尚美ミュージックカレッジで作曲を学び、音楽の道を進むという異色の経歴を持つ。
 ブログを拝見していると、自分の考えを強く持っていて従来の音楽家のイメージを壊していくバイタリティに溢れており、クラシック演奏家のエリート集団であるプロ・オーケストラとの共演は、異種格闘技的なものになるかと思われたが、そういったイメージとは違って、非常に柔らかい人柄が感じられ、それは音楽にも現れていた。
 実は、事前にYOUTUBEで彼女の作品を色々と聴いたときは、美しい音楽だと思いつつも、作風のバリエーションは広くない印象で「2時間のコンサートで聴き飽きないかな」とも感じていた。マンネリズムとオリジナリティというのは表裏一体で、どちらにも転びうるし、聴き手の好みにも左右される。私は2時間のオール・ショパン・プログラムは苦痛に感じるが、ブルックナーのシンフォニーは何時間でも聴いていられるが、一般的には逆の感性の人の方が多いだろう。
 じっさいコンサートに入ると、山地さんの情感のこもった演奏や、彼女の音楽性を引き出すオーケストレーションと映像作品と一体になった音楽世界は見応え・聴き応えがあり、飽きさせることはなかった。『文化や情景』『土地の記憶』を深い感受性で受け止め、それを現代から未来の人々へどうやって伝えていくかという純粋な情熱を感じた。
 私自身、過去の人々の営みに強い関心があって、旅行先でもその土地の景観や食事だけでなく、歴史の積み重ねや長年受け継がれた伝統文化も知りたいし、過去に生きた人と心を通わせる感覚を求めていくタイプの人間なので、こんな人間だからクラシック音楽を聴いて、ベートーヴェンやシューベルトのような200年以上も前の人間が作った楽曲から、彼らの感情や思いが伝わってくる(気にさせられる)ことに、無常の喜びを感じているのだが、山地さんも同じタイプの感受性を何倍も持った人だと勝手に感じている。
 後半は英語による語りと音楽、映像による日本遺産の旅、「吉備津彦と温羅」。テキストは日本遺産のポータルサイトでも読むことができるが、今回は英語ネイティブの語り手2人による語りを、日本語字幕で上演。本来であれば客席にはインバウンドの観光客が居ることを想定したようなプログラム。
 英語は、やはり日本語とはアクセントやリズムが異なるので、吉備津彦の伝説がまるでシェークスピアの劇のような雰囲気を漂わせていたのが面白い。
 朗読はあまり見る機会がないのだが、男性のクリスさんの迫力と表現力が壮絶だった。今回の舞台は朗読、オーケストラ(岡山フィル)、山地さんのピアノ演奏、そしてディスプレイに表示される映像や劇画、照明などを駆使した現代における総合芸術とも言えるもので、このコロナ禍の時代にこれだけの舞台をよく作ったなあと・・・・。特に朗読と映像とピアノ演奏はまさに三位一体といった感じで、普段は純音楽のコンサートしか見てこなかった私には非常に刺激的な世界を見せてくれた。
 一つ、失敗だったなと思ったのは2階席の前方ブロックでもステージから遠くて、もう少し近くで見たかったなあと。
 それから、オーケストラが演奏される場面がもっと欲しいなあとは思ったが、そうなると朗読劇ではなくオペラになってしまうな(笑)
 オーケストラは、普段の定期演奏会でやっている楽曲に比べると、ボリューム的には物足りない部分はあったが、高畑コンマスのソロは情感のこもった「高畑節」を聴かせてもらったし、木管・金管のソロ、とりわけトランペットの小林さんの、冬の澄み切った朝の空気を震わせるようなピュアなソロの音色に魅了された。
 この舞台はこれ1回こっきり・・・なんでしょうねえ・・・。ちょっと勿体ない気がします。コロナ禍が収束してもう少しお客さんが来れるようになったら、今度は岡山芸術創造劇場で再演して欲しいと思う。

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ハイドン/交響曲全集vol.1(6番、17番、35番、96番) 飯森範親&日本センチュリー響 [地元で聴ける演奏家の音源]

ハイドン/交響曲全集vol.1
交響曲第6番、第17番、第35番、第96番)
指揮:飯森範親
日本センチュリー交響楽団
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 この記事はプレイリスト・ブログの記事の再録です。
 コロナ禍で関西に帰省することがほとんど出来なくなり、カテゴリーの「地元で聴ける演奏家の音源」に該当するのか?という感じではあるのだが・・・
 日本センチュリー交響楽団が2015年から続けている「ハイドン・マラソン」シリーズのライブ録音である。同楽団はかつては大阪府から補助金を受ける公立オーケストラだったが、現在は民間団体として経営しており、財政的には厳しい状況に置かれている。そんな中で10年以上の時間をかけてハイドンの全曲演奏会を続け、恐らく世界初となるDSD(ハイレゾ)録音のハイドン交響曲全集の完成を目指している。
 センチュリー響の録音や生演奏を聴くまではハイドンの交響曲はよく出来ているなあとは思いつつも、いかんせん曲数が多すぎて、どの曲が何番かの区別がついていなかったが、このシリーズのSACDがリリースされる度に購入してじっくり聴いていくと、これはまさに宝の山だと気づいた。
 ストリーミングは一部しか登録しない方針のEXTONレーベルには珍しく、SpotifyやNMLで全曲の聴くことができる。
 記念すべき最初の収録曲は、初期の作品の傑作:第6番「朝」だ。ハイドン29歳頃(エステルハージ家の宮廷楽長に就任直後)の作品と言われており、すでに作曲家・音楽家としてのキャリアは充分だったろう。そのため、この6番は合奏協奏曲の形式を残しつつも、交響曲としての楽曲の完成度がもでに非常に高い。
 モーツァルトの交響曲は、(私の聴き込みが甘いのかも知れないが)じっくりと鑑賞して楽しくなるのは28番以降で、27番より前の交響曲はなかなか食指が伸びないのだが、ハイドンの交響曲は作曲技法が確立されてからの作品がほとんどなので、宝の山なのだ。
 96番「奇蹟」も聴きもの。飯森の指揮は、アクセントやクレッシェンドは鋭いが、全体的には絶妙のバランス感覚で、徹底的に心地よいサウンドを目指している。木管のソロが絶品で、弦楽器を中心にしたピュアトーンが心地よい気品あふれる「センチュリー・サウンド」を楽しめる。

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岡山フィル 2021/22シーズンのプログラム発表 [岡山フィル21/22プログラム]

 昨日のコンサートで岡山フィルの来シーズンの定期演奏会プログラムが配布されていました。定期演奏会・特別演奏会のプログラムを列挙していきます。

2021年5月23日(日)
第68回定期演奏会
マエストロ・シェレンベルガーの -古典から浪漫への旅路-
指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ヴァイオリン独奏:福田廉之介
ヴィオラ独奏:赤坂智子
モーツァルト/歌劇「劇場支配人」序曲
  〃   /ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 K.364
シューマン/交響曲第4番


7月4日(日)
第69回定期演奏会
故郷を愛した作曲家達 -世界最高のクラリネット奏者と共に-
指揮:園田隆一郎
クラリネット独奏:ダニエル・オッテンザマー
ワグナー/ジークフリート牧歌
ウェーバー/クラリネット協奏曲 第2番
ドヴォルザーク/交響曲 第7番 ニ短調


9月12日(日)
I am a SOLOIST スペシャル・ガラ・コンサート
〜岡山から世界にはばたくヴィルトゥオーゾたちの響宴〜
指揮:矢崎彦太郎
ヴァイオリン独奏:福田廉之助
ピアノ独奏:中桐望
ソプラノ独唱:森野美咲
曲目調整中


10月17日(日)
第70回定期演奏会
〜郷愁を誘うシェレンベルガーの秋〜
指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ギター独奏:荘村清志
ボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて」
ロドリーゴ/アランフェス協奏曲
チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」


12月5日(日)
ベートーヴェン「第九」演奏会2021
指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ソリスト:調整中
合唱:岡山「第九」を歌う市民の会


2022年1月16日(日)
ニュー・イヤー・コンサート
〜若きヴィルトゥオーゾ、岡山に集結〜
指揮:太田弦
ヴァイオリン:青木尚佳
チェロ:岡本侑也
メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」
ブラームス/ヴァイオリン、チェロのための二重協奏曲
メンデルスゾーン/交響曲第3番「スコットランド」


3月13日(日)
第71回定期演奏会
〜シェレンベルガー 情熱のボレロ〜
指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ハープ独奏:マルギット=アナ・シュース
ラヴェル/道化師の朝の歌
ハープ協奏曲(調整中)
モーツァルト/交響曲第31番「パリ」
ラヴェル/ボレロ


【ホール主催公演】
2021年8月29日(日)
NHK交響楽団岡山公演
曲目未定


10月9日(土)
THE MOST in JAPAN 2021
ドヴォルザーク/弦楽セレナーデ
芥川也寸志/弦楽のための三楽章
ほか


 まず、目についたのが、来年のニュー・イヤー・コンサート。去年の3月定期の完全型スライド公演になりました。青木さんがミュンヘン・フィルのコンサートマスターに就任、岡本さんも引っ張りだこのオファーの中でスケジュールを空けてくださったんですね。
 ソリストで注目なのは7月のダニエル・オッテンザマーさん。父の胡エルネストと、弟のアンドレアスは岡山フィルと共演済みで、オッテンザマー・ファミリーと縁が深いのは有難い。吹奏楽やオーケストラの管セクションをやっている学生は必見でしょう。

 福田廉之助さんが「THE MOST」も含めて3回登場、9月の「I am a SOLOIST ガラ・コンサート」は中桐さんに加えて、去年のブラームス国際コンクールに優勝した森野美咲さんの凱旋公演になりそうです。年間予約(マイシート〉公演に入っていないので、チケットの争奪戦が起きそう。

 岡山出身者のソリストが多いのは、ここ数年の地元密着のオーケストラという軸に加えて、感染拡大期に入っても、地元出身であれば待期期間などを経て出演が見込めることもあるでしょう。見ず知らずの土地で2周間もホテルに缶詰というのは、かなりキツイことのようですから。
 シェレンベルガー登場回は、5月定期は去年5月に予定されていたシューマン4番がスライド。シューマン・フリークの私としては今度こそ聴きたいぞ!10月、3月はロシア、スペイン、フランス、オーストリアとさながら世界音楽旅行。来年3月には晴れ晴れとした気持ちで、マスクをせずに大編成で奏でられる「道化師の朝の歌」や「ボレロ」が聴けることを心の底から願っています。
 岡山フィル以外のホール主催公演では、8月にN響が来るようです。そして「THE MOST」は岡山国際音楽祭の時期に入る10月。なんと芥川のトリプティークを取り上げるとな!大フィルの生演奏で聴いて以来、大好きになった曲。お祭り時期にはピッタリです。

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岡山フィル特別演奏会 ニュー・イヤー・コンサート2021 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団特別演奏会
ニュー・イヤー・コンサート
モーツァルト/歌劇「ドン・ジョバンニ」序曲
  〃   /ピアノ協奏曲第21番
〜 休憩 〜
モーツァルト/交響曲第40番
指揮:キンボー・イシイ=エトウ
ピアノ:梅村知世
2021年1月17日 岡山シンフォニーホール
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 当初予定されていたプログラムはレハールの「メリー・ウィドウ」、新型コロナ対策のために、オール・モーツァルト・プログラムに変更されたこともあり、例年の華やかな「オペラ・ニュー・イヤー・コンサート」とはならなかった。現在のコロナ禍の世情や、1.17という自分にとっては特別な意味を持つ日のコンサートということもあって、内省的で充実したな2時間を過ごさせてもらった。
(1月20日 追記)
 『密』を避けるために開演30分前にホール入り。開演10分前も5分前になっても客足が伸びない。45%ぐらいの入り。高齢者の方はそこそこ居たが、先月のベートーヴェン5番/7番の時には戻りつつあった30代〜40代の聴衆が来ていない印象が強い。かく言う私もこの世代に属するが、岡山は緊急事態宣言対象地域外で、ホールの感染症対策やクラシック音楽のコンサートでの世界的な知見の蓄積から、感染リスクは極めて少ないとはいえ、社会的な雰囲気を考慮するとやはり悩むところではあった。しかし、今の私から生演奏の鑑賞機会を取ってしまうと、生きている意味の1/4ぐらいは失われてしまう。
 ホールの新型コロナ対策も万全で、入場時の検温とチケットへの連絡先の記入(事前に書いておけばいいかもね)にセルフ・もぎりとセルフ・チラシ取り、ロビーのドアが開放され後楽園の森の方角から吹いてくる風が心地よい。私の席の前後左右は、結局空席だったので、(とても喜べる話ではないが)快適に聴けた。前回はCOCOAを作動させるため、無音モードにしてスマホの電源を切らなかったが、やはり「万が一鳴ったら」との心配は消えない。今回は電源をオフにした。
 岡フィルはこの状況下でも熱演を聴かせてくれた。今日のコンサートに来ていた聴衆は私も含めて「少々のことがあっても岡フィルを聴きに来る」という熱心なファン層。楽団員さんもその事は重々わかっているのだろう。終始、モチベーションの高い演奏を展開して聴き手の胸を熱くする。
 楽器の配置は!stVn10→2ndVn8→Vc6→Va6、髪手にCb4の10型2管編成、ストコフスキー(ステレオ)型配置。弦は1プルト2人の通常距離、管楽器は左右の距離は前回(12月)より縮めつつ、前後はやはりSD配置でFg、Clはひな壇最上段で、上手にホルン、下手にトランペットとティンパニ。
 客席は前5列(オペラ公演時のオーケストラピット部分)を撤去して、今回は写真のような段々状になっていた。距離を保ちつつも客席からの圧迫感を減らすためだろうか。色々試行錯誤されている。オーケストラの入場は前回と同じく、アメリカンスタイル(予鈴前に舞台上で音出しして、そのまま残って開演)。
okaphil NY stage.JPG
※終演後、時差退場待機時に撮影
 キンボー・イシイさんの指揮は、美しく、かつ華麗。経歴を見ると、元々ヴァイオリン奏者で将来を嘱望されていたが、宿病ともいえる局所性ジストニアにより指揮者に転向した苦労人のようだ。アメリカ、ヨーロッパを股にかけて活躍されており、国内では児玉宏音楽監督時代に大阪交響楽団の首席客演指揮者に就任していた時期もある。KOBの首席カペルマイスターなどドイツの歌劇場で実績を積み、現在はホルシュタイン=シュレスヴィヒ歌劇場音楽総監督を務める、まさにドイツ語圏の歌劇場叩き上げの指揮者。
 1曲めの「ドン・ジョバンニ」の序曲から、その実力を見せてくれた。音の伸ばし方や音楽のピークの持って行き方が熟(こな)れていて、生命の吹き込み方を熟知している感じ。岡山フィルもスケールの大きい演奏でよく応えていたが、ヴァイオリン・パートの弱音が安定していない。メインの40番が凄い演奏だっただけに、1曲めからここら辺は決めて欲しかったところ。
 2曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第21番。冒頭に述べたとおり、新型コロナ対策のためにオール・モーツァルトに変更になった際、ソリストが梅村さんになりことが発表されたことで、楽しみのモチベーションが保てた。彼女のピアノは音の芯が強く、派手な表現を控えて、音楽を構築していく所が好きだ。
 梅村さんのこの日の演奏も期待を裏切らない、芯のしっかりとした瑞々しい演奏。華麗に動き回るモーツァルトの旋律美が上滑りすることなく、16分音符が駆け上がり駆け下る場面の連続でもしっかりと捉えて聴かせてくれた。キンボーさんのタクトがソリストに自由に歌わせ、そこにオーケストラを着けている感じで、梅村さんの透明感のあるスケールの大きい世界を導き出していた。あの、有名な瞑想的な第2楽章が強く印象に残る。
 アンコールのショパンのノクターンの8番。あれも良かったなあ。ふわっと煌めくような音がホール全体に拡がっていく。モーツァルトよりも50年ほど時代が進むと、これほどの表現が違うのか、というのを感じさせた。
 前半が終わって、一つ気づいたこと。プログラムにクレジットされている奏者と違う奏者の方が一人居た。恐らく急遽決まった代役だろうが、さすがにプロの演奏で応えていた。予定されていた奏者の方が心配。今は、音楽家に限らず、「風邪一つ引くことを許されない」世情。また、covid-19は若年罹患者に呼吸器の後遺症状が残るという報告もあり、管楽器奏者は大袈裟ではなく演奏家人生を賭けて舞台に立っているといえる。
 モーツァルトの40番は前半にも増して凝縮感のあるアンサンブルを聴かせた。第1楽章は快速テンポ、急ぎ足なのに音が柔らかく気品を失わない。キンボーさんのタクトも、さらに冴える。筋肉質だが組木細工の緻密な内部構造が透けて見えるように、この曲の構造が透けて見えるような華麗なタクト捌きに魅了された。
 今回は1年ぶりに高畑首席コンマスが帰ってきてくれて、キンボーさんとは現場叩き上げの音楽家同士で気脈が通じるところもあるだろう。高畑コンマス中心に各パートトップが息を合わせながら音楽が高揚していく。いやー、たまらんねこの時間。この空間。
 第2楽章に入って、安らかな音楽に一息つくも、短調に転調して心に波風が立つ。第3楽章のメヌエットを聴いていると、マリオネット(操り人形)の踊りを見ている錯覚を覚える。自然界から見ればコロナ禍に翻弄される人間もこのマリオネットのようなものかも知れないな、などと自嘲的に思っていると、中間部の優しい音楽に心がほろっとする。
 第4楽章は高速テンポで疾風怒濤に駆け抜ける。いやあ、岡山フィルは凄い、これは本物だ。しかも、細かいニュアンス、表情の変化が絶妙。
 アンコール、アイネ・クライネ・ナハトムジークの第2曲「ロマンツェ」。祝祭的なニュ・イヤー・コンサートではなかったが、モーツァルトの光の部分も影の部分も感じられる、充実した時間になった。
 キンボーさん、そして久しぶりの帰国(いや、来日?)となった高畑コンマス、本当に来てくれてありがとう。
 今回、フライング拍手をする人が居て、一瞬、旗だたしく思ったが、まあ、こういう他人のマナーに腹をたてるのも、色々な人々が集まっている生演奏を聴いている妙な実感があった。とはいえ、やっぱり「拍手は指揮者の手がおりた後に」して欲しいもの。

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その1:建設地に関する危惧) [オーケストラ研究]

 今回から2023年夏に岡山市に開館予定の新しい劇場についての考察記事のシリーズを開始します。
 現在、連載中の「オーケストラが拓く『創造都市』シリーズ」は並行して進めていますが、新劇場の話題は鮮度の問題があるので、こちらを優先して更新することになります。
 新しい劇場の名は『岡山芸術創造劇場』。このネーミングから、単に外から舞台や演者を呼んでくる「ハコ」としてのホールに留めず、地域の芸術家・クリエイター、市民の創作活動が活発化していくセンターとしての役割が期待されている。
 明言はしていないが、市当局としては、この劇場のコンセプトが創造都市(文化庁の用語では「文化芸術創造都市」)に影響を受けているであろうことは当ブログでもすでに述べた。

オーケストラが拓く『創造都市』(その3:『創造都市』とは何か)

 岡山芸術創造劇場の構想は、現在は石山公園向かいの風光明媚な地に建つ「岡山市民会館」と旭川の東岸、県庁の斜向いに建つ「岡山市民文化ホール」の老朽化に伴う建て替え議論から端を発した。報道などでは『新岡山市民会館』と呼ばれていたが、2018年に表町商店街南端の千日前地区に建設地を決定するとともに、1750席程度の大ホールと、800席程度の中ホールをまとめた名称として『岡山芸術創造劇場』と発表された。
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※岡山市HPより
 この岡山芸術創造劇場の議論の大きな論点は大きく分けて3つあった。
①劇場の建設場所について
②ハコモノを作るだけではなく、中身をどう整備していくか
③岡山の市街地の再生のために劇場が果たす役割
 ①と②については劇場を整備する上で必要不可欠な検討事項である。②については下の動画にもあるとおり、どういう劇場をつくっていくか、という議論が活発に行われている。専門家の間からは厳しい意見も飛んでいるが、こういう厳しい意見を言ってくれる委員の存在は貴重。劇場の設計や設備の整備は、竣工してからでは変えられない部分も多く、じっさいに平成時代に開館したホールを見ると、最初に掲げたコンセプトがしっかりしているホールしか成功していない。議論の内容を踏まえた整備が現在すすんでいるものと思う。
 一方で、この劇場建設にあたって、地元政財界にとっての最大の論点は③に対する期待だった。この「岡山の市街地の再生のために劇場が果たす役割」に対する期待が、最終的に①の「建設地」についてかなり影響を与えている。
 私はクラシック音楽と全国のオーケストラ・ウォッチャーを趣味としているので、演劇や舞台芸術のことは詳しくはないが、ここ最近開館した全国のホールと比較して、この岡山芸術創造劇場には決定的な問題を抱えている。この問題ゆえに、この劇場の前途はまさに茨の道を歩んでいくだろうと考えている。
 それはずばり、立地場所の問題だ。
 この劇場の立地については3箇所の候補地があった。天神町(旧後楽館中・高跡地)、表町商店街の南端に位置する表町三丁目地区と千日前地区。
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※岡山市HPより
 上記の三箇所の候補地のうち、「文化芸術拠点施設」だけの成功を考えた場合、ベストな場所は後楽館高校天神校舎跡地(現:山陽放送イノベーティブメディアセンター)だ。県立美術館・オリエント美術館や岡山シンフォニーホールに囲まれ、もともと文化芸術施設が集積している立地であり、市内交通・市外からのアクセスも良い。ネックになるのは敷地面積の狭さぐらいのもので、創作活動をしている市民の声は「天神町に決めて欲しい」という意見が多かった印象だ。
 表町三丁目地区と千日前地区は、地権者らで組織する再開発に乗っかるスキームである。そこには典型的なシャッター街と化している千日前商店街・西大寺町商店街の活性化の起爆剤に、との意図があった。
 最終的には千日前地区に決定したのだが、この決定を聞いたときに僕は「劇場の立地としては、果たしてどうなのか」と疑問を持ったことを覚えている。
 天神町に立地していれば岡山カルチャーゾーンの施設との連携も図りやすく、イベント開催時以外でも自然と人が集うような施設になれた。
 敷地面積の狭さから来る練習スタジオの不足などは天神山文化プラザとの連携を図れば解決可能であろうし、開演前の共用スペースの問題は周辺にいくらでも時間を過ごせる場所があるので、他のホールがやっているように、チケット半券を持っていれば出入り自由にすればさほど問題にはならないだろう。
 千日前地区と表町三丁目地区は、典型的な『衰退する地方都市のシャッター街』であり、「シャッター街化」するのはそれなりの原因がある。ここは岡山市の商業の中心の中之町地区や、公共交通も至便な城下や天満屋バスセンターから少し距離があるばかりか、バス路線も(集客施設の立地場所としては)貧弱なのだ。最寄りの「新京橋西詰」バス停に岡山駅方面から来られるのは、新岡山港方面行き1路線のみ、土日の日中は1時間に3本という頻度だ。もちろん、天満屋バスセンターから10分もかからずに歩いてこれる距離ではあるが、今後は観客の高齢者が顕著になっていくことを考えると、この立地の問題をナメてかかると劇場の成功は覚束ないと断言できる。
 例えば、大阪のザ・シンフォニーホールが環状線福島駅から徒歩10分という、決して悪くない立地にありながら、阪急西宮北口駅直結の兵庫芸文センターや、京阪渡辺橋直結・大阪メトロ肥後橋駅5分のフェスティバルホールに対して集客面に苦戦を強いられ、この僅かな利便性の差が、最終的には経営権の売却(朝日放送が滋慶学園に経営権を売却)まで行き着いたことを鑑みると、公共交通の立地の微妙な差を甘く見てはいけない。
 京都コンサートホールは地下鉄北山駅から徒歩5分の好立地にありながら、雨天時には集客が伸びない事態を受け、県の公文書館の敷地を削って近道となる屋根付き遊歩道まで追加で整備した。このように他府県のホールでは、聴衆の利便性へのバリアを取り除くためにたいへんな努力をしている
 さらに、これは今更言っても詮無いことだが、劇場のみの成功を考え、他の地方都市の動きに目を向けていたならば、もっといい立地場所があったと思う。
 2010年台の後半頃から、岡山は『都市改造』とも言えるような再開発のラッシュで、岡山駅前周辺から市役所筋にかけての地域が最も活発である。
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 岡山芸術創造劇場が建設されている千日前地区の事業主体は、再開発事業組合であり、岡山市は劇場の部分のみを買い取る、という仕組みになっている。この形態は岡山シンフォニーホールと同じ形態であり、故に岡山シンフォニーホールは現在でも色々と苦労を強いられているのであるが、その問題については触れない。
 この再開発に乗じたホールの設置という形態を許容するのであれば、駅前町の再開発に乗っかるという選択肢はなかったのか?
 目を岡山の外に向けると、バブル崩壊後に停滞していた地方都市の芸術文化施設の建設は、平成10年〜20年代に再び全国でも活発化していて、近年の例では山形県総合文化芸術館(やまぎん県民ホール)と高崎芸術劇場がある。
 山形県総合文化芸術館は、近年その優秀な録音作品から世界的にも評価されている山形交響楽団の本拠地である。
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 高崎芸術劇場は日本の諸都市オーケストラの草分けであり、これも評価の高い群馬交響楽団の本拠地になる。
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 これらの、充分な集客力を有するコンテンツの確保がすでに保証されているホールが、まさにJRの中心駅の目の前!!に建設されたのだ。これぐらい好条件の立地でないと、人口減少社会の中での地方都市での文化芸術施設の成功は難しいという判断だろう。
 バブル崩壊以降の公共の文化芸術施設の成功例を振り返ると、兵庫県立芸術文化センター(阪急西宮北口駅直結)、石川県立音楽堂(JR金沢駅直結)などの中心駅直結のホールが成功している。時代の趨勢は中心駅直結ホールなのだ。
 他にも岡山芸術創造劇場が大いに参考にしているという北九州芸術劇場、あるいは新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあは、JR駅から少し距離があるものの、前者は小倉城目前のバス路線至便の地にあり、後者は市立体育館・陸上競技場などが集まる白山公園の中にある。岡山の案で言えば最有力候補だった天神町に近い環境の立地、イベント開催時以外でも自然と市民が憩える立地であるといえる。
 シャッター街化して、手のつけようがなかった商店街に文化芸術ホールを建設する、というのはかなりのリスクを抱えながらの船出になるだろう。
 しかし、なぜ市当局は全国的な趨勢を無視してまで、この場所にこだわったのか?なぜ駅前や天神町地区ではなく、中心駅である岡山駅からもっとも離れた場所にあるこの地区なのか?
 実は、その理由は今から25年前に出された「ある構想」にあるのだ。
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 ※次回は、その「ある構想」と岡山芸術創造劇場の関係について触れてみようと思う。

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