SSブログ

ハレノワこけら落とし公演 ケルビーニ/『メデア』 [コンサート感想]

NISSAY OPERA 2023

<岡山芸術創造劇場ハレノワこけら落とし公演>
オペラ『メデア』

全3幕[イタリア語上演、日本語字幕付、新制作] 


20230901_01.jpg


作曲:ルイージ・ケルビーニ
指揮:園田隆一郎 
演出:栗山民也 
管弦楽:岡山フィルハーモニック管弦楽団(コンサートマスター:藤原浜雄)
出演

メデア/岡田昌子、

ジャゾーネ/清水徹太郎

グラウチェ/小川栞奈

ネリス:中島郁子

クレオンテ:デニス・ビシュニャ

第一の侍女:相原里美、第二の侍女:金澤桃子、衛兵隊長:山田大智

合唱:C.ヴィレッジシンガーズ



あらすじ=ハレノワHPより=
 国王クレオンテは、数々の冒険に出かけて偉業を成し遂げた英雄ジャゾーネに娘のグラウチェを嫁がせる事にした。しかしグラウチェには前妻メデアの存在が重くのしかかっている。ジャゾーネは強引にメデアと離縁をしているからだ。
 クレオンテに謁見中のジャゾーネの前に、メデアが現れる。かつて交わした愛と、奪われた二人の子どものことを訴えるが、ジャゾーネに冷たく拒絶される。
メデアは悲嘆と怒りのあまり、復讐を誓うのだった。


20230901_02.jpg


 ハレノワの杮落としにふさわしい、記録にも記憶にも残る舞台だったように思う。
 流石に日生劇場のプロダクションで、すでに東京でのプレミエを絶賛のうちにやり終え、すでに完成された座組なので、素晴らしい舞台になることは予想はしていたが、私が岡山で見た数少ないオペラの中でも群を抜いて素晴らしかった。

20230901_06.jpg

 まずはメデア役の岡田昌子さんの歌唱、演技が見事すぎて・・・。他の歌手陣、合唱も演出も照明も舞台装置も「岡山でこれほどの舞台が見られるんや」という興奮を抑えられない、ハレノワの今後に期待を抱かずにはおられない舞台だった。

 オケピットの岡山フィルはベストメンバーで臨んだが、第1幕ではあまりにもデッドな音響に苦労している印象。私自身が岡山シンフォニーホールに慣れすぎてるのもあるのだが、シンフォニーHで響かせる豊かな倍音は望むべくもなく、アンサンブルの纏まりも悪かった。
 舞台が紡錘状にピットに迫り出していて、それは歌手陣がまるで歌舞伎の花道のように客席眼の前まで出てくるという抜群の効果があったが、オケが左右に分断されるという犠牲もあった。

 ところが、そんな悪条件の中、第二幕からやおら調子が出てきて、第三幕は圧巻の演奏だった。第三幕では少ない残響を逆手に取って、ここぞという場面でプレストで畳み掛け、岡田さんのメデアの狂気と見事にシンクロし、流石は我らが岡山フィルだ、というものを見せてくれた。それはオペラ指揮者の園田隆一郎の面目躍如でもあり、息を詰め手に汗を握りながら鑑賞した。


20230901_04.jpg


・オーケストラの編成は、下手手前にCb4、1stvn8-Va6-Vc5-2ndvn7という岡山フィルでは珍しい対向配置。木管は2管編成で上手奥の方。ティンパニはVcの奥に位置。ただ、舞台がオケピットに向かって紡錘状に迫り出しており、Cbと他の弦舞台がやや分断されている。

・第二幕では舞台裏に合唱とバンダを配置し神の啓示のような効果を出していたが、この管楽アンサンブルもすごく良かった。カーテンコールでは披露されなかったが、とりあえずtwitter情報で津上真音さん(Ob)が乗っていたらしいことはわかったのだが。

・途中、フルート(畠山首席)とファゴット(客演の中野陽一朗さん)の素晴らしいソロが聴けた。お二人共、舞台上の歌手と掛け合い、絡み合うような見事なソロだった。

・8月14日にあったプレ・レクチャーコンサートでオケからは畠山さんと中野さんが出演されていたようだが、このオペラの中にこれほど印象的で重要なフルートとファゴットのソロがあったんだ。うーむお盆は忙しくて行けなかったけど、聴きたかったな。

・さて、視線をオケピットから舞台上に移します。冒頭にも書いた通り、岡田さんの歌唱が素晴らしかった。特に第三幕はほとんど出ずっぱりでハイトーンが次々に続く場面でも、デッドな音響をものものせずハリのある歌を展開して客席を圧倒。憤怒に打ち震える場面では背筋が凍る様な衝撃を聴き手に与えた。このメデアは日本初演ということだが、これまで上演されなかった原因に一つに、メデア役をこなせる人が少ないこともあったかも知れない。

・そのメデアの周りを固めた歌手たちも素晴らしかった。youtubeにメデアの動画がいくつかあったので、1回だけ予習がてら見てみたのだが、元夫の妻を殺すところまではついていけないこともないが、最後には自分の子まで殺めてしまうというのは飛躍が大きすぎて共感できないな、と思っていた。ギリシャ神話には子殺し、親殺しのストーリーがよく出てくるが、エデュプス・コンプレックス文化圏の人々には受け入れられても、なかなか日本人には共感が得られにくいストーリーで、このこともメデアがこれまで取り上げられなかった大きな要因だと思う。

・しかし、今回の脚本・演出は聴衆の共感・没入が得られるように、うまく落とし込んでいたのだ。

・伊藤さん演じるクオレンテは君主としての威厳と同時に何でも自分の思い通りにしたいというマインドが見え隠れする、清水さん演じるジャゾーネの優柔不断さ、身勝手さと偽善など、周りの歌手たちがうまく演じたことで、メデアが抱える苦悩や二面性への説得力が増し、岡田さんの演技も相まって不思議とメデアに共感していく自分がいた。

・重要な役回りを担ったのが中島郁子さん演じるネリス。ダークサイドに落ちる前の王女メデアに侍女として付き従ってきたネリスが、第三幕では狂言回しの役割も担っていた。道を踏み外さないよう願うアリアが心に沁みた。

・メデアが自分の中の母性を殺す瞬間、そしてその後の騒動・事件〜クライマックスの真っ赤の照明演出の中から子どもの亡骸を抱え、上半身・顔が血まみれの状態でメデアが出てくる場面など、一連のハイライトのシーン、私の席からは園田さんがオーケストラにここぞとばかりの煽りを入れて、それはそれは古典派オペラとは思えない阿鼻叫喚の狂気!を創り出しているサマがはっきり見えた。私と同年代の園田さん。この世代で最も「振れる」指揮者だと改めて確信。岡山フィルはこの杮落としのご縁をトリガーに、園田さんとの関係を深めていって欲しいと思う。

20230901-03.jpg

・子殺しのシーンにクライマックスを持って行った関係上、見せ場もなくあっさり&いつの間にか殺された(王妃の冠に毒が仕込まれて亡くなったとの設定)ことが告げられたヒロイン役のグラウチェ役の小川栞奈さんには気の毒な脚本だなと感じる。

・冒頭で、この劇場のデッドな音響について触れたが、「デッドな音響」と一口に言っても色々な種類がある。それについては後日、ハレノワ大劇場の感想としてまとめようと思うが、一言で表すと「唱高弦低」あるいは「管高弦低」と言えるだろうか。

・歌手のレチタティーヴォは発音まで明瞭に聴こえ、表情の変化も充分に読み取れる。やはり「劇場」としての臨場感やセリフの聴き取りやすさを追求した音響設計になっているのだろう。

・木管の音もよく聴こえた、その一方で、弦の音は岡山シンフォニーHで聴く音とは違い、僕の好きな岡山フィルの芳醇な音からはかけ離れていた。ところが第二幕以降はキチンとアジャストしていたのはさすが。

・私はオーケストラの豊かな音を聴きたい。今回のような古典派やバロックのオペラはいいとして、例えばプッチーニやR.シュトラウスなどは岡山シンフォニーホールで聴きたいかな。

・他の長所としては、客席とステージの距離が近く、1700席もあるホールにはとても思えない、舞台と客席との一体感があった。

・実は開演に間に合わず、1幕目の途中から2階席最後方の座席に入れてもらえたのだけれど、舞台との近さに本当に驚いた。

・大阪から私の敬するコンサートゴーアーのぐすたふさんが来られていたが、やはりキャパの大きさを感じないような舞台との一体感を感じたとのこと。びわ湖ホールの中ホールで見ているような臨場感があったそうだ。

・幕間の休憩中に平土間に降りて見ると、岡山シンフォニーHに比べると各階客席の階高が低い、これがコンパクトな客席の秘訣であり、残響の少なさの原因のように思う。



20230901_05.jpg

nice!(0)  コメント(5) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 5

サンフランシスコ人

「杮落としにふさわしい、記録にも記憶にも残る舞台だったように思う....」

見逃さなくて良かったですね!
by サンフランシスコ人 (2023-09-07 06:46) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 開演には遅刻しましたが、おおむね見ることができました。
by ヒロノミン (2023-09-09 22:43) 

サンフランシスコ人

サンフランシスコ人が驚いた!

http://okayama-pat.jp/event_info/tosca_20231110/

" 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 開館事業 ボローニャ歌劇場 G.プッチーニ『トスカ』

■日時:2023年11月10日(金)18:30開演

■会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場"
by サンフランシスコ人 (2023-09-26 05:31) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 ボローニャ歌劇場、もちろんチケット買っています!
by ヒロノミン (2023-09-30 22:37) 

サンフランシスコ人

11月10日.....まだ一ヶ月もありますね....
by サンフランシスコ人 (2023-10-04 00:43) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。