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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その6 集客力への不安) [芸術創造劇場]

 2023年に開館が予定されている岡山芸術創造劇場について考えるシリーズ。

 なかなか更新が進まないこのシリーズですが、今回はあまり前向きな記事にはなっておりません。どちらかとうと悲観シナリオ。
 今月、山陽新聞で岡山シンフォニーホール開館30周年の特集記事が出ていました。
岡山シンフォニーホール30周年・かさねてひびく(上)羽ばたく 郷土の若手、大舞台へ導く:山陽新聞デジタル|さんデジ https://www.sanyonews.jp/article/1198972
岡山シンフォニーホール30周年・かさねてひびく(中)いざなう 利用回復へ新たな魅力を:山陽新聞デジタル|さんデジ https://www.sanyonews.jp/article/1199311
岡山シンフォニーホール30周年・かさねてひびく(下)つながる 新劇場とともに 連携模索:山陽新聞デジタル|さんデジ https://www.sanyonews.jp/article/1199965

 記事の内容をここで詳しく書くわけにはいかないが、ざっくり言うと、岡山シンフォニーホールは福田廉之助、森野美咲など、世界一線級の音楽家を輩出する土壌になった、その一方で入館者数は1999年の31万人をピークに2013年には16万人に半減した。そこからはやや持ち直すなかで、コロナ禍が襲った。そんな中で新劇場とシンフォニーホールを一体運営する組織を発足させ、連携を模索する、という内容だった。


 この記事の中で「音楽芸術のシンフォニーホールに対し、岡山芸術創造劇場ハレノワは『身体表現』が中心となる、それぞれの特性を生かしていければ」「岡山は音楽や舞台の鑑賞人口がまだまだ少ない」とのコメントが採り上げられていた。新しい劇場は岡山シンフォニーホールにとって、あるいは岡山市街地の活性化、このシリーズ記事で見てきた「都心4コーナー構想」の一角としての集客力への期待に応えられるのか、「創造型劇場」の主要コンテンツとなる演劇や舞台芸術の集客力などを考えてみたい。


 今年の8月、岡山芸術創造劇場の愛称が「ハレノワ」に決まった。



 個人的には、3つの最終候補(『岡藝』『mirare』『ハレノワ』)の中では、『岡藝』が場所+催し事も含意する可能性があると思って投票したのだが、『ハレノワ』も悪くないと思う。『mirare』は「札幌コンサートホール kitara」「札幌文化芸術劇場 hitaru」の2番煎じ感が強く、コレは無いなと思っていた。


 岡山芸術創造劇場は貸館事業だけでなく、舞台芸術を自ら生み出していく「創造型劇場」を目指している。一方、表町商店街を中心とした旧城下町地区の活性化の起爆剤に、という地元経済界・行政界からの期待も背負っている。

 シリーズその3の「「都心4コーナー構想」の一角を担う」で見てきたとおり、1kmスクエアの中で、再開発や活性化が遅れた千日前地区に、岡山の内外から集客できるような施設をという構想がまずあった。90年代に計画された「フィッシャーマンズ・ファーマーズ・マーケット」が具体化することなく頓挫したあとに、形を変えて計画されたのがこの劇場。

 果たして、期待通りに多くの人を呼び込み、常に人で賑わうような劇場になるのか?劇場の主要コンテンツとなる「演芸・演劇・舞踊鑑賞」のデータを集め、予測を立ててみた。

 まず別のエントリーでも紹介した、文化庁の文化芸術関連データ集から「実演芸術(分野毎の公演回数)」を見てみよう。

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 これを見ると、新しい劇場の創造型事業の主力を担う演劇の公演数・団体数ともに衰退傾向にあることがわかる。最盛期の2004年と直近の2015年のデータを比較すると、36%もの落ち込みで、10年余りで2/3になっているのだ。

 この数字はオーケストラ公演数・団体数とは対象的な数字を辿っている。2013年以降にシェレンベルガーが岡山フィル首席指揮者に就任後、岡山フィルの集客力は飛躍的に伸びた。しかし、その背景にはオーケストラ業界自体の成長力が背景にあったことを、このデータは示している。


 上記のデータは団体数や公演数のデータしか解らないので、具体的な観客動員を時系列で追えるものとして政府の「社会生活基本調査」という調査がある。

 社会生活基本調査は、国民の生活時間の配分や余暇時間における主な活動の状況など、国民の社会生活の実態を明らかにするための調査で、趣味やスポーツについて抽出調査した項目もある。
 以下に挙げる表の数字はすべて%で、国民全体の中で当該項目を趣味と考えている人の割合を表していると考えて良い。

 まず、「演芸・演劇・舞踊鑑賞」についてみてみよう。

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 これを見ると、上記の文化庁のデータほどには衰退傾向は見られない。これは調査の対象が文化庁のデータは日本劇団協議会に加盟する団体のみのデータであり、社会生活基本調査は、演劇団体だけでなく、喜劇や漫才などのお笑い系や歌舞伎・狂言などの伝統芸能、大衆演劇、ダンス・バレエ、アイドルグループなどの公演も含まれるなどの母集団の違いがあり、それらが演劇の落ち込みをカバーしていることが見て取れる。
 しかし、年齢別のデータを見ると、若年層では顕著な減少傾向は見られないが、40代以上の世代で軒並み3〜5ポイントの顕著な落ち込みが見られる。
 これは筆者の推測になるが、一昔前の年配者は「芝居を観に行く」という行動がもっとメジャーだった印象がある。また、筆者の二回り以上上の世代(1960年代〜70年代に青春を過ごした世代)は、アングラ演劇全盛の時代で、若者に対する演劇の影響力は強大なものであったと聞く。データだけでは細かい動きは読み取れないが、観劇にアクティブであった年齢層が、軒並み高齢層に入り、業界全体として集客力に陰りが見えるのは事実だろうと思う。


 クラシック音楽鑑賞や、スポーツ観戦、映画館などのデータについては、以下の記事にて考察しているので参照をお願いしたい。


 上記記事で気になったのは若者の動きだ。スポーツ観戦やポピュラー音楽のライブなどでも、若者の実演・実技の生体験は軒並み数字を下げている。一方で、日時や場所の制約のハードルが低い映画鑑賞や、自宅で楽しめるゲームや動画配信などが急速に伸びている。本シリーズ:その4 「劇場の概要と計画」で取り上げた岡山芸術創造劇場の長期計画に『更なるデジタル社会への対応』が挙げられているが、「演劇や音楽は、生で体験してこそ真価がわかる」という訴えは若者には通用しない可能性がある。新しい劇場は自宅での同時鑑賞や、オンラインコンテンツとしての制作・配信や、あるいはネット空間と現実の舞台とを融合したあたらしい形の実演芸術のあり方などを模索する必要があるだろうし、2023年の開館までにこうした取り組みを想定した設計変更も検討すべきであろう。



 また、岡山芸術創造劇場の創造事業の主要コンテンツとしての演劇を中心とした舞台芸術の「集客力」は中心市街地の活性化の起爆剤になるとは考えにくく、この劇場に狭い意味での「賑わいの創出」という期待はあまり出来ないのではないかという結論になる。

 冒頭に上げた山陽新聞の記事でも触れられているように、岡山シンフォニーホールの集客はピーク時の60%程度に留まっており、岡山シンフォニービルも空き店舗が目立っている。そういった状況と同じことが繰り返されることになりはしないか。


 現在は、「新しい市民会館は「創造型劇場」なんですよ!」というPRが全面に出ているが、「創造型事業は」集客力の面では期待できない以上、その集客力不足をお笑いや歌舞伎などの古典芸能、ダンス・バレエ公演、アイドルの公演、それに加えて市民会館でやっていたポピュラー音楽の公演などで頼らざるを得ない。

 私自身は「創造型劇場」の役割に対する期待は大きいし、人口減少・超高齢社会化する中で、どのように社会を刷新し活力を生みだしていくか?という命題に対する一つの希望になりうる。ただ、「創造的劇場」が前面に出すぎると、ただでさえ高い演劇・舞台芸術の敷居がを更に高くしてしまう恐れもある。まずは「市民ホール」として、利便性や鑑賞の快適性が向上するなど、どのような魅力が増しているのかを、もっとPRしていく必要があるのではないだろうか。


 別の言い方をすれば、「創造事業」をが20年、30年スパンで長期的に成功するためには、貸館事業をいかにして軌道に乗せるかにかかっているのだと思う。もし、貸館事業の集客に苦戦するようになり、周辺地域の活性化もままならない状況になれば、結果にシビアな岡山市民のこと、「あがな不便なところに建ててしもうたから、ほれ見てみ、お客が入らん劇場になってしもうた。ありゃ失敗じゃ」といったように、必ず「創造事業」への風当たりも強くなるだろう。


 また、本シリーズ(その1:建設地に関する危惧)で、この劇場の「立地」が成功への足かせになると書いた。それは今回書いた「集客面での不安」と負のシナジーを形成することが怖い。


 今月の上旬に姫路にできた文化コンベンション施設「アクリエひめじ」では、新施設への市民の関心の高さや熱気が感じられた。その一因として開館前から新型コロナウイルスのワクチン接種会場として開放されたことで、SNSなどで採り上げられ、関心が広がっていったことがある。もう一つはアクリエ姫路が非常に守備範囲の広い施設、音楽芸術だけでなく、舞台芸術、会議やコンベンション、展示会、コミケやファッションショー、スポーツイベントに至るまで、あらゆる趣味や市民生活がこの施設とリンクしていくため自然と関心が惹起されていったのだろうと思う。


 ハレノワも、創造的事業(舞台芸術、身体表現)以外にも、ポップスやコメディ、アイドルや韓流などあらゆる分野のコンサートやライブの楽しみ方が変わること、あるいは旧市民文化ホールや市民会館を拠点に活動してきた合唱や吹奏楽をはじめとした市民の晴れの舞台が劇的に変わることへのアピールと、コストは増えない方策を考えることなどを、もっと前面に出して進めていくべきだろう。今のままでは舞台芸術に端から関心が無い層は無関心なまま開館を迎えることになる。もっと拡がりのある広報を望みたい。


 このシリーズ、もっと掘り下げて検討して行きたかったが、現状、調べたり書いたりする時間が取れないため、これで打ち止めとしますが、書きたかったことを端的に残しておくとすると、この劇場が長期的に成功していくためには、使いやすい行きやすい施設となることを極限まで追求したうえで、創造的事業については、岡山市が創造都市になると明確に名乗りを上げていく必要がある、創造都市を目指す中でこそ、この芸術創造劇場の位置付けが明確になるだろうと思います。また創造都市シリーズを書いていく中で、この劇場についても触れていこうと思います。

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その5 ハレノワとは対極の施設:アクリエひめじ) [芸術創造劇場]


 なぜ、アクリエひめじに注目したのか?姫路市は①山陽道の交通の要衝で都市規模・経済規模も岡山市と似ている、②ともに池田家と深い関わりがある城下町をルーツとする、など、岡山市と共通する部分も多いにも関わらず、岡山芸術創造劇場(愛称:ハレノワ、に決定!)とアクリエ姫路は、立地・整備内容など様々な面で全く逆の方向を志向している。この両施設を比較検討することで見えてくるものがあるのではないかと思い、取り上げてみようと思う。


 アクリエひめじの正式名称は「姫路市文化コンベンションセンター」。大ホール(2001席)、中ホール(693席)、小ホール(164席)、さらに面積4000㎡の広大な展示場(ママカリフォーラムの4倍、コンベックス岡山大展示場よりも大きい)、大小10の会議室などを擁し、コンサート・展示会・国際会議・学術会議・イベントなど様々な催事に対応出来る。9月の開館に先立って、6月から兵庫県の大規模接種会場として、そのアクセスの良さとフレキシビリティを発揮していた。
 一番の売りはJR姫路駅から歩行者デッキで直結していることだ。
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 実はJR姫路駅から800mほど離れており「駅直結」かどうかは意見が分かれるところではある。800mというのは岡山駅からの距離に置き換えると、西川緑道公園を過ぎ柳川交差点の手前ぐらいの距離。しかも、屋根付きの歩行者デッキが整備されていて、信号なしのバリアフリーでアクセスできるのは大きいメリットで、本記事では「新幹線停車駅直結」であると認定して話を進めたい。
 シリースのその1:建設地に関する危惧で述べたように、全国のホール・劇場建設の趨勢は、都市中心の新幹線停車駅直結であり、高崎芸術劇場や山形県民文化会館を取り上げたが、それはこのアクリエひめじも同様である。
◯文化施設の新幹線停車駅からのアクセス比較
高崎芸術劇場(高崎市 2019年開館) JR高崎駅から徒歩5分  
山形県民文化会館(山形市 2020年開館) JR山形駅から徒歩1分
アクリエひめじ(姫路市 2021年開館) JR姫路駅から徒歩10分
岡山芸術創造劇場(岡山市 2023年開館予定) JR岡山駅から徒歩25分
岡山シンフォニーホール(岡山市 1992年開館) JR岡山駅から徒歩15分
倉敷市民会館(倉敷市 1972年開館) JR倉敷駅から徒歩20分
旧姫路市文化センター(姫路市 1972年開館) JR姫路駅から徒歩25分
 アクリエひめじは姫路市の文化芸術拠点であった旧姫路市文化センターの移転建て替えとして計画された。この点は岡山市民会館の移転建て替えとして建設が進められている岡山芸術創造劇場と共通している。
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※今月で閉館する姫路市文化センター
 調べてみて気付いたのだが、旧姫路市文化センターの開館は倉敷市民会館と同年。築50年未満で新耐震基準以前の竣工であるものの、そこまで老朽化している訳ではなかった。
 一方、駅からの距離は岡山芸術創造劇場とほぼ同じだ。筆者は学生時代に、旧姫路市文化センターに何度かコンサートに通い、ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル、チェッカート指揮ベルリン・シュターツカペレ、スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団などの名演に接した。姫路まで足を運んだ理由は、民営の京阪神のホールでは設定不可能な安いチケット代が魅力だったからだ。
 このホールに行く手段として、姫路駅から歩くという発想自体がなかった(笑)1kmおきに駅がある都市部の住民にとって徒歩25分(2km弱)はかなり遠い感覚だ。
 また、手柄山公園には1000台規模の駐車場があり、親に連れられていったときは自動車一択。何年か前にブリュッセル・フィルを聴きに行った時は、山陽電車に乗り換えて手柄駅から歩いて行ったが、それでも12分程度はかかった。アクリエひめじの建設は、こうした文化センターが抱えていた微妙なアクセスの改善の意味合いもあったようだ。
 岡山市当局は、岡山芸術創造劇場の立地については、倉敷市民会館の例などから決して駅から遠過ぎることはなく、また路面電車の延伸計画によってアクセス性が改善されるため問題ないとの認識のようだが、それならば路面電車の延伸を開館に間に合わせるぐらいの対応が求められるはずなのだが、事業者との費用負担を巡って対立するという、いつものお決まりパターンに陥り、開館には間に合わないようだ。
 「アクリエ」というワードは、アーク(円の弧あるいは架け橋)とクリエーション(創造)を組み合わせた造語。奇しくも岡山芸術『創造』劇場の愛称は「ハレノワ=晴れの輪」で、両都市それぞれの施設に懸ける思いがシンクロしているような印象だ。
 アクリエひめじは舞台芸術だけでなく、音楽ホールや複合形コンベンション施設も兼ねており、ポピュラー音楽や各種イベントなど、産業・技術・エンターテイメントなど他分野に渡る「創造」を行う拠点施設になることを想定しており、趣味性の高いコミックフェスなどのサブカルやスポーツイベントも視野に入っているようだ。これは究極の新幹線直結型多目的施設になるだろう。
 大ホール・中ホールはプロセニアム形式かつ音響反射板も入っている。現にこけら落とし公演シリーズとして、ウィーン・フィルの来日公演が組まれている。
 一方で、岡山芸術創造劇場は「創造型事業」を前面に出し、舞台芸術に特化し、既存の岡山シンフォニーホールとの棲み分けのために、音響反射板すら設けないというストイックぶり。
 姫路市の文化施設の運営は、姫路市文化国際交流財団が一手に引き受けており、アクリエひめじの文化芸術事業もこの財団が担うようだ。ただ、岡山シンフォニーホールのようなクラシック音楽演奏の専門スタッフや、岡山芸術創造劇場のような舞台芸術の専門スタッフは抱えておらず、市独自事業の展開には主眼を置かずに文化芸術関係の演目を外から招聘することが主体になりそうだ。
 こうして見てみると、このアクリエヒひめじは岡山芸術創造劇場とは全く逆の方向性を持った施設だ。
             アクリエひめじ       岡山芸術創造劇場
ホールの立地       新幹線駅直結型       旧市街地(駅からはやや
                           離れている)
事業の展開        貸し館主体のホール     専門スタッフを採用した
                           創造型劇場
ホールの多目的性     舞台芸術・音楽・      音響反射板の不採用など
             コンベンションなど     舞台芸術に特化
             多目的に展開
 この2つの施設、果たして30年後にはどちらが都市の賑わいや成長に貢献する施設となるのか?それを考えたとき、「MICE都市(※1)を目指す」方向性と「創造都市(※2)を目指す」方向性という、対照的な両都市の成長戦略が見えてくる。
 姫路市も岡山市も、元をただせば池田家の城下町であり、そのルーツには共通点も多い。太平洋戦争までは白鷺城(姫路城)と烏城(岡山城)は双方とも国宝に指定されていた。戦火をくぐり抜けた白鷺城は現存する最古の城として世界遺産にも認定。国内外への圧倒的な知名度を梃子に、MICE都市(※)への飛躍を目指そうとしている。一方で烏城は岡山空襲で灰燼に帰し、1966年に鉄筋コンクリート造により外観復元が行われたが、「レプリカ」としての岡山城単体では市民の誇りとはならず、後楽園や各種博物館・美術館などの文化施設が城を取り囲むという全国でも稀な「岡山カルチャーゾーン」を発展させてきた。その延長上に創造型劇場の構想があり、それは「創造都市」の潮流の中にある
※1:MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive  Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称。
※2:創造都市とはグローバリゼーションと知識情報経済化が急速に進展した21世紀にふさわしい都市のあり方の一つ。1980年代以降に産業空洞化と地域の荒廃に悩む欧米の都市において「芸術文化の創造性を活かした都市再生の試み」が成功を収めて以来、世界中で多数の都市において行政、芸術家や文化団体、企業、大学、住民などの連携のもとに進められている。
 どちらの方向性が正しいのか?私には結論が見いだせないが、まずは、双方がその都市戦略に沿った施設運営が出来るかというのが、最初のハードルになるだろう。
 短期的な成功、あるいは住民へのプレゼンスという面では、アクリエひめじの方が有利だ。大きなメッセやイベントをいくつか成功させれば、成果が目に見える形で発揮され、交流人口の増大や宿泊・観光需要の拡大にも繋がりやすい。
 一方で、岡山芸術創造劇場の「創造型事業」の成功までには気の遠くなるほどの手間暇がかかるし、専門家や関係者の間での評価が得られても、なかなか一般市民が実感するような成果は出しにくい。
 次回のエントリーでは、この岡山芸術創造劇場の注目点として、その集客力にスポットを当てて見ていきたいと思う。

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その4 劇場の概要と計画) [芸術創造劇場]

 2023年夏に開館する岡山芸術創造劇場について考えるシリーズ。第1回では立地の問題を指摘、第2回〜第3回では、この最悪とも思える場所に、なぜ建設されたのか?という謎について、1995年に岡山の財官学の総力を結集して提言された「人と緑の都心1kmスクエア構想」にあることに触れた。
 今回は、劇場のスペックや長期計画について見ていこうと思う。
 第1回でも触れたが、この劇場の最有力候補地はオリエント美術館と県立美術館に挟まれた、岡山カルチャーゾーンの中核エリアとも言える天神町だった。では、この場所はどうなったのか(岡山には知らぬ人はいないとは思うが)。
 この土地の再開発は、「岡山カルチャーゾーンにふさわしい施設」という条件が付されたコンペ方式で決定され、現代アートの美術館を中心とした提案を抑えて、山陽放送の新社屋:イノベーティブメディアセンターに決定し、すでに竣工式を終えている。
 重要なのは、この中に全天候型の能楽堂:Tenjin9が設置されたこと。
 中核都市・後発政令市のなかで、
 ・クラシック音楽に対応した大ホール
 ・オペラやミュージカルなど舞台芸術に対応した大ホール
 ・演劇などに対応した中ホール
 ・小規模な公演に対応した小ホール
 ・全天候型の邦楽堂
 この5点セットすべてが都心部に立地しているのは金沢市(石川県立音楽堂・邦楽堂・文化ホールなど)と岡山市ぐらいではないか?近隣の大都市を見ても、広島市・神戸市ですらすべてを揃えてはいない。
 地図で見ると、Tenjin9(能楽堂:可動250席)→県立美術館ホール(固定212席)→オリエント美術館中央ホール(可動約200席)→岡山シンフォニーホール(固定2000席)、イベントホール(可動約200席)、ルネスホール(可動約300席)→岡山芸術創造劇場大劇場(固定約1750席)→中劇場(固定800席)→小劇場(可動300席)
 これらがベルト状に並んでいる。これは400年の伝統がある岡山城の城下町とエリアと完全に重なるのだ。
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 芸術創造劇場単体で見れば「なんであんなところに建てたのか?」という疑問が生じるが、江戸時代以来の岡山城下町という時間のレイヤーを紐解いていくと、この場所に立地した意義はあるように思う。
 ここで、この岡山芸術創造劇場がどんな劇場をめざしているのかについて知るために、岡山市が策定した「基本計画」を見てみよう。
 岡山芸術創造劇場は、岡山市民会館(1963年開館)と岡山市民文化ホール(1976年開館)の設備の老朽化・バリアフリー化・耐震化への対応が難しく、また両施設を統合し、創造支援機能を備えた「創造型劇場」へと発展させるために企画された。

 従来の貸館事業主体の運営から脱却し、
■「魅せる」をテーマにした鑑賞・普及事業
■「集う」をテーマにした交流・情報・施設提供事業
■「つくる」をテーマにした創造・育成・連携継承事業
 この3つのテーマを軸に事業を展開していくことになっている。

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 ハード施設としては、
■大劇場(1750席)
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■中劇場(800席)
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■小劇場(300席)
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 ほかに大練習室、中練習室(7室)、小練習室(3室)、舞台衣装やセットなどを制作するための制作工房(3室)などを備えている。
 また、共有スペースが充実していることも特徴の一つで、情報・展示ギャラリーやオープンロビー、屋外の賑わいスペースなどを備える。
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 大ホールはプロセニアム形式で、岡山シンフォニーホールとの棲み分けを明確にするため、反響板を設置しないとしている。ホールの残響は1.2〜1.4秒でオーケストラ公演はもちろん、オペラ公演を想定してもかなりデッドな音響で、オペラなどの生オーケストラの劇伴付きの公演よりも、肉声主体の演劇公演の方に振れた設計になっている。
 舞台の設計については、三面または四面舞台には対応しておらず、例えば新国立劇場、びわ湖ホール、兵庫PACなどとの共通プロダクションによるオペラには対応出来ないと思われ、『中四国地方の拠点劇場』というのはちょっと誇大広告かなと思う。もっとも舞台機構を大掛かりにすれば保守・管理費用も増大するので、妥当な判断かもしれない。
 岡山市民会館や岡山シンフォニーホールの欠陥であった、機材の搬入利便性はかなり検討されたようで、搬入・荷解スペースを広く取り、大劇場・中劇場舞台裏に付けられる11tトラック2台分の搬入ヤードを整備。ガルウィング車両にハイキューブ型のトレーラーにも対応している。搬入利便性の改善によって、従来、倉敷市民会館に逃げていた公演を確保出来る可能性が広がった。

 岡山芸術創造劇場の将来展望については、『「魅せる」「集う」「つくる」を実現するための事業方針』が出されている。

■開館前計画
・劇場開館後のイメージを伝えるためのプレ事業の展開
・普及・育成事業、情報事業、地域との連携事業は早期に取り組みを開始
・開館に必要な人材確保や育成

■初期計画(R5〜R6年度)
・事業計画の7つに分類した事業を総合的に展開し劇場の礎をつくる
・鑑賞事業や創造事業、交流事業などの充実により文化芸術活動の拠点施設としての内外の認知度を高める
・文化芸術活動に触れる機会の少なかった市民へも関心の裾野を広げていくための普及事業、育成事業の推進

■中期計画
・プレ事業からの蓄積を生かして、開館効果が落ち着いたあとの「魅せる」「集う」「つくる」のコンセプトを実現する各事業のスタート
・地域の文化芸術人材や連携団体・機関の情報を束ね、人的繋がりの結節点にする。

■長期計画
・R9年度に「劇場・音楽堂等機能強化総合支援」施設(※)として採択されることを目標とし、市民が文化芸術へ親しむ機会の増加や人材育成、心の豊かさや想像力の醸成などへの効果を発揮する
・更なるデジタル社会への対応
 気になったのは、長期計画にある「劇場・音楽堂等機能強化総合支援施設」というワードだった。
 調べてみると、この劇場の命運を左右する重大な問題が解ってきた。また、創造型事業の主要コンテンツとなる演劇公演の集客力は、はたして千日前地区や表町の賑わいを取り戻す役割を果たせるのか?についても次々回以降に考えていきたい。
 次回は、山陽道の同規模の都市、岡山とは池田家との縁も深い姫路に新しく開館するホールについて見ていくことで、岡山芸術創造劇場との対比も行っていきたい。
(次回へつづく)

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その3「都心4コーナー構想」の一角を担う) [芸術創造劇場]

 2023年夏に開館する岡山芸術創造劇場について考えていくシリーズ。
 前回のエントリーから、この劇場の建設地や役割について考察するために、岡山の政・財・官・学界の総力を結集して1995年に提言が出された「人と緑の都心1kmスクエア構想(大構想)」について、今回も見ていこうと思う。
 前回の本シリーズのエントリーから4ヶ月も経過してしまった。このペースで行くと、完結する前に劇場が竣工してしまいそうである(笑)
 このブログを書いていることを知っているリアル知り合いからは、「こんな構想があったなんて知らんかった」「最近、『1kmスクエア』とかいう言葉をよく聞くが、これが元にあったんじゃ」という声をかけられた。一方で、行政関係者の友人は大体がこの構想を知っていた。
 ということは、岡山芸術創造劇場が千日前に建設される歴史的背景について、行政関係者の中ではコンセンサスがあるかも知れないが、一般市民にとっては、「なんであげーなとこに建設しとるんかの?」と言う疑問がまだまだあるということだ。
 前回は「大構想」の3つのコア・プロジェクトのうち、「①路面電車環状化構想」「②文化公園都心構想」について、25年後の現在において着々と形になりつつあることに触れた。
 今回は、「③都心コーナー4拠点開発構想」について取り上げてみようと思う。
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 都心部を環状化された路面電車のネットワークが循環し、岡山都心を形成する1km四方の市街地の内部に緑の多い街路・空間を作る。その最後の総仕上げとして、1km四方の市街地の4つのコーナー部分に、「岡山の文化性を生かし、中四国をはじめとした広域エリアから集客できる特色と魅力のある施設を整備する」というプロジェクトである。
 まず、大構想提言から25年間で、もっとも整備が進んだのが都心コーナー①「JR岡山駅周辺」だ。
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 このエリアは1990年代には既に高島屋百貨店、中四国最大規模の地下街の岡山一番街、ドレミの街(当時はダイエー岡山店が主要テナント)などの大規模商業施設が存在していたが、岡山駅の橋上駅舎化に伴い、駅ナカ商業施設の「さんすて」が2006年にオープンしたことによって、表町と駅前という商業中心地の2極のバランスが崩れはじめ、表町のクレド岡山から有力テナントが撤退するなどの影響が出た。
 そして2014年に年間2000万人もの集客力のある、イオングループ内でも西日本の旗艦施設と位置づけられた、イオンモール岡山がオープンしたことによって、岡山の商業の中心は駅前地区に重心が一気に移行した。現在の岡山の市街地の問題は、この強くなりすぎた岡山駅周辺地区の集客力を、どのように他の地区に分散させていくかに焦点が移っている。
都心コーナー②市役所・大供周辺
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 イトーヨーカドーとジョイポリスが入るジョイフルタウン岡山が1998年にオープンし、堅調な集客を見せていたが、2014年のイオンモール岡山の登場により、イトーヨーカドーとジョイポリスが閉店に追い込まれた。現在は両備グループによる「杜の街づくりプロジェクト」が進行しており、OHK岡山放送などが入るオフィスビルの登場により、市役所筋を挟んだ向かいには山陽新聞・テレビせとうちの本社屋や、上場企業の支店なども集結しており、オフィス街としての性格が強くなっている。

 そして、耐震性能に問題のある岡山市役所庁舎の建替え計画が進行中である。庁舎を南側にセットバックすることにより、平時にはイベント広場として、有事には防災拠点となる緑地を整備し、「大構想」のコア・プロジェクト②の文化公園都市構想の一翼をも担うことになるだろう。
都心コーナー③城下周辺
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 この地区は、1992年に整備された岡山シンフォニーホールが建つ「城下交差点」を中心に、美術館・博物館などの文化芸術施設が集積する「岡山カルチャーゾーン」の整備が進められてきた。私が岡山に移住してきた1990年代頃は岡山シンフォニーホールの開館直後の時期で、毎月のように海外オーケストラや国内一流オーケストラ、著名アーティストの公演などがあり、上之町商店街もかなりの賑わいを見せていた。
 岡山の人々にとっては見慣れた風景だが、徒歩15分圏内にこれほどの文化芸術施設が集積しているというのもかなり特殊であり、岡山独自の魅力・強みだ。バブル期の地方都市での美術館や博物館やコンサートホールの建設は、車での来客の利便性などから郊外に建設される都市が多かった中で、この地区に集積させてきた岡山の先人たちの見識に敬意を抱いてしまう。
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 1997年の「岡山城築城400年」と2000年の「後楽園築堤300年」の記念の年に様々なイベントが開催されたが、2000年代は岡山県や岡山市の財政危機が表面化、県や市の施設の予算が削減され、このゾーンにも冬の時代が訪れた。
 しかし2010年代に入ると、2013年のシェレンベルガーの岡山フィル首席指揮者就任により、岡山フィルを中心とした音楽文化活動が活発化、
2016年と2019年に開催された「岡山芸術交流」によって、歩いて回れる岡山カルチャーゾーンが全国のアート・ファンに知られるようになった。
 2020年には、全天候型の能楽堂を備えたRSK山陽放送の新社屋も竣工した。
 岡山フィルはオリエント美術館や岡山県立美術館などで、展示内容にちなんだコンサートでの演奏活動や、後楽園・岡山城での演奏など、岡山カルチャーゾーンのハード施設同士をつなぐ、ハブとしての存在感を高めている。
都心コーナー④京橋、表町三丁目周辺
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 上の地図を見てみると、何やら見慣れない文言がある。
 「岡山フィッシャーマンズ&ファーマーズマーケット構想」・・・・
 現在、京橋においては、月に一回たいへんな賑わいを見せている「京橋朝市がある」
 岡山フィッシャーマンズ&ファーマーズマーケット、とは京橋朝市のことなのだろうか? 
 確かに構想の中には京橋朝市も含まれているが、もっと壮大な構想だったようだ。
 「瀬戸大橋、山陽自動車道をはじめとする広域交通網の整備により、岡山市と数時間で行き来できる地域は一挙に広がりました」
 「京橋周辺のウォーターフロントという地理的特性と岡山の拠点性を加味し、瀬戸大橋・日本海・太平洋から届く新鮮な“三海の幸”を最大の売り物とする新しいにぎわいの拠点を作ろうというものです」
 2021年に岡山に生きる我々から見ると、「なんじゃそりゃ!?」と首をかしげるプランではあるが(笑)、当時の状況を振り返ってみると
 ・本州と四国を繋ぐルートが瀬戸大橋しかなかったため、四国からの物流・人流は岡山に集まる構造だった。
 ・インターネットがまだ一般化されておらず、ネットショッピングで気軽に「お取り寄せ」することが出来ない時代だった。
 その後、1995年のwindows95の登場以降、インターネットが爆発的に普及。1999年頃には「Eコマース」という言葉が普及するなど、個人レベルで産地直送の農産海産物をお取り寄せする時代に入る。また、明石海峡大橋(1998年)、しまなみ海道(1999年)の開通によって、岡山の地理的優位性は失われる。
 この「1kmスクエア構想」の改訂版(2009年提言)から「フィッシャーマンズ&ファーマーズマーケット」構想は完全に姿を消した。
 この間、表町三丁目・千日前地区では映画館街の相次ぐ閉館表町三丁目劇場の大失敗など、経済的地盤沈下が進行していく。それゆえ、都心4コーナーのうちこの表町三丁目・千日前地区のみが取り残されたことで、岡山都心の面的な活性化が進まなかった。
 オセロで言えば表町三丁目・千日前という「角」を取らなければ、一気に形勢を変えることは難しい。
 そこで浮上したのが「新岡山市民会館の移転新築」=『岡山芸術創造劇場の建設』であったのだ。
 次回は、茨の道を進むであろう『岡山芸術創造劇場』が生き残っていくために考えられることについて、一音楽ファンの立場から脳みそを捻り出して考えたいと思う。

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その2「人と緑の都心1kmスクエア構想」) [芸術創造劇場]

 2023年夏に開館する岡山芸術創造劇場について考えていくシリーズ。
 前回のエントリーで、立地場所からくる集客や将来性についての危惧する意見を述べた。
 今回は、市当局がなぜ、千日前地区にこだわったのか、その根本となる大きな構想について述べていきたい。
 その構想とは、1995年2月に岡山商工会議所から発表された「人と緑の都心 1kmスクエア構想」(以下、「大構想」と表記する)である。
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 この「大構想」は岡山商工会議所都市委員会(会長はベネッセグループの福武總一郎氏)が、5年の歳月をかけ、21世紀の岡山市都心のグランドデザインを描くため、岡山の政・財・学の総力を結集して、1995年に提言された。
 一般の岡山市民の間では、この大構想は忘れられつつあるが、四半世紀が経った今読んでみても、時代を先取りした内容であり、それだけでなく現在の大森岡山市政が意欲的に展開している政策のアイデアの元型が、すべてこの25年前の「大構想」にあると言って過言ではない。
 岡山芸術創造劇場についても、「なぜ、あの場所に建設が決まったのか、そしてこの劇場はどのような役割を果たしていくのか」という問題を考える上でも、この構想を抜きには語れない。
 1kmスクエアとは、岡山駅・城下交差点・新京橋西詰・岡山市役所前をつなぎ合わせた正方形の都心部のことであり、現在のオフィス街・繁華街に加えて、江戸時代以来の旧城下町の中心部がすっぽりと入るエリアである。
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 今回はこの「大構想」の中身と、現在進行中の様々な施策事業との関連について触れておきたい。
 構想の冒頭には「ここまで来た岡山都心の空洞化」と題して、岡山市都心に人々が集まらず、経済活動も停滞している現状を『もはや放置しておけないレベル』であるとして危機感を表明している。とりわけ都心部の商業販売額が低迷しており(岡山市:1,327億円)、これは広島市(4,565億円)の29%、高松市(2,681億円)の49%しか無い(いずれも1991年のデータ、岡山経済研究所調べ)。
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 以前にも触れたとおり、岡山市の政財官界は高松市を比較対象(いわゆるライバル視)とすることが多い。広島市は昭和時代からの大都市であるから、4倍近い差があるのは当たり前と捉えられ、危機感を煽られる存在ではない。商業販売額が高松市の半分しか無い、というのは当時の岡山の人にとっては、かなりショッキングなことではなかったか。
 
 この「大構想」の中には、「都心の磁力を取り戻す」ための3つのコア構想がある。
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 まず、①路面電車環状化構想。
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 この25年間の様々な紆余曲折を経て、ようやく具体的に動き出した。
 まず、路面電車とJR岡山駅への結節点を改善するための、駅前広場乗り入れへの工事が始まっており、2023年に完成する予定。それと同時に一昨年には路面電車の環状化・延伸構想が発表され、具体的に動き出した。
 岡山芸術創造劇場へのアクセス部分は「短期整区間」として選定され、優先的に整備が進んでいくものと思われる。
 さらに、郊外への交通網の延伸。
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 「大構想」では岡山〜倉敷〜総社を経由する「山手線」構想という壮大な計画を打ち出しているが、この構想の実現性は置いておくとして、広域的な公共交通の整備という観点では、桃太郎線(吉備線)のLRT化事業として、JRと岡山市・総社市が具体的な構想として動き出している。
※この記事をエントリーする直前の2020年2月9日、桃太郎線(吉備線)LRT化構想はコロナ禍の影響によるJR西日本の経営悪化・岡山市の財政悪化見通しにより中断との報道があった。
②文化公園都市構想
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 次に②つめのコア・プロジェクトの文化公園都市構想。南北の軸となる西川緑道公園沿いはすでに遊歩道の整備が進んでいて、市民の憩いの場として様々なイベントが開催されている。私が岡山に移住した頃は、この緑道公園の南半分の地域は治安も悪く、夜独りで女性が歩くのには不安があるような雰囲気だったが、「歩行者、生活社の視点からの街路整備」を推し進めた結果、現在では分譲マンションが林立するなど、住居地としても人気を集めるエリアになってきている。
 そして現在進行中なのが、東西の軸となる県庁通りの街路整備だ。
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 一般市民の間では、「イオンモール岡山のオープンにより、イオンに訪れた買い物客を周辺部へ流すための政策」という認識だが、この県庁通りの街路整備は25年前からあった計画だった。
 いよいよコア・プロジェクト③の「都心コーナー4拠点開発構想」に、岡山芸術創造劇場の立地する千日前地区が登場するのだが、それはまた次回に触れようと思う(引っ張るなあ・・・)。

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その1:建設地に関する危惧) [芸術創造劇場]

 今回から2023年夏に岡山市に開館予定の新しい劇場についての考察記事のシリーズを開始します。
 現在、連載中の「オーケストラが拓く『創造都市』シリーズ」は並行して進めていますが、新劇場の話題は鮮度の問題があるので、こちらを優先して更新することになります。
 新しい劇場の名は『岡山芸術創造劇場』。このネーミングから、単に外から舞台や演者を呼んでくる「ハコ」としてのホールに留めず、地域の芸術家・クリエイター、市民の創作活動が活発化していくセンターとしての役割が期待されている。
 明言はしていないが、市当局としては、この劇場のコンセプトが創造都市(文化庁の用語では「文化芸術創造都市」)に影響を受けているであろうことは当ブログでもすでに述べた。

オーケストラが拓く『創造都市』(その3:『創造都市』とは何か)

 岡山芸術創造劇場の構想は、現在は石山公園向かいの風光明媚な地に建つ「岡山市民会館」と旭川の東岸、県庁の斜向いに建つ「岡山市民文化ホール」の老朽化に伴う建て替え議論から端を発した。報道などでは『新岡山市民会館』と呼ばれていたが、2018年に表町商店街南端の千日前地区に建設地を決定するとともに、1750席程度の大ホールと、800席程度の中ホールをまとめた名称として『岡山芸術創造劇場』と発表された。
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※岡山市HPより
 この岡山芸術創造劇場の議論の大きな論点は大きく分けて3つあった。
①劇場の建設場所について
②ハコモノを作るだけではなく、中身をどう整備していくか
③岡山の市街地の再生のために劇場が果たす役割
 ①と②については劇場を整備する上で必要不可欠な検討事項である。②については下の動画にもあるとおり、どういう劇場をつくっていくか、という議論が活発に行われている。専門家の間からは厳しい意見も飛んでいるが、こういう厳しい意見を言ってくれる委員の存在は貴重。劇場の設計や設備の整備は、竣工してからでは変えられない部分も多く、じっさいに平成時代に開館したホールを見ると、最初に掲げたコンセプトがしっかりしているホールしか成功していない。議論の内容を踏まえた整備が現在すすんでいるものと思う。
 一方で、この劇場建設にあたって、地元政財界にとっての最大の論点は③に対する期待だった。この「岡山の市街地の再生のために劇場が果たす役割」に対する期待が、最終的に①の「建設地」についてかなり影響を与えている。
 私はクラシック音楽と全国のオーケストラ・ウォッチャーを趣味としているので、演劇や舞台芸術のことは詳しくはないが、ここ最近開館した全国のホールと比較して、この岡山芸術創造劇場には決定的な問題を抱えている。この問題ゆえに、この劇場の前途はまさに茨の道を歩んでいくだろうと考えている。
 それはずばり、立地場所の問題だ。
 この劇場の立地については3箇所の候補地があった。天神町(旧後楽館中・高跡地)、表町商店街の南端に位置する表町三丁目地区と千日前地区。
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※岡山市HPより
 上記の三箇所の候補地のうち、「文化芸術拠点施設」だけの成功を考えた場合、ベストな場所は後楽館高校天神校舎跡地(現:山陽放送イノベーティブメディアセンター)だ。県立美術館・オリエント美術館や岡山シンフォニーホールに囲まれ、もともと文化芸術施設が集積している立地であり、市内交通・市外からのアクセスも良い。ネックになるのは敷地面積の狭さぐらいのもので、創作活動をしている市民の声は「天神町に決めて欲しい」という意見が多かった印象だ。
 表町三丁目地区と千日前地区は、地権者らで組織する再開発に乗っかるスキームである。そこには典型的なシャッター街と化している千日前商店街・西大寺町商店街の活性化の起爆剤に、との意図があった。
 最終的には千日前地区に決定したのだが、この決定を聞いたときに僕は「劇場の立地としては、果たしてどうなのか」と疑問を持ったことを覚えている。
 天神町に立地していれば岡山カルチャーゾーンの施設との連携も図りやすく、イベント開催時以外でも自然と人が集うような施設になれた。
 敷地面積の狭さから来る練習スタジオの不足などは天神山文化プラザとの連携を図れば解決可能であろうし、開演前の共用スペースの問題は周辺にいくらでも時間を過ごせる場所があるので、他のホールがやっているように、チケット半券を持っていれば出入り自由にすればさほど問題にはならないだろう。
 千日前地区と表町三丁目地区は、典型的な『衰退する地方都市のシャッター街』であり、「シャッター街化」するのはそれなりの原因がある。ここは岡山市の商業の中心の中之町地区や、公共交通も至便な城下や天満屋バスセンターから少し距離があるばかりか、バス路線も(集客施設の立地場所としては)貧弱なのだ。最寄りの「新京橋西詰」バス停に岡山駅方面から来られるのは、新岡山港方面行き1路線のみ、土日の日中は1時間に3本という頻度だ。もちろん、天満屋バスセンターから10分もかからずに歩いてこれる距離ではあるが、今後は観客の高齢者が顕著になっていくことを考えると、この立地の問題をナメてかかると劇場の成功は覚束ないと断言できる。
 例えば、大阪のザ・シンフォニーホールが環状線福島駅から徒歩10分という、決して悪くない立地にありながら、阪急西宮北口駅直結の兵庫芸文センターや、京阪渡辺橋直結・大阪メトロ肥後橋駅5分のフェスティバルホールに対して集客面に苦戦を強いられ、この僅かな利便性の差が、最終的には経営権の売却(朝日放送が滋慶学園に経営権を売却)まで行き着いたことを鑑みると、公共交通の立地の微妙な差を甘く見てはいけない。
 京都コンサートホールは地下鉄北山駅から徒歩5分の好立地にありながら、雨天時には集客が伸びない事態を受け、県の公文書館の敷地を削って近道となる屋根付き遊歩道まで追加で整備した。このように他府県のホールでは、聴衆の利便性へのバリアを取り除くためにたいへんな努力をしている
 さらに、これは今更言っても詮無いことだが、劇場のみの成功を考え、他の地方都市の動きに目を向けていたならば、もっといい立地場所があったと思う。
 2010年台の後半頃から、岡山は『都市改造』とも言えるような再開発のラッシュで、岡山駅前周辺から市役所筋にかけての地域が最も活発である。
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 岡山芸術創造劇場が建設されている千日前地区の事業主体は、再開発事業組合であり、岡山市は劇場の部分のみを買い取る、という仕組みになっている。この形態は岡山シンフォニーホールと同じ形態であり、故に岡山シンフォニーホールは現在でも色々と苦労を強いられているのであるが、その問題については触れない。
 この再開発に乗じたホールの設置という形態を許容するのであれば、駅前町の再開発に乗っかるという選択肢はなかったのか?
 目を岡山の外に向けると、バブル崩壊後に停滞していた地方都市の芸術文化施設の建設は、平成10年〜20年代に再び全国でも活発化していて、近年の例では山形県総合文化芸術館(やまぎん県民ホール)と高崎芸術劇場がある。
 山形県総合文化芸術館は、近年その優秀な録音作品から世界的にも評価されている山形交響楽団の本拠地である。
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 高崎芸術劇場は日本の諸都市オーケストラの草分けであり、これも評価の高い群馬交響楽団の本拠地になる。
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 これらの、充分な集客力を有するコンテンツの確保がすでに保証されているホールが、まさにJRの中心駅の目の前!!に建設されたのだ。これぐらい好条件の立地でないと、人口減少社会の中での地方都市での文化芸術施設の成功は難しいという判断だろう。
 バブル崩壊以降の公共の文化芸術施設の成功例を振り返ると、兵庫県立芸術文化センター(阪急西宮北口駅直結)、石川県立音楽堂(JR金沢駅直結)などの中心駅直結のホールが成功している。時代の趨勢は中心駅直結ホールなのだ。
 他にも岡山芸術創造劇場が大いに参考にしているという北九州芸術劇場、あるいは新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあは、JR駅から少し距離があるものの、前者は小倉城目前のバス路線至便の地にあり、後者は市立体育館・陸上競技場などが集まる白山公園の中にある。岡山の案で言えば最有力候補だった天神町に近い環境の立地、イベント開催時以外でも自然と市民が憩える立地であるといえる。
 シャッター街化して、手のつけようがなかった商店街に文化芸術ホールを建設する、というのはかなりのリスクを抱えながらの船出になるだろう。
 しかし、なぜ市当局は全国的な趨勢を無視してまで、この場所にこだわったのか?なぜ駅前や天神町地区ではなく、中心駅である岡山駅からもっとも離れた場所にあるこの地区なのか?
 実は、その理由は今から25年前に出された「ある構想」にあるのだ。
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 ※次回は、その「ある構想」と岡山芸術創造劇場の関係について触れてみようと思う。

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