SSブログ

福田廉之介プロデュース ALL Mozart [コンサート感想]

おかやまアーツフェスティバル2023
福田廉之介プロデュース ALL Mozart
これを聞けば〇〇がわかる!

モーツァルト/ ヴァイオリンソナタ第18 番 ト長調 K. 301 (293a)
  〃   /ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 ト長調 K. 423
  〃   /ピアノソナタ イ短調 K. 310
  〃   /クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581

ヴァイオリン:福田廉之介(K301,K423,K581)、篠原悠那(K581→1st)
ヴィオラ:渡部咲耶(K423,K581)
チェロ:菅井瑛斗(K581)
ピアノ:松本和将(K301,K310)
クラリネット:西崎智子(K581)

2023年11月21日 岡山芸術創造劇場ハレノワ・中劇場

20231121_001.jpg



・この秋、福田廉之介さんのコンサートを最大で3つ聴ける予定だった。ところがコロナ明けでコンサートが目白押しの状態だったのと、諸々都合がつかず、10/6のTHE MOSTはチケット購入しながら見送り(THE MOSTは創設以来、皆勤だったのに・・・)、11/18の中部フィル新見公演も聞き逃し、この秋三度目の正直での福田さんの生・ヴァイオリンだった。

・曲の合間にトークセッションがあり、副題の「これを聞けば〇〇がわかる!」の〇〇は、聴く人が思い思いに埋めてくれればいいとのこと。

・この日の客席は、私が陣取った二階席は半分ほどの入りだったものの、1階席は9割がた埋まっていた。キャパが800人なので700人ぐらいは入っただろうか?廉之介さんが「火曜日の夜なのにこんなに入って下さって本当にありがとうございます。これで僕の馘が繋がりました」とおどけていたが、本心からうれしそうな様子。

DSC_2949.JPG


・2階席最前列に陣取ったのだが、座ってみて一番驚いたのが「うわー、舞台が近い!」ことだった。市民文化ホールは客席が縦に長かったが、その市民文化ホールの建替え施設であるハレノワ中劇場は横幅が広く奥行きが短い。ステージから遠くならないような設計になっていた。

・そして2階席、1階席後段客席の急勾配にもビックリ。階段の段差が高く、高齢の方は降りるのに難儀しており、私の見てる間だけで4人転けそうになってた(しかも、内一回はホールスタッフの方)。大阪の松竹座3階席と張る急勾配だった。

20231121_221442.jpg

(怪我にご用心!!な2階席)


・今回のメンバーのうち、廉之介さんと松本さん、西﨑さんの3名は岡山お馴染みのメンバー。渡部咲耶さんはタレイア・カルテットのメンバーで、今年からはTHE MOSTのメンバーでもある。篠原悠那さんはカルテット・アマービレの1stVnはじめ、メディアからも注目される若手ヴァイオリニストの第1人者。菅井瑛斗さんも今年からTHE MOSTのメンバーで新進気鋭のチェリスト。とまあ、超優秀な若手を集結させたメンバー。廉之介さんの人脈は凄いな…



ヴァイオリンソナタ第18 番 ト長調 K. 301 (293a)

・モーツァルトらしい一筆書きで書いたような天才的な楽曲。この曲はこんな風に演奏して欲しい、という聴き手の感性にピタリとハマるような、少女が踊るような天衣無縫さ。松本さんのピアノもとても優雅で可愛らしさを感じる演奏でヴァイオリンと溶け合い、掛け合っていた。

ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 ト長調 K. 423
 ヴィオラの渡部咲耶さんは姉貴肌のようで、プレトークでは福田さんに鋭いツッコミを入れていたが、音楽についてもヴィオラの渡部咲耶さんが重心の低いしっかりした音を軸にして廉之介さんを泳がせている感じ。しかし、廉之介さんの美音が素晴らしいな。なかなか聴く機会がない曲を堪能。

ピアノソナタ イ短調 K. 310
・この日の客席は、楽章間の拍手も起きる感じで、「ハレノワの中ホールに行ってみるか」という動機のお客さんも一定数いた感じだが、松本さんの凄まじい集中力と濃密な表現は否応なく客席を惹き込み、楽章間も咳払い一つ無い心地よい静寂が包んだ。

・ハレノワ中劇場はピアノとは相性が良さそうだ。かなり細かい音価の伸縮と音色の変化が感じ取れ、松本さんの緻密な解釈が感じ取れた。見事な演奏だった。

モーツァルト/クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
・とにかくクラリネットの西崎さんが本当に見事で、この日のメインディッシュの風格たっぷり。今回のメンバーの中では西﨑さんだけ一回り上の世代になり、脂の乗り切った名手による堂々たる演奏だった。第1楽章は穏やかな田園風景を思わせる場面から、快活な場面へと表現の色彩の切り替わりが見事。第2楽章も息の長いフレーズが絶品。第3,4楽章は適度な遊びを入れながら5人の伸びやかな表現に魅了される。


・ハレノワ中ホールは反響板があるものの、響きは少なめ(体感残響1.3秒ぐらい?)で、クラリネットの音は本当によく通る一方で弦楽器の音は、例えば同サイズの倉敷市芸文館のように豊かな響きのなかでブレンドされる…という感じにはならないのが少々残念。

・それだけに個々の奏者の持っている「素の音」の違いが明確に出るなあと。この曲は1stに篠原さんが座り2ndに廉之介さんが座ったのだが(キャリア・実績では福田さんよりも篠原さんの方が上だろう)、篠原さんのテクニックは物凄いレベルのものを見せてくれ、かつ音の迫力・大きさも充分。その一方で、彼女のヴァイオリンの音が、どうにも耳にキツイなと感じてしまった。出来れば岡山シンフォニーホールや倉敷芸文館のような残響豊かなホールで聴きたかったなと思った。

・ヴィオラ・チェロなど中低音はマイルドに響く。人の声に近い音域にマッチしているのかも。廉之介くんは(彼もこの会場は初めてのはずだが)いつものように角の取れた柔らかく輝かしい音を奏でていたのは流石。

・チェロの菅井さんは、トークの時に天然ボケっぷりを発揮していたが、演奏は研ぎ澄まされたような鮮烈な音を放っていた。今後のご活躍に要注目。

・アンコールはクラリネット協奏曲の第4楽章終盤から。これは思いっきり遊んでたね。この中劇場での実質的はクラシック演奏としてのこけら落としは、才気あふれる若手・中堅のプレイヤーの演奏に大満足で岐路についた。

(ハレノワ周辺駐車場事情)
・ボローニャ歌劇場公演の際は、開演40分前午後半休を取って1時間前には現地周辺に車で到着したが、なかなか安価なコインパーキングの空きが無く、結局、中納言のあたりに停めて京橋を歩いて渡る事になった。今回は中劇場での開催という事もあって、近隣の1時間100円のパーキングに停められた。

DSC_2951.JPG

(絶滅危惧種になった60分100円の激安パーキング。昨今、市内のコインパーキングは値上がりが激しい)


・この数年で市内の再開発が急速に進み、コインパーキングが減少傾向にあったところに城下地下駐車場の耐震化工事と(駐車場の無い)ハレノワのオープンで需給が逼迫した。地元経済誌でも取り上げられ、今後も駐車場不足の問題は深刻化しそう。なるだけ自転車で行くようにしないといけないんだけど、通勤に車を使っていたら、平日夜の公演は必然的に車で行くことになり、なかなかそれが出来ないのよね。


DSC_2941.JPG

nice!(0)  コメント(1) 
共通テーマ:音楽

ボローニャ歌劇場 「トスカ」 岡山公演 [コンサート感想]

ハレノワ開館事業
ボローニャ歌劇場 トスカ 岡山公演
プッチーニ/トスカ(全3幕)
指揮:オクサーナ・リーニフ
演出:ジョヴァンニ・スカンデッラ

トスカ:並河寿美
カヴァラドッシ:マッテオ・デソーレ
スカルピア男爵:マッシモ・カヴァッレッティ
チョーザレ・アンジェロッティ:クリスティアン・バローネ
堂守:バロオ・オレッキア
スポレッタ:パオロ・アントニェッティ
シャルローネ・ニコロ・チェリアーニ
看守:クリスティアン・バローネ
管弦楽:ボローニャ歌劇場管弦楽団
合唱:ボローニャ歌劇場合唱団

Scan20231111153302_001.jpg

Scan20231111153419_001.jpg

・思えば、イタリアの一流劇場のオペラ公演を観るのはこれが初めてだ。中学生の頃にロサンジェルス・フィルやチェコ・フィルなどの演奏を聴いて衝撃を受けて以来。ずっとオーケストラの世界に親しんできた。その普段親しんでるシンフォニーの世界とは全く違う、全てが「歌」で埋め尽くされるイタリア・オペラの世界に圧倒された。もし10代の頃にシンフォニーの世界に触れるよりも先に、イタリアオペラの世界に触れていたら、全く異なる人生だったかも知れない。

・歌手陣も合唱もオーケストラも、ドラマティックで歌に溢れていて、人間味が溢れていて。本当に素敵な時間だった。この人たちは歌が娯楽であり生活であり、人生そのものなのだと。思い出したのはコロナ禍初期の欧州で何十万人も死者が出ている頃、ロックダウンを強いられている時にマンションの住人たちがバルコニーで歌を歌って励まし合ってるの姿。この状況下でも歌を忘れないイタリアの人々に心を撃たれた。もし「かれらの赤血球は音符の形をしているんだよ」と言われても一瞬信じるかもしれない。




(以下、後日の追記)


・会場は満席だ。そりゃそうだろう。東京や大阪公演のほぼ半額の値段で聴けるのだから。私はD席8000円で聴けた。おそらくハレノワの開館記念事業を成功させるための価格設定。


・こけら落とし公演の時は、遅刻してしまったので、当日は劇場から少し離れたコインパーキングに車を停め、開演30分前に到着するという万全の態勢。案の定、劇場周りのパーキングは満車。入場口までのアプローチの階段は安全のためか閉鎖していたため、長蛇の列をエスカレーターに誘導していた。


DS_2918.jpg


・お客さんの出足は極めて早く、開演15分前には入場口のあたりは既に人気が少ない…。観客も気合充分である。

DSC_2925.jpg


・位置は3階席の後方だったのだが、「音響デッドなホール」という印象は変わらないものの。歌手の歌唱もオケの演奏も、迫力のあるいい音が飛んできていた。これまでに座った2階席最後列やバルコニー席と比べても音はいいと感じたぐらい。

DSC_2926.JPG

・3階席ではあったが 細かい表情までは見えないものの演技は充分に見ることができた。体感的には岡山シンフォニーホールの2階席最前列よりも近いと感じるぐらい。さすがは観劇を最優先に設計されたホールだ。当日、オペラグラスを忘れてしまったのだが、無くても大丈夫だった。

・オケピットは、下手側からコントラバス2本、金管・木管、弦五部に上手側にパーカッション。プッチーニには欠かせないハープはヴァイオリンのチェロの間に配置し存在感を放つ。チェロが6本、ヴィオラもたぶん6丁見えたのだが、私の席からはヴァイオリンの数が確認できなかった。おそらく10型か8型の2管編成だったでは?公式プログラムを購入すれば掲載されていたのだろうが、家にモノをこれ以上増やせないので買わなかった。

・舞台のセットは3幕とも「質素」と言えるものだった。今まで私が聞いた事があるオペラはバーデン市劇場やウクライナ国立歌劇場、ハンガリー国立歌劇場など、東欧系か小規模の劇場のものだったが、それらと比較しても今回のセットは小規模なものだった。

・この日の最大のトピックは、トスカ役のマリア・ホセ・シーリさんの急病により、当日にジャンプインで代役を務めた並河寿美さんのパフォーマンスだろう。

・後から知った事だが、シーリさんの体調不良が判明したのが岡山公演当日。そして並河さんに連絡が入ったのは13時ぎだったようだ。開演までほとんど時間がない状況の中、身体一つで新幹線に飛び乗り駆けつけたとのこと。このスケジュールでは演出や舞台動きについては充分なリハーサル・確認もできなかったであろうことは想像に難くない。

・この状況の中でジャンプインするのは凄い度胸だし、観客に全くそれを感じさせない歌唱・演技を完遂させた実力も凄い。そんなぶっつけ本場の状態とは未だに信じられない完成度だった。第二幕の「歌に生き、恋に生き」のアリアの後、会場の(事情を知らない聴衆の)盛大な拍手とブラーヴァの最中、オーケストラピットからも拍手やブラーヴァが盛んに飛んでいたのはそんな事情があったわけだ。

・2日後のフェスティバルホール公演でも代役を務めたとのこと。並河さんは関西フィルの第九で聴いたことがあるし、びわ湖や兵庫芸文などの主要劇場の常連はもとより関西各地で市民オペラに深く関わっている。今回、タイトルロールとして本場の歌い手たちを向こうに回し、突然の代役を堂々たる歌唱・演技を披露する姿は脳に焼き付けたままで置きたい。関西でのオペラ文化のレベルの高さを並河さんが証明したようにも思うし、(全然関係無い私であるが)同じ神戸っ子としても誇らしく思ってしまう。

・並河さんだけでなく、ほかの歌手たちの心を捉えるような歌はもちろんのこと、驚いたのは合唱団の凄さ。人数的にも恐らく70人ぐらいの規模ではなかったか。オケや歌手のみならず、これだけの大所帯のギャラや渡航費・宿泊費などを考えると莫大な費用が掛かっていることは自明。本当に贅沢な舞台だ。

・第1幕の終盤でのスカルピアのトスカへのどす黒い横恋慕(現代においてはセクハラ/パワハラ讃歌以外の何物でもないが)の場面のカヴァッレッティさんの歌と演技の迫力は見事だったし、そこに重ね合わされる、礼拝堂でのテ・デウムのコーラスの高潔なゴージャスさといったら…。
DSC_2920.JPG
・合唱でもっと心を掴まれたのは第二幕の舞台裏バンダでのカンタータとトスカの合唱。はじめは無垢に美しい合唱が、トスカに訪れる悲劇を暗示するように急変し、狂気的な雰囲気に変貌し、聴き手はその迫力と異様な空気に気おされ、脇汗かきまくりである。バンダでの演奏とは思えない迫力に圧倒された。


・並河さんが歌う第二幕のトスカの「歌に生き、恋に生き」のアリアも素晴らしかった。ここのアリアの場面で、席の周囲が「あれっ?」っていう雰囲気になっていて、大部分は岡山の聴衆の反応だったと思うのだが、もともと有名なアリアではあるのだが、岡山では永らく源吉兆案のCMで使われていたからかもしれない。

・第三幕の見せ場である、トスカとカヴァラドッシの絡みは、並河さんの存在感がデソーレさんを食っている感じさえあった。どの歌も神がかっているように感じた。

・オーケストラも素晴らしかった。この日のタクトは音楽監督のリーニフ。音楽雑誌などでよく取り上げられているが、実物の彼女は意外なほど華奢だった。彼女は2021年バイロイト音楽祭でワーグナーのタンホイザーを女性として初めて指揮した実績の持ち主。歌手については詳しくない自分にとってはこの公演の最大の注目だった。

・リーニフの指揮は、やはり流石オペラ叩き上げの指揮者、エネルギッシュで鮮やかなタクトさばきに見惚れた(3階の後列でもピットの指揮は良く見えた)。オケから華のある色彩感を引き出し、プッチーニ独特の甘美で哀切な主旋律を強調しながら、見事なフレージングとアンサンブルで絶妙なポルタメントを駆使しながら極めて蠱惑的な世界を現出させていた。

・私の数少ないオペラ鑑賞体験(十数回ぐらい?海外オペラは6回しか聴いたことがない)の記憶を手繰り寄せても、今回のボローニャ歌劇場管弦楽団がダントツで優れていた。アンサンブルのレベルが高く、イタリアの歌劇場付きオーケストラに対する私のイメージを一新させてくれた。弱音のコントロールも見事で、トスカが歌う場面での繊細な音楽はどれも素晴らしかったし、特に第三幕のカヴァラドッシの「星は光りぬ」へつながっていく場面は背中が続々するほど美しいアンサンブルだった。

・一方で第1幕終盤や第3幕のような緊迫した場面では、しっかりとした堅牢な響きも創っていた。それに加えて…なんというか、『陽のパワー』が凄いのである。まるでキラキラした星が待っているような華と輝きがある。人の声のような柔らかいソノリティを持っていて、歌手陣の歌や合唱と共鳴したときのゴージャスさは得も言われぬ光を放っているように感じた。歌手や合唱だけでなく、管楽器なんて隙あらば大いに歌うように演奏し、冒頭でも触れたとおり、最初から最後まで歌で埋め尽くされた世界だった。

・ハレノワはこけら落としの際、あまりのデッドな音響に閉口し、その時は「プッチーニのオーケストレーションを考えると、シンフォニーホールで聴きたいかも」と思ったが、なんのなんの、途中からデッドな音響なんて全く気にならなかった。ボローニャ歌劇場管弦楽団が凄いのもあるし、こけら落としのメデアはルカントオペラであり、奏法もヴィヴラートを抑えるかものだったことも大きい。それに加えて今回座った3階席の音響特性が私の耳に合致したかもしれない。

・止むことが無い終演後のカーテンコールで印象的だったのは、トスカ役の並河さんと指揮者のリーニフさんのかなり長い時間のハグ。特にリーニフさんが並河さんを掴んで離そうとしない感じの長いハグ。心からの安堵と、奇跡としか言いようがないジャンプインをやり切った並河さんへの敬意と親愛の情が込められていたのでしょう。

・余談になるが、開演前と第二幕の直前に、恰幅のいい劇場関係者の方が大きな声でオケピットに掛け声をかけて、それに楽員さんが応えていたのは、「さあ、本番だ!気合い入れてやろうぜ」「エイエイオー」みたいな事を言ってたように感じたのだが、実際はどうなのだろう?シンフォニーオーケストラの公演の、開演前は厳粛に・静粛に…という文化に慣れているので、驚きつつも、とても面白いなと思った。

DSC_2932.JPG

nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

岡山シンフォニーホール 大規模修繕により2025年6月から1年半休館 [岡山フィル]

 11月2日の山陽新聞に掲載されていたこの記事。


 シンフォニービル 岡山市が大改修 設備劣化で25年6月にも着工:山陽新聞デジタル| さんデジ

 KSBのニュースでも報道されたようです


 シンフォニービルの耐震化工事は会館40周年(2031年)までには着工しないといけない、みたいな話は聞いた事があったので、驚きはなかったが、岡山市は2つの大規模プロジェクト(路面電車の岡山駅乗り入れ市役所新庁舎建設)を抱えており、それらにカタが付く2027年以降になるだろうと思っていたので、意外に早く着工するのだな、とは思った。


 しかし、ほぼ同じ時期に開館した愛知県芸術劇場は、2019年に大規模改修を終えており(その間、名古屋フィルの定期演奏会は、名古屋市民会館に移して行われたようだ)、ファシリティ・マネジメントの観点や南海トラフ地震への対応を考えると、一刻も早い改修が必要だったということだろう。

 10月の初めに「シンフォニーホールが休館になるらしいで」という情報を高校教師の友人から聞き(芸術鑑賞会や吹奏楽部の発表会の会場選びなど、課題が山積らしい…)、市役所のホームページを調べてみたが、それらしき情報が全くなかった。2025年に着工するならば、今年度中に基本計画・基本設計を終えなければならない筈で、これはどういうことだろう?と思っていたら、上記の山陽新聞の記事を見て、事情が分かった。

 要するに、大規模改修の事業主体は市役所ではなく、シンフォニービル全体の管理組合なのですね。管理組合が発注・契約してホール部分の費用だけ市が負担する契約になっている。実際には市役所の専門職の方が中に入って実務を取り仕切るんだろうけど、もし、契約・施工上のトラブルがあったらどねーすん?と思う。



 で、管理組合のホームページを見ると、ありました。基本計画書が。

「ハレノワと共に、岡山の文化芸術の拠点として並び立つために、目指す方向性(現 状の多目的ホールとして改修するのか、音楽専用など特徴を出していくのか等)の 検討を進めながら、改修を進めて行く」
 との文言があることから、舞台芸術に関する設備などハレノワでカバーできているものは思い切って撤去することもありそう。


 我々ホール利用者に関係ありそうな、主な改修個所をピックアップしてみると

・大ホール天井パネルの更新
・大ホール客席椅子更新
・舞台機構設備、照明設備、音響設備改修・修繕
・トイレの洋式化など

 などが挙げられている。天井パネルと椅子の更新は、直接的にホール音響に影響を与える工事なので、ちょっと心配ではある。建設時のように詳細なシミュレーションはできないだろうからねえ。


 シンフォニーホールについては音響面で非常に高い評価を受けつつも、竣工当時からの社会情勢の変化もあり、ハレノワなどの最新のホールとの比較で次のような問題点が露になっている。

①バリアフリー対応が不十分。特にホワイエから2階・3階客席はかなりの段数の階段を自力で登らねばならない。
②エントランスの開口部が狭く。渋滞・密集を招いている。
③エントランス外にスペースがなく、入場待ちの列を捌ききれないばかりか、エスカレーターから降りる人と交錯する事故リスク、列が階段に伸びて将棋倒しのリスクなどが指摘されている。

 今回の改修では①~③を根本解決するような建物躯体に手を入れるような改修は見送られそうだ。

 ただし、床面積 2,000 ㎡以上の新築、改築をする場合(シンフォニーホールは余裕で該当)は、高齢者や障害者の移動等の円滑化のための基準を満たすことが法律で求められている。
 ここで少し妄想。一番の解決方法は舞台下手側に通っているエレベーターを使えるようにすることだろう。ホール1階席は、指揮者室や楽屋などがある場所にエレベータがあるので、一般客が自由に使えるようにすることは難しいかもしれない。

 それにこのエレベーターは9階~12階のオフィス階に繋がっていて、2階・3階席の下手側バルコニー席への通路突き当りの壁の向こうに通っているはず。もしかしたら点検口や事故時の脱出口などがあったら、もう少し壁をぶち抜いて2階・3階席にも行けるように出来れば抜本的解決になるのでは(無茶言うなぁ)。
 
 さて、我々聴衆にとっては、
・シンフォニーホール自慢の音響が変質しないのか?
・あるいは休館中の岡山フィルの活動はどうなるのか?
 について気になるところだが、それについては(いつのことになるかわからないが)また別の記事に起こしてみたいと思う。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

高畑壮平氏による秋の音楽アカデミー 公開レッスン [コンサート感想]

高畑壮平氏 秋の音楽アカデミー 公開レッスン
~高畑がドイツの現場で現場で学んだ、全ての器楽奏者の為になるバッハ奏法

講師:高畑壮平
受講生:クロミツ(黒田充亮)

J.S.バッハ/マタイ受難曲 BWV244より第39曲「憐れみ給え、我が神よ」
  〃  /ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV1041

_20231101_195359.jpg

_20231101_195412.jpg

 今回はプロのバイオリン奏者・ヴァイオリン講師のクロミツさんが受講生になり、高畑さんがクロミツさんにバッハ奏法の伝授する様子を聴講するというもの。お誘いいただいたものの、「こんな自分が行っても大丈夫だろうか?」と思っていた。というのも私はヴァイオリンはおろか楽器は全く弾けません。楽器経験は小1~小4にちびっこピアノ教室の4年だけ。『全ての器楽奏者の為になるバッハ奏法』を活用する場面が無い。
 しかし前回のアカデミーと同様鑑賞者として非常に得るものが大きかった。聴きに行って良かった(高畑さんのヴァイオリンの音も聴けたので、二度おいしかった)。

 マスタークラスなどを聴講した場合は、その内容はむやみにネットなどに掲載しないことは不文律としてあるようだ。私もそのことはわきまえているつもりだが、そもそも技術的な内容は素人の私にはわからない部分も多いので詳しく書こうにも書けない(笑)、あくまでクラシック音楽の「鑑賞者」としての感想にとどまることをご留意いただきたい。

 まずは2曲とも一度通しでクロミツさんの演奏を聴く。いやいや、私からすると完全にバッハの音楽、幾何学的で折り目正しく。楽譜を見たことがない素人でも、的確なアーティキュレーションとアゴーギグを採って、テンポ設定も説得力がある。「これ、直すところある?」というのが正直な感想。

 まず高畑さんはクロミツさんが古楽器の奏法を研究されていることに触れた。なるほど、それで素人の耳にもバッハの音楽として入ってきたのか。

 それを踏まえて高畑さんからはアドバイスが矢のように次々に入る。

なかでもしきりに仰っていたのは
・数学的に音符通りに弾いては音楽にならない。
・自然法則や物理法則のように、自然とそこに収まるような音の流れがあり、それを楽譜から読み取っていく事が大事。

 ボールを投げて落とすと頂点で一瞬「間」があり、そこから速度を増していって地面に落ちる、
 あるいはバケツの水を流すとだんだんと勢いが加速しながら流れていく。音楽も同じだという。

 そして転調して和声が変わると人々が不安になったり哀しくなったりする、「この不安な状態を解決してほしい」と思う。そこに絶妙の間を入れることで、聴き手の注意を引き出し、「ここに行きたい」という指向性を意識させることができる。そのための奏法の工夫のようだ。

 高畑さんがかなりスローテンポで該当部分を演奏すると、まるでロマン派の音楽のように聴こえる。聴講生の心を見透かしたように、「大丈夫です、こういう風に弾いても、バッハの音楽は絶対にロマン派のブラームスのようにはならないから」と。

 ほかにもプロ同士ならではのかなり突っ込んだヴァイオリンの奏法についての指導もあった。

 前回、高畑さんのレクチャーコンサートの時に、フレージングの主要な要素である緊張と緩和の話をされていた。
 ひとまとまりのメロディー一つ一つに緊張と緩和の要素があり、目的音に向かって盛り上がっていく・・・

 今回は、一つの音の中にもそうした抑揚があるという説明。それを意識しながら演奏を組み立てるのは大変そうだ。


 逆に一回のボウイングで音を均一に出すテクニックも。弓を中間部で深く当て、ヴァイオリン本体も円弧のようにする。ヴァイオリンを固定して弓使いだけで音を出していると、弓の中間部で弱くなりがち。伸びやかさを出すには必要な技術とのこと。

 フラットな音を出すだけなのにこんな技術を使っているなんて、我々素人聴衆にはわからない。

 ほかにも
・次のフレーズへのつながり
・背後に隠されたリズムがある

 などなど、クロミツさんがそれらの要素を取り入れるべく、汗をかきながら必死に表現するが、かなり疲労の色が濃くなっていく。

 高畑さん曰く。
「聴いている人は心を鷲掴みにされて、気持ちよく聴いているが、演奏者はほとんど土木作業みたいなことをやっているんです」と。

 帰宅後、バッハのBWV1021の協奏曲を聴いてみた。色々な演奏家を聴いてみたが、グリュミオーやスターンは、まさに高畑さんの言う通りの演奏をしていた。現代の演奏家ではジャニーヌ・ヤンセン(福田廉之介さんのお師匠さん)も同様。ヒラリー・ハーンは少し違っているが、音楽の「ここに行きたい」を読み取った演奏になっている。

 クラシック音楽鑑賞という、かくも奥深い世界を趣味にしてしまった私自身にとっても面白い講義だった。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽