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高畑壮平氏による秋の音楽アカデミー 公開レッスン [コンサート感想]

高畑壮平氏 秋の音楽アカデミー 公開レッスン
~高畑がドイツの現場で現場で学んだ、全ての器楽奏者の為になるバッハ奏法

講師:高畑壮平
受講生:クロミツ(黒田充亮)

J.S.バッハ/マタイ受難曲 BWV244より第39曲「憐れみ給え、我が神よ」
  〃  /ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV1041

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 今回はプロのバイオリン奏者・ヴァイオリン講師のクロミツさんが受講生になり、高畑さんがクロミツさんにバッハ奏法の伝授する様子を聴講するというもの。お誘いいただいたものの、「こんな自分が行っても大丈夫だろうか?」と思っていた。というのも私はヴァイオリンはおろか楽器は全く弾けません。楽器経験は小1~小4にちびっこピアノ教室の4年だけ。『全ての器楽奏者の為になるバッハ奏法』を活用する場面が無い。
 しかし前回のアカデミーと同様鑑賞者として非常に得るものが大きかった。聴きに行って良かった(高畑さんのヴァイオリンの音も聴けたので、二度おいしかった)。

 マスタークラスなどを聴講した場合は、その内容はむやみにネットなどに掲載しないことは不文律としてあるようだ。私もそのことはわきまえているつもりだが、そもそも技術的な内容は素人の私にはわからない部分も多いので詳しく書こうにも書けない(笑)、あくまでクラシック音楽の「鑑賞者」としての感想にとどまることをご留意いただきたい。

 まずは2曲とも一度通しでクロミツさんの演奏を聴く。いやいや、私からすると完全にバッハの音楽、幾何学的で折り目正しく。楽譜を見たことがない素人でも、的確なアーティキュレーションとアゴーギグを採って、テンポ設定も説得力がある。「これ、直すところある?」というのが正直な感想。

 まず高畑さんはクロミツさんが古楽器の奏法を研究されていることに触れた。なるほど、それで素人の耳にもバッハの音楽として入ってきたのか。

 それを踏まえて高畑さんからはアドバイスが矢のように次々に入る。

なかでもしきりに仰っていたのは
・数学的に音符通りに弾いては音楽にならない。
・自然法則や物理法則のように、自然とそこに収まるような音の流れがあり、それを楽譜から読み取っていく事が大事。

 ボールを投げて落とすと頂点で一瞬「間」があり、そこから速度を増していって地面に落ちる、
 あるいはバケツの水を流すとだんだんと勢いが加速しながら流れていく。音楽も同じだという。

 そして転調して和声が変わると人々が不安になったり哀しくなったりする、「この不安な状態を解決してほしい」と思う。そこに絶妙の間を入れることで、聴き手の注意を引き出し、「ここに行きたい」という指向性を意識させることができる。そのための奏法の工夫のようだ。

 高畑さんがかなりスローテンポで該当部分を演奏すると、まるでロマン派の音楽のように聴こえる。聴講生の心を見透かしたように、「大丈夫です、こういう風に弾いても、バッハの音楽は絶対にロマン派のブラームスのようにはならないから」と。

 ほかにもプロ同士ならではのかなり突っ込んだヴァイオリンの奏法についての指導もあった。

 前回、高畑さんのレクチャーコンサートの時に、フレージングの主要な要素である緊張と緩和の話をされていた。
 ひとまとまりのメロディー一つ一つに緊張と緩和の要素があり、目的音に向かって盛り上がっていく・・・

 今回は、一つの音の中にもそうした抑揚があるという説明。それを意識しながら演奏を組み立てるのは大変そうだ。


 逆に一回のボウイングで音を均一に出すテクニックも。弓を中間部で深く当て、ヴァイオリン本体も円弧のようにする。ヴァイオリンを固定して弓使いだけで音を出していると、弓の中間部で弱くなりがち。伸びやかさを出すには必要な技術とのこと。

 フラットな音を出すだけなのにこんな技術を使っているなんて、我々素人聴衆にはわからない。

 ほかにも
・次のフレーズへのつながり
・背後に隠されたリズムがある

 などなど、クロミツさんがそれらの要素を取り入れるべく、汗をかきながら必死に表現するが、かなり疲労の色が濃くなっていく。

 高畑さん曰く。
「聴いている人は心を鷲掴みにされて、気持ちよく聴いているが、演奏者はほとんど土木作業みたいなことをやっているんです」と。

 帰宅後、バッハのBWV1021の協奏曲を聴いてみた。色々な演奏家を聴いてみたが、グリュミオーやスターンは、まさに高畑さんの言う通りの演奏をしていた。現代の演奏家ではジャニーヌ・ヤンセン(福田廉之介さんのお師匠さん)も同様。ヒラリー・ハーンは少し違っているが、音楽の「ここに行きたい」を読み取った演奏になっている。

 クラシック音楽鑑賞という、かくも奥深い世界を趣味にしてしまった私自身にとっても面白い講義だった。

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