SSブログ

2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その5 ハレノワとは対極の施設:アクリエひめじ) [芸術創造劇場]


 なぜ、アクリエひめじに注目したのか?姫路市は①山陽道の交通の要衝で都市規模・経済規模も岡山市と似ている、②ともに池田家と深い関わりがある城下町をルーツとする、など、岡山市と共通する部分も多いにも関わらず、岡山芸術創造劇場(愛称:ハレノワ、に決定!)とアクリエ姫路は、立地・整備内容など様々な面で全く逆の方向を志向している。この両施設を比較検討することで見えてくるものがあるのではないかと思い、取り上げてみようと思う。


 アクリエひめじの正式名称は「姫路市文化コンベンションセンター」。大ホール(2001席)、中ホール(693席)、小ホール(164席)、さらに面積4000㎡の広大な展示場(ママカリフォーラムの4倍、コンベックス岡山大展示場よりも大きい)、大小10の会議室などを擁し、コンサート・展示会・国際会議・学術会議・イベントなど様々な催事に対応出来る。9月の開館に先立って、6月から兵庫県の大規模接種会場として、そのアクセスの良さとフレキシビリティを発揮していた。
 一番の売りはJR姫路駅から歩行者デッキで直結していることだ。
acrie himeji.png
acrie himeji 2.png
 実はJR姫路駅から800mほど離れており「駅直結」かどうかは意見が分かれるところではある。800mというのは岡山駅からの距離に置き換えると、西川緑道公園を過ぎ柳川交差点の手前ぐらいの距離。しかも、屋根付きの歩行者デッキが整備されていて、信号なしのバリアフリーでアクセスできるのは大きいメリットで、本記事では「新幹線停車駅直結」であると認定して話を進めたい。
 シリースのその1:建設地に関する危惧で述べたように、全国のホール・劇場建設の趨勢は、都市中心の新幹線停車駅直結であり、高崎芸術劇場や山形県民文化会館を取り上げたが、それはこのアクリエひめじも同様である。
◯文化施設の新幹線停車駅からのアクセス比較
高崎芸術劇場(高崎市 2019年開館) JR高崎駅から徒歩5分  
山形県民文化会館(山形市 2020年開館) JR山形駅から徒歩1分
アクリエひめじ(姫路市 2021年開館) JR姫路駅から徒歩10分
岡山芸術創造劇場(岡山市 2023年開館予定) JR岡山駅から徒歩25分
岡山シンフォニーホール(岡山市 1992年開館) JR岡山駅から徒歩15分
倉敷市民会館(倉敷市 1972年開館) JR倉敷駅から徒歩20分
旧姫路市文化センター(姫路市 1972年開館) JR姫路駅から徒歩25分
 アクリエひめじは姫路市の文化芸術拠点であった旧姫路市文化センターの移転建て替えとして計画された。この点は岡山市民会館の移転建て替えとして建設が進められている岡山芸術創造劇場と共通している。
DSC_0616.JPG
※今月で閉館する姫路市文化センター
 調べてみて気付いたのだが、旧姫路市文化センターの開館は倉敷市民会館と同年。築50年未満で新耐震基準以前の竣工であるものの、そこまで老朽化している訳ではなかった。
 一方、駅からの距離は岡山芸術創造劇場とほぼ同じだ。筆者は学生時代に、旧姫路市文化センターに何度かコンサートに通い、ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル、チェッカート指揮ベルリン・シュターツカペレ、スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団などの名演に接した。姫路まで足を運んだ理由は、民営の京阪神のホールでは設定不可能な安いチケット代が魅力だったからだ。
 このホールに行く手段として、姫路駅から歩くという発想自体がなかった(笑)1kmおきに駅がある都市部の住民にとって徒歩25分(2km弱)はかなり遠い感覚だ。
 また、手柄山公園には1000台規模の駐車場があり、親に連れられていったときは自動車一択。何年か前にブリュッセル・フィルを聴きに行った時は、山陽電車に乗り換えて手柄駅から歩いて行ったが、それでも12分程度はかかった。アクリエひめじの建設は、こうした文化センターが抱えていた微妙なアクセスの改善の意味合いもあったようだ。
 岡山市当局は、岡山芸術創造劇場の立地については、倉敷市民会館の例などから決して駅から遠過ぎることはなく、また路面電車の延伸計画によってアクセス性が改善されるため問題ないとの認識のようだが、それならば路面電車の延伸を開館に間に合わせるぐらいの対応が求められるはずなのだが、事業者との費用負担を巡って対立するという、いつものお決まりパターンに陥り、開館には間に合わないようだ。
 「アクリエ」というワードは、アーク(円の弧あるいは架け橋)とクリエーション(創造)を組み合わせた造語。奇しくも岡山芸術『創造』劇場の愛称は「ハレノワ=晴れの輪」で、両都市それぞれの施設に懸ける思いがシンクロしているような印象だ。
 アクリエひめじは舞台芸術だけでなく、音楽ホールや複合形コンベンション施設も兼ねており、ポピュラー音楽や各種イベントなど、産業・技術・エンターテイメントなど他分野に渡る「創造」を行う拠点施設になることを想定しており、趣味性の高いコミックフェスなどのサブカルやスポーツイベントも視野に入っているようだ。これは究極の新幹線直結型多目的施設になるだろう。
 大ホール・中ホールはプロセニアム形式かつ音響反射板も入っている。現にこけら落とし公演シリーズとして、ウィーン・フィルの来日公演が組まれている。
 一方で、岡山芸術創造劇場は「創造型事業」を前面に出し、舞台芸術に特化し、既存の岡山シンフォニーホールとの棲み分けのために、音響反射板すら設けないというストイックぶり。
 姫路市の文化施設の運営は、姫路市文化国際交流財団が一手に引き受けており、アクリエひめじの文化芸術事業もこの財団が担うようだ。ただ、岡山シンフォニーホールのようなクラシック音楽演奏の専門スタッフや、岡山芸術創造劇場のような舞台芸術の専門スタッフは抱えておらず、市独自事業の展開には主眼を置かずに文化芸術関係の演目を外から招聘することが主体になりそうだ。
 こうして見てみると、このアクリエヒひめじは岡山芸術創造劇場とは全く逆の方向性を持った施設だ。
             アクリエひめじ       岡山芸術創造劇場
ホールの立地       新幹線駅直結型       旧市街地(駅からはやや
                           離れている)
事業の展開        貸し館主体のホール     専門スタッフを採用した
                           創造型劇場
ホールの多目的性     舞台芸術・音楽・      音響反射板の不採用など
             コンベンションなど     舞台芸術に特化
             多目的に展開
 この2つの施設、果たして30年後にはどちらが都市の賑わいや成長に貢献する施設となるのか?それを考えたとき、「MICE都市(※1)を目指す」方向性と「創造都市(※2)を目指す」方向性という、対照的な両都市の成長戦略が見えてくる。
 姫路市も岡山市も、元をただせば池田家の城下町であり、そのルーツには共通点も多い。太平洋戦争までは白鷺城(姫路城)と烏城(岡山城)は双方とも国宝に指定されていた。戦火をくぐり抜けた白鷺城は現存する最古の城として世界遺産にも認定。国内外への圧倒的な知名度を梃子に、MICE都市(※)への飛躍を目指そうとしている。一方で烏城は岡山空襲で灰燼に帰し、1966年に鉄筋コンクリート造により外観復元が行われたが、「レプリカ」としての岡山城単体では市民の誇りとはならず、後楽園や各種博物館・美術館などの文化施設が城を取り囲むという全国でも稀な「岡山カルチャーゾーン」を発展させてきた。その延長上に創造型劇場の構想があり、それは「創造都市」の潮流の中にある
※1:MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive  Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称。
※2:創造都市とはグローバリゼーションと知識情報経済化が急速に進展した21世紀にふさわしい都市のあり方の一つ。1980年代以降に産業空洞化と地域の荒廃に悩む欧米の都市において「芸術文化の創造性を活かした都市再生の試み」が成功を収めて以来、世界中で多数の都市において行政、芸術家や文化団体、企業、大学、住民などの連携のもとに進められている。
 どちらの方向性が正しいのか?私には結論が見いだせないが、まずは、双方がその都市戦略に沿った施設運営が出来るかというのが、最初のハードルになるだろう。
 短期的な成功、あるいは住民へのプレゼンスという面では、アクリエひめじの方が有利だ。大きなメッセやイベントをいくつか成功させれば、成果が目に見える形で発揮され、交流人口の増大や宿泊・観光需要の拡大にも繋がりやすい。
 一方で、岡山芸術創造劇場の「創造型事業」の成功までには気の遠くなるほどの手間暇がかかるし、専門家や関係者の間での評価が得られても、なかなか一般市民が実感するような成果は出しにくい。
 次回のエントリーでは、この岡山芸術創造劇場の注目点として、その集客力にスポットを当てて見ていきたいと思う。

nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽