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シェレンベルガーから秋山和慶へ、新時代に突入する岡山フィル(その2) [岡山フィル]

 今回からは、岡山フィルの次期常任ポスト:ミュージック・アドバイザーに就任する秋山さんについて書きたいと思う。

 まずは秋山さんについての個人的な思いから書ことをお許し願いたい。


 秋山和慶さんの音楽に初めて触れたのは30年ほど前のことになる。その頃、(主に親の奢りで)海外オケの来日公演や大阪のオーケストラの公演に通うようになった。チェコ・フィルやロサンゼルス響、ウィーン響などの眩いばかりのサウンドに感動する一方で、在阪オーケストラの演奏は、オーケストラのパワーには圧倒されるものの(生意気ではあるが)どこかもの足りないものを感じていた。

 そんなときに、秋山和慶の指揮する大フィルの定期演奏会で「シェエラザード」を聴く機会があった。会場は旧フェスティバルホール。その時聴いた大フィルのサウンドの濃密で彫りの深い音の迫力、海の波濤を越えていく船に乗っている情景が浮かぶようなドラマティックな演奏に心から感動した。そして最後の音が鳴った後の会場の熱気は忘れられない。そう、それが初めての「オーケストラの定期演奏会」体験だった。


 オーケストラがその存在をかけて演奏し、耳の肥えた常連の聴衆が期待に胸を焦がしながら聴くハレの舞台。そこで私は国内オケの演奏を聴く醍醐味を味わったのだ。「大フィルって、凄い」「日本のオーケストラって凄い」、会場の熱気あふれるカーテンコールを聴きながら身体が上気するのを感じていた。

 この秋山&大フィルの演奏体験が無ければ、現在のように国内のオーケストラ公演に足繁く通うことは無かったかもしれない。


 その後、就職後の多忙期にオーケストラコンサートから離れる期間があったものの、コンサートに通いつづけ、秋山さんの指揮するコンサートにも何度か足を運んだ。

 私が秋山さんを聴く目的の一つに「コンサートではめったに聴けない知られざる名曲」のナマの音楽体験があった。


 特に広島交響楽団で頻繁に取り上げた北欧の名曲の演奏との出会いは格別なものだった。

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 ならばこれはどうだろう。


 2008年の定期演奏会で取り上げられた、知られざる北欧の作曲家:シンディングとスヴェンセン。  

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 スヴェンセンの交響曲第2番は、冒頭のカッコよさから心を捕まれ、甘くて叙情的でかつヒロイックな和声進行に心を奪われた。「こんなにいい曲がなんで、演奏されないんだ?」と。


 これ以降、秋山さんの指揮する秘曲プログラムに目が離せなくなり、まめにプログラムをリサーチして、取り上げられる曲の音源を聴くようになった。「秋山さんが取り上げるぐらいだから、きっといい曲に違いない」と。結果、ステンハンマル、ニールセン、アッテルベリ、マルティヌー、ホルムボー、アルヴェーン、アイヴズ、ウォルトンなど、音楽鑑賞の守備範囲を拡大していくことが出来た。


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 ウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」は、秋山さんが大フィル定期で取り上げるというのでNMLで試聴してみると、なんという豪華絢爛で魅力的な曲!今でも20世紀の合唱付管弦楽曲の最高傑作と信じて疑わない。しかし、残念ながらコンサートには行けなくなってしまい、ブログで知り合った方にチケットをお譲りした。演奏会後に丁寧なお礼とともにプログラムを送っていただいた。


 秋山&広響の年間プログラムが発表されるたびに、「ええなあ、こんなプログラム。広島に住みたいなー」と思っていた。その当の秋山さんが岡山フィルに来る。さすがに広響のような超絶マニアックな曲は取り上げられないだろうが、従来の岡フィルのレパートリーには無かった楽曲を演奏することは確実だろうと思う。


 一方で秋山さんと岡山フィルとの共演回数は、実はそれほど多くはなかったようで、2007年、2018の第九、今年の矢掛公演の計3回のみのようだ。2018年の第九での共演時に強い印象を残したのだろう。コロナ禍によって岡山フィルもシェレンベルガーもこれまでのような関係を継続するのが難しい環境に陥る中で、「次の指揮者」候補として秋山和慶の名前が上がったものと思われる。

 昨年(2020年)の7月定期(ストラヴィンスキー/火の鳥など)で共演予定だったが、感染拡大のため中止に。今年2月の矢掛公演でお互いの最終確認が行なわれて、晴れて就任の運びとなった模様だ。そう思うと、自主公演が年に十数回しかない岡フィルに、同一年度に2回も登場する時点で秋山MA就任のフラグが立っていたわけだ。

 ただ共演回数は少ないとはいえ、岡山フィルの奏者は、広響が大編成の楽曲を演奏する際に弦楽器を中心にエキストラに入ったりしているので、岡フィルの楽団員の中で秋山さんの音楽づくりに対する理解が深まるのは早いだろう。


 さて、いよいよ岡山フィルが秋山和慶に託そうとしていること、逆に秋山和慶が岡山フィルでやろうとしていることについて考えてみたい。


 シェレンベルガーの退任と、秋山さんの就任についてのニュースは、まず2021年9月24日の山陽新聞に掲載され、翌日の9月25日には早くも解説記事が掲載された。

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※2021年9月25日(土)の山陽新聞記事。『真のプロオーケストラへ』『独自スタイルの形成期待』の文字が踊る。


 これらの新聞記事や岡山フィルの公式発表の内容を整理すると、つぎのとおりになる。

・秋山和慶ミュージック・アドバイザーの任期は2022年4月から5年間。2022年5月22日の定期演奏会が就任披露公演となる。

・ミュージック・アドバイザーとして演奏会の曲目やソリストの選定などを行う。

・定期演奏会を中心に年4回程度を指揮する予定。

・事務局は岡フィルの培ってきた音楽をさらに高め、真のプロオケとなるために力を貸してほしいと就任を打診した

・プログラム編成や新たな団員の人選、将来的な楽団の方向性まで、幅広い視点から運営にも関わっていただく

・幅広いレパートリーを持てるよう、世界中の楽曲や難しい曲にも挑戦していく

・全国のオーケストラと肩を並べられるよう着実にレベルを上げていきたい

・まだまだ発展途上の楽団で、やりがいを感じる。良い演奏を重ねていく中で岡フィルの音楽性を見定めていきたい  


 まず、 気になるのは「ミュージック・アドバイザー」というポストだ。業務内容は「プログラム編成や新たな団員の人選、将来的な楽団の方向性まで、幅広い視点から運営にも関わっていただく」そうで、これはほとんど『音楽監督』に近い仕事内容のように思える。ミュージック・アドバイザーからはじめるのは秋山さん一流のやり方で、まずアドバイザーから関係を初めて、お互いに合えば常任指揮者や音楽監督に進むという手順を踏んで行く広響、九響、中部フィル、そして日本センチュリー、すべてこのプロセスを踏んでいる。そんな中で、もし両者の求めるものが合わなければ、そのときは引き返せるようにする、そういうことだと思うのだ。逆に言えば、岡山フィルも秋山さんから本気度を『試されている』という言い方もできるだろう。
 各論について検討していくために、以前読んだ回想録を読み直す必要がありそうだ。あわせて秋山さんの音楽づくりについては広響との音源も欠かせない。少し時間を置いてから更新しようと思う。 
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吉島の鯉党

メールでもお伝えしましたが、改めまして秋山さんの就任、おめでとうございます、とひとまず申し上げさせてください。
ヒロノミンさんの記事を拝読して、単身赴任先の島から高速艇に乗って広響のコンサートに通った日々を思い出しました。秋山さんは得がたい音楽家だと思います。ご年齢からも岡山フィルでの仕事を、自身のキャリアの総仕上げの意気込みで臨まれるものと思います。オーケストラ、ファン、事務局が一味同心の思いで秋山さんを支えてくだされば、必ずや一層の飛躍は間違いないものと確信しています。
by 吉島の鯉党 (2021-10-02 20:40) 

ヒロノミン

>吉島の鯉党さん
 温かいお言葉ありがとうございます。メールで教えていただいた音楽の友9月号を読みました。シェレンベルガーは岡山フィルの退任だけでなくて、来日回数自体も整理されることが解り、諦めが付きました。
 そして以前から秋山さんのお人柄や功績について教えていただいていたので、前向きな気持ちで迎え入れることが出来そうです。
 また、コロナ禍が収まったら岡山にもいらしてください!
by ヒロノミン (2021-10-03 22:21) 

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