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シェレンベルガーから秋山和慶へ、新時代に突入する岡山フィル(その3) [岡山フィル]

 今回と次回の記事では、2022年4月以降の秋山ミュージック・アドバイザー(以下、秋山MA)の就任後の岡山フィルについて予測してみたいと思う。予測の内容は独断と偏見によるものだが、秋山さんの広響や中部フィルでの実績や、秋山さんの回想録の記述などを根拠としている。


過去記事はこちら


シェレンベルガーから秋山和慶へ、新時代に突入する岡山フィル(その2)

 シリーズ(その2)でも触れたが、新聞記事や岡山フィルの公式発表の内容を整理すると、次のとおりとなる。

・秋山和慶ミュージック・アドバイザーの人気は2022年4月から5年間。2022年5月22日の定期演奏会が就任披露公演となる。

・ミュージック・アドバイザーとして演奏会の曲目やソリストの選定などを行う。

・定期演奏会を中心に年4回程度を指揮する予定。

・事務局は岡フィルの培ってきた音楽をさらに高め、真のプロオケとなるために力を貸してほしいと就任を打診した

・プログラム編成や新たな団員の人選、将来的な楽団の方向性まで、幅広い視点から運営にも関わっていただく

・幅広いレパートリーを持てるよう、世界中の楽曲や難しい曲にも挑戦していく

・全国のオーケストラと肩を並べられるよう着実にレベルを上げていきたい

・まだまだ発展途上の楽団で、やりがいを感じる。良い演奏を重ねていく中で岡フィルの音楽性を見定めていきたい

 岡山フィルの定期演奏会は年に4回、ここに第九、ニューイヤー、企画特別の4回加えて、看板となる主催公演は7回となっている。このうち秋山MAが指揮するのは4回ということで、岡山フィルの主要演奏会の約半分の指揮をお願いすることになる。

 最初の1年間は、岡山フィルの方向性を見定めるための時間となるだろう。「良い演奏を重ねていく中で岡フィルの音楽性を見定めていく」のと同時に、どの程度の事業規模を目指すのか。楽団員の編成や待遇をどのようにしていくのか。決めるべきことは多い。
 シェレンベルガーは8型2管編成を標準編成として、モーツァルトから中期ロマン派を中心としたレパートリーを想定した、45人程度のオーケストラ・サイズをイメージしていたと思われる。
 一方で秋山さんはバロックから現代音楽まで幅広いレパートリーを持つが、真骨頂はやはり現代音楽と大編成の楽曲になる。



 たびたび取り上げ、秋山和慶の名を日本洋楽史に刻み込む名演を生んだシェーンベルクの「グレの歌」はオーケストラ150名、合唱250名という大作。これだけの作品を振れる指揮者は日本に数人しか居ないだろう。


 しかし、岡山フィルにおいてこの規模の作品を採り上げる機会はほとんど無いと思う。私は岡山の都市規模を考えると、オーケストラ・アンサンブル金沢ぐらいの室内管弦楽団サイズにして、常任指揮者もこのサイズにあった人(OEKのミンコフスキや神戸市室内の鈴木秀美のような)を招聘するのが、もっとも特徴が出るのかな?と考えていた。このサイズであれば一人あたりの給料を高くして人材を集めることも可能だからだ。
 シェレンベルガー時代にはR.シュトラウスやマーラーなど大規模編成の楽曲も取り上げたが、私が印象に残っているのは、モーツァルトの交響曲やアンサンブル・ウィーン=ベルリンとの共演での木管協奏曲、上野耕平との共演でのイベールの小協奏曲など、小編成の楽曲で普段とはレベルの違う純度の高い演奏をしていたことだ。

 そんな中での秋山MAの就任、楽団側の演奏水準の一層の向上への意欲は確かに感じられるのだが、岡山フィルの将来イメージがかえって見えにくくなったと感じる。

 広響の場合を見てみると、定期演奏会のプログラムは予算上の制約も勘案して、まず事務局で原案を作成して、その中から秋山さんと相談して決めていく形を取っていたそうだ。秋山さんの真骨頂は大編成の曲であることは重々承知をしつつ、プログラムにお金をかけられない経営環境のため、事務局側は大曲の採用を希望する秋山さんに無理をお願いする形になっていたとのこと。
 実際に、東響や九響などでのプログラム(前回記事で触れた大管弦楽と合唱による「ベルシャザールの饗宴」は大フィルと九響の合同企画だった)に比べて、広響では「ディスカバリーシリーズ」で取り組んだ、モーツァルト・ハイドンや、広響の名を全国のファンに知らしめるきっかけとなった北欧音楽の名曲・秘曲シリーズも、編成上の成約や広島という街の雰囲気や特徴を生かしたプログラムだったことが解る。


 バロックから現代音楽まで、室内管弦楽団サイズから16型4管編成まで、秋山和慶の膨大なレパートリーのどの引き出しを使うのか?その中でシェレンベルガーとの9年間のレガシーをどう生かしていくのか?岡山フィルは広響よりもさらに予算上の成約がキツイはず、2022年のプログラムが発表されれば、秋山MA体制での戦略や想定されるレパートリーは見えてくるだろう。


 次に、岡山フィルが目指すべき事業規模について考える上で、大いに参考になるのが中部フィルの事例だ。
 中部フィルは名古屋フィル、セントラル愛知交響楽団に続いて、名古屋圏で三番目に発足したオーケストラで、現在日本オーケストラ連盟準会員。以前紹介した富士山静岡交響楽団とともに、正会員昇格に最も近いオーケストラと言われている。

 その中部フィルについて、岡山フィルと比較してみよう(データは2018年)

       中部フィル   岡山フィル
設立年月日  2000年   1992年
本拠地    小牧市     岡山市
本拠地人口  15万人    72万人
専任指揮者  秋山和慶    シェレンベルガー 
年間公演数  51回     19回
定期演奏会   5回      4回
主催公演数  11回     13回
依頼公演数  40回      6回
楽員数    43人     41人
総事業費   2億1386万円  1億 55万円
演奏収入   1億4909万円    4879万円
(楽員一人毎)  (347万円)   (119万円)
民間支援     5504万円    500万円
自治体支援    420万円    5136万円
総入場者数  41,333人     37,988人
法人格    認定NPO法人   公益財団法人

 中部フィルと岡山フィルは総事業費にして2倍、公演数は2.5倍。楽員一人あたりの演奏収入は3倍の開きがある。ただし、総入場者数にそこまで開きがないのは、中部フィルの本拠地である小牧市市民会館の定員が1300人(岡山シンフォニーホールは2000人)と少ないことと、岡山フィルの場合は自治体からの支援によってチケット代が抑えられて、見かけ上の演奏収入が少なくなっていることが挙げられる。


 両者の大きな違いは依頼公演の数。岡山フィルが飛躍するためには、この依頼公演をどれだけ取ってくるかにかかっているだろう。

 また、中部フィルの総事業費、演奏収入の規模は、なんと日本オーケストラ連盟正会員の常設オーケストラ:セントラル愛知交響楽団の額を上回っているのだ(2018年データ)。


       中部フィル   セントラル愛知響 

総事業費   2億1386万円  1億6714万円
演奏収入   1億4909万円    1億2761万円
(楽員一人毎)  (347万円)   (271万円)
民間支援     5504万円      538万円
自治体支援    420万円    2588万円
総入場者数  41,333人     47,300人


 中部フィルの常設オーケストラ化(連盟正会員加盟)は目前に迫ってきていると見ていいだろう。


 しかし、中部フィルは、かつては活動規模はとても小規模なオーケストラだった。


       2006年    2018年
年間公演数  39回      51回
定期演奏会   1回       5回
主催公演数   3回      11回
依頼公演数  36回      40回
楽員数    44人      43人
総事業費   9855万円  2億1386万円
演奏収入   6626万円    1億4909万円
(楽員一人毎)  150万円      347万円
民間支援          2844万円    5504万円
自治体支援   363万円     420万円
総入場者数  25,720人     41,133人


 2006年の数字を見る限り、現在の岡山フィルよりも小さなビジネスだったことが解る。

 中部フィルは2000年に「小牧市交響楽団」として発足。2007年に東海・中部地方一円を活動拠点にするべく「中部フィルハーモニー交響楽団」に改組し、日本オーケストラ連盟準会員に加盟した(そのため公表されている経営指標は2006年からとなっている)。小牧市だけでなく、三重県松阪市、愛知県犬山市、名古屋市でも定期演奏会を開催しているようだ。

 発足時から名誉首席指揮者として関わってきた秋山和慶は、2010年にアーティスティック・ディレクター&プリンシパル・コンダクターに就任。2017年には芸術監督に就任し益々関係を深めている。

 中部フィルの定期演奏会は音楽の友の演奏会評にも掲載されるようになっているが、近年、かなり高い評価を得られるようになってきている。名古屋近辺のブロガーさん達の感想もすこぶる好評だ。

 また、音楽配信サービスを利用してブラームス/交響曲全集をリリースしているが、美しく精緻なアンサンブルを聴かせており、岡山フィルと比較した場合、各パートの首席クラスの音色は岡山フィルも負けていないが、弦の弱音部分の安定性など、総合的には岡山フィルよりも実力は明らかに上であることは認めざるを得ない。
 こうした中部フィルの演奏水準は、日本国内のオーケストラ史上、前代未聞の大改革がカンフル剤となって一気に整備が進んだ。その「大改革」については、次回の記事で触れようと思う。


 秋山さんは、カナダやアメリカのオーケストラ運営での修羅場をくぐり抜け、倒産寸前の東響を再建し、中部フィルを躍進させたオーケストラの運営の実績がある。そうした秋山さんの手腕や覚悟は岡山フィルの発展に必ず良い成果をもたらすだろうと思う。


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