佐渡裕&日本センチュリー響のコンサート [コンサート情報]
岡山フィル第58回定期演奏会 シェレンベルガー指揮 柴山昌宣・森野美咲ほか [コンサート感想]
当日は気温14度まで上がり、「大寒」とは思えない寒の緩みだったが ときおり突風が吹きすさぶ天候で、自転車ごと飛ばされそうになった。今から思えばシェレンベルガー&岡山フィルの疾風怒濤のジュピターを暗示していたのかも知れない(笑)
プレトークで事前のチラシに書いてあった曲順を入れ替え、前半にジュピター交響曲を演奏し、後半に「フィガロの結婚」を持ってくる旨、シェレンベルガーさんから直接発表される。去年は職場から抜けられずに、魔笛の途中から入ったが、今日は余裕を持って到着できたから全く問題ない。
編成は舞台下手から順に1stVn8、2ndVn6、Va4、Vc4、上手奥にCb3の8型2管編成のストコフスキー配置。このぐらいの編成が岡山フィルの本来のサイズだと思う。弦のメンバーを見ても精鋭が揃った感じで、シェレンベルガーも楽団員も思い切ったことが出来る。
ジュピターの演奏は、これまで岡山フィルで聴いたどのモーツァルト演奏よりも素晴らしく、エキサイティングだった。冒頭にも書いたとおり、エッジの立ったアーティキュレーションや、ジェットコスターのような強弱の徹底。最も印象に残ったのは、ピアノからフォルテへ向かう瞬間の、突風が吹き抜けるようなアタックの強さ。まさに疾風怒濤の演奏で、この曲が作曲された18世紀末の激動の中欧の雰囲気を伝えてくれた。もし、この日、はじめてモーツァルトの生演奏に触れた人が会場にいたとしたら、世間一般に流布されている「癒やしの音楽、モーツァルト」とのギャップに、さぞかし驚いたことだろう。
ティンパニは木のマレットでバロックティンパニのような音。弦楽器はヴィヴラートを抑え、全体的にはピリオド系の要素を取り入れた演奏。トランペットは普通のドイツ式なのに、古楽器のようなパリッとしたテイストの音を奏でていた。今回は首席の小林さんは乗っておらず、テレマン室内にもおられた横田さんがトップだったが、さすがの音色だと思った。
第1楽章はアンサンブルが整いきれない部分もあったが、理想のモーツァルトを演奏しようという火の玉のような情熱が舞台から伝わってくる演奏に聴き手の気持ちも昂ぶってくる。岡山フィル定期演奏会でのモーツァルトのシンフォニーが取り上げられたのは、前回(10年ほど前?)のシェレンベルガーとの初顔合わせの共演以来だと思うが、そのときよりもオーケストラが数段ステージの高い音楽づくりに挑戦していて、一瞬たりとも目が離せないのだ。
第2楽章も速いテンポで進む。ピアニッシモは「弱い音」ではなく、ちゃんと芯のある弱音が聴こえてくるのが凄い。木管は盤石だった。殆どが30代以下の若い奏者だが、味わい深い音を聽かせてくれて、とりわけファゴットは首席が決まっていないため客演首席の方だったが、(後半のフィガロの結婚も含め)とても良かった。この楽章はロマン的にゆったりと聞かせる演奏が好きだったはずが、この日の岡フィルの演奏で、「こういう弛緩することのない、それでいて優美な演奏もたまらなく美しいなあ」と思った。
第3楽章でも木管はやはり盤石で、弦楽器の音も一層艶が出てきたところで、アタッカ気味に第4楽章へ突入した。この楽章では、それまでシェレンベルガーの細かいタクトに従って動いてきたオーケストラが、指揮者の描く酵航路図にそって自分たちで新しい世界を拓いている瞬間のように感じた。まさに光り輝く瞬間の連続で、海外のオーケストラの演奏も含め、この水準の演奏のモーツァルトをこのホールで聴いた記憶がない。ちょっと褒めすぎ?いや、でもこういう魂のこもった演奏は、地元オーケストラが命を懸けて演奏するから聴けるのだ。どんな海外の一流オーケストラであっても、強行日程のスケジュールの中でのツアー公演では、こんな演奏はなかなか聽かせてくれない。
シェレンベルガーは、定期演奏会で一通りモーツァルト後期交響曲をやると思うが、10年後ぐらいにもう一度後期交響曲ツィクルスをやって欲しい。10年前からこれほど進化するのだ。10年後には世界に出せるようなモーツァルトを聽かせてくれるようになると思う。
今回の歌手陣は本当に充実していて、冒頭述べたスザンナ役の森野美咲さんの歌声に聞き惚れた。第一幕のフィガロ(柴山昌宣さん)とスザンナの二重奏からして、「おお、これは凄い!」と圧倒された。「ハイライト」と銘打ちながら、全曲75分のボリュームが有り、重要なシーンはほとんど入っている。昨年の魔笛は、オペラ・アリア集といった趣きが強かったが、今回はほとんどオペラの舞台を堪能した気分。
僕は管弦楽や室内楽作品に比べるとオペラは本当に見る習慣がないので、舞台美術のある専用劇場での大掛かりなステージとは比べる基準は無いのだが、歌手の方々の歌と演技、そしてオーケストラの美しい伴奏だけで充分に堪能した。
自らも地元を代表するテノール歌手であり、今回は演出・構成に回った柾木さんの、絶妙のナレーションも良かった。岡山で数多くのステージに立っている経験からか、岡山の聴衆にはどこまでナレーションで説明すれば良いのか、そして客席の反応はどうなのか?独特の残響の岡山シンフォニーホールでのナレーターはどうあるべきなのか。計算しつくされていたように感じた。
このモーツァルトのオペラを見て思う。人生は当人たちにとっては大真面目に苦しくしんどい、欲望やプライド・メンツに縛られ、偽善や露悪に翻弄され大切なものを見失ってしまう。でも少し離れた視点で人生を見つめてみると、何事も喜劇に思えてくる。
これまで岡山フィルは、開館記念の目玉事業のワカヒメを筆頭に、僕が思いつくだけでも結構オペラの演奏の蓄積があって、そこへシェレンベルガーが継続的に関わるようになって、ニューイヤー・コンサートでのオペラのハイライト公演が定着しつつある。今回のキャストも岡山のオペラ公演を支えてこられた方々が出演・演出に関わっていて(池田尚子さんが急病で降板されたのは残念だったけれど)、これまでの蓄積が花開いている感がある。
来年のニューイヤーコンサートは「カルメン」を取り上げる由。こうして、岡山の「オペラ・ニュー・イヤー・コンサート」が定着したら20年後には、岡山の聴衆はオペラの主要レパートリーを一通り聴くことになる。ぜひ定着してほしい。
当日の夜には賛助会員向けのレセプションが開催されたが、今回は遠慮させてもらった。子供がまだ小さい中でコンサートには行かせてもらっているので、終わったらさっさと帰らないと行けません。出席メンバーが地元政財界の重鎮の方が多いと思うので(自分の雇い主の偉いさんも来られそうだし)、シモジモの私はビビってしまいます。しがらみの無い地元以外のこういうレセプションには図々しく出ていくんですけどね(笑)
2018年に足を運んだコンサートのデータ [コンサート感想]
年末にその年に足を運んだコンサートデータのまとめを記事にしていましたが、2018年は「そんなに足を運べていないし、まとめるほどでもないかな」と思っておりました。
ところが、年末年始の休みに散乱していたプログラムなどをファイリングしていたら、25回もコンサートに行っていたことが判り(笑)それなら・・・というわけで、今更ながらまとめ記事をエントリーします。
2017年のまとめ
2016年のまとめ
2015年のまとめ
2014年のまとめ
2017年に足を運んだコンサートは25回。年間のチケット代総額は66,360円、1回あたり平均2,654円でした。
今年は県外(電車で45分の福山は県外に含めず)に2公演しか行っておらず、今後も当分はこんな感じなので、浮いたお金を岡山フィルの賛助会員会費に充てています。
◎ジャンル別
オーケストラ12回、室内楽7回、器楽ソロ5回、ピアノ・ソロ1回
◎オーケストラの楽団別
岡山フィルハーモニック管弦楽団:4回
他はすべて1回
シュトゥットガルト室内管弦楽団、ニューヨーク・シンフォニック・アンサンブル、ポーランド放送室内合奏団、釜山フィルハーモニー交響楽団、日本センチュリー交響楽団、NHK交響楽団、広島交響楽団、アマチュアオケ:1回(岡山交響楽団)
◎指揮者別
ハンスイェルク・シェレンベルガー:2回
以下、1回(おもな指揮者のみ)・・・準・メルクル、ステファン・ブルニエ、秋山和慶、飯森範親、高原守、村上寿明
◎ソリスト・アーティスト
2回:福田廉之介(Vn)、柾木和敬(T)、
以下、すべて1回(おもな奏者のみ)
内田光子/上原彩子/松本和将/梅村知世(Pf)、三浦文彰/シン・ヒョンス/戸澤采紀/福田廉之介/岸本萌乃香/(Vn)、、ワルター・アウアー(Fl)、西崎智子/橋本杏奈(Cl)、阪本清香/塚村紫/池田尚子/川崎泰子(S)、岡村彬子(A)、渡邉寛智/鳥山浩詩/山田大智(B)
室内楽団体:カルテット・ベルリン=トゥキョウ
◎プログラム曲目別
2018年は集計せず
以上
今年もよろしくお願いいたします [自己紹介]
岡山の街の話題についても触れていきたいです