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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その5:安定財源のもたらす圧倒的な果実) [オーケストラ研究]

 このシリーズ記事、4か月ほど更新をサボっていましたが、先日、N響のコンサートを聞いたことにも触発されて、今回は第5回ということで「安定財源のもたらす圧倒的な果実」を見ていきます。
 第4回までのエントリーで、バロック・古典派からロマン派の主要な楽曲をカバーできるサイズ=4管編成のオーケストラを維持するためには、事業規模10億円が一つのラインであり、東京以外の地方都市において4管編成を維持しているオーケストラは、数億円規模の地方自治体支援により支えられていること。老舗の大阪フィルが地方自治体支援という屋台骨を失ったことで、大都市オーケストラの標準サイズである4管編成はおろか、3管編成すらも維持が厳しい状況に陥っていることなど、オーケストラ経営には安定的な財源が必須であることが分かった。
 民間支援の可能性が大きい大阪のような大都市圏でオーケストラでさえも、公的支援無しでは2管編成の維持がやっとの状態になってしまう。大阪では新自由主義的な競争原理が持ち込まれ、それは一定の合理性を有するため、市民の大勢に受け入れられた。しかし、結果は大都市としての品格・風格を体現し日本を代表するオーケストラでもあった大フィルの経営的な凋落を招き、『損益分岐点』である2管編成のオーケストラへと縮小均衡、その結果、将来的には大阪では同じようなサイズのオーケストラ4つがせめぎ合うという構図になることを予想した。3~4管編成の維持には莫大な初期コスト(=人件費)がかかる以上、致し方のない帰結と言える。

 今回は「安定した財源」を持つオーケストラの経営数値を見てみようと思う。私が注目したのはオーケストラ楽曲のほとんどすべてのレパートリーをカバーできる規模である4管編成のオーケストラ。
 ここで取り上げるのは日本を代表するオーケストラ、誰もが知っている「N響」こと、NHK交響楽団だ。

 言うまでも無く、N響はNHKからの補助金が主な財源となっているが、その額はなんと14億円!!(2015年度実績)
 資金難に瀕する大フィルなどからすると「そのうち1億円くらいわけてくれてくれい!」といいたくなる額だ。

 しかし、N響の財務面での強さはそれだけではない。経営数値をもっと詳しく見ていくと、N響がNHKからの補助金に依存しているだけのオーケストラでは無いことが分かる
 2015年度の演奏収入ランキング

演奏収入.JPG
 N響は演奏収入の面でも東京フィルに次いで2位。もう少し掘り下げて、演奏収入を楽団員数で割った数値、すなわち楽団員一人当たりの収益力を見てみると、これも3位に付けている。

楽団員一人当たりの収益力(2015年)
収益力.JPG
 この数値にはNHKからの支援は入っていないため、純粋にコンサートだけでどのぐらい効率的に稼げているかがわかる。演奏収入では1位だった東京フィルは、楽団員一人当たりに直すと、それほど効率的には稼げていない

 もう一つ民間からの支援を見てみよう。

民間支援ランキング(2015年度)
民間支援.JPG

 1位の読響は経営母体の読売新聞社からの資金が計上されているので別格としても、ここでもN響は3位の位置につけている。そういえば今月のN響の中国地方ツアーも、エネルギー関連企業がスポンサーになっていた。

 安定したNHKからの14億円もの財源で演奏能力の向上と優秀な奏者を採用し、国内随一の指揮者とソリストによる魅力的なプログラムにより、国内屈指の収益を叩き出し、かつ公共放送による露出の高さに加え、伝統とブランド力を備える。潤沢で安定した財源が投資を呼び、スポンサーも続々と集まってくる、いわば「総取り」経営が見て取れる。
 読響や都響など、財源が安定している他の在東京オーケストラも同じような状況だといえるだろう。

 いわゆる「御三家」のオーケストラだけでなく、名古屋フィル(4位)、札響(9位)や広響(10位)、京響(13位)、群響(14位)などの地方都市オーケストラも、行政からの補助金だけでは無く、民間資金も積極的に獲得している。
 市民の税金が原資の補助金を投入する過程には、納税者の理解や政治的利害調整が必要であるし、そのプロセスの中でオーケストラに公的資金を投入する意義についての議論は避けて通れない。
 公的支援に頼らない経営が理想なのは間違い無いが、一方で、地方都市では行政が補助金を出すことによってその事業の信用度や文化的投資への決意を見せることで、民間スポンサーも俄然、集まりやすくなる。逆に言えば行政がお金を出さない事業に民間もお金は出せない、というのが現実だろうと思う。

 このようにオーケストラにとって、『安定財源』の確保が経営上極めて重要であることがわかる。今回見てきたN響や大都市のオーケストラの経営数値が明らかにしているように、安定した財源(地方自治体支援など)があれば積極経営にも打って出られるし、民間からの支援も集まりやすくなる。経営の選択肢が増え、相乗効果を生み出していくことで事業規模をさらに拡大していくことが出来る。プアな財政で楽団員に際限の無いプロ根性や反骨心に期待するような経営では、やはり無理が来るのだ。

 第4回で取り上げた大フィルを例に取ると1億7万円の公的補助を出し惜しんだがために、3.7億円と48,000人の経済活動の縮小を招いている。このまま打開策が無ければ中小規模の4つのオーケストラがひしめき、かつての「大フィル」「朝比奈隆」のブランド力がそのまま大阪のブランドやアイデンティティに寄与していた状況を失ってしまうことになる。お金では換算不可能な莫大な損失だ。 

 翻って岡山の状況について考えてみると。岡山市が岡山フィルへの支援を表明しているのは心強いが・・・果たして、見通しはどうなのか?次回以降は岡山フィルの今後について考えてみたいと思います。

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