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ベルリン交響楽団岡山公演 指揮:シェレンベルガー [コンサート感想]

ベルリン交響楽団 岡山公演


モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
モーツアルト/ピアノ協奏曲第21番ハ長調

リスト/ラ・カンパネラほかピアノソロ

〜 休 憩 〜

ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調「運命」


指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ピアノ独奏:フジコ・ヘミング


2023年6月23日 岡山シンフォニーホール

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・会場はほぼ満員の入り。生ける伝説と言ってもいい90歳のフジコ・ヘミングさん目当てのお客さんも多かったのだろうが、後半のベートーヴェン、アンコール2曲が終わっても拍手が鳴り止まない。シェレンさんが「バイバイ」のポーズを取って、照明が明るくなって楽団員が舞台袖にはけた後もほとんどのお客さんが残って拍手を続けている。シェレンさんが再登場した瞬間、「ブラボー」とも「ウワーッ」ともつかない歓声が上がった。今日の演奏に対する賛辞というよりも、シェレンさんの岡山フィルでの9年間に対する感謝の気持ちを表したのだ。私も含めて何人かの人が涙ぐんでいるのが見えた。

・そう、後半のベートーヴェンの重厚かつ何もかもをなぎ倒していくような推進力のある音楽を聴いて、皆が思い出したのだ。彼が岡山で9年間の間で成し遂げてきたことを・・・・。普段はシャイで皮肉屋で、感情を表に出さない岡山の人々が、これほどストレートに気持ちを伝えようとするのをほとんど初めて見たような気がする。

・編成は弦五部は10型(1stVn10、2ndVn8、Vc6、Va5、Cb4)2管編成という比較的小規模なサイズ

・このコンサートのチケットを買うがどうかはかなり迷った。というのも過去10年聴いたコンサートの中で一番評価が低い演奏がこのオケの前回の岡山公演だったからだ。当時の首席指揮者のシャンバダールが率いていた。その時のエントリーにも書いたが、「ベルリン交響楽団」といっても、クルト・ザンデルリンクなどが率いた東独時代のベルリン交響楽団(現:ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団)とは別の団体である。

・そのベルリン交響楽団に、最も尊敬する音楽家であるシェレンベルガーが首席指揮者に就任した。前回の岡山公演での印象から、「行くのに躊躇する団体リスト」入りしていたのだが、シェレンベルガーさんへの信頼は絶大だ。聴きに来て後悔するという事態には絶対にしないだろうという思いもあり足を運んだ次第。

・1曲目のオーボエのチューニングのピッチが不安定で、「やっぱりダメかもしれない」と思ったが、管楽器は不安定ながら弦の音はなかなか艶やか。6年前とは違うな、という印象を持った。

・2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲の第21番は彼のコンチェルトの中でも1,2を争うほど好きな曲だ。

・しかし、その大好きな曲を聴くのがこれほどしんどいとは。第1楽章と第3楽章では、ソリストの技倆に合わせるために、かなりのスローテンポ、それに加えて音符が密集している箇所では、やおらテンポが落ちるといった具合で、これにはシェレンベルガーさんも合わせるのに苦労し、オーケストラも明らかに困惑している様子だった。これはもはや天才モーツァルトの音楽ではない。自分はソリストよりも作品を聴きたいという欲求が強い聴き手なのだとつくづく思った。

・しかし第2楽章は違った。綺麗な音色と行間から人柄がにじみ出るような深みのあるピアノの音は、言葉では言い表せない味わいがある。なるほどフジコさんが人気がある理由は理解出来た。

・ソリスト・プログラムは予定から変更されていた。
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 予定のプログラムだと、技倆部分でのデメリットはかなり解消されたと思われ、おそらく私の印象も異なっただろうか?もう、聴くのがしんどくなってしまって、ラ・カンパネラなどのソロ演奏は失礼して2階席後方のロビーに出たのだが、数人ほど同じように途中退席組がいた。



・シェレンベルガーさんはモーツァルトに対するこだわりは強い音楽家だと思う。カメラータ・ザルツブルクとは何度も来日しているし、岡山フィルでもサウンドが落ち着くまでモーツァルトの交響曲を取り上げなかった。定期演奏会での交響曲第38番「プラハ」の演奏を聴いたとき、「この音が岡山フィルから出るようになるまで待っていたんだ!」と感動したのをよく覚えている。
 コロナ禍の中で中止になった第九の代わりに取り上げた、オール・モーツアルト・プログラムは、実質的に岡山フィル首席指揮者としての最後の演奏になった。


・そんなモーツァルトに愛情を持つシェレンベルガーさんに、こんな仕事をさせてはいけない。第一に、上に貼ったプログラムに指揮者の名前を載せないのは失礼過ぎないか?(もっというと、モーツァルト/フィガロの結婚 って、「序曲」を入れないなんて、あんたら素人か?)

 今回の主催はベルリン交響楽団の公演の主催権を持つテンポプリモだが、シェレンベルガーの日本での所属事務所であるヒラサオフィスは共演を止めるべきだったのではないか?

・シェレンベルガーさんは岡山フィルでの公演にその人脈をフル投入して、アンサンブル・ウィーン=ベルリン、シュテファン・ドール、グスターボ・ニュネス、アンドレア・グリミネッリ、アンドレアス・オッテンザマー(コロナで中止)など、シェレンベルガー人脈の世界一流の豪華ソリストが惜しげもなくその技能や豊かな音楽性を披露してくれた。ベルリン交響楽団の今シーズンの共演者にはカール・ハインツ・シュッツの名前も見える。次回の来日公演ではシェレンさんの人脈でのソリストを望みたい。

・後半のベートーヴェン。第1楽章の提示部繰り返しあり、第4楽章の提示部繰り返しはなし。一方で第3楽章の主部とトリオの繰り返しはあった。この第3楽章のトリオが本当に素晴らしく、シェレンベルガーさんらしい、収まるべきところに音符が収まっていく快感を味わったのだ

・第4楽章では目に涙が溜まるような感動を覚えた。本当に素晴らしかった!!シェレンさんの音楽を動かしていく推進力、ダイナミクスの変化を堪能した。弦は前回聴いた時より、かなり士気が高まっている感じを受けた。管楽器は多少怪しい部分はあったが、演奏の熱量がかき消していた。

・前回の岡山公演でのエントリーでこんなことを書いた
「もう一度言います。今回のベルリン響よりも、岡山フィルの方がアンサンブルの完成度も、ハーモニーの美しさも、遥かに上を行く。少なくとも、ベト5の冒頭の「ジャジャジャジャーン」の最初の「ジャ」が揃わないなんて失態は、まずやらないし、第一、あんなに気の抜けたベートーヴェンを聴衆の前で演奏するわけがない。」


 シェレンベルガーさんが首席指揮者に就任後は充実した演奏活動ができているのだろう。上記のようなことは全く感じさせなかった。5月には同じホールで岡山フィルのベートーヴェンの5番を聴いたのだが、それと比較すると今回のベルリン響の演奏は「やっぱり本場の演奏は違うな」と言わざるを得ない。どこが違うのか?個々の奏者の、特に木管やヴィオラ・2ndヴァイオリン、チェロあたりの実力は岡山フィルの方が確実に上だと思うが・・・。シェレンベルガーさんのタクトから紡ぎ出される、圧倒的な説得力のあるベートーヴェンを眼前に見せられると、岡山フィルはシェレンベルガーと良好な関係を継続して、その音楽性をもっと浸透させて欲しいと思う。


・アンコールは、ブラームスのハンガリー舞曲第1番のあと、第5番。この2曲は味のある渋い音を奏でていた。いい意味でヨーロッパ最大の経済大国の首都の音というよりも、プロイセンのローカル色を感じるサウンドに感動。


・冒頭にも書いたとおり、岡山の聴衆とシェレンベルガーさんとの1年半ぶりの再開は感動的だった。来年1月の「岡山フィル名誉指揮者」披露公演が本当に楽しみです。

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コメント 4

サンフランシスコ人

久しぶりのシェレンベルガーの指揮の演奏? 素敵な演奏会で 良かったですね...
by サンフランシスコ人 (2023-06-27 04:32) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 1年半ぶりのシェレンベルガーさんの指揮でした。9年間も見続けてきた指揮者・音楽家だけに、「ああー、これこれ、この感じ」と懐かしい感覚になりました。
by ヒロノミン (2023-06-27 20:54) 

サンフランシスコ住んでいる

インターネットのおかげで

http://tempoprimo.co.jp/stage/y2023/bso2023

日本に住んでいる人と同じ情報を入手可能.....個人的には、Cプログラムのモーツァルト:オーボエ協奏曲(ソロ:ハンスイェルク・シェレンベルガー)に興味津々......
by サンフランシスコ住んでいる (2023-06-29 01:51) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 私もCプログラムが聞きたかったです。。。。
by ヒロノミン (2023-07-07 20:50) 

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