SSブログ

岡山フィル第74回定期演奏会 指揮:秋山和慶 Vc:宮田大 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第74回定期演奏会

〜闇から光へ〜  シンフォニーホールに響き渡る希望のコラール  


ブラームス/悲劇的序曲
エルガー/チェロ協奏曲

〜 休 憩 〜

ブラームス/交響曲 第1番


指揮:秋山 和慶
チェロ独奏:宮田 大
コンサートマスター:藤原浜雄


2022年10月9日 岡山シンフォニーホール

Scan20221009_001.jpg


・秋山さんの5月のミュージック・アドバイザー就任会見での「一目置かれるようなプロオケにしたい」との言葉を証明するような、将来に期待を持たせるに充分な充実した演奏になった。


・客席は宮田さん効果もあって、9割以上の大入り。県外からの遠征組も結構おられた模様。

・編成は弦五部は3曲とも14型(1stVn14、2ndVn12、Vc8、Va10、Cb6)という岡フィルでは珍しい大編成。管楽器は2管だが、ピッコロ、コントラファゴット、チューバも入るのでなかなか壮観である。ホルン1番には京響の垣本さんに3番には大フィルの藤原雄一さん。トロンボーン首席に京響の岡本哲さんら関西の名手が客演首席奏者に入る一方で、岡フィルの首席陣も全員揃い踏みだ。

・1曲目の悲劇的序曲から秋山さんの緻密なタクトが冴えわたる。タクトを見ているだけで曲の構造が聴衆にも解るので、これほど目眩めくドラマが次々と展開する曲だったのか!と認識を新たにした。そして1曲目からこれほど真摯に演奏する岡フィル、ホント好きだわ。

・2曲目はエルガーのチェロ協奏曲。宮田大さんという、考えうる最高のソリスト。今年度最も楽しみにしていた曲目で、この1ヶ月ぐらいは宮田さんのダウスゴー&BBCスコティッシュ・ナショナル管との録音を繰り返し聴いていた。

・冒頭の10秒で一気に惹き込まれる。これは、シュテファン・ドールや竹澤恭子などとともに、岡フィルの歴史に深く刻まれる名演奏になると確信。そして、やっぱり生は違う!!チェロの音が自分の身体をも震わせるような凄い迫力!14型の大編成オーケストラを相手にチェロ一丁で対抗する。2階席後列で聴かれた方によると、その位置でも凄い音が飛んできていたそうだ。オーケストラの伴奏も入魂の演奏で、先のCDはオケ(BBCスコティッシュ・ナショナル管)が割合サクサクと進む感じなので、この秋山&岡フィルの濃厚な演奏の方が私は好きな演奏。

・オケ伴奏は、管楽器は依然として素晴らしく、弦は弱音での表現が劇的にレベルアップしたように感じる。宮田さんも演奏終了後に立ち上がってすぐにオーケストラに拍手をしたのを見ると伴奏に満足されたのだろう。

・第2楽章を聴いて、これは語りである、と思った。音楽ではあるのだが、伴奏付き朗読劇・一人芝居。中間部でのエルガー独特の和製進行の中での高速パッセージ、もちろんそうした場面の宮田さんの技巧も凄かったのだが、それ以上に『語り』の深さ・説得力に胸がぐるぐる、目がうるうる。

・第3楽章〜第4楽章の心の奥底に木魂するような美しさ。ロマン派の落日、あるいは日の沈まない大英帝国の黄昏の崩落しかかる寸前で踏みとどまっているような危うい美しさは比類ないものだった。作曲年を調べると1918年というから、やはりロマン派の最後の楽曲の一つだ。


・アンコールは宮沢賢治の「星めぐりの歌」を宮田さんの編曲で。日本で聴ける最高レベルのチェロを地元のホール聴かせていただき深く感謝。

・メインはいよいよブラームスの交響曲第1番。5月の秋山さんのミュージック・アドバイザー(以下、MAと省略)就任コンサートはコロナで中止になった就任発表前のコンサートの実質的な延期公演だったことを考えると、この「ブラームス1番」が、秋山MAとしてまず岡フィルと取り組みたかった楽曲とみていいだろう。

・冒頭からその重量感には驚かされた。ティンパニの打込みとコントラバスのオスティナートは床を震わさんばかり、そして音階上昇していく高音楽器と加工していく中低音楽器の交差に音酔いそうになった。主題の反復場面でティンパニのロールとともに登場するコントラバスが、すべてダウン・ボウで怒り狂ったような轟音だった。これ、九響との動画ではやって居なかったので、非常に驚いた。秋山さん、こんな解釈もあるんだ、と。


・前半もそうだったが、谷口隊長率いるコントラバス隊の存在感は絶大だった。重厚なだけでなく、機動力も高く切れ味も鋭い。コントラバス隊が音楽を主導するような場面が随所に見られた。それに負けじと松岡さん率いるチェロ隊もブンブン鳴る。

・コンサート鑑賞仲間の方々から、「最近、秋山さんの音楽が凄みを増している」という噂を聴いていた。また、数少ない盤友(ベートーヴェン、シューマンとブラームスだけやたら詳しいという超偏食)は『秋山和慶を聴かずしてブラ1を語ること無かれ』とまで言っていたが、このブラームスを聴いて、その意味が解った。

・提示部に入り、音楽が走り出す。これだけアンサンブルの厚み・重量感があるのに、風格と均整を保っている。全体的にはアポロン的かつ浪漫的とも言えるだろう。シェレンベルガーとの9年間で、聴き手の血が湧くような、ゲルマンの魂やドイツ語の語法が徹底されたドイツ音楽とはまた異なった、オーケストラ全体でどっしりした響きを出す秋山流の音楽づくりもまた、この曲のの真髄を感じさせる。提示部の繰り返しはなかった。

・やっぱり秋山さんのタクトはそれ自体が芸術的だ。切れ味、味わい深さ、迫力が鼎立する。各パート間の隙きの無い対話の連続の中で高揚していく音楽にどんどん惹き込まれていくのだ。なんとなく弾く(吹く)ことを絶対容認しないという強い意志を感じさせ、それに岡フィルはよく応えた。テンポの変化はあっても淀みがない。奏者が棒に合わせようとしている感じが全く無くて、勝手に息が合ってしまう。仕向けられている。

・例えば再現部へ入る一瞬の溜めで、音楽が一瞬宙を舞い、それが落ちるところを秋山さんがタクトでグワシッと掴んだ瞬間、音楽のギアが一段と上った感じ。

・第1楽章の楷書体の迫力ある演奏と対極をなす第2楽章・第3楽章の純化されたハーモニー。こんなに切ないほど柔らかい音が岡フィルから放たれたことがあっただろうか。コンマスのソロにホルンが絡むあたりから涙がホロリと流れてしまった。オーボエのソロは、クラリネットと絡み合いながら物悲しさと美しさを湛えていた。

・岡フィル奏者の演奏も素晴らしい。第1楽章で執拗に繰り返された、ベートーヴェンの第5と同様の、「タタタターン」というモチーフが、少し形を変えて題3楽章でも「タタターン」と繰り返されるが、両楽章の描き分け・表現のコントラストが見事で、第3楽章で目頭が熱くなった。特にトランペットの音は胸に迫るものがあった。

・Hr客演首席の垣本さん(京響)を筆頭に岡フィル自慢の木管陣も盤石。チェロ・コントラバスは随所で迫力ある響きでホールを満たす、ヴァイオリン・ヴィオラも、コンマス浜雄さんの音色ににシンクロするようなとても艷やかな音を奏でていた。

・5月の定期の感想で、こんなことを書いた。
「秋山さんの緻密で繊細な音楽への欲求に対して随所で粗さが感じられた。例えば「禿山の一夜」の終盤や「火の鳥」の第6曲などでのヴァイオリンの弱音の表現の粗さなど・・・。」

 今回は全く粗さなどは感じさせず、秋山さんの緻密な音作りにアジャストしたのはさすがプロ。お陰でエルガーもそうだったが、デリケートな部分でも音楽に陶酔することができた。

・第4楽章は、高い緊張感のなかで「何か」がのそりのそりと近づいて来く感じに痺れた。ハ長調に入ってからは懐のどこまでも深い世界がたち現れた。集結に向かうほど聴き手の体温が上がり汗ばんで来る。これこれ、これぞライブを聴く醍醐味。

・5月の秋山MA就任記念よりも一気に2ランクぐらい上のステージに登った感じがする。どんどん良くなる岡フィルを聴く、という楽しみ方にとどまらず、岡フィルをとおして円熟の境地の秋山さんを聴く、という意味でも充実した演奏だった。カーテンコールの中、秋山さんはオケに向かって会心の微笑みを浮かべ、手応えを感じているように見受けられた。

・この夢のような浪漫的な演奏を聴くと、秋山さん十八番である、ラフマニノフやシベリウスの演奏を期待したいところ。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。