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矢崎彦太郎 著 「指揮者かたぎ」 春秋社 [読書(音楽本)]

 9月の岡山フィルの「 I am a SOLOIST スペシャル・ガラ・コンサート」で指揮をする矢崎彦太郎さんの著書を読む。  矢崎さんは、岡山ではあまり馴染みがない指揮者かも知れないが、日本では数少ない「フランス音楽指揮者」として、玄人ファンの間で評価が高い実力派だ。

 9月のガラ・コンサートを矢崎さんが振るとの情報に接した時は、その人選にちょっと驚くと同時に「岡山フィルも気合が入っとるなあ・・・」と感じた。


 よく海外で活躍する日本人指揮者を「世界的指揮者」などと形容されるが、この著書を読んでみると、フランス・オーストリア・イギリスなどのヨーロッパを中心に、中近東から東南アジア、北米南米に至るまで、まさにこれこそが「世界的指揮者」と言えるキャリアを重ねられている。

 読んでみてもっとも印象深いのは、その文章の美しさだ。矢崎さんが赴いた土地土地の情景描写は、まるで美術館に展示している風景画に対峙したときのように、読者の空想をかき立てる。

 世界各国でのエピソードは本当に面白く、情景描写の美しさだけでなく、ユーモアにも溢れている。

 あるとき、飛行機の機器トラブルで胴体着陸するという絶体絶命のピンチを迎え、無事着陸に成功するくだりでのスチュワーデスさんとの会話。

「こんなに怖い思いをしたことはなかった」
「それはそうよ、これより怖い思いをした人は、もうこの世にいないもの」



 矢崎さんの御尊父は出版社に勤めていて、吉川英治や大佛次郎とは家族ぐるみの付き合いだったそうで、「彦太郎」の名前も大佛次郎の命名だそうだ。そういう環境が、矢崎さんの文章に骨格を形成しているのかも知れない。
 そうかと思えば、数学の研究経験を生かして、分析的な記述に唸らされる部分もある。
 経歴を見ると、上智大学理工学部数学科に入学後に中退して、なんと東京芸大の指揮科に入学するという、典型的な「何でも出来てしまう天才青年」。
 そういえば、我らが岡山フィル首席指揮者のシェレンベルガーもミュンヘン工科大学の数学科出身でもあった。音楽と数学は、遠いように見えてじつは切っても切り離せない関係にある故かも知れない。

 ガラ・コンサートに登場するソリストとの共通点もある。矢崎さんはウィーン、ローザンヌ、ロンドン、パリなどに居住されていたそうだが、森野美咲さんはウィーン在住、福田廉之助くんはローザンヌ音楽院在学(住んでいるのはローザンヌから少し離れたシオンという街のようだ)ということで、休憩時間にはそれぞれの街の話題に花が咲くのだろう。

 冒頭では「フランス音楽のスペシャリスト」と書いたが、00年代の東京シティ・フィルでの仕事(ドイツ音楽の飯守泰次郎、フランス音楽の矢崎彦太郎、という2毎看板で話題だった)からそういう印象を持っていたが、レパートリーは幅広い。このガラ・コンサートのみどころはソリストのみにあらず。矢崎さんのタクトにも注目だ。

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