SSブログ

2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その4 劇場の概要と計画) [芸術創造劇場]

 2023年夏に開館する岡山芸術創造劇場について考えるシリーズ。第1回では立地の問題を指摘、第2回〜第3回では、この最悪とも思える場所に、なぜ建設されたのか?という謎について、1995年に岡山の財官学の総力を結集して提言された「人と緑の都心1kmスクエア構想」にあることに触れた。
 今回は、劇場のスペックや長期計画について見ていこうと思う。
 第1回でも触れたが、この劇場の最有力候補地はオリエント美術館と県立美術館に挟まれた、岡山カルチャーゾーンの中核エリアとも言える天神町だった。では、この場所はどうなったのか(岡山には知らぬ人はいないとは思うが)。
 この土地の再開発は、「岡山カルチャーゾーンにふさわしい施設」という条件が付されたコンペ方式で決定され、現代アートの美術館を中心とした提案を抑えて、山陽放送の新社屋:イノベーティブメディアセンターに決定し、すでに竣工式を終えている。
 重要なのは、この中に全天候型の能楽堂:Tenjin9が設置されたこと。
 中核都市・後発政令市のなかで、
 ・クラシック音楽に対応した大ホール
 ・オペラやミュージカルなど舞台芸術に対応した大ホール
 ・演劇などに対応した中ホール
 ・小規模な公演に対応した小ホール
 ・全天候型の邦楽堂
 この5点セットすべてが都心部に立地しているのは金沢市(石川県立音楽堂・邦楽堂・文化ホールなど)と岡山市ぐらいではないか?近隣の大都市を見ても、広島市・神戸市ですらすべてを揃えてはいない。
 地図で見ると、Tenjin9(能楽堂:可動250席)→県立美術館ホール(固定212席)→オリエント美術館中央ホール(可動約200席)→岡山シンフォニーホール(固定2000席)、イベントホール(可動約200席)、ルネスホール(可動約300席)→岡山芸術創造劇場大劇場(固定約1750席)→中劇場(固定800席)→小劇場(可動300席)
 これらがベルト状に並んでいる。これは400年の伝統がある岡山城の城下町とエリアと完全に重なるのだ。
geijyutusouzougekijyou chizu.png
 芸術創造劇場単体で見れば「なんであんなところに建てたのか?」という疑問が生じるが、江戸時代以来の岡山城下町という時間のレイヤーを紐解いていくと、この場所に立地した意義はあるように思う。
 ここで、この岡山芸術創造劇場がどんな劇場をめざしているのかについて知るために、岡山市が策定した「基本計画」を見てみよう。
 岡山芸術創造劇場は、岡山市民会館(1963年開館)と岡山市民文化ホール(1976年開館)の設備の老朽化・バリアフリー化・耐震化への対応が難しく、また両施設を統合し、創造支援機能を備えた「創造型劇場」へと発展させるために企画された。

 従来の貸館事業主体の運営から脱却し、
■「魅せる」をテーマにした鑑賞・普及事業
■「集う」をテーマにした交流・情報・施設提供事業
■「つくる」をテーマにした創造・育成・連携継承事業
 この3つのテーマを軸に事業を展開していくことになっている。

3つの分類.png
 
 ハード施設としては、
■大劇場(1750席)
1大劇場.png
■中劇場(800席)
2中劇場.png
■小劇場(300席)
3小劇場.png
 ほかに大練習室、中練習室(7室)、小練習室(3室)、舞台衣装やセットなどを制作するための制作工房(3室)などを備えている。
 また、共有スペースが充実していることも特徴の一つで、情報・展示ギャラリーやオープンロビー、屋外の賑わいスペースなどを備える。
7賑わいスペース2.png
6賑わいスペース1.png
5オープンロビー.png
4情報・展示ギャラリー.png
 大ホールはプロセニアム形式で、岡山シンフォニーホールとの棲み分けを明確にするため、反響板を設置しないとしている。ホールの残響は1.2〜1.4秒でオーケストラ公演はもちろん、オペラ公演を想定してもかなりデッドな音響で、オペラなどの生オーケストラの劇伴付きの公演よりも、肉声主体の演劇公演の方に振れた設計になっている。
 舞台の設計については、三面または四面舞台には対応しておらず、例えば新国立劇場、びわ湖ホール、兵庫PACなどとの共通プロダクションによるオペラには対応出来ないと思われ、『中四国地方の拠点劇場』というのはちょっと誇大広告かなと思う。もっとも舞台機構を大掛かりにすれば保守・管理費用も増大するので、妥当な判断かもしれない。
 岡山市民会館や岡山シンフォニーホールの欠陥であった、機材の搬入利便性はかなり検討されたようで、搬入・荷解スペースを広く取り、大劇場・中劇場舞台裏に付けられる11tトラック2台分の搬入ヤードを整備。ガルウィング車両にハイキューブ型のトレーラーにも対応している。搬入利便性の改善によって、従来、倉敷市民会館に逃げていた公演を確保出来る可能性が広がった。

 岡山芸術創造劇場の将来展望については、『「魅せる」「集う」「つくる」を実現するための事業方針』が出されている。

■開館前計画
・劇場開館後のイメージを伝えるためのプレ事業の展開
・普及・育成事業、情報事業、地域との連携事業は早期に取り組みを開始
・開館に必要な人材確保や育成

■初期計画(R5〜R6年度)
・事業計画の7つに分類した事業を総合的に展開し劇場の礎をつくる
・鑑賞事業や創造事業、交流事業などの充実により文化芸術活動の拠点施設としての内外の認知度を高める
・文化芸術活動に触れる機会の少なかった市民へも関心の裾野を広げていくための普及事業、育成事業の推進

■中期計画
・プレ事業からの蓄積を生かして、開館効果が落ち着いたあとの「魅せる」「集う」「つくる」のコンセプトを実現する各事業のスタート
・地域の文化芸術人材や連携団体・機関の情報を束ね、人的繋がりの結節点にする。

■長期計画
・R9年度に「劇場・音楽堂等機能強化総合支援」施設(※)として採択されることを目標とし、市民が文化芸術へ親しむ機会の増加や人材育成、心の豊かさや想像力の醸成などへの効果を発揮する
・更なるデジタル社会への対応
 気になったのは、長期計画にある「劇場・音楽堂等機能強化総合支援施設」というワードだった。
 調べてみると、この劇場の命運を左右する重大な問題が解ってきた。また、創造型事業の主要コンテンツとなる演劇公演の集客力は、はたして千日前地区や表町の賑わいを取り戻す役割を果たせるのか?についても次々回以降に考えていきたい。
 次回は、山陽道の同規模の都市、岡山とは池田家との縁も深い姫路に新しく開館するホールについて見ていくことで、岡山芸術創造劇場との対比も行っていきたい。
(次回へつづく)

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。