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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その2:オーケストラは国民的娯楽!?) [オーケストラ研究]

  今回は第2回ということで「オーケストラ鑑賞は国民的娯楽!?」と題して、国内のオーケストラ業界全体の集客状況を中心に見ていきます。

これまでの記事


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 日本オーケストラ連盟加入団体の経営数値を見ていった際に一番驚いたのが、オーケストラ鑑賞人口の意外なパイの大きさと推移。加盟団体の集計値によるとオーケストラ鑑賞人口は2006年では約360万人だったものが、2015年には423万人に増加しているのだ。

 これを他の娯楽と比較してみると・・・

2015年の観客動員比較
プロ野球(全体) 2423万人
 セ・リーグ   1351万人
 パ・リーグ   1072万人
J1リーグ     544万人
オーケストラ    423万人
J2リーグ     316万人
Vリーグ女子    33万人

 昭和時代からの国民的娯楽のプロ野球には及ばなかったが、ファジアーノ岡山も所属するJ2リーグの観客動員数を軽く凌駕し、J1リーグの動員数に迫りつつある莫大な入場者数を、オーケストラは動員している。
オケ連加盟団体だけでこの数字で、他にも水戸室内管や神戸市室内管のような非加盟団体や、大晦日恒例のコバケンさんのベートーヴェン交響曲全曲演奏会や、いずみシンフォニエッタなど、その時だけ集まってくるオーケストラの観客はここには含まれていない。海外オーケストラの日本公演も100万人を超えるボリュームがありそう。これらを合わせるとJ1の観客動員数の550万人を超えるかもしれない。
 ついでに言うと「クラシック音楽」という括りだと、ピアノ、ヴァイオリンをはじめとした器楽独奏や室内楽だけでもオーケストラに匹敵する動員がありそう。オペラなども合わせるとクラシック音楽の観客人口は1000万人を突破するかもしれない。
 もちろん、この数字の中には学校を対象とした音楽鑑賞教室や、ポピュラー音楽のアーティストとの共演など、クロスオーバー的なコンサートも含まれるが、これほどの人口がオーケストラやクラシック音楽の「生演奏」に接している事実を前にすると、オーケストラが「国民的娯楽」といってもいいと思う。

 以前、拙ブログでも取り上げたが、韓国の中央日報「プロオケ32楽団、聴衆400万…欧州も凌駕する"ジャパン・パワー"」という記事が、日本のオーケストラの観客動員の多さを『欧州も凌駕する』という最大の賛辞をもって報じていた。

 国内のクラシック音楽の雑誌や関連サイトを見ると、『クラシック音楽は少数者の趣味』という前提に立った記述が多くみられるが、実はそれは思い込みに過ぎない可能性があるのだ。

 岡山フィルをはじめオーケストラで都市の文化芸術の振興を行おうとしている自治体関係者は、この「全国で400万人の動員力」という事実を前面に打ち出してほしい。

 ちなみに、音楽趣味の世界でいえば、FUJI ROCK やSUMMER SONICなど、いわゆる8大夏フェス(野外コンサート)が、のべ20日間のイベントだけで88万人も動員するという・・・(2016年データ)、ポピュラー音楽界の観客動員数は、それこそ年間で数億人億単位であろう。「音楽を趣味とする人々」自体が莫大なボリュームがあり、オーケストラの観客動員数がその莫大なボリュームの中で霞んでしまう、というのはあるかもしれないが、オーケストラのもつ400万人を超える動員というのは評価されるべきだと思う。
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 しかし、喜んでばかりは居られない。

 「そうは言っても周りでオーケストラを聴きに行くのは少数派、としか感じられないなあ・・・」、特に私のように地方都市でこの趣味を嗜んでいると、これが実感だろう。

 コンサート情報のフリーペーパーである、「ぶらあぼ」誌を見ると、掲載されているのはほとんどが東京圏での公演で、地方都市の公演は月に数えるほどしかない。

 実際にデータを調べてみると想像以上の結果が出た。
4総入場者数と人口の対比.JPG

 上の二重円グラフ、内側は実際の各地方の人口分布を表しており、外側はオーケストラの観客動員を表している。

 南関東(東京、神奈川、埼玉、千葉)のえげつないほどの寡占状況がわかる。人口にしてほぼ29%ほどの南関東が、オーケストラの総入場者数では54%を占めている。正確に言えば、2015年度の1年間に日本オーケストラ連盟に加盟するオーケストラを聴いた人のうち、「半分以上が南関東に本拠を置くオーケストラを聴いている」ことになる。

 一方で近畿(2府4県)も意外に検討している。人口比では16%であるが、オーケストラの総入場者数では22%を占めている。
 他の地方はおしなべて人口比を下回ってる。経済の活況が著しい名古屋を抱える東海地方を見ても、これまた意外にも人口比の半分程度の動員しかない。
 南関東と近畿をあわせると、全体の3/4を占めることとなり、これでは「オーケストラ鑑賞は国民的娯楽」といっていいのは南関東と近畿のみであり、今後、オーケストラ鑑賞が真に「国民的娯楽」となるには、いっそう地方でのすそ野の拡大が図られる必要がある。

 次は第1回目の記事でも取り上げた、事業規模(総収入額)/総入場者数の散布図である。
3事業規模 総入場者数.JPG

 両者には一定の相関関係がみられ、事業総収入(事業規模)=いわば企業で言えば「年商」が多額になれば事業規模が大きくなり、観客動員も増えることは第1回でも述べた。

 この散布図から、事業規模別にオーケストラを分類してみよう。

① 御三家型4管編成オケ:事業規模・総入場者数ともに別格に大きな(4管編成)オーケストラ。
② 業界牽引型4管編成オケ:年商も総入場者数も大規模で日本を代表する大型(4管編成)オーケストラ。
③ 100万都市型3管編成オケ:年商10億円を超え、10万人台後半の動員力がある大型(3管編成)オーケストラ。いわゆる「100万都市」に本拠を持つ。
④ 地方都市型2管編成オケ:年商数億円かつ数万人の動員のある中小規模(2管編成)のオーケストラ。
⑤ 非常設オーケストラ:日本オーケストラ連盟の正会員の基準を満たさないオーケストラ
 この5つに分類に実際のオーケストラを当てはめてみよう。

① 御三家型超4管編成オケ:N響、読響、都響
② 業界牽引型4管編成オケ:東フィル、日本フィル、東響
③ 政令指定都市型3管編成オケ:京響、名フィル、新日本フィル、札響、仙台フィル
④ 地方都市型2管編成オケ:群響、九響、OEK、広響、日本センチュリー、兵庫PAC、
 関西フィル、大阪響、山形響
⑤非常設オーケストラ:千葉響、静岡響、中部フィル、京都フィル、テレマン室内、
 岡山フィル、瀬戸フィル

 4管編成というのは、弦楽器だけで50人、管楽器が各パート4本を基本単位とする編成で、総勢100人前後の編成。バロック・古典から後期ロマン派・現代曲の巨大編成までオーケストラの楽曲のほとんどをレパートリーとする。欧米の名門オーケストラはこの編成のうえに交代で休暇が取れるように130人以上の奏者を擁している。
 3管編成は、管楽器が各パート3本を基本単位とする編成で、80人前後の奏者で編成される。オーケストラ楽曲の大部分はカバーできるが、19世紀末以降の大編成を要する楽曲はカバーできない。
 2管編成は、管楽器が各パート2本を基本単位とする編成で、40人~60ぐらいの奏者(弦楽器の規模により増減)で編成される。バロック・古典派を中心に、ブラームス・ドヴォルザークなどロマン派中期までのシンフォニーの演奏の際に採用される。

 編成が大きくなると、当然人件費も高くなる。つまり、総収入額(事業規模)と需要の大きさ(総入場者数)のサイズが、その都市のオーケストラの編成を決定する、といってもいいだろう。その観点から本シリーズ記事では総収入額(事業規模)と総入場者数の散布図を重視している。

 上の散布図「事業総収入/総入場者数」を見ても東京のオーケストラの優位性は圧倒的なもので、それに対抗しうる印象だった関西地区では、オーケストラ単体では業界牽引型の完全な4管編成に分類されるオーケストラは皆無。京響が準・4管編成で政令指定都市型の雄、といったところ。大フィルは表向きは3管編成だが事業規模では地方都市型2管編成の規模でしかない。関西は政令指定都市型の京響を筆頭に、中規模オケがひしめく団子状態、ということが言える。

 次回は、私もお世話になっている関西のオーケストラの観客動員について見てみます。


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伊閣蝶

オーケストラの鑑賞人口が423万人とは、正直にいって驚きました。
コンサートに出かけることなく自宅などでCDやレコードを聴いているファンも相当数いることでしょうから、総数はかなりの数になるのかもしれません。
私は、クラシックファンなんてせいぜい人口の1%程度なんだろうと思っていましたから、何だか気持が明るくなりました。

by 伊閣蝶 (2017-11-06 22:41) 

ヒロノミン

>伊閣蝶さん
 定期演奏会などの純粋なコンサートはこの何分の1になるとは思いますが、例えばNHKの「クラシック音楽館」は3%弱の視聴率があるそうですので、360万人の人が見ていることになり、そう考えると納得性の高い数字だと感じます。
 次回は関西のオーケストラの集客分析を予定していますが、やり方によってはまだまだ集客が伸びる余地はありそうです。
by ヒロノミン (2017-11-07 23:30) 

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