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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その1:岡山フィルの現在のポジション) [オーケストラ研究]

 「国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究」と題したシリーズ記事、今回は第1回として国内オーケストラの中での岡山フィルのポジションを見ていきます。
これまでの記事
DSC01515.JPG
 今年の6月に、岡山フィルも晴れて加入した「日本オーケストラ連盟」のホームページには、楽団の収支や入場者数・公演数などの経営指標が年度別に公表されている。そして、公益財団法人に属する岡山フィルも実績報告と会計資料が公開されているため、同一項目の数値を集計して比較することで、全国の加盟オーケストラの中での岡山フィルのポジションを把握することが可能です。
 今回のデータ集計については、記事作成時点で把握できる最新データとして、連盟加盟オーケストラについては2015年のものを、岡山フィルについては2016年のものを使用して比較研究を行った。元は、今年の夏ごろに某SNSにて「日本オーケストラ連盟の公表数字を分析する」という題名で連載したものを、「岡山フィルの将来展望」という要素から再構成しています。 
 公表されている様々な数値の中から、今回はオーケストラの活動規模を把握するため、y軸に「事業総収入額」をx軸に「総入場者数」を設定し散布図に表したものが次のグラフ。
3事業規模 総入場者数.JPG
 事業総収入(事業規模)/総入場者数の散布図
 このグラフから事業規模(=事業総収入額)と総入場者数の間には強い相関関係がみられ、回帰直線よりも左上側に位置するオーケストラは総入場者数の割に事業規模が大きいことを表し、回帰直線より左下に位置するオーケストラは事業規模の割に総入場者数が多いということになる。
 これを見ると、やはりN響・読響・都響といういわゆる「御三家」と言われるトップオーケストラは事業規模が大きい、それに次ぐ東京フィルも都響に迫る事業規模であるが、「御三家」に比べると倍以上の入場者を集めてようやく現在の地位を維持している、とも言える。
 次に、事業規模10億円あたりに固まっているのが京響・名フィル・仙フィル・札響などの大都市にあるオーケストラ。かつては「100万都市」と言われた頃の政令指定都市ばかりで、3~4管編成(オーケストラの大部分のレパートリーをカバーできる編成)のオーケストラである。オーケストラの総収入額の原資には①チケット代収入(依頼演奏出演料含む)と②公的補助、③民間補助の3種類があるが、「100万都市」には10億円ぐらいの事業規模を支えるだけの聴衆や自治体の支援、民間の支援が得られる、ということなのだろう。
 その次に広響・群響・センチュリー・大フィルが7~8億円規模に位置する。センチュリーは小規模オーケストラなので不思議はないが、大フィルがこの位置にいるのは意外。調べてみると2008年頃には10億円の事業規模を有していたが、自治体からの支援が一気に0になったことで経営バランスが崩れ、現在では地方の中規模都市のオーケストラの地位に甘んじている。大フィルについては回を改めて分析してみようと思う。
 さて、我らが岡山フィルのポジションは?というと、左下に沢山の点があるうちの一つになる。東京の「御三家」オーケストラから見ると、これほどちっぽけな事業規模なのか!?と驚きを隠せない。
 岡山フィルだけでなく、事業規模7億円を下回るオーケストラはいずれも回帰線の右下に位置しており、事業規模2億円未満で入場者数数万人の事業を展開しているが、回帰線を下回る状況というのは入場者数の割に事業規模が小さいことを表しており、経営環境の厳しさが見て取れる。
 次に日本オーケストラ連盟に「準会員」として加盟しているオーケストラ、つまり「常設ではないオーケストラ」を抽出して散布図を見てみよう。
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 事業総収入(事業規模)/総入場者数の散布図(準会員オーケストラ抜粋)
 準会員オーケストラの中でも岡山フィルのポジションは平均以下の位置にいるが、ここ数年で加盟した瀬戸フィル・奈良フィル・静響の中と比較すると、事業規模・総入場者数ともに岡山フィルが上回っている。また、15~20人規模の京都フィルやテレマン室内管弦楽団は、プロの楽団として高い評価を得ており、需要の大きい大都市圏であれば、小編成オーケストラが生き残れるニッチな市場が存在することを表している。。
 岡山フィルは現状でも10型2管編成の規模であり、楽団・聴衆・市当局ともにベートーヴェンやブラームスを過不足なく演奏できるこのサイズのオーケストラを望んでいる感じがある、そうなると現在の事業規模では非常設オーケストラはおろか、年間8回程度の定期演奏会の開催も難しい。実際に、山陽新聞の記事に掲載された事務局長さんの話では、現在の収入額では年に4回の定期演奏会が限界とのこと。
 こうして全国のオーケストラと比較してみると、現在の岡山フィルのポジションからから発展させて「都市格を向上させるオーケストラ」に育てていくのが、どれほど至難の業であることかがおわかり頂けるだろう。
 しかし、今の岡山フィルには強力な財産がある。こんなちっぽけなポジションにいるオーケストラを、シェレンベルガーという世界一を知る人物が関わってくださり、ドイツの堂々たる3管編成のオーケストラ(上の一つ目のグラフで言えば上位に位置するオーケストラ)でコンサートマスターの地位にあった高畑さんが、首席コンサートマスターに就任した。これらがどれほど奇跡的なことであるかも、一層浮き彫りになったと思う。
 次回は、オーケストラ業界そのものの現状について、データから読み解いてみようと思います。

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