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岡山フィル第46回定期演奏会 シェレンベルガー指揮 ピアノ独奏:田村響 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第46回定期演奏会 「ニュー・イヤー・コンサート」

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」
ドヴォルジャーク/交響曲第9番ホ短調「新世界より」

指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ピアノ独奏:田村響

2015年1月24日 岡山シンフォニーホール

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 前半のベートーヴェンの『皇帝』協奏曲は、田村さんのプラチナのような輝きと煌めきに眩暈がしそうになったし、そのソリストに着ける伴奏も素晴らしかった。あの第2楽章の瞑想的な世界は、『これならブルックナーも行けるゾ!』と個人的に手ごたえ(?)を感じたアダージョ。

 後半は一転して肉食系の演奏で、燃えたぎる情熱の炎がステージ上でボウボウと燃えているよう。年末の第九に対して、年始に新世界を演奏する慣習が定着している日本のオーケストラ界において、今月、これほど燃焼度の高い演奏はこの岡フィルにおいて他には存在しないのではないかと思います。
 しかし情熱な一方で颯爽と風が吹き抜けるような爽快さが両立する、胸のすくような新世界よりでした。

 シェレンベルガー氏とオーケストラの雰囲気も非常に良好、先日の第九の獰猛とも言える激しい演奏を経て、両者の関係は共に高みを目指す同士として結束が固くなった感じがします。その両者の「表現」というよりは「創造」と言った方が適切だと思う、その場に聴衆として立ち会える幸せ。岡山でコンサート通いを趣味とする私の人生においてこれほど幸福な時間が訪れようとは・・・
 本日はコンサートにご一緒した仲間と美酒に酔いしれてしまい更新する時間が取れませんので、明日以降追記します。

(1月25日追記)

 会場は8割程度の入りですかね。う~ん、出来れば満員で迎えたかったですね。それでも1600人は集まっているのだから大したものですけどね。
 自分がそうだからかもしれませんが、開演前からホール中に期待感と熱気が充満しているように感じます。
 
 配置は12型の通常配置。1vnが12-2vnが10-Vaが8-アウト側にVCが6、その後方にコントラバスが4本です。雛段は中央に木管陣、上手にトロンボーンとトランペット、下手にホルンが配置しています。

 皇帝の冒頭から、オケがやはりエエ音だしてまんな~。ちょっとノンビブラートぎみにピュアなすっきりとした見通しの良いサウンドが響き、それに対してピアノが輝かしく入ってくる場面。シェレンベルガー&岡山フィルの演奏は、聴くたびに特に内声部がどんどん充実しているように思います。本当に色々な音が鳴っていてこんなに面白い曲だったのか、という驚きがそこかしこに存在する。
 
 第1楽章のピアノのカデンツァに入る手前の、ターンタターンとオーケストラとピアノが何度も対話する場面、第1楽章で最も高揚するところですが、以前の岡山フィルなら大きな音を出そうとエッサエッサと力ずくで鳴らそうとして、結局鳴り切らない・・・ということになりかねないところだったんですけど、バルコニー席から見ていても、奏者の(特に弦パートの)皆さんが肩の力が抜けて、それでいて豊かな響きがホールの隅々にまで満ち足りていました。
 
 第2楽章の細心の注意を払った幻想的な演奏も田村さんのピアノの粒の立ったキラキラした音色に溶け合っていたし、弦楽器と木管楽器の神秘的・瞑想的なハーモニーは、これならブルックナーの緩徐楽章を演奏してもかなりいい線を行くんではないかと思います(シェレンベルガーさん、お願い!岡山フィルでブルックナーやって!)。
 
 田村さんの演奏は、ポーカーフェイスという表現が適切かどうかわかりませんが、体を大きく動かしたり、ということはほとんどさえない。音楽そのものには全く硬さがありませんでしたが、第1楽章の冒頭ではじっと鍵盤を見詰めながら集中する様子は静かな気迫を感じました。先日の松本和将さんといい、今回の田村響さんといい、ベートーヴェンのピアノを演奏するというのは並々ならぬ覚悟は必要ということでしょうか。
 ピアノ演奏の技術的なことについて私のような素人があーだこーだ書くのははばかられるのですが、席から拝見する田村さんの演奏の立ち居振る舞いを見ると、強い音を出すから強く叩いたり、弱い音を出すためにそっと押したりするわけじゃなく、鍵盤に指が吸いつくと言うか、常に正しい姿勢の状態で人形を操るような感じに見えます。
 その田村さんでさえもリズムに乗って体を動かしてしまう第3楽章は、スイングに満ちた演奏でした。指揮者と目が合った奏者がかすかに笑みを浮かべる光景は、本当に指揮者・ソリスト・奏者のハニームーンを見せつけられているよう。本当に充実したコンチェルトでした。
 
 アンコールは華麗なる大円舞曲の第1番。ふつうアンコールではやらない大曲ですが、ベートーヴェンとは打って変わって、どこまでもロマンティックなショパンに会場は沸き返りました。
 
 一つ苦言を呈させてもらえるなら、田村さんのあの髪型(というか髪の色!)これは田村さんの実直なピアにズムには似合っていないんじゃないかな。ただ、こういう芸事を生業としている限り、目立ってなんぼということもあるから、外野の人間が何ともいうこともないんですが・・・

 さて、後半のドヴォルザークの「新世界より」。実演に接するのは、もう何回になるんやろう・・・30回ぐらいは聴いているような気がします。
 岡山フィルでは2年半前に定期演奏会で聴いています(指揮は金聖響)が、この日の演奏は本当に聴いて良かった!岡山のクラシック音楽ファンなら例え耳タコのプログラムでも、いや、いろんなオケで何度も聞いている曲だからこそ、シェレンベルガー&岡山フィルの現在の立ち位置が実感できる演奏になったと思います。
 2年半前と同様に快速テンポでしたが、全くアンサンブルに隙のない引き締まった演奏です。指揮者の意図を充分に汲んで、シェレンベルガーが「チョン」とタクトの先を動かすだけで、ニュアンスが一変する。腕をサッと振り上げるだけで、オーケストラから風のように音が運ばれてくる。

 この演奏は2年半前とは全く別のオケです。第3~4楽章なんてかなりオーケストラを「追いこんで」速いテンポを指示しているように見えるんだけれども、おそらくオケの方がシェレンベルガー氏の意図するところを汲み取っているからでしょう、オーケストラはそれに楽しんで答えているように見えました。

 ただ、一つ苦言があるとすれば、局の冒頭のヴィオラとチェロのピアニッシモで奏でられるところが、ピッチが多少不安定に感じられたこと。第2楽章のピアニッシモの繊細な部分なんかは本当に見事な演奏だっただけに、あそこだけはもったいなかったなあと思います。
 
 シェレンベルガー氏の解釈で印象に残ったのは、前回の第九の時にも感じたことなんですが、その曲の鼓動が聞こえてくるんです。曲の流れを重視しながら微妙なアクセントの出し入れがあって、それが生き生きとした生命力と躍動感の源になっているのでしょう。
 第3楽章の黒人霊歌調のメロディーで奏でられるトリオも、今まで聴いたことが無いような新鮮なリズムと響き、しかも不自然なところが全くなくて「これがドヴォルザークの最終回答」と思える自然な流れがある。
 
 第4楽章は人口に膾炙したメロディーが惜しげもなく投入されますが、そのメロディー一つ一つの取り扱いが絶妙なんですね。男性的で英雄的なな第1主題。女性的な第2主題。この楽章はこの2つの主題の複合的変奏曲やったんやなあと、再認識。背筋が伸びるようなきびきびと描かれる男性的な第1主題に対し、母親の子守唄を聴くような第2主題、といったように、この2つの主題のキャラクターの対比を際立たせることによって、この曲の奥深さを改めて実感しました。
 オケのどのパートも快調だったこの日の演奏ですが、イングリッシュホルンの沼さんと、トランペット隊の健闘が光りました。どちらも岡山フィルの団員さんの奮闘で、特にトランペットの高見さんは、いい方が加入したなと思います。
 
 アンコールはドヴォルザークのスラブ舞曲作品72の2でクールダウンしてから、ラデツキー行進曲でニューイヤーコンサートの祝祭的なしめくくり。シェレンベルガー氏も満面の笑顔、オーケストラに投げキッスをしながらの退場でした。
 
 10月、12月、そして1月という、この4カ月で3回のシェレンベルガーとの日々は、いったんここで休止。半年後には豪華共演が待っています。
 
 何度も書きますが、出来れば次回は満席でその瞬間を迎えたいですね。岡山の人にとっては「シェレンベルガーと岡山フィル?まあ、こないだも聴いたしな・・・」という反応があるのかも知れません。
 
 しかし、京阪神や首都圏のオーケストラはもとより、金沢や山形のように岡山よりも都市規模が小さい街でも、当たり前のように毎月プロのオーケストラの定期演奏会を聴くことが出来ます。それが音楽文化の成熟した都市としての日常の光景なんです。
 そういう意味で、今は岡山フィルを中心に、岡山に本物のオーケストラ文化(そしてそれはオーケストラ愛好家だけでなく、岡山のメインカルチャーを支える基盤)が育つかどうかの試金石になる時期に差し掛かっています。
 シェレンベルガー&岡山フィルを聴いたことがある人なら、このコンビの充実した演奏を体感しているはず。音楽文化の成熟した都市の市民として、今こそ『我が街のオーケストラ・・・・岡山フィル』の演奏が日常的に聴けるように、応援の意味でも毎回会場に足を運びませんか。
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