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大阪フィルの首席指揮者に、井上道義氏 [クラシック全般]

 今期の大フィルのプログラムが発表になった時に、『これは実質的に、首席客演指揮者:井上道義やな~』と思っていましたが、やはりそうきたか、という感じです。

 おそらく去年のこれぐらいの時期から、既に内定済みの人事だったのでしょう。他にも何人か候補がいらっしゃったかもしれませんが、指揮者としての類稀なる実力のほかに、集客力・行動力・統率力・企画力などなど、すべてにわたってバランス良く兼ね備えている方は、この人しか居ないと思っていました。

 音楽監督や常任指揮者ではなく、『首席指揮者』というポストに落ち着いたのは色々と事情がありそうです。まず、国内では既にオーケストラアンサンブル金沢の音楽監督を務めてらっしゃいますので、そのことへの敬意・気遣いといった部分もあるでしょう。

 僕が一番気になっていたのは、前任の大植氏が「若い方にバトンタッチして・・・」という退任のあいさつを述べられていたことです。大植さんの想いとしては、朝比奈さんの音楽を引き継いで長期政権を任せられる人に・・・ということだったのだと思いますが、大阪府・市の補助金廃止・削減に端を発する財政上の問題に始まり、フェスティバル・ホールへの本拠地移行(大阪市の「文化助成のあり方検討会議」からの強い意向があったと聞きます)、在阪支援企業の業績悪化による民間資金の低迷、などなど、あまりにも経営環境が厳しい。
 経営的な異常事態を乗り切る、その責任の所在を明確にするために(具体的には事務局が全責任を負うために)音楽監督・常任指揮者は一時的に封印されたのだと思います。そしてまずは3年の期間を区切って、井上氏とともにハードランディングで着地点を探していく。根強いファンが付いている大植氏の力も発揮してもらう、とにかく正念場の3年になるのは間違いないでしょう。

 これが成功するかどうかは、僕個人の想いとしては古くからの大フィル・ファンにかかっていると思います。井上氏のレパートリーとしては、ベートーヴェン・ブラームス・ブルックナーも中核を担っていて、今年も京響でブルックナーの8番を振って関西の聴衆の反応を試しているあたり、周到に準備なさっているのだとおもいますが、僕は近現代を中心に様々なジャンルの楽曲を広くカバーできるのが井上氏の強みだと思っています。ならば朝比奈時代のレパートリーばかりに囚われてしまっては勿体ない。
 大植氏の時代には、朝比奈隆の3Bのレパートリーの呪縛に縛られ、一部の古参の取り巻きの中には大植氏のマーラーやR.シュトラウスをはじめとする後期ロマン派の伝説的な名演を前向きに評価せず、やれブルックナーはどうだ、やれベートーベンはどうだ、とそのことばかりに囚われていたように思います。大植さんのブルックナー演奏にしても、どれほど高次元の演奏に達したかは、CDやDVDで確認できますので、今更僕がここで力説する必要もないでしょう。しかし、朝比奈御大の演奏とは違う、そのことだけに拘って大局を見なかったのは、ファンよりもむしろ評論家や音楽関係者などで顕著だったかも知れません。私はどの評論家がどのように悪意に満ちた、それこそ演奏の内容以外の部分でいわれのない陰湿な批評を繰り広げたか、鮮烈に記憶しています。

 井上氏の時代に入ったからには、そういった人たちはアレコレ言わないで欲しい。井上道義首席、大植桂冠、そして定期演奏会に名を連ねる指揮者陣、そうした大フィルのリソースを最大限生かす環境づくりをして欲しいと思います。大フィルが倒れたら関西のクラシック音楽界は終わり・・・とまではいかないまでも、普通の地方都市並になってしまいますから。

 ともあれ、井上道義さんには期待しています!


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珍言亭ムジクス

これは大きなニュースですね。大阪遠征の機会が増えるかもしれません。
大阪に4つもプロオケが必要かという問いかけが常にある現状で、老舗の大フィルが井上道義氏を迎えるには大きな決断があったと思います。
ご指摘のように集客と朝比奈神話と政治の壁に取り囲まれている中で、そこを突破するには指揮者としての実力だけではなく自己主張と行動力のある人が求められるのであり、そういう点で井上氏が選ばれたのだろうと想像します。
突破力が期待されるということは、同時に経営陣に対しても厳しい主張をするはずであり、選んだ側にそれを受け止める覚悟があるのか、そこが肝心だと思います。

会場については、どう考えたらいいのでしょう。定期演奏会がフェスティバルホールであれば、せめて名曲シリーズのようなものをシンフォニーホールのほうで、という考えが誰にでも浮かぶと思います。そうなると定期ではこれまで以上に有名曲を取上げなくてよくなり、井上氏は近現代を中心に面白そうなプログラムが組めます。
しかし、そのことはフェスティバルホールでの集客を厳しくすることになりそうです。シンフォニーホールとの関係がこのままなくなるのも問題ですし、なんとも痛し痒しです。
お気楽に「ショスタコーヴィチ・シリーズをやってくれないか」なんて言っていられる状況ではないのでしょう。近々発表されるであろう来シーズンのプログラムに例年以上の期待が寄せられるでしょうし、私も注目します。(名フィルは先日の定期演奏会で来シーズンのプログラムを発表したのですが、まだHPに表示されていないので、へっぽこブログに感想記事が書けません。)

私も井上道義氏に期待します!
by 珍言亭ムジクス (2013-09-27 21:34) 

としゆき

井上道義さん、ラ・フォルジュルネをはじめ、金沢でいい仕事されてますからね。中編成のOEKと大編成の大フィルとですと、個性もちがうでしょうから、持ち味を存分に使い分けてほしいですね。
富山にいるあいだは、大阪遠征とはなかなか参りませんが、OEKでの雄姿を目に焼き付けておきたいと思います。
by としゆき (2013-09-28 00:22) 

ヒロノミンV

>珍言亭ムジクスさん
 twitterなどを見ても、井上氏の首席指揮者就任については歓迎ムード、本拠地をフェスに移すのは賛否両論という感じです。
 実は、橋下市長就任直後に組織された、文化助成のあり方検討会議で、「収容力の大きい会場に移して収益を向上させる経営努力をすべき」という方針が出されています。
 音楽ファン・関係者であれば、プログラムによってはシンフォニーの方が適しているのは誰もが判断できることですが、ゼニカネの事を最優先にする、あの市長が連れて来た専門家は、キャパのでかいホールに移って収益改善しろと言っているわけですが、集客的にもプログラミングの面でも至難の業です。
 しかし、大幅に削られたとは言え、市から補助金を貰っている以上は、事務局さんも口答えできないでしょう。だから大阪のファンが事務局さんに文句を言うのは筋違いなんですよ。「現場の事も考えずに、市の委員会が押し付けた」なんて絶対に反論できない立場上な訳ですから。それにファンもこれまでパブリックコメントなど、市長に対して意見表明する機会はあったわけですから、そこで意見を言うべきだった。あるいは今後の選挙では落とす、そういうふうにしないと色々と浮かばれません。

 ともかく、井上&大フィルは5400人のキャパを埋め続けるという、前代未聞の大博打へと船をこぎだすことになります。
 もし成功しても「橋下市長の改革の成果」とされるし、失敗したら「事務局の経営責任」におっかぶせる。とにかく狡猾ですね。その際に井上氏に累が及ばないように、「首席指揮者」ポストにしたのだと思います。センチュリーの際、小泉和裕氏が火だるま状態になったのを踏まえての教訓でしょうね。
 遠方ではなかなか難しいですが、引き続き大フィルのコンサートに出来るだけ駆けつけたいなと思います。
by ヒロノミンV (2013-09-28 01:44) 

ヒロノミンV

>としゆきさん
 井上氏は言いたいことをはっきりと意見をする方と思います。京響を辞任した際も自分の主張は曲げなかったと聞いています。
 OEKにしても岩城宏之という絶対的な存在の創業者の跡取りになったわけですが、石川県のように、こうした音楽家に敬意を表し、実現に向かって一体となって最大限努力する姿勢があれば、あのように活性化できるのだと思います。
 そういえば、今年は共演予定だった海外の某オーケストラの代役として、大フィルがバートナーとなってOEKの定期に出演したり、ラ・フォル・ジュルネ金沢にも大フィルが出演したり、今から考えれば井上氏・OEK・大フィルのトライアングルが出来ていたのかもしれませんね。合同演奏なんかがあると面白いと思います。
by ヒロノミンV (2013-09-28 01:53) 

山本真治

subarashii
by 山本真治 (2013-10-01 19:53) 

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