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大阪国際フェスティバル 大植英次指揮大阪フィル マーラー『復活』 [コンサート感想]

第51回大阪国際フェスティバル

大植英次指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団
マーラー/交響曲第2番ハ短調『復活』

ソプラノ:スザンネ・ベルンホルト
アルト:アネリー・ペーポ
合唱:フェスティバルホール≪復活≫祝祭合唱団
(大阪フィルハーモニー合唱団、大阪新音フロイデ合唱団、神戸市混声合唱団、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団)
合唱指揮:本山秀樹
コンサートマスター:田野倉雅秋

 公演からちょっと時間が経過してしまいましたが、まだ興奮から醒めない感じがします。すでに色々なネットメディアで感想が飛び交っておりますが。このブログでは自分の感想に徹して書き残しておこうと思います。

 地下鉄四つ橋線の肥後橋から地上に上がると、フェスティバルタワーの威容が・・・

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 牧神のモチーフは健在、上のガラス張りの建物を無視すれば(爆)驚くほど佇まいは変わらない感じです。

 ホールの入り口も建築意匠は全く変わりましたが、佇まいは旧ホールに通じるものがある。

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 2階へ上がっていく階段も、デジャヴューを見るよう・・・

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まあ、こっから先に進むと以前とは全く違う構造体になったことを思い知らされるのですが(笑)

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ホール内部はCGなどでも見ていましたから、驚きは少なかったんですが、前の雰囲気をよく残したなあ・・・と 
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(写真は終演後に撮影)

 ホールそものもの感想については、別の機会に書きたいと思います。

 オーケストラの編成は16型4管編成の対抗配置。コントラバスは下手側。同じ下手に一列に並ぶホルン隊が印象的。
コンマスは田野倉さん。中国地方のクラシック・ファンとしては、大フィルのコンマス席に田野倉さんが座っているのが、まだ不思議な感じがします。

 金管を中心に、関西の主要楽団の腕利きが参加されており、合唱団も関西の有力4団体の精鋭ということで、オール大阪・オール関西の力を結集したコンサートの様相でした。僕の勝手な思い入れかもしれませんが、フェニーチェ歌劇場やミュンヘン・フィルの公演は『大阪でしか聞けない』というものではありません。しかし、今回のマーラー『復活』は大阪のクラシック音楽文化史の中でしか生まれ得ぬものであったという点から、新生フェスティバルホールで最初の大阪国際フェスティバルの核心の公演であったと信じています。子供のころから大阪という町の活気や雰囲気に、一種の『憧れ』をもって育ってきた筆者にとっては、『おおっ!これこそがオオサカ!』という雰囲気に包まれた至福の時間でありました。

 気になるホールの音響ですが、僕が座ったのは3階席左翼の7列目(後ろから2列目)という位置でしたが、想像以上に良好な音を楽しめました。華々しい残響と解像度の高さ、どれだけ豪快に鳴らしても深い懐に包み込まれていく感じ。もはや前のホールとは別物です。大フィルの豪快なサウンドと、大植英次のディーテールへの拘りをすべて音に変えていったこのホールの音響。
 3階席でも音が非常に近く感じ、西宮の芸文センターの4階最後列のような、「なんか遠くで鳴ってるな~」的な疎外感は有りません。視覚的にも非常にステージに近い感じがあり、結局オペラグラスを使うことは殆どありませんでした。
 ただし、まだまだ音が固い感じがあったのと、何点か改善が必要な問題点があったのですが、それはまた別エントリーにて。

 
 
 殆どの指揮者が気合一発!で開始する第1楽章冒頭のフレーズを、深い呼吸でゆったりと入ってきた演奏に象徴されるように、どこまでも呼吸の深い、どこまでもディテールに拘った、どこまでも一つ一つのフレーズを大事にした、マーラーの頭脳から生み出された音楽を、どこまでも徹底的に再現しようという意図にあふれていた。
 一言でいうと三次元の演奏だった。平面の楽譜を基にこんな立体的な世界が現出するのか、という驚きを聴く者に与え、しかし、確固たる説得力を持って迫ってくるものでもあった。すべての音が生きていて、マーラーの決めたディレクションに従って音が立体的に構築されていくさまを、いろんな角度から魅せる演奏。
 これはどんな高級なオーディオでも再現不可能な世界だと思う。

 「ここでファゴットがグリッサンドで入って来てたのか」とか、ピッコロに持ち替えさせる、あるいはSクラに持ち替えさせる、あるいはこんなところでハープが演奏されていることも、ここが1stヴァイオリンのアウトだけ演奏させるのも、すべて意味があって書かれていることであり、僕のような何の専門教育も受けていない聴き手にも、この立体的な世界を体験できる。

 思えば、96分のマーラー5番で話題になった演奏では、そのテンポの遅さだけが注目されましたが、その場所で起こっていることは極めて立体的で異次元の現象だったし、去年のマーラー9番の演奏で大植さんが軌跡を描いたマーラーの音楽は、その美学の頂点を極めた、と思っていました。しかし、今回の2番ではさらに進化・深化しているように感じます。

 そして、もう一つ、これも大植さんのマーラー演奏に脈々と生きつづける生命力に満ち溢れた世界観、これも、より確信を持って描かれていたように思う。第1楽章の第2主題、第2楽章、あるいは第4~5楽章にかけて、まさに輝きに満ちた世界が描かれていたように思う。死の恐怖から解き放たれる、どこまでも生命肯定的な響きは、おそらく天井からこの演奏を見守ったマーラーをも納得させるものだったと思う。
 この輝きに満ちた生命力あふれる世界は、フェスティバルホールだからこそ描くことが出来たのかもしれません。ザ・シンフォニーホールが世界有数の名ホールであるという確信は、いささかも揺るぎはしないけれど、やはり曲によって適正な『器』というものがある。マーラーであれば、1番・4番・5番・9番は、やはりザ・シンフォニーホールで聴きたい演目であるけれど、この2番・3番や8番は、もっと大きな器が必要。第5楽章のバンダの音響効果もフェスティバルホールの広大な空間だからこそのスケール感だったし、この記念碑的公演がマーラ演奏のノウハウ面でも一つのスタンダードになっていくのでしょうね。

 合唱団とソリストは第2楽章から入場。第2楽章から第5楽章まではアタッカで演奏されました。ステージはもちろん、2700人の客席も緊張感が途切れることが無かったのは、(自分も観客ながら)見事だったと思う。第4楽章のアルトも、これぞマーラー歌いとしての貫録の歌唱であったし、最終楽章での合唱・ソプラノ、アルトの歌唱は、どれも素晴らしい瞬間に満ちていた。田野倉コンマスのソロも良かったし、各楽器のソロ、どれも素晴らしかった。

 第5楽章の打楽器の咆哮(とくに銅鑼の音!)の凄さ!そして墓穴が開いて魑魅魍魎がわらわらと飛び出して、奇怪な行進を繰りひろげながら迫って来る、逃げる・追いすがる・逃げる・まだ追いかけて来る、あの場面のスリルは映画やバーチャルな表現芸術がある現代においても、こんな迫真の場面は描けないと思う。
 そこから抜けたときに広がる、天上の世界。ホールの空気がガラリと変わる。そこで奏でられる姿の見えないバンダの篠崎さんのソロと、フルートの野津さんの掛け合い。本当に夢のような世界でした。篠崎さんは津山国際音楽祭でも同じバンダのソロを取っていましたが、もうハマリ役ですね。
 クロプシュトックの復活賛歌は、言葉にしようという試みをあきらめざるを得ません。あの場にいた人々にしかわからない、濃密で濃厚な時間でした。音楽が何か大きな意志によってゆっくりと動かされているような・・・・どれとも永遠にずっと続くかのようなフィナーレ・・・
 大げさな話じゃなく、こんな瞬間に立ち会えて、自分の人生はなんと素晴らしいのだろう。ただただ感謝がこみあげて来る時間でした。

 大植さんにとっても思い描いたことが全て出来たフィナーレだったんじゃないでしょうか。

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大植さん、大フィルの皆さんに感謝するとともに、『大阪』に敬意を表した一夜でした。

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じゃく3

ヒロノミンVさんあらためましてこんばんは。貴重な復活をともに体験できてうれしいです。トランペットのバンダ、えらく良いと思ったら、そうですか篠崎さんのはまり役だったんですね!
僕は旧フェスティバルホールは未体験のままで終わってしまったので、どんなふうに変わったのかわかりませんが、ゴージャスなエントランス、ロビーの高い空間に浮遊する照明群、力強く豪快なホール内部、強いインパクトがありました。
大植さんの生命肯定のマーラーは、復活に合っていると思っていましたが、その期待をはるかに上回る空前の終結に、興奮がしばらく続きそうです。
by じゃく3 (2013-04-29 01:44) 

ぐすたふ

いつもながら、素敵な文章を有難うございます。一文一文、そうそう、その通りです、と、僕の言いたいことをそのまま文章にしていただいているような気がします。ヒロノミンさんの文章に、これ以上なにも付け加えることはいらない、まさにこの通りの演奏会、この通りの時間、この通りの体験だったです。

『2番や3番や8番は、(シンフォニーホールではなく)もっと大きな器が必要』、これもまさに同感です。シンフォニーホールも無くなってもらっては困るけれど、むしろもっと活用して欲しいけれど、大フィル定期の2回公演にはちょうどいいサイズだと思うけれど、やはり大阪という街の格にふさわしい祝祭(フェスティバル)にはフェスティバルホールが必要だし、ここに入るにふさわしい大阪のオケは、大阪フィルハーモニー交響楽団おいて他にない、と断言させてください。

これからも、大阪国際フェスティバルが連綿と繫がっていくことを心から願いますし、そのホストオケとして、大阪フィルが相応の格を備えた規模のオケとして中核を担い続けて行って欲しい。心からそう思います。
by ぐすたふ (2013-04-29 13:43) 

jupiter_mimi

こんばんは!こちらはお久しぶりです
Twitterではお世話になっています(鍵付されていたのですね)
こういう至芸に立ち会えるのも一期一会ですね。
CDやVideoなどでは味わえないダイナミクスレンジ、そして感動・・・共有させて頂き嬉しく思います。
>2700人の客席も緊張感が途切れることが無かったのは、(自分も観客ながら)見事だったと思う
最近イライラするような事象も多かった上に、芸文での補聴器事件・・・でも杞憂でした。
曲の冒頭の部分なども凄い静寂で、自分の鼓動が聞こえそうな緊張感!(弾くわけでもないのにね)でもバシッと決めるところは流石プロ、さすが大フィルと・・・変なところに感動してしまいました。

by jupiter_mimi (2013-04-30 02:06) 

親父りゅう

こんばんは。
先日は、拙ブログの方に早速にお越し下さりありがとうございました。
あの素晴らしいひとときを共有できた喜びは、私も同じです。
思えば、私が最初にフェスティバルホールで聴いたコンサートが朝比奈さん指揮の「復活」(1976年6月)でした。
そして、新生フェスで初めて聴いたのが、今回の大植「復活」ということで、なにか不思議な縁を感じます。
いや、このコンサートの告知を見た時点で何か「運命的な」ものを感じていたようです。
ずっとコンサートから離れていて、次に私が大阪に向かうときは、それなりに思い入れがあり、私にとって意味のあるコンサートでありたい・・・と、ずっと思っていたからです。そして、それが現実のものになりました。
だからいろんな意味で「復活」の日となったこのコンサートでした。
今度、大阪に出向くのはいつになるか分かりませんが、できればエイジ兄ィのコンサートでお会いしたいものですね。
by 親父りゅう (2013-05-01 20:22) 

ヒロノミンV

親愛なるマエストロへ

 コメント下さりありがとうございます!以前も、コメントを頂きましたが、その際は半信半疑でした。
しかし、今回のコメントでいつもマエストロが仰っておられることをお書きになっておられたので、『これはご本人に間違いない!』と、その瞬間に体が震えました。

 貴重なエピソードもご教示いただき感激しています!その際、私宛の私信を公開状態にしてしまったこと、
どうかお許しください。昨日は仕事を終えたその足で小旅行に出かけており、書き込みにも気付かず、ただちに対処ができない状態にありました。

 僕は、ベートーヴェンやマーラーが生きた何百年も『後に』生まれたこと、朝比奈隆が全身全霊をかけて作ったオーケストラを聴くことが出来るこの日本に生まれたこと。そして、マエストロと同時代に生き、マエストロの音楽を、同じ時間・空間に居られることを幸福に思います。

 どうかこれからも『世界で一番安全で幸福な場所』へ連れていってください。よろしくお願いいたします。
 本当にありがとうございました。
by ヒロノミンV (2013-05-03 21:02) 

ヒロノミンV

>じゃく3さん
 コメントが遅れて申し訳ありません。第5楽章の篠崎さんのバンダのトランペット、本当に素晴らしかったです。音楽がどんどん純化されていく、魔法のような演奏だったと思います。そして、墓穴が開く場面の直前の
秋月さんのハイトーンのトランペットも素晴らしかった! 
 それにしても、今回の大植さんのマーラーの復活はのラスト15分間は凄かった!僕も未だに頭の中をグルグル回っています。他の指揮者・オケのCDを聴いても、今回のコンサートの演奏の記憶が鮮明すぎて集中して聴けません(笑)
by ヒロノミンV (2013-05-03 22:19) 

ヒロノミンV

>ぐすたふさん
 当日はありがとうございました。短い時間でしたが、ぐすたふさんはじめ皆さんの表情を拝見して、今回のコンサートもやはり凄い演奏だった、と確信できた時間でした。
 感想についてもおほめ頂いて恐縮しています。。。ブログを書いているときは殆ど透明人間の感想として書いておりますので、直接面識のある方にも読んでいただいているのだ、ということに顔から火が出る思いなのですが・・・

 ここ数年、大フィルもシンフォニーホールも、そして大阪のクラシック音楽文化も色々と状況は厳しくなっていると思っていました。しかし、大フィルの70年の歴史、大阪国際フェスティバルをはじめとする大阪のクラシック音楽文化の足腰は、僕が思っているようなヤワなものではないと確信した次第です。 
 7月には神戸公演と定期演奏会の1日目に参戦したいと思います。よろしければ、その節もどうかよろしくお願いします。 
by ヒロノミンV (2013-05-03 22:21) 

ヒロノミンV

>jupiter_mimiさん
 twitterの方は、最近は殆どアクセスすることも少なくなってきているので、鍵付きにしています。
 やはり1回勝負の祝祭公演でしたから、大フィルを追い続けている方々が勢ぞろいした公演だったんですね。皆さんと同じ時間を共有し、こうして感想を交換できることは幸福なことだと思います。

 僕もフェスティバルホール最終公演の第九(正確には最終日の前日の12/29日の公演)を聴き終えた後、「出来れば新生フェスの開幕公演は、大植さん&大フィルでマーラーの『復活』を聴きたい」と思っていました。しかし、一番の繁忙期の4月の平日公演ということで、チケット取りの段階から諦めていたのですが、4月の転勤により4月26日が休みのシフトに・・・。そしてチケットも3週間前に、定価で譲っていただく伝手が見つかりました。本当に神の配剤としか言いようのないご縁でした。
 弦のトッププルとを中心に、メンバーも変わりましたが、密度の濃い大フィルサウンドと、ここぞという時のものすごい集中力は、本当に大フィルらしさ全開でした。
by ヒロノミンV (2013-05-03 22:24) 

ヒロノミンV

>親父りゅうさん
 朝比奈さんの復活ですか!御大にとってこの『復活』はブルックナーに負けない十八番だったと聞いています。
 僕がクラシック音楽に目覚めた中学生のころは、ザ・シンフォニーホール開館後だったので、旧フェスに行ったのは十数回程度だったと思います。それでも、あの祝祭的な雰囲気とエンジ色を中心にした瀟洒な内装は、コンサートへの憧れを起こすには充分すぎるものでした。
 新生フェスティバルホールが、以前のイメージを本当に大事にして作られたのだなあ・・・ということに感動し、また目玉公演が目白押しの中でも、大フィルの公演がこれほど存在感を放っていることに嬉しくなりました。
 大植さんのコンサートは、コンサート当日の1か月以上も前から、まるで修学旅行の前の小学生のように、胸が躍る思いで待ちます。当日、岡山から大阪へ向かっている道中から、すでにワクワク感は最高潮に達し、その昂揚感を決して裏切らず、全身全霊をかけて下さる・・・。僕自身も遠方であるが上に、聞き逃しにより切歯扼腕することが多いのですが、ずっとこのコンビを特別なものとして、気持ちだけでも追いかけていこうと思います。
by ヒロノミンV (2013-05-03 22:43) 

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