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サンクトペテルブルグ交響楽団高松公演 井上道義指揮 [コンサート感想]

サンクトペテルブルグ交響楽団 高松公演

チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」
ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番ニ短調

指揮:井上道義
4月19日 アルファあなぶきホール(香川県県民ホール)大ホール

 コンサートから1週間が5日が経ってしましましたが、感想を編集しようと思います。当日は冬に逆戻りしたような大変な寒さで、天気が良ければ瀬戸内国際芸術祭の展示会場にも寄ろうと思っていましたが、結局コンサート会場の往復になってしまいました(笑)
 しかし、瀬戸大橋から見る西日はなかなか綺麗でした。

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夕食はもちろん、さぬきうどん。山かけぶっかけです

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アルファあなぶきホールは、名勝:玉藻公園(高松城址)の中にあります

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ロビーからは眼下に玉藻公園。視線の先には瀬戸内海とサンポート高松が現れます


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 お客さんの入りは6割ぐらいだったかなあ・・・。僕が陣取った3階席(C席3000円)はおおむね満席だったんですが、1階のS席10000円には空席が目立ちました。

 楽器は16型の通常配置で、下手から1stVn:16⇒sndVn:14⇒Va:12⇒Vc:10、ベースは上手奥に12でした。火の鳥やショスタコーヴィチもやりますから、全体的には大所帯です。

 1曲目のチャイコフスキーの幻想序曲「ロメ・ジュリ」は、はじめのほうは木管の音程が不安定で、かなり心配したんですが、パワーと燃焼度はすごかったですね。二人の逢い引きの場面での歌いっぷり、再現部手前のペットのファンファーレ、悲劇の場面では泣かせましたねぇ。1曲目からほんま、濃厚すぎる演奏。

 2曲目は火の鳥1919版。井上道義名物の躍るような指揮がそこかしこで拝見できます。そして、音楽もそれに対して伸縮したり弾けたり。この曲、岡フィルでも振っているのを聴いたことがあり、あの時も非常にエキサイティングな演奏だった記憶があるんですが、今回の演奏はさらに濃厚で、インスピレーションに満ちていましたね。
 しかし、指揮棒なしのあの動きで、奏者よく反応できるなあ、と感心しますが。それだけこのオーケストラを掌握しているということでしょう。
 聴きどころには事欠きません。最も迫力のある魔王カスチェイの凶悪な躍りも、もちろん凄かったんですが、冒頭の「序奏」の地底から魑魅魍魎が這い出て来るような重低音でも、生演奏ならではの緊張感が存分に味わえたし、輝かしい終曲のクライマックスへの持って行き方が秀逸で、オーケルトラの音色の変化に魅了され続けました。


 1曲目から飛ばしに飛ばした熱演で、前半終了時点で会場は相当に盛り上がり、休憩時間中に会場にはずっと余韻が残っているようでした。このオーケストラはサンクトペテルブルグ・フィルハーモニーに属していて、サンクトペテルブルグ・フィルに続く第2オーケストラのような位置づけのようです。正直、サンクトペテルブルグ・フィルと比べると技巧的にはだいぶ落ちるかもしれませんが、独特の音色とロシア臭さを残していて、個人的には好きなタイプのオーケストラです。今回帯同した井上道義の指揮もあるんでしょうが、謳いどころ聴かせどころ泣かせどころのツボを本当に心得ていて、サンクトペテルブルグ・フィルやマリインスキー劇場管という世界でもトップ20にランクインするオケに揉まれてる中でも、相当に個性を発揮する存在で市民から愛される存在であり続けているんでしょうね。

 メインはショスタコーヴィチの交響曲第5番。来日オケの公演はなぜ判で押したようにこの曲を演るのだろう・・・と、あまり胸の躍るプログラムではなかったんですが、今まで聴いてきたこの曲のイメージを覆す力演に、今ではこのプログラムで良かったとさえ思います。
 この曲にまつわる様々な逸話:ソ連当局による激烈な批判や、一見社会主義リアリズムの体裁を備えながら、実はいろいろと隠されたメッセージ(社会主義を否定する音階など)などなど・・・、どうしてもこの曲を聴こうとするときには、当時のソ連の国内情勢や雰囲気を思い起こしながら聴かないと理解できない、的な頭でっかちな姿勢で聴こうとしていたんですが・・・・
 この日の演奏はそんな自分が囚われていた呪縛から自由にさせてくれた素晴らしい演奏でした。この曲の生演奏で今まで聴いてきた、分析的な演奏とは一線を画し、ロシアの厳しくも広大な大地や人々の生活の息吹が聞こえてくるような瑞々しくも厳しい音楽を展開していきます。
 第1楽章は終始ピーンと張りつめた空気の中に様々なドラマが詰め込まれ、ややもすれば冗長に感じかねないこの楽章を、まったく退屈させる時間を与えない熱演でした。
 第2楽章のネジが一つ飛んだような狂気的なロンドにも興奮し、第3楽章ではロシアの厳しい自然と、そこに生きる人々の厳しい生活を思わせる描写にも感銘を受けた。
 しかしもっとも新鮮だったのは第4楽章。大部分の指揮者が、気合一発!とばかりに始まるこの楽章の冒頭を、第3楽章での悲しみと厳しさの雰囲気を引きづりつつアタッカ気味に、のそっとゆっくりしたテンポで始まり、この時点では「あれぇ?」と思いましたが、途中から徐々に加速して、長調に変化する場面にピークを持ってきた!これには本当に全身の血が躍動するような興奮を覚え、その場で体を動かしたくなるような気持ちになり、客席でじっと聴いているのがもどかしく感じました。

 ショスタコーヴィチがソヴィエト連邦という社会主義実験国=その実態は抑圧された全体主義国家、という特殊な環境の中で屈折的に培養された作曲家である、というよりもチャイコフスキーやボロディンの時代から脈々と受け継がれてきた、ロシアの国民音楽や民族音楽の本流の中にドーンと巨大な存在感を持って立ち現れる・・・そんな演奏だったように思います。

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アンコールはショスタコーヴィチ作曲の、なかなかチャーミングな作品。この演奏を聴いていると、このオケはこういう演奏もするんだ!と新鮮な気持ちに。ノリのいいオーケストラですね。

 次回来日する機会があるようでしたら、必ず聴きたい!そんな演奏会となりました。


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次回、香川に来るときは瀬戸内国際芸術祭にも足を伸ばしたい


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珍言亭ムジクス

5番はよく演奏するから無理して聴きに行くことはないのですがミッキーとなると話は別で、だから行けなかったのは残念です。
最近はスタイリッシュな演奏が主流なので、濃厚なロシア味の演奏だったようで、尚更行けなかったのが残念です。
そしてアンコールを知って歯ぎしりしきり!『黄金時代』のポルカはアンコールで演奏されることがありますが、まさか『ボルト』の2曲とは羨ましいを通り越しています。一生コンサートでは聴けない可能性がありますから。
by 珍言亭ムジクス (2013-04-21 18:04) 

にゃお10

こちらに訪問させてもらってから、
そういえばヒロノミンVさんも聴く予定をされていたんだ
ということに気づきました。1日早く聴かれたんですね。
レポートを読ませて頂くとほぼ同じ感想で、「そうそう」と頷きながら当日の演奏会を回想しました。
おっしゃるように、井上道義氏の指揮は、オーケストラをどう鳴らせば聴衆の心を打つのか、
ちゃんと分かっている演奏だと思いました。さすがです。
by にゃお10 (2013-04-21 22:22) 

ヒロノミンV

>珍言亭ムジクスさん
 ご返事が遅くなってすみません・・・。このコンサートでどうやら風邪を貰ってきたらしく、体調不良でパソコンを開けませんでした。
 この楽団はロシア臭が色濃く残る感じで、かつてのモスクワ放送響やソヴィエト国立響のような低音域の音が濃厚で金管はバリバリっとした音で、本当に堪能しました。
 ショスタコーヴィチのバレエ音楽や映画音楽は、膨大な作品群でなかなかそこまで聴きこんではいませんが、『ボルト』は面白い曲でしたね。生演奏で聴けるのも貴重とのことで、井上さんのアイデアに感謝です。
by ヒロノミンV (2013-04-25 20:30) 

ヒロノミンV

>にゃお10さん
 ご返事が遅くなってすみません。にゃお10さんの記事も読みました。当方の感想よりも上手くまとめられて
いて、僕も頷きながら拝読しました。
 僕もマリインスキーのオケはキーロフ歌劇場管時代に聴いたことがありますが、ロシアのオケというよりは
ゲルギエフのオケ、といった感じで、ロシア土着の響きの要素は薄かったように記憶しています。
 その点、このサンクトペテルブルグ響は、昔ながらのロシアのオケの音を色濃く残していて、井上さんの指揮も見事にその長所を引き出していましたね。
by ヒロノミンV (2013-04-25 20:31) 

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