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第5回記念“ゆるび”ニューイヤーコンサート YURUBI祝祭管ほか [コンサート感想]

第5回記念“ゆるび”ニューイヤーコンサート YURUBI祝祭室内管弦楽団演奏会2020
〜音楽の申し子から民族の絆を超えた開拓者たち スピリッツの継承者〜
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バルトーク/弦楽のためのディベルティメント
ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番ハ短調(※)
  〜 休 憩 〜
モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲(☆)
  〃   /交響曲第29番イ長調
ピアノ:梅村知世(※)
トランペット:高見信行(※)
ヴァイオリン:植村太郎(☆)
ヴィオラ:朴梨恵(☆)
管弦楽:YURUBI祝祭室内管弦楽団
コンサートマスター:植村太郎(ショスタコーヴィチとモーツァルトのK.364は石上真由子)
2020年1月5日 早島町町民総合会館「ゆるびの舎」文化ホール
 新年から凄い演奏を聴いてしまった。期待はしていたが、ソリストも凄いしオーケストラの演奏もハイレベル、なにより予定調和の再現芸術ではない、アンサンブルがどんどん深まっていく創造芸術を堪能した充実感は何物にも代えがたい時間だった。
 YURUBI祝祭室内管はこの「ゆるびの舎」で育ってきた奏者や岡山ゆかりの音楽家により去年の3月に編成され、今回、再度の編成となったとのことだが、基本的には倉敷アカデミーアンサンブルを母体とする室内管弦楽団といっていいと思う。なのでプロで編成された楽団で、何人か岡山フィルでもお見かけする奏者も乗っていた。

 1曲目のバルトークでは1stVn7→2ndVn7→VC4→Va5、上手奥にCb2という編成。2曲目のショスタコーヴィチとモーツァルトの協奏交響曲ではコンマスの植村さんとヴィオラトップの朴さんが抜け、第2ヴァイオリン首席の石上さんがコンマスに座り、1stVn7→2ndVn6→VC4→Va4となる。そして4曲目の交響曲第29番は1曲めの編成に戻る。後半2曲で管楽器(オーボエ&ホルンの各2管)が追加された。
 事前のチラシではてっきりモーツァルトを前半に、ショスタコのP協1番とバルトークを後半に持ってくると思い込んでいたが、いきなりアクセル全開でバルトークから入った。始めの1分は聴き手の耳が慣れなかったが、ほどなく濃密な演奏に一気に惹き込まれた。各パートが緊密に連携して、リズムとダイナミクスの切れ味を武器に、研ぎ澄まされたアンサンブルを展開し、バルトークの鮮烈な音楽を眼前に繰り広げてみせた。最終楽章のノリノリの即興的な演奏に「これはいきなり、今年のベストコンサートになりそうな演奏だ」と思った。トップ奏者同士の掛け合いの場面は、今日のソリストの植村さん、朴さんに加え、第2ヴァイオリンの石上真由子さん(ここで彼女の演奏を聴けるとは思わなかった。天才少女と呼ばれた頃から注目されていて、医学部生をやりながらプロ音楽家の道を目指すという異才っぷりまで関西では知らぬものは居ない存在)、チェロトップの江島直之さんの演奏も見事だった。
 2曲目のショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番。この梅村さんの演奏を楽しみにしていたが、期待に違わぬ凄い演奏を聴かせてくれた。梅村さんのリサイタルを聴いたときに、芯のある音に魅力を感じ、ネット配信(Spotify)でシューマンのアルバムの一部を聴き、その演奏の引きつける力、磁力を感じてCDを2枚とも購入した。今の時代、アルバムを出すだけでも選ばれたピアニストと言えるが、セカンドアルバムまで出せるピアニストはそうは居ない。
 彼女はテクニック云々も凄いのだけれど、それよりも聴衆に伝えたい、聴いて欲しいという思いが強く伝わってくるピアニストで、今回もそれは健在だった。彼女の得意とするシューマンも今回のショスタコーヴィチも、革新性とナイーブさを併せ持つ点では共通するところはあるのかもしれない。梅村さんの音の芯が強靭でバネのある躍動的なピアノと前衛時代のショスタコーヴィチが呼応し合うような演奏だった。
 トランペットの高見さんは岡山フィルでも馴染みがあり、現在は大フィルに在籍。大阪フィルの金管奏者というのは大変なポジションだと思う。レパートリー的にもトランペットの見せ場が多いが、何よりも聴衆が一筋縄では行かず、ある大フィルファンの方から(冗談ではあるが)「大阪の人間の居酒屋ネタは阪神の打線と大フィルの金管や(どちらも素人目に見て突っ込みやすい、という意味で)」と言っているのを聞いたことがある。しかし、高見さんのトランペットは華やかではあるが少し影も持ち合わせた音で、素晴らしい演奏になった。
 第4楽章ではピアノとトランペットとオーケストラ、三位一体の演奏で、まあオーケストラも凄いね、これは。息づまる場面の連続。音楽の大きな流れ、うねり、聴き手は鼓動がバクバク速くなるが、何か大きなものに乗って疾走しているようにも感じる。最後に絶妙の着地を完璧に決め、聴いてる方も気持ちいい演奏。ショスタコーヴィチが本格的な弾圧を受ける前の自由な前衛の時代の楽しさを堪能した。
 休憩に入る前に梅村さんと高見さんのインタビューがあって、梅村さんは小柄では無いが、ピアノと対峙しているときはとても大きな人に見えたのに、実際にはスレンダーな方でびっくりした。演奏時に大きく見せるというのもいいピアニストの見分け方かもしれない。
 後半のモーツァルト2曲は、前半とは全く違ったアプローチと鳴った。
 前半が大きなうねりの中の瞬発力と切れ味を重視した演奏なら、後半は優しい風が頬を撫でるような爽やかさと気品あふれる演奏。モーツァルト演奏はピリオド系が主流になっている昨今、私はなんとしてもこういうゆったりと適度なヴィヴラートで豊かな響きの演奏が好きだ。解説によるとヴィオラは半音高い調弦を指定されていて、それにより主音の変ホと、その5度上の変ロを開放弦で弾くことができ、通常は渋い音色のヴィオラが一変、ヴァイオリンと対等に渡り合えるようになるとのこと。
 その効果はユニゾンでヴァイオリンとヴィオラで登場した瞬間から現れる。ヴィオラの地味なイメージが一新される瞬間がたまらない。
 植村さんと朴さん、息がぴったりでヴァイオリン、ヴィオラ、それぞれの聴かせどころで見事なサポートをし合う感じ。第1楽章と第3楽章の品のある華やかな演奏も絶品だが、第2楽章の演奏はモーツァルトのこの時期の曲に、こういう内省的な一面があるのか・・・と新たな発見だった。
 余談になるが、少し気になったのが、ヴィオラの朴さんが植村さんに対して盛んにアイ・コンタクトをしているのだが、植村さんは全く目を合わせない。音楽は見事にシンクロしているので、それぞれタイプが違うんだな、と思っていたら、アフタートークでこのお二人がご夫婦だということを知った。なるほど!そりゃ目を合わせなくても息が合うはずだわ(笑)
 最後はモーツァルトの交響曲第29番。私はこの曲と28番が妙に好きで、例えば日中に嫌なこと、辛いことがあった日でも、夜にゆっくりとこの交響曲29番か28番を聴くと、とても心癒される気がする。
 オーケストラはとても芳醇な響きを聴かせてくれた。一言で表すと「丁度いい」あるいは「絶妙」。これ以上足すものも引くものもない演奏だった。少しだけエッジを立たせたアンサンブルが、爽やかな風のように頬を撫で、多用されるトリルはニュアンスたっぷりに聴かせ、聴き手の心は浮き立ってくる。
 欲を言えば、主に内声を担うホルンがもう少し雑味を取り除いてくれれば、とは思った。オーボエは素晴らしかった。
 もう一度聴きたいな、と思っていたらアンコール2曲目で第4楽章の短縮ヴァージョンを演奏。とても幸せな気分のまま帰路についた。
 このコンサート、チケット代1500円は安すぎる。この内容なら3000円取って、もう少し手広く広報する手もある。私なら5000円出してもいいと思う。そんなお値打ちのコンサートだった。

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コメント 3

サンフランシスコ人

仰天....演奏会が、モーツァルトの交響曲第29番で終了可能なんですね....
by サンフランシスコ人 (2020-01-06 03:32) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 休憩時間にソリストとのトークなどがあり、第1部、第2部の二部構成のような感じでした。
 29番で終わるコンサートはとても幸せな気持ちになりましたよ。
by ヒロノミン (2020-01-09 21:08) 

サンフランシスコ人

モーツァルトの交響曲第29番.....ジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団が演奏したみたいですが、録音しなかったみたいです....とても残念...
by サンフランシスコ人 (2020-01-12 03:47) 

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