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クラシックコンサートをつくる。つづける。 平井滿・渡辺和 /共著 水曜社 [読書(音楽本)]

クラシックコンサートをつくる。つづける。―地域主催者はかく語りき―


平井滿・渡辺和 共著 水曜社




 音楽ジャーナリストの渡辺和さんのブログで、時折、編集過程について紹介されていた本書。長年、地域主催者をなさっている平井滿さんとの共著で、ついに日の目を見たということで早速購入。


BOOKデータベースより================================

 有名ホールで行うものだけがクラシック演奏会ではない。
 人々がバブルに翻弄されていた時代、華やかさとは正反対の手法でクラシック音楽の命脈を保ってきた人々がいる。
 高いレベルの演奏を手頃な料金で成立させる企画力、音楽ホールもピアノも無い中での運営など北海道から沖縄まで、地域に根ざしたクラシックコンサートをつくってきた団体を紹介し、新しい時代の文化事業のあり方とまちづくりを提言する。


【目次】
1章 あるプロデューサーの取り組み
  鵠沼サロンコンサート、横浜楽友会、海老名楽友協会
2章 座談会 活動20 年・会員500 名に育まれるコンサートづくり
  葉山室内楽鑑賞会
3章 全国の小規模民間主催者たち
 〈その1〉 楽友協会
  NPO 法人えべつ楽友協会/ 木更津音楽協会/ 茅ヶ崎市楽友協会/静岡音楽友の会/ 浜松音楽友の会

  /アン・ディ・ムジーク愛媛/ かんまーむじーくのおがた/ ビューローダンケ
 〈その2〉 いまに生きるサロン
   ジョンダーノ・ホール/ 西方音楽館/ アートスペース・オー/ 宗次ホール/ ながらの座・座

  / カフェ・モンタージュ/ ノワ・アコルデ
 〈その3〉 労音の挑戦
  米子勤労者音楽協議会/ 人吉勤労者音楽協議会
  〈その4〉 市場をにらんだ運営
  有限会社神奈川芸術協会
  〈その5〉 コンサート制作のプロができること
  いわき室内楽協会/ くらしきコンサート
  番外編:ホノルル室内楽協会
 

 本書を振り返って 対談 地方民間鑑賞団体はどこへ行く
 地方民間主催者・サロン・小規模ホールリスト

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 この本は、例えばオーケストラ事務局や音楽家のマネジメント事務所などの大掛かりな主催者は想定しておらず、地方自治体系列のホールや財団主催の文化事業などの公的資金を使った(意地悪に言えば、資金集めに苦労しない「親方日の丸」の)運営主体も想定していない。

 対象としているのは「地域の民間主催者・サロン・小規模ホール」です。まずは音楽愛好家が集まってコン
サートを主宰する楽友協会的な形態、次に個人がサロンに人を呼ぶような形態で運営しているもの、あるいはごく小規模(100人前後)の空間でコンサートを開催するライヴハウスのような小規模民間ホール。そして、バブルの荒波を生き抜いた地方の労音組織。


 本書の特徴的な眼差しとして挙げられるのが「つくる。」だけではなく、「つづける。」という視点を重視している、ということ。バブルのころに、地方自治体のあり余る公的資金をバックにした運営主体が、バブル崩壊後に潮を引くように撤退。その間に全国にあった小規模な民間主催者がズダズダにされてしまった。平井さんは、その罪について強く断罪する。
 地域文化を創造していくためには「つづける。」ことも重要。お金があるから始め、資金が続かなくなったらやめちゃう、公共部門がそんな無責任な運営をしてきたこの国の実態。色々考えさせられますね。 


 それと、こうした小規模門間主催者によるコンサートを支えているのは、旺盛な供給側(演奏者側)の欲求。演奏家はどんなに小さな会場でも、自分の音楽に真剣に耳を傾ける熱心な聴衆がいるところで、演奏したいという欲求があること。


 その欲求は、日本を代表するアーティストはもとより、海外の演奏家にもみられるとのこと。「受け手があっての音楽家」という当たり前のことですが、大規模なプロモーションの恩恵に浴することができる音楽家がいる一方で、多くの金銭的な見返りは無いが、自らの演奏を披露する場を求める、こうしたプロの音楽家の欲求が質の高い小規模民間主催者の質の高いプログラムを支えている。


 ちょうど今月、この本で紹介されている、京都の「カフェ・モンタージュ」と倉敷の「大原美術館ギャラリー
コンサート」に行ってきたこともあり、興味深く読みました。『山陽型ノブレス・オブリージュ』として紹介された「くらしきコンサート」「大原美術館ギャラリーコンサート」を主宰する「三楽」は、クラボウ創始者の大原一族によって運営され、倉敷に所有する土地の地代などが運営費に充てられている、ということは地元では知られていたが、主宰者の大原れいこさんが強調されていたように(!)、クラボウやクラレは一銭のお金も出していないことは初めて知りました(むしろ、ベネッセなどの他の地元企業が支援しているとのこと)。資金面だけではなく、自治体系の主催者との棲み分けなど、これほどご苦労されているんだな、ということを改めて認識したしだい。
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 「カフェ・モンタージュ」についての記事も興味深い。あの柱のないライヴ空間は中古物件だったそうで、カフェ&ライヴ会場になる前は、なんとも京都らしい、ある商売のお店だった、とか、京都在住のチェリストに「東ベルリンの有名な地下の音楽キャバレーのノリが、ここにはある」と言わしめたり、従来の「クラシック音楽が聴けるサロン」のイメージとはかなり異なった、尖った空間について書かれています。
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 一般のクラシック音楽ファン向けに書かれた本ではありませんが、小さい会場でのコンサートや室内楽のコンサートなどによく足を運ぶ方なら、興味深い記事ばかりでしょう。絶対に読む価値アリです。巻末に『地方民間主催者・サロン・小規模ホールリスト』が付いているのも魅力です。

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