大原美術館第148回ギャラリーコンサート ザ・イマイ・ヴィオラ・カルテット [コンサート感想]
大原美術館第148回ギャラリーコンサート
ザ・イマイ・ヴィオラ・カルテット
ザ・イマイ・ヴィオラ・カルテット
ダウランド(小早川麻美子 編)/もし私の訴えが
野平一郎/シャコンヌ~ヴィオラ四重奏のための(2000)
-J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番による
バルトーク(ルドゥメーニ 編)/トランシルヴァニアの夕べ
バルトーク/44の二重奏曲から
~ 休 憩 ~
杉山洋一/ヴィオラ四重奏のための「子供の情景」(原曲:R.シューマン)
大原美術館委嘱作品 世界初演
ピアソラ(小早川麻美子 編)/「単語の歴史」より売春婦(1900)・カフェ(1930)
〃 /エスクアロ(鮫)
ヴィオラ:今井信子
〃 :ファイト・ヘルテンシュタイン
〃 :ウェンティン・カン
〃 :ニアン・リウ
2017年9月16日 大原美術館本館2階ギャラリー
毎年楽しみにしていたアルト・ドゥ・カンパーニュ(ヴィオラ四重奏団)の岡山公演が、今年は開催されないことに落胆してたが、なんと今井信子さんと若手ヴィオラ奏者で結成された「ザ・イマイ・ヴィオラ・カルテット」が大原美術館に来るということで、楽しみにして足を運びました。
いつもの事ながら、会場は満員。下手の出入り口付近、モネの睡蓮を横目に見ながら観賞する位置で聴きます。
オーケストラの楽曲で主に内声を担い、そのオーケストラの音の厚みはヴィオラ・セクションのレベルで決まるとさえ言われる重要なセクション。クラシック音楽ファンならその重要性は理解しつつも、やはり地味な存在と感じてしまうヴィオラ。
開演に先だって、主催者の大原謙一郎さんが今井さんを紹介する言葉に、「ヴィオラでもリサイタルを開いて聴衆を魅了することが出来る、そのことを証明した第一人者」との紹介があった。
今井信子の存在感の大きさと心にしみる音は格別。その今井さんの弟子のニアン・リウは力強さとピュアな音に魅力がある。こちらも今井さんの弟子ヘルテンシュタインの明るい響きと技巧の高さ、すでに指導者として名を馳せるウェンティン・カンの安定感と気品のある音。それぞれが特徴を打ち出し、4人の個性が合わさった時の音が本当に心地よかった。ヴィオラの音には人を陶然とさせるものがある、改めてそう感じさせられた。
悲しみを湛えつつもヴィオラの柔らかいハーモニーを存分に楽しんだダウランドの小作品の後、拍手をする間もなく2曲目のバッハのシャコンヌに突入。この曲でこのカルテットの実力のベールは解かれた。深いボウイングから奏でられる太い音が幾何学的に絡み合い、感情など一切入る余地のない冷静かつ完璧な演奏なのに、聴く者の精神は高揚していく。
始まって15分もしないうちにすごい演奏を聞かせてもらった。
次はバルトークの2曲。特にバルトークの真骨頂である民族音楽をモチーフとした「44の二重奏曲より」では、こういうサロンコンサートならではの趣向が凝らされ、原型となった民族音楽の演奏とバルトーク自身によるピアノ独奏の音源が披露され、それに続くような形で演奏に入った、会場を満たすロマの響きに導かれ、バルトークがフィールドワークによって集めて回ったいろいろな音楽を追体験するような趣向。基本的には二重奏で演奏され、色々な組み合わせて聴けたのは面白かった。四重奏で演奏される部分での合奏も見事。
休憩中には「ヴィオラだけの演奏かどうかを抜きにして考えても、これだけのバリエーションのあるコンサートはなかなかないよね」等の周囲の会話に心の中で相槌を打つ。
次は、杉山洋一さんの作曲による委嘱作品。これは大変な技巧が必要な曲、ではあるんだけれど、遊び心に富んでいて、もう大人になった今ではとらえどころのない子供が見る風景を再現していた。曲の冒頭から終始、時空が曲がるような音に会場からは笑みが漏れるが、4人の奏者はいたって真剣!これほどのハイレベルなヴィオラ奏者4人が、超絶技巧や特殊奏法を駆使して、こんなかわいらしい子供の世界を描く…、これこそアート
なのだと思う。
最後の2局のピアソラも、圧倒的だった。「タンゴの歴史」の「売春婦」という曲は、「ピアソラの曲にもこんなに快活な曲があるんや」との発見あり。他の曲は独特の哀愁に満ちたリズムに酔いしれた。ピアソラに関しては今井さんが3人の若手・中堅奏者に主導権を任せ、自身もノリノリの演奏を展開。いや、本当にお若いです。
アンコールにシューベルトの歌曲。編曲はなんとピアニストの北村朋幹さんとのこと。このギャラリーコンサートの常連ピアニストで、ヴィオラカルテットを演奏することを聞きつけて、半ば強引に「先方から楽譜を送ってきた」とのこと。この美術館でのサロンコンサートが触媒になって、色々な音楽家と聴衆が交流し、こうした思わぬ贈り物に接することもある。
「日本に京都があってよかった」は、京都のキャッチコピーだが、この日の僕の気分は、「僕の住む隣町が倉敷で、そしてそこに大原美術館があってよかった」という思いだった。
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