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岡山フィル第53回定期演奏会 指揮:三ツ橋敬子 Hr独奏:シュテファン・ドール [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第53回定期演奏会

ブラームス/悲劇的序曲

R.シュトラウス/ホルン協奏曲第2番
 ~ 休憩 ~
ブラームス/交響曲第3番

指揮:三ツ橋敬子
ホルン独奏:シュテファン・ドール
ゲストコンサートマスター:山本友重


 恐らく、この日のコンサートを聴いたほとんどの方は「シュテファン・ドールのホルン!!これに尽きる!!」そう言うでしょう。今回で2回目のドールのホルン、音が鳴った瞬間に思わずのけ反ってしまう凄い音!

 それも、コンチェルトだけでなく、後半プログラムの交響曲にまで1番ホルン奏者として演奏してくださり、その存在感は絶大でした。


 会場の入りは8割ぐらいでしょうか?3階席の様子は見てませんが、客席はかなり埋まっていたようです。編成はいずれの曲も12型のストコフスキー配置。1stVn12→2ndVn10→Vc8→Va8、コントラバスは上手奥に6。シェレンベルガーはチェロをアウト側に配置しますが、三ツ橋さんはヴィオラをアウトに配置しています。


 1曲目の悲劇的序曲。1曲目とは思えない大変な熱演でした。あまりの熱演に拍手も大きかった。しかし、私には重厚ではあるが、少々力みの強い演奏に感じられた。音も大きな音が鳴っているようで、ここ最近の岡フィルのホールの空間全体を鳴らす、という感じには至らず・・・。三ツ橋さんのタクトはオーケストラをドライブする力が強いが、それが力みに繋がっていなければいいが・・・と危惧していました。


 2曲目は、ある意味本日のメインディッシュになってしまいそうな、「ホルン王」(初めて聴いたこの表現。今回のコンサートのチラシに載ってた(笑))シュテファン・ドールによるR.シュトラウスのホルン協奏曲第2番。2年前の岡フィルとアンサンブル・ウィーン=ベルリンとの共演の際に聴かせてくれた、ホルン協奏曲第1番の演奏が凄すぎて・・・。あのホルンをもう一回聴ける!嫁さんともども何日も前から楽しみにしていました。

 「パーンパーン、パパパパーン♪」という最初の1フレーズが聴こえた瞬間、やっぱり度肝を抜かれた。やっぱりこの人のホルンは別格だわ。第1番の親しみやすい曲想に比べると、ちょっと構成が複雑な分、この曲は馴染むのが難しい筈なんですが、ドールさんのホルンの音、その表現の引き出しの多彩さをただひたすら追うだけで充分な愉悦に浸ることが出来る。今回は、先週、ちょっとプレッシャーのかかる仕事の後で、疲労感と頭痛に悩まされていたのだが、そういったものをドールさんのホルンの音が本当に吹き飛ばしてしまった。聴き終わった後、明らかに頭がすっきりしているのだ。

 第3楽章のパッセージなんて、並のホルン奏者なら演奏不可能な超絶技巧が必要だと思うのだが、まるで体の一部のように軽々と吹いて見せる。マシュマロのように柔らかい音色から、パリッとしたドイツ独特の音色まで、変幻自在に音色を変化させる。特に最後のパリッと響かせた倍音は胸がすくような思いで気持ちよく聴いた。この第3楽章のホルンの音を聴いていて、不思議な感覚になった。この雄大に鳴るホルンの音は、本当にステージ上のホルン奏者が吹いているのだろうか?なぜなら、ホールそのものが鳴っているようにしか、僕の耳には聞こえなくなっていたから、ドールさんがこのホールで演奏するのは恐らく3回目の筈だが、このホールの響きを完全に掌握しているようだ。
 

 オーケストラの伴奏も安定していて、特に第1楽章での1番ホルン(読響の久永さん)との掛け合いは聴きものだった。久永さんは、後半にドールさんが1番に座った関係で、後半は降り番になってしまったが、天下のシュテファン・ドールのホルンを向こうに回しての朗々とした演奏、これだけで存在感を示してくれた。


 後半のブラームスの交響曲第3番。勇壮なファンファーレ調の冒頭から音が違った。1曲目の悲劇的序曲には力みを感じ、アンサンブルもやや平板な印象だったのに対し、このブラームスの3番ではアンサンブルに明らかに奥行きと深みがでて、奏者もいい具合に力が抜けて、ホールの隅々まで最近の好調時の岡フィルの音が響き渡った。1曲目では、あの響きはシェレンベルガーにしか引き出せないのか?と若干不安がよぎっただけに、安堵したというのが正直なところ。
 三ツ橋さんのオーケストラのドライブは見事だった。弱音部分での繊細さや、音楽が高揚する部分でのダイナミクスの持って生き方は流石の一言。

 そして何よりもシュテファン・ドールが入ったことによって、金管・木管にズバンと大きな柱が通り、彼の音に皆が引っ張られ、これまでの岡山フィルからは聴いたことが無いような音が聴こえる瞬間がたびたびあった。ドールさんは恐らくオーケストラに溶け込むことに腐心しておられ、あまり目立たないようにしておられたように思うが、なんにせよ一人だけ全然音が違うので、どうしても耳でドールさんのホルンの音を追ってしまう(笑)それはオーケストラの奏者も同じではなかっただろうか?特に管楽器は彼が基準に(あるいは到達点として)音を作っていった演奏ではなかったか。
 第1楽章の10分過ぎの冒頭のファンファーレ調の再現部では、ベルリン・フィルの首席ホルニストの音とはかくや!と思わせる強奏で、協奏曲に続いて会場の聴衆の度肝を抜いた。
 夢のような時間はそれだけではなく、第2楽章の木管との掛け合いの部分でも、心が洗われるようなホルンの音に涙が溢れそうになる。なんと切ない…なんと心の現れる音であることか…。そして、それに応じた木管陣の音も素晴らしかった。
 第3楽章の終盤のホルン・ソロでは、ブラームスの孤独感を切ないまでに表現。

 オーケストラもドールさんに引っ張られ、三ツ橋さんの躍動感のあるタクトにも導かれハリとツヤのある素晴らしい音を堪能させてもらった。三ツ橋さんは、第4楽章では両足をどっしりと構え、手を大きく広げ、音楽を手繰り寄せたり開放したりするように、ダイナミックな指揮でオーケストラを引っ張った。僕自身は、この曲に関して内省的な面にクローズアップされた演奏が好きなので、激情ほとばしるような今回の演奏は好みではないはずなのだが、三ツ橋&岡フィルの世界にどっぷりと浸かり、確かな手ごたえのある演奏に、気が付けば喝采を送っていた。
 終演後の拍手は「熱狂的」ともいえるもので、ドールさんに対する賛辞とともに、回を追うごとに音楽の高みを上りつつある岡山フィルへの賛辞もあったのではないかと思う。

 定期演奏会には珍しく、アンコールもありました。「どこかで聴いたことがあるよなあ…」と思っていたら、ブラームスのセレナーデ第1番より第5曲「スケルツォ」。そういやあ、カンマーフィルハーモニー広島で聴いたなあ。
 最後の最後までドールさんが大活躍で、正直「こんなに働かせてええんかいな!」と思ったほど。これだけ吹いても全くケロッとした笑顔で拍手を受けるドールさん、素敵すぎる!
 三ツ橋さん、もし今後も岡山フィルにご縁があるならば、定期的に振っていただきたいですね。


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 終演後、いつものように夕食を求めて表町商店街へ。普段は夕方になると閑散としている上之町のあたりが、コンサート帰りの人波でごった返している(手前から奥向かう人のほとんどが、コンサート帰りの客)。今後は10月、12月、1月、3月・・・と、ほぼ2カ月おきに岡山フィルの定期演奏会が続きますが、例えばコンサートの客に表町商店街で使えるクーポン券などを配って、経済波及効果などを計測してみてはどうだろう。幅広い世代・性別・職業の人々が集まるオーケストラのコンサートが、中心市街地のにぎわいを生み出す起爆剤になりうることが証明されると思う。

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コメント 8

あーと屋

ヒロノミンV様
結局、どうしても都合がつかず聴きに行けませんでした。まさに一期一会の演奏会だったのですね。いや〜あ残念、どうやら大変な機会を逃したようです。
by あーと屋 (2017-07-10 08:53) 

バルビ

 ドールさんの生を聴かれたのですね。とても羨ましく思います。ドールさんのホルンを生で聴きたいですね。
 ベルリンフィル関係では、5年ほど前、バラボラークさんが我が群響に客演してくれて、Rシュトラウスのコンチェルトを演奏したんですが、そのうまさに本当に痺れました。やっぱりベルリンフィルは違う。
 そのドールさんですから、否が応でも食指が動きます。聴きたいな~。
by バルビ (2017-07-10 17:07) 

ヒロノミンV

>あーと屋さん

>結局、どうしても都合がつかず聴きに行けませんでした。
 そうだったんですね。残念ですが、ドールさんは秋にアンサンブル・ウィーン=ベルリンのメンバーで来日されますし、ソリストとしても来日すると思います(どうやら、お寿司が大好物だそうなので)。
 岡山フィルも、まだまだ発展途上ではありますが、また、聴きにいらしてください。
by ヒロノミンV (2017-07-10 20:37) 

ヒロノミンV

>バルビさん
 ドールさん、一度聴いて度肝を抜かれるほど感動しましたが、今回もやはりその音の広がりとパワー、表現の幅の広さに度肝を抜かれました。日本には何度もいらしてますが、R.シュトラウスの協奏曲をコンプリートしたのは岡山が最初かも知れませんし、客演首席ホルニストとして交響曲を演奏するのも岡山フィルだけでしょう。
 バボラークさんは、まだ聴いたことがありませんが、TVや録音で何度もその柔らかい美音に魅せられています。生で一度聴いてみたいです。
by ヒロノミンV (2017-07-10 20:42) 

珍言亭ムジクス

ドールは1日の名フィル定期に登場してR.ショトラウスの協奏曲1番ンを吹き、観客の度肝を抜きました。
こんなにホルンって鳴るんだ、豊かな音色が出せるんだ、そういう驚きと感激がありました。
だから岡山フィルとの2番も聴きたかったです。
そして名フィルホルン奏者の方には「後半は楽屋でホルンの練習する」と言いながら、実際はホールで名フィルの演奏を聴いていたそうです。「客席で聴くよ」なんて言ったらホルン奏者が緊張するからなのでしょう、そういう気遣いにも名フィルの方は感激していました。
バボラーク、ドールという奏者を擁するのだから、ベルリン・フィルが世界トップ・クラスのオケなのも頷けます。
by 珍言亭ムジクス (2017-07-10 23:37) 

ヒロノミンV

>珍言亭ムジクスさん
 名フィルや関西フィルでのドールさんの評判は、事前にリサーチしていましたが、その音色には「驚愕」の一言しか出ないですね。
 名フィル団員さんへの気遣い、ドールさんのお人柄が垣間見えるエピソードをありがとうございました。
 ベルリン・フィルは、まだ一度しか聴いたことが無く、「某TV曲が招聘して暴利をむさぼっている間は聴きに行くものか」と思っていましたが、もう妙な意地を張らずに次回関西に来たら聴きに行こうと思うようになりました。
by ヒロノミンV (2017-07-11 00:03) 

odette

こんばんは。
シュテファン・ドールさんといえば、大フィルにソリストとして来られたのが確か、2012年でした。山田和樹さんの指揮でグリエールの協奏曲でしたが、ホルンってこんな音も出るんだ、こんなこともできるんだ、と「お口ぽかーん」状態になった、当時の驚愕を思い出してしまいました。あれから5年も経っていますし、さらにさらに進化しているのでしょうね~。
by odette (2017-07-13 01:35) 

ヒロノミンV

>odetteさん
 僕も今回でドールさんのホルンを聴いたのが2回目でしたが、今回も「こんな音が出るなんて、信じられない!」という驚きと感動しかありません。
 大げさな表現ではなく、あの音は死ぬまで忘れないと思います。
by ヒロノミンV (2017-07-13 23:58) 

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