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岡山フィル第48回定期演奏会 シェレンベルガー指揮 Pf:小菅優 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第48回定期演奏会

ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
 ~休憩~
ブラームス/交響曲第2番

指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ピアノ独奏:小菅優
ゲストコンサートマスター:長原幸太

2015年10月18日 岡山シンフォニーホール

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 岡山フィルを初めて聴いてから約20年、熱心なリスナーになってから10年近くが経ちますが、岡山フィルがこんな素晴らしい音を奏でるオーケストラに変貌していこうと、誰が予想したでしょうか?

 弦の輝かしい響きは、まさに年代物の銀器の輝きで、人間味のある温かさと力強さを湛えるサウンド。ステージ上で弾いていらっしゃるオーケストラの方々は、こんなに芳醇で輝かしい響きがホールを満たしていることを、恐らくかなりの手ごたえを感じていらっしゃることだと思いますが、実際に耳で聴いて確かめられるわけじゃない。だから、この日の演奏で魅せたオーケストラのサウンドがいかに素晴らしかったかということを、岡山シンフォニーホールのステージ上で20年以上の歴史を紡いできたオケの方々に、最大の敬意と敬愛を持って書く必要がある、今回のこのコンサートの感想を書く意味はそこだけにあるように思います。

 小菅さんのブラームスのコンチェルトも、シェレンベルガー氏のタクトの元、これぞドイツ音楽の神髄と言える手ごたえのある演奏で、特に第2楽章の美しさは特筆ものでした。

(10月22日追記)

 この日の編成は12型2管編成。お客さんの入りは8割ぐらいか?ここまで来ればもう少し入って満席になって欲しいところです。

 ピアノ協奏曲というのはあまりにも重厚なオーケストレーション。演奏時間は50分という大曲。いきなりトップギアを要求されるオーケストラですが、申し分のない迫力のある出だし。
 この曲の第1楽章は6/4拍子という、ちょっと変わった拍子なんですが、ブラームスは6拍子マニアといってもいい作曲家で、交響曲第1番の第1楽章冒頭のあの印象的な場面は6/8拍子、交響曲第3番の英雄的な第1楽章も6/4拍子、交響曲第4番の美しい第2楽章は6/8拍子。
 6拍子には劇的で重厚なのに、なにか踊りだしたくなるような躍動感がある。だからブラームスも好んで使ったんだろうと思います。

 小菅さんのピアノは、大変な音圧と迫力で、それでいて音の粒、一粒ひと粒が聳立していて、ブラームスのピアニズムをたっぷり聴かせて頂きました。第1楽章の特長である3度上下するタタターという進行は、繊細なタッチなのに力強い音が印象的に響く。教会の鐘のようでもあるし、天からの啓示のようでもある。
 実は、第1楽章の前半では、小菅さんとしては意外にもミスタッチ・音飛びが数か所あっと思うんだけど、音楽全体の骨格は微塵も揺らがない。
 オーケストラの伴奏も素晴らしかった。この曲、オーケストラもピアノもどちらも完成度を上げないと、オケがへなっとなってしまうと、ピアノも台無しにしてしまう恐れを秘めている。おそらく練習・リハーサルが非常に充実していなのでしょう。
 展開部の長調の穏やかな弦の調べを聴いていると、本当にこの音は岡山フィルの音なのか?と思ってしまう。なんと瑞々しく澄んだ輝きに満ちていることか。楽章終結部でそのオケがガンガン鳴っても、一歩も引かない小菅さんの激しい音楽、第1楽章終了時点で大きなため息が出る緊張感。

 この曲の第2楽章が、これがこれがもう美しかったんですよ。この曲を僕が初めて生演奏で聴いたのは、ブレンデルの演奏でした。生で聴くまで、この楽章の良さが実は解らなかった。ショパンやチャイコフスキーのコンチェルトのような甘美な美しさではありませんが、ブラームス自身の交響曲の緩徐楽章にも共通する、胸が締め付けられるような美しさ。ここでの小菅さんの演奏も忘れられないものになりました。僕が一番好きな場面。チェロバスが低音をひき続ける中で、楽章主題の和音を力強くピアノが弾き続ける、その主題は木管へと移り、ピアノがアルペジオで応える。なんという美しさだ。ブラームスのクララに対するあられもない告白。クララはこの音楽をどう聴いたのだろうか?

 第3楽章のロンド形式は、まさにオーケストラとピアノ、双方の見せ場だ。小菅さんの椅子を蹴飛ばさんとする躍動、オーケストラも全く負けていない。こういう曲で全くバタバタすることの無くなった岡フィル、本当に頼もしい。

 延々と続くカーテンコール、拍手が鳴りやまない。僕はこの大曲の後に、アンコールを期待する気持ちは全く無かったんですが、とにかく拍手をして称えたかった。ライトが付いてオーケストラが袖に引こうとしても拍手が鳴りやまないどころか、一層のボルテージでカーテンコールがある。これで、アンコール「おねだり」ではなく、心の底から小菅さんの演奏を称えていることが伝わっただろうか?ホールの中で僕と同じく拍手を続けた皆さんと、ただ・ただ・小菅さんの演奏を称えたいという心が通じ合った気がしました。

 後半はブラームスの交響曲第2番。恐らくシェレンベルガーさんは、(公式発表は無いが)4年かけてブラームス・チクルスを完成させようとしている、その2曲目。

 シェレンベルガーさんが振っているときは、なんと気持ちよく演奏をすることでしょうか。今となっては岡山フィルとシェレンベルガーさんは神様が引き合わせたとしか思えない。聴いてて、降り注ぐ音を浴びて本当に気持ちのいい音 家人と「7月の時よりも、おっと音が良くなってるね~」と、終演後に感想を言い合ったのだが、特に弦楽器陣の音・響き・ハーモニーはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管やドレスデン・フィルでブラームスを聴いた時と同じような音がしていて、本当に信じられない思いでした。

 ステージの上で演奏してらっしゃる奏者の皆さんも、本当に自然体で、このブラームスの自然賛歌の交響曲を喜び謳うように演奏してらっしゃる。でも、客席ではものすごい音で鳴っていますよ。本当に信じられない音ですよ。岡山シンフォニーホールの壁・反響板・椅子から床に至るまで、この芳醇な響きにホール全体が喜びに満ち溢れているようです。この幸せを20年間オーケストラを支えてきたステージの皆さんにこそ味わってほしい、けれども矛盾することに皆さんにしかこの音が出せないから味わってはもらえない。だから、最大の敬意と敬愛を持ってこの交響曲を聴き、「岡フィルのサウンド」を味わい尽くす。そんな気持ちでずっと聴いていました。

 もちろん課題はあって、管楽器メンバーに助っ人の加入を仰がなくてはならないところで、都響や東響などの奏者の助けを借りていましたが、なかでもホルンの元都響首席の笠松さんの柔らかい音には惚れ惚れしました。この方、ステージマナーも素晴らしく、カーテンコールの際も笑顔でそのパートに向いて拍手を送っていらして、これほど岡山フィルに敬意を持って接してくれた助っ人首席さんは居なかったかもしれない。

 シェレンベルガー氏のタクトもいつもながら見通しの良い、しかし手ごたえのある重厚でどっしりとしたサウンドを作り上げていましたが第1楽章のトランペットなどがファンファーレ調になった後の弦楽器の見せ場、ヴィオラが同じリズムで上昇音階をアップボウで弾く所を強調しているところなどはカラヤンの解釈に通じるものがあったり、その作り込みようはまるで繊細に仕上げられた手工芸品のような気品を漂わせています。

 第2楽章で魅せたのは、弱音部で小川のせせらぎのように流れる音楽の、何気ないフレーズの受け渡しの間に流れる、なんとも言えない心地よい空気。
 あと、もう一つ思ったのは、音楽の行間の何とも言えない味わい深い雰囲気。トゥッティーの後の音が鳴ったあとの残響に響く音楽の美しさが、音楽の「間」の時間までも何とも表現できない輝きを放っていたところも見事でした。
 ゲヴァントハウス管やドレスデン・フィルで聴いたブラームスも、音楽の行間に漂う、そのオーケストラ独特の味がありましたし、朝比奈隆や大植英次の時代の大阪フィルにも曲が始まってから終わるまで、オーケストラがある種のオーラを発しながら、音楽が鳴っている鳴っていない関係なく、聴衆を魅了する空気が常にありました。岡山フィルも、そういった固有のオーラというか、行間を満たすものを纏い始めているのだろうと思います。

 第4楽章のポジティブな疾風怒濤の音楽も、かなりシェレンベルガーさんのタクトも追い込んでいた筈ですが、全く危なげなく深い呼吸を保ったまま余裕のフィナーレでした。

 次回の定期演奏会もブラームス、シェレンベルガーさんも合唱団も、非常に思い入れの強いドイツ・レクイエム。合唱団には80年代から交流を続けてきた東北の同胞も加わり、岡山での定期演奏会ののち、岩手・宮城・山形への遠征が待っているようです。

※同じコンサートを聴かれた方のブログへのリンク
 mikotomochi58さんのブログ「こんなCDを買った!聴いた!」
 


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木曽のあばら屋

こんにちは。
私も聴きに行きました。
小菅優のピアノは音量と迫力がさすがでした。
オケの響きも素晴らしかったです。
by 木曽のあばら屋 (2015-10-18 21:46) 

ヒロノミンV

>木曽のあばら屋さん
 やはり、ご覧になられていたんですね。
 小菅さんのブラームスは、まさに絶品でした。オーケストラの響きも本当に良かったですね。ホールを満たす輝かしい響きに全身を預けて聴いていました。
by ヒロノミンV (2015-10-19 22:52) 

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