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京都市交響楽団第591回定期 小泉和裕指揮 Pf:シーララ [コンサート感想]

京都市交響楽団第591回定期演奏会

シューマン/ピアノ協奏曲
~休憩~
ブルックナー/交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版第2稿)

指揮:小泉和裕
ピアノ独奏:アンティ・シーララ
コンサートマスター:渡邊 穣

2015年6月26日 京都コンサートホール大ホール

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 この日の京響がどこまでの高みに到達したのか。会場で共に、あのブルックナーの4番を聴いた方なら知っています。
 恐らく、僕が国内のオーケストラで聴いたブルックナー4番の最高の演奏です。それどころか、3年前にブロムシュテット指揮バンベルク交響楽団でこの曲を聴いた時、「こんな演奏は生きているうちに二度と聴けるかどうか・・・」と思ったものですが、その演奏と比較しても全く遜色のない、ホールを満たす、これ以上ない手応えで迫って来る最上の響き。国内のオーケストラでここまでのレベルのブルックナーが聴けるようになるとは。

 お見事だったのは、まずはホルン。ソロは全く外さず、トゥッティーにおいても強い存在感を放っていました。トランペット・トロンボーン・チューバも本当に柔らかいハーモニー。木管は本当に天使が舞うような天国的なソロの連続。第3楽章なんて、意外に小泉さんのテンポ設定が早くて、これで木管はついて行けるのか?なんて思ったのもつかの間、このテンポとプレッシャーを軽く手慣づけてしまう。
 そしてそして、弦楽器の響きの不純物の無い、かつ分厚い響き。どうしてこんな音が出るんでしょうか。僕がここで目いっぱい響かせてほしいと思っている部分で、僕の予想を超える弦の響きが目の前に芳醇に広がっていく。
 終演後に、小泉さんがヴィオラ特別首席の店村さんの手をとって、「あなたのおかげだ」と言葉を掛け(ているように見えた)、チェロ客演首席の山本さんの手も取って謝意を示されていました。あの厚みがあるのに、微塵も濁らない弦のハーモニーのキモは、まさに中音弦を引っ張った二人のベテランの献身あってこそ、だったのだろう。と思います。

 京響のヨーロッパ公演は大盛況・大成功だったようで、ヨーロッパから帰ってきた京響が、ヨーロッパの本場の一流楽団に劣らない素晴らしいオーケストラに成長して帰ってきた!そう強く思いました。
(6月28日 追記)
 小泉さんの性格は存じている積りだったので、プレトークには期待をしていなかったのですが、事務局さんが代役でのプレトークとは・・・
 センチュリーが橋下さんコテンパンにやられて、オーケストラの責任者として前に出ざるを得なくなった時期に、挨拶をしている小泉さんを拝見したこともあるのですが、まるで葬儀の挨拶のようで、この不器用さがセンチュリーの時には仇になることもあったのだろうなあ、と思います。

 前半のシューマンのピアノ協奏曲はシーララの魔法のような繊細なタッチに魅了されっぱなしだったんですが、後半のブルックナーにすべてかき消されてしまいました。小泉さんの伴奏のタクトも、大植さんや広上さんのように、ソリストと丁々発止のやり取りをするタイプではなく、シーララとオーケストラもお互いに触発されることもないまま終わった。会場も前半は空席はかなり目立っていたのですが、後半に入るとほぼ満席!では、シーララさんには気の毒な印象が残りました。
 ブルックナーの4番はプログラムが難しいんですよね。時間的に5番・8番のように1曲勝負にするわけにはいかないし、ベートーヴェンでは重すぎるし、モーツァルトでは食べ合わせが悪い。N響も最近の定期で同じプログラムを組んでいましたが、実績のあるソリストよりも、ダメもとで体当たりで演奏してくるような若手の伸び盛りのソリストの方がいいのかも。

 後半のブルックナー、会場が『固唾を飲んで』というのはこういう状況を言うのだなあ、と思うほど張りつめた空気、まさにションベンがちびるような状況。
 しかし、冒頭のホルンの第一音から堂々たる演奏で、最初の10秒でこの日の名演を確信。センチュリーとの録音よりもテンポは少し早目で、快活さを一層感じさせます。
 第1主題の2+3連符のリズムで鳴る金管、その後の清廉な第2主題の弦の調べ、それに絡み合う金管の柔らかくも光り輝くようなサウンド。この時点で「これは名演なんてもんじゃない。オケのアンサンブル能力が段違いなんや!」と。それからは、一緒に行った相方には申し訳ないんだけれど(苦笑)音楽にどんどん引きずり込まれていって、自分と自分に降り注ぐ音楽、この2者しか存在しない世界に居ました。

 僕が第1楽章で一番のキモの部分と思う展開部後半。いや、もしかしたらこの曲の一番のキモかもしれない部分。勇壮なブルックナーリズムで駆け上がり、天から降り注ぐような下降音階の神々しいフーガ→フルートに導かれ→弦が後を追い、弦のトレモロの中を金管が半音進行で、まさに神との対話をするような場面。あの弦のトレモロのまばゆい音、一生忘れないと思う。そして金管の輝かしいユニゾンも。

 この日の小泉さんの解釈は、なかなか言葉にするのは難しい。なぜなら、特徴的な事は何もしていない、終始、響きの重厚さと透明感とフレーズの呼吸感、この3つが奇跡的にバランスを取って鼎立しながら濃密な音楽が流れていく。恐らくは若手の時代にドイツで勉強なさって、カラヤンと出会ってその音楽に衝撃を受け、そのあと自分の理想とする音楽世界を頑固なほどに追求し続けたマエストロのすべてが注がれている。瑞々しく生命力にあふれ、響きはどこまでも透明感と光を放つ。
 目の前で鳴っている京響の響き、手を合わせて拝むほどありがたい音だった。

 話は前後しますが、終演後にぐすたふさんとお会いして、植物園との間の歩道、地下鉄の中、ホテルのバー、ずっと京響の話をさせて頂いて、「こんな音は聴いたことが無い」「ヨーロッパのオーケストラにしか出せないと思っていた音が京響から出ている」という興奮を共有させていただきました。
 第1楽章の終結部と第3楽章は、まさにその「黄金の管、ビロードの弦」(あえて、あのロイヤルコンセルトヘボウのキャッチフレーズを引用しました)と呼んでもいい、これは一体どうしてしまったのか?という驚愕のサウンドを堪能。

 あと、もう一つ見直したのが、京都コンサートホールの音響。以前、コンサートブロガーのにゃお10さんとお話しさせていただいたこともあるんですが、広上さんが就任してから、京響のサウンドが明らかにパワーが付いてきて、それにつられて京都コンサートホールの印象が変わって来ていた。「音響が悪いんじゃなくて、鳴らし切れていないだけなんだ」という感想。

 1.5秒という短めの残響時間で、並のオーケストラの並の演奏では、鳴らすことが出来ない厳しい環境。しかし、どうでしょう。このホール、本当は素晴らしいではないですか!この日の小泉さんとのブルックナー4番では、まったく誤魔化しの効かない音響によって、京響の芸術的な極上のハーモニーが丸裸になって聴こえて来る。

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※開演前に撮影 

 僕は第2楽章の中間部や第3楽章の間、しばしば顔を天井に向けて聴いていました。そうすると直接音が耳に入りにくくなり、間接音のみが自分の耳に届く。その至高の残響と言ったら・・・絶句するしかない美しさでした。第3楽章の「狩りのスケルツォ」執拗に繰り返される主題とトリオ。このまま永遠に繰り返されても、僕は飽きることが無かったと思います。

 明るい躍動あふれる第3楽章の後の第4楽章は、手に汗握る迫力と彼岸の先を感じさせるような危うい美しさ、この2つが目くるめく絵巻物のように現れては消えていきます。
 特に、迫真の6連符のユニゾンの場面、金管とチェロバスの鳴りっぷりは大地を揺るがすよう。第3楽章の天から降りて来るような鳴りっぷりとはまた違うサウンドです。
 この曲が「長い」と感じるときは、だいたいこの第4楽章が長く感じるんですが、この日の演奏はあっという間だった。
 以下に書くことはエロい意味で取って欲しくはないのですが(笑)いや、別にそう取っていただいても構わないのですが(どっちやねん!)、この楽章、『動』の部分では何度も何度もエクスタシーに達しようとするのに、すべてその直前に、寸止めされて真っ白になりそうになった意識が自分の肉体に戻ってきてしまう。そして最後の最後に、それまでの『動』の音楽とは全く種類の違う、静かに静かに何かが近づいてきて背後から自分の肉体をのっとってしまうような、強力なカタルシスが待っている。
 ここで指揮者が何か特徴的な事をしようとしたり、個性を出そうとすると、とたんに音楽が白けてしまう、そんな楽章なんだと今回初めて感じました。小泉さんの楽譜に対する献身、その小泉さんに応えようというオーケストラの献身。最後の一音が消えた瞬間に残った、2000人が共有した金字塔。至高の演奏でした。
 
 演奏は最高でしたが、拍手が早すぎたなあ・・・。小泉さんもあっさり手を下してしまったので、大袈裟なな静寂は望まなかったのかもしれませんが、2秒でいいから静寂が欲しかった。
 終演は9時を回って9時10分ぐらいでしたか、カーテンコールのボルテージは高かったです。楽団員さんが解散した後も拍手を続けている人が何人か居て、僕もその一人だったんですが、結局、家路に急ぐ大勢には勝てなかった。大阪の聴衆だったら一般参賀レベルの演奏だったんだけどな~。京都のお客さんはクールだわ。
 前の日には読売日響を聴いて、そのレベルの高さに驚いたのですが、オーケストラが一つの生き物のようにアンサンブルを創造していく能力は、京響に軍配が上がると思いました。首席奏者レベルのメンバーはまだしも、恐らくトゥッティ奏者の個々人の能力は恐らく読売日響はじめ在東京のオーケストラの充実しているだろう、にも関わらずです。

 京響の現在の木管・金管パートの実力者はほとんど30代が多い。この日大奮闘したフルートの中川さんなんて「副」首席。木管の人材は国内トップだと思う。弦楽器も今は東京のオケで実績のある方の支えを必要としているけれど、若い世代には人材が沢山いるようです。この新・京響サウンドを継承していく人材をうまく入れて行けば、京響の黄金時代は20年は続く、と思います。

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※翌日、お参りした花園の法金剛院の蓮と紫陽花


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ぐすたふ

やっと私も記事にすることができました。また凄いものを聴かされてしまいましたねえ。京都市交響楽団、一体、どこまでいくんでしょうか?

いまや関西で敵なし。ヨーロッパでも満席で、となれば・・・・広上さん、アメリカに討ち入りのご意思はないのでありましょうか??
by ぐすたふ (2015-06-28 15:17) 

ヒロノミンV

>ぐすたふさん
 当日は遅くまでありがとうございました。未だにこの日の演奏が頭の中で鳴っています。来週は岡山フィルの一世一代の大勝負の定期があるというのに、なかなかそっちへ心が向きません。京響も罪なことをしてくれました。。。
 今年のプログラムを見ると、アメリカに遠征してもおかしくないレパートリーが並んでいる気もします。コロンバスで経営危機があって、広上さんの義侠心が災いして、京響に専念することになった、その経緯も、この京響の隆盛のために神の配剤だったのではないか?と思わされます。
by ヒロノミンV (2015-06-28 22:57) 

通りすがり

こんにちは。ブログ拝見しました。
私も当日会場にいました。
本当にすごいブルックナーでした。
大阪在住で、京響のレベルの高さの話は、ネット上で知ってはおりました。14年ほど前に定期で聞いた「アルプス交響曲」があまりに・・・だったことと、北山まで行くのが億劫なので随分久しぶりに聞かせていただきました。

こんなに素晴らしいオーケストラとは思いもしませんでした。
小泉さんの音楽作りも本当にすごかったです。

小泉さんが、店村さんに何かしら話しかけてらっしゃったのは非常に印象的でした。
by 通りすがり (2015-06-29 17:25) 

通りすがり

通りすがりに失礼します
ブログ拝見しました
私も当日聴いておりました
金管楽器の鳴らし方などドイツ語圏のオケの様で驚きました
ああいう鳴らし方をすると美しく響くんですよねえ
私も天井を向いて響きを味わっていたのですが、まさか同じ様な楽しみ方をしていた方がいたとは
しかも、京都コンサートホールの音響について、今までと違って見直さざるを得ないかもと思っていたので二度びっくりです
3日たった今でもあのサウンドが耳に残っており、そこへこのブログを読んだもので思わず書き込んでしまい、失礼いたしました
by 通りすがり (2015-06-29 19:59) 

ヒロノミンV

>(大阪在住の)通りすがりさん
 記事作成途中にも関わらずお読みいただき恐縮です。
 私なんかは岡山から聴きに行くので、鈍行でもかろうじて日帰り圏内の大阪に比べると、北山のホールは遠いので、京都に一泊して京響+京都観光を年に数回するのが楽しみになっています。先立つものも限りがあるので、他の地方への家族旅行を一切やめて、京都に絞ることになるんですが、今の京響サウンドはそうしてまで足を運ぶ価値があります。
 当日、同じ時間に同じ演奏を聴いたもの同士、こうしてお互いに反芻しながら交流する喜びを感じています。コメントありがとうございました。
 
by ヒロノミンV (2015-06-29 20:20) 

ヒロノミンV

>(後に書いてくださった)通りすがりさん
 私はあまりの神々しいサウンドに、思わず天を仰いだ時に、『こうして聴くと、いっそう響きの美しさが際立つなァ』と気付いて、聴いていました。そうでしたか、通りすがりさんも同じことを感じられましたか。

『金管楽器の鳴らし方などドイツ語圏のオケの様で驚きました』

 僕も本当に驚きました!小泉さんも本当に満足の表情で、思う通りの音楽が出せたのだと思います。京都コンサートホールも、真の姿を現しましたね。惜しむらくは3日前の演奏は録音されていなかった様子であること。今後、小泉さんとブルックナーを演奏するときは、ぜひ録音を入れてほしいと思いました。

by ヒロノミンV (2015-06-29 20:30) 

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