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京都市交響楽団第601回定期演奏会(1日目) ゲッツェル指揮 Fl:アウアー [コンサート感想]

京都市交響楽団第601回定期演奏会(1日目公演)
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ニコライ/歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
モーツァルト/フルート協奏曲第1番ト長調K.313
バルトーク/バレエ組曲「中国の不思議な役人」
ラヴェル/ラ・ヴァルス

サッシャ・ゲッツェル指揮
フルート独奏:ワルター・アウアー
コンサートマスター:泉原隆志

2016年5月21日 京都コンサートホール大ホール

 終わって見れば世界トップレベルといっていい、素晴らしい演奏会でした。
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 1曲目のニコライは、なめてかかったわけではないでしょうが、合奏精度が詰めきれてなかった感あり。それでも京響のハーモニー感が心地よくて…。以前、ブロムシュテット&チェコフィルを聴いた時に、ブロムシュテット翁のタクトにチェコフィルがついて行けなくて、ズレズレのアンサンブルになったんですが、崩れても尚美しかった。いやいや、今日の京響はあそこまで崩れなかったけど、オケ本来の音が出ていたら、少々の合奏制度の乱れは一種の色気になってしまう。京響もそんなレベルのオーケストラになったということでしょうか。

 あと、前半はアウアーさんのフルートに触れないわけには行かない。去年、同じくウィーンフィル首席のカール・ハインツ・シュッツの柔らかくニュアンスたっぷりのソロを聴きましたが、アウアーさんはそれに輪をかけて精妙でまさに天衣無縫、息を直接吹き掛けて出す音なのに、なぜあんなに透き通った音が出るんでしょう。アンコールの選曲も絶妙。

 後半は、まさに京響の本領発揮でした。上手すぎる、間違いなく世界に出してもトップレベルの演奏。

 ゲッツェルもバルトークやラヴェルが得意なんでしょう。初顔合わせとは思えない息の合いっぷり。バルトークの中国の不思議な役人では、猟奇性を全面に、まさに抉って抉ってグロテスクな演奏。ミミの妖艶さと狂気を クラリネットの小谷口さんが、そら恐ろしい表現で応えた。
 そしてそして、ラストの追い込みは、最近の愛聴盤の、シャイー&コンセルトヘボウ管も真っ青の、ドンピシャで決まるアタックの連続。まあ、会場は盛り上がる盛り上がる。でもあと一曲あるんです。

 バルトークの後だと、このラヴァルス、今の京響にとっては朝飯前なんじゃないだろうか。いやはやこれも凄かった。弦楽が奏でる主題の、なんと高貴な色香が漂うことか。前曲と見事に対をなしていた。
 ゲッツェルも、これだけのパフォーマンスでオケが応えてくれたら、さぞ気持ちいいにちがいない。聴いてる聴衆も天才ラヴェルの美音の渦に身を任せて、こら~たまらん、気持ちええ~。

 一番興奮したのは、終盤に差し掛かる手前、トロンボーンが主題を高らかに歌い上げるところの、管弦の不協和音のトリル、ラヴェルの天才的な音感を思い知らされる場面だが、京響からすごい音がなって、「ぞわわわ~」と、鳥肌が立ちました。日本のオケからこんな音が出ようとは…。
 バルトークに続いて、ゲッツェルさん追い込む追い込む。京響も完璧に応えて、凄い拍手が。同時に鴨川の洪水の音のような音が聴こえて来て、周りの人も「この音、なに?」と見回すけれど、これ、余りに拍手が凄すぎて地鳴りのようになってたんですね。

 明日は前半の精度を上げてくるでしょう。バルトークとラヴェルは、これ以上の演奏…想像もつきませんが、チケットもまどあるようですし、関西のファンの方は絶対に行っといた方がいいと思います。

 また、追加で何か書くかもしれません。

(やっぱり言い足りない・・・追記です)

・配置は前半が対向配置で後半がステレオ(ストコフスキー)配置。1曲目は14型2管、モーツァルトで6型2管になり、最後は14型に戻すが、チェロバスを2本づつ補強している(このチェロバスの補強が、失禁モノの恐怖を生み出す事は、開演前には知る由もない…)。

・サッシャ・ゲッツェルは、元ウィーン・フィルの奏者だったようだ。この日の指揮を見る限り、奏者の自主性に任せるタイプの指揮者で、それは京響においても成果を上げていた。既に国内では首席客演のポストにある神奈川フィルのファンからは熱烈な支持を集めているようだ。手綱はしっかり握っているのだろうが、タクトの意図するところが明快で奏者のストレスを最小限に、自発性を最大限に生かす指揮は今後も注目したいと思った。

・京響定期恒例のプレトークがあって、トイレのスピーカーから流れてくるお話しを断片的に聞いた事によれば、ニコライはウィーン・フィルの創設者で、ゲッツェルとアウアーはともにウィーン・フィルの仲間。「ウィンザーの陽気な女房たち」は、ウィーン・フィルの創設者の1人であるニコライの作曲。ということでウィーンづくしのメニューとのこと。

ニコライ/ウィンザーの陽気な女房たち
・絶妙のハーモニーで開始し、うっとりしていると、アンサンブルの乱れが・・・、盛り上がるところでも微妙なずれが合って「これは京響にしては珍しい」と思ったが、音事態は瑞々しく、細かいアンサンブルがどうこうという気にならなくなった。

モーツァルト/フルート協奏曲
・ワルター・アウアーによるフルート協奏曲。ここ1年で同じ曲でウィーンフィルの両首席の演奏を聴いたことになる。

・ウィーン・フィル独特のサウンドに、ホルンやオーボエが挙げられるが、フルートも独特の音だと言う事が良く分かった。言葉ではなかなか言い表せないのですが、木質感のある音というか、森の香りを漂わせる感じ。

・オーケストラの方は冒頭だけバタバタした感じがあったが、途中からは完全に持ち直した。

・フルート首席の清水さんが退団されたとのことで、1番に座った中川さん(岡山フィルでも聴かせていただいた)が、アウアーの演奏を凝視!ときおり手元で指遣いなどをトレースしているように見えた。


バルトーク/バレエ組曲「中国の不思議な役人」
・中国と言っても現代の中国の話ではなく、清の時代が舞台。

・この曲を生演奏で聴ける事を楽しみにしていた。京響の名演奏ライブラリーシリーズにレスピーギのローマの噴水が収録されているものがあるが、その演奏の壮絶な事!今年度のプログラムの発表を見て、「中国の不思議な役人」「ラ・ヴァルス」が取り上げられるのを見て、『これだ!』と飛び付いた次第。

・しかし、ストーリーは狂気に満ちている…というのはおぼろげながら知っていたものの。ここまで緊迫に次ぐ緊迫の曲だとは思ってもみなかった。辮髪の役人がミミを追いかけるシーンなんて、舞台にはパントマイムが無いのに、心臓の鼓動が高くなるのが分かった。音楽だけでも凄い曲。

・京響の金管陣と木管陣はもはや国内でも3本指に入るのではないか、個人技のレベルの高さもさることながら、タイミング・アンサンブルともども完璧・・・だった。特にトランペットとファゴットがカギを握る曲だと感じた。半年前にデュトワ&N響の放送でもこの曲をやっていた。放送と生演奏を比べるのは愚の骨頂であるのは解っているが、京響の演奏の方がどう評価しても上だと思った。


ラ・ヴァルス
・会場の興奮がまだ全然冷めきらないうちに始まった、コントラバスのワルツ。バルトークの毒気が残っているのか、不気味な死の舞踏を思わせる。チェロやフルートが登場して、弦のまろやかな調べが加わって、やっとラヴェルの世界がやってきた。

・京響の演奏は本当に見事。ラヴェルが「ウィンナー・ワルツ」のパロディーとして作曲したこの曲をウィーン・フィルの元団員が降る。フランスの香りとワルツのリズムと、ラヴェルの極彩色の世界を見事に表していた。

・ゲッツェル氏は京響の奏者の自主性を重視したのだと思う。体を動かしながら、操者同士・パート同士、アイコンタクトを取りながら、時間を慈しむように演奏する。さっきまでバルトークで阿鼻叫喚の世界を描いていたのに、今は天国的な世界を描いている。本当に素晴らしいオーケストラだ。流れるような部分も、リズムを刻む(第1主題が着地する「タータタタタッ」っていうところの木管・金管のタンギングが、めちゃめちゃかっこいい、こんなのはロイヤルコンセルトヘボウ管とか、バンベルグ響あたりでないと聴けないと思っていた)部分も、実は奏者の技が詰まっているのだろう。

・ラストの追い込みのプレストも凄かったが、方向としては『ハッピーエンド』な演奏。これには賛否あるでしょうが、バルトークとの対比がくっきりしたことで、気持ちよく帰路に就くことが出来た。


 たまに書いてるグルメメモ。今回は烏丸御池のベーグル専門店、「フリップアップ」でベーグルを購入し、お昼ご飯をホールの前で食べようと思っていたら、この暑さ…。ホール近くの疎水沿いの木陰で食べました。たまごサンドが絶品!
 隣の植物園も、日向には人がまばらでした・・・
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バルビ

 京都市響や大阪フィル、好調のようですね。私は、大阪フィルは朝比奈さんで一回だけですが聴いた経験があるのですが、京都市響はまだなんです。広上さん体制で盛り上がっているようですので、一度は聴いてみたいです。R、シュトラウスの「薔薇の騎士」組曲他のCDがあまりにも素晴らしいので。
 「中国の不思議な役人」は凄かったでしょう。私も実演で聴くまでは、こんな驚くような曲だったんだと、全くしりませんでした。実際に聴くのとレコードで聴くのとでは大違い!
by バルビ (2016-05-25 19:31) 

ヒロノミンV

>バルビさん
 コメントありがとうございます。京響は調子がいいというよりも、実力が伸長して世界レベルになった、と言っても差し支えないと思います。ぜひ、バルビさんにも聴いて頂きたいですが、この楽団は遠征にはわりあい慎重なんですよね…。チャンスがあるとすれば東京公演でしょうか。
 大フィルも、今回を聴く限りではかなり持ち直して、指揮者によっては往年の輝きを取り戻しつつある感じがします。

>「中国の不思議な役人」は凄かったでしょう
 いや、本当に壮絶な音楽ですね。今回はじめて生演奏で聴いて思い知らされました。
by ヒロノミンV (2016-05-26 21:51) 

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