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大阪フィル神戸特別演奏会 [コンサート感想]

 来週の定期演奏会『子供と魔法』に、仕事でいけなくなったので、自分にとってこの夏の大植&大フィルはこの神戸公演一本勝負となりました。

 昔は好きで好きでたまらなかったのに、海外・国内オケ問わず、何十回と聴いていて食傷気味になっている、チャイコフスキーの5番。耳にタコができるほど聴いてきた名曲でも、大植さんの指揮なら何かがある!と思っていましたが、こんなに猛烈な演奏が聴けるとは・・・・。ミネソタ、ハノーファーで『エイジ・エキスプレス』と呼ばれた、スピード感と躍動感に、自在性を切れ味を加え、その上にほとんど狂気とも思える爆発力と破壊力のある壮絶で重厚なチャイコフスキー5番になりました。

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大阪フィルハーモニー交響楽団 神戸特別演奏会

ロッシーニ/歌劇「どろぼうとかささぎ」序曲
ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲
チャイコフスキー/交響曲第5番

指揮:大植英次
ピアノ独奏:小曽根真

7月17日 神戸国際会館 こくさいホール
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 まず、ロッシーニの「泥棒とかささぎ」序曲。2曲目がアタッカの25分の協奏曲だから、遅れてくる客は途中で入れれない、だからちょっと長めの序曲、という選曲なんやろうなあ・・・とスレた推理をしていましたが、この1曲目も大植さんらしい演奏。スネアを上手と下手の出入り口付近に配置して、祝祭的な号砲として華々しさを演出する。一つ一つのフレーズが躍動し、ダイナミクスの変化も自由自在。特に最後のクライマックスではホールが震撼!ああ~1曲目の序曲だけで、それも地方公演でこんなに真剣勝負の演奏をしてくれるんや(どっかのオケとはエライ違い)、と感動。シンフォニー1曲聴いたような満足感。
 いや、ホンマ、この曲がこんなに面白い曲やったなんて知りませんでした。村上春樹の小説ではないけれど、パスタを茹でるのに丁度いい曲、なんていう優雅なもんじゃなかったですね(笑)曲に熱中して茹でているのを忘れそうな、そんな濃厚な演奏でした。

 会場も沸いてましたね。カーテンコールがあってスネアや木管を立たせて賞賛の拍手。何度も書いて恐縮ですが、地方公演の1曲目の序曲ですよ。盛り上がり過ぎですって。

 2曲目はYAMAHAを駆っての小曽根真さんによる、パガニーニの主題による狂詩曲。僕はこの曲の生演奏はこれで4回目、岡山フィルに京響が2回、及川浩治に小川典子、そして河村尚子と、いい演奏家・演奏に恵まれて大好きな曲でもあります。
 大フィルのブログによれば、基本は楽譜どおりの演奏を目指して、大植さんのアドバイスでちょっぴり遊び心をプラスする演奏、そんな予想をしていたんですが、蓋を開けてみると、絶妙な塩梅でアドリブが入って、この曲のロマンティシズムというか美しさを際立たせる演出になっていました。小曽根さんの演奏でこの曲を聴けて、本当によかった!と思います。
 そして、やっぱり音が違うんですよね。アルペジオでの音の輝きとか、しっとりと聴かせるところ、ガッツリ鳴らすところ、いやいや、クラシックのピアニストとは全く音が違う(だからどちらがいい、ということではないです)。だから今まで生演奏で聞いてきたのとは、別の曲のように感じました。あの有名な第18変奏でのロマンチックで官能的な旋律、いつもこのまま終わらないで欲しい、と思う時間が小曽根産の絶妙なカデンツァで永遠に続いていく。この部分の美しさは一生忘れることはないだろうと思える幸せな時間でした。
 オーケストラは立ち上がり、ごちゃごちゃしてる部分もあって、ホルン・金管は置いてかれそうになってましたね。舞台上であまり演奏しやすいホールではない・・・という話も聞きますが。中盤・後半は流石に大フィル、バシッと決めてくれてただけに、ちょっと序盤のモタモタが惜しかったです。

 ソリスト・アンコールは曲名はわからなかったんですが、小曽根ワールド全開、盛り上がりましたね。

 メインのチャイコフスキー5番。まず最初に断言しますが、僕が国内オーケストラで聴いた演奏の中では一番感動した演奏になりました。
 第1楽章最初のクラリネットの主題から、弦の刻みに入ってビックリ、『これは早い!』それから徐々にトッティーが盛り上がる場面でさらに加速する、と思ったら急停止して旋律を濃厚に濃厚に歌い上げる。

 とにかくオーケストラには大変な演奏です。聴く方も大変です(ハッキリ言ってこの演奏を聴くのは疲れます!)。それに加えて終始ハイテンション。大植えさん独特のブリリアントな響きや均整の取れたハーモニー、そういった魅力を多少犠牲にしてでも、オケを煽って煽って煽り倒す。もはやこれは凶暴とも言える演奏でした。
 そう、これはロシアのオケの音だと思いました。凶暴に炸裂する金管打楽器、むせび泣く木管と弦楽、それをささえる破格の集中力と驚異的な運動性能。これはまさにムラヴィンスキー&レニングラード・フィルや、スヴェトラーノフ&ソヴィエト国立交響楽団で聞く世界だと・・・

 第1楽章の最後に、第1主題に戻ってきて最後の悪魔的なステップが徐々に収束していく・・・その場面で僕はチャイコフスキーにごめんなさいを言いたい気分になりました。こんなに絶望のシンフォニー、苦しみに満ち溢れていた音楽だったのか・・・、もう聞き飽きた、なんて思ってごめなんさいと。

 この日の演奏の大きなハイライトの一つは第2楽章。この楽章の情熱的な演奏は、あの長大な第1楽章ですら前座にしてしまいかねない、音の洪水、音の台風。テンポの変化も激しく、ダイナミクスにいたっては、最弱音では大植さんが方膝をついて「抑えて!」という指示に極限まで応えた最弱音から、神戸国際会館のビル全体が震撼するような巨大なトッティまで、ちょっと経験のない盛り上がりの第2楽章でした。

 第3楽章も濃厚なワルツ。大植さんの音楽に接していて思うことなんですが、夢とうつつの境目がわからなくなる。そこで鳴っている音楽は確かな手ごたえがしっかりあるのだけれど、でもそれでいて夢幻を見ている気もする。だからその瞬間瞬間がいとおしい・・・、この第3楽章もそんな時間が流れました。

 第4楽章の演奏の見事さは言葉では表現しがたいものがあります。ちょっと整理して後日書き足そうと思います。

 これだけ熱の入った演奏の後に、アンコールが「ルスランとリュドミラ」序曲。これもテンポが速い早い(笑)演奏後は客席もステージにも充実感と疲労感が滲み出て(一方、益々意気軒昂の大植さんとコントラストを成す)おりましたが、客席を後にするお客さんの列からは「凄かったよね!」「これは中々聴けへんえんそうやった」という言葉が交わされていました。

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 神戸国際会館でこのコンビを聴くのはこれで3回目、1回目はチャイコフスキー4番で、2回目はベートーヴェンの英雄(この英雄は、僕が大植さんの演奏を追いかけるきっかけになった演奏でした)、そして今回と、どれもが僕にとって思い出深い演奏になりました。ホールの音響はイマイチだし、ステージでの演奏もやややりにくい感じが伝わってきますが、そういう条件の悪さが功を奏するというところでしょうか。

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大仏と鹿

神戸公演、私も聴いておりました。

素晴らしい演奏!!!
小曽根さんのピアノ最高!!!

と、本当にマエストロ大植英次さんが
タクトを取れば大フィルの音は変わります。

ブログを読ませていただいて・・・・・・

奈良の田舎に帰る為
第5番終了後、余韻を余り楽しむ事なく
ホールを後にしたんですが
「ルスランとリュドミラ」があったとは・・・・・

残念!!!
by 大仏と鹿 (2013-07-19 06:44) 

ヒロノミンV

>大仏と鹿さん
 いやいや、まさかあの熱演の後に「ルスランとリュドミラ」をやるとは思えませんよねぇ。カーテンコール5回目ぐらいで、大植さんが駆け足で指揮台に上がり、いきなり演奏が始まったときは僕も面食らいました。
 小曽根さんのピアノも「ホンマになんでこんな惚れ惚れする音が出るんだろう・・・」と、しみじみ有難く聴かせて頂きました。
 大植さんの手にかかると、大フィルサウンドに輝きと迫力がプラスされますね。
by ヒロノミンV (2013-07-19 23:32) 

ぐすたふ

このチャイコフスキーを一緒に聞かせていただいて、そして同じ思いを共有させていただいて、ホントにホントに嬉しいです!!!まさにロシアのオケ、爆発!!でしたねえええ。いやあ、濃い演奏でした。これまで聞いた、大植さんの3回のチャイ5の中ではダントツのベスト、だったと思います。

終演後、お会いできなくて、誠に残念でした。またの機会、よろしくお願いします。
by ぐすたふ (2013-07-27 02:39) 

ヒロノミンV


>ぐすたふさん
 当日は失礼しました。僕もお会いできなくて非常に残念でした(電話が反応しなかったのはなんでなんやろう・・・閑話休題)。大植さんあるところ、ぐすたふさんあり、という前提で連絡をさせていただきます!
 大植さんのチャイコフスキーは3度目なんですが、これほど獰猛なロシアン・パワーさく裂の世界を現出なさるとは思いませんでした。それでいて、美しいところは極度に美しい・・・。聴けて良かったです。

 次回は9月の大阪クラシックですが、僕の予想とは1週間ズレてしまいましたので、目下、調整中です。とりあえず、最終公演のチケットが入手できるかどうか・・・ですね。また連絡させていただきます。


by ヒロノミンV (2013-07-27 18:27) 

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