国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その3:集客分析 関西のオーケストラ) [オーケストラ研究]
このシリーズ記事も今回が第3回。岡山フィルからは少し離れますが、私自身も足しげく通い、多少なりともも事情がわかる関西のオーケストラの集客についての分析してみようと思います。
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大阪・関西地区は2008年の「リーマンショック」と「
皮肉なことに「オーケストラは根付いていない」と橋下氏が根拠もなく放言したこの関西こそが、全国的に見ても有数の「オーケストラの動員力がある地域」だったわけです。その大阪・関西のオーケストラの観客動員について、もう少し詳しく見ていこうと思う。
まずは大阪以外の関西の状況だが、
これはいわゆる「橋下ショック(オーケストラに対する公的補助の打ち切り)」による大阪のオーケストラの奮起によるものでは・・・もちろん、無い!(笑)
実際はまったくその逆で、兵庫県が潤沢な投資的資金を投入して劇場整備とソフト事業を進めたことが関係している。兵庫芸術文化センター管弦楽団(兵庫PAC管)
次の要因としては京響の動員数の増加があげられるが、
兵庫県立芸術文化センター管弦楽団の年度別数値(人数は人単位、金額は千円単位)
※全体を見るためには画像をクリックしてください
PACの経営数値を見てみると、
オーケストラの客演指揮者陣の顔ぶれも蒼々たるメンバーで、人気指揮者:佐渡裕を筆頭にフェドセーエフやマリナー、スダーンなど、西日本のオーケストラの中でも随一の顔ぶれをそろえ、アメリカのオーケストラ並みの定期演奏会同一プログラム3日連続公演を打ち、そのほとんどが完売する。
一方で大阪のオーケストラの観客動員はというと、
北摂の交通の要衝:阪急西宮北口という立地は、繁華街やオフィス街のど真ん中ではなく、どちらかといえば住宅街に近い立地ということで、開館前はそんな住宅街に大・中・小ホールを要する巨大な箱モノを作ることにかなりの批判があった。しかし開館効果が薄れてくるころに、ちょうど団塊の世代がリタイヤした時期と重なった。以前は平日の仕事帰りにホールへ寄っていた客層が、自分の居住地からアクセスのいいこのホールの常連となった。。
兵庫県立芸術文化センターでは、
次回は、そんな関西のオーケストラ動員の隆盛の流れに、
国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その2:オーケストラは国民的娯楽!?) [オーケストラ研究]
今回は第2回ということで「
これまでの記事
日本オーケストラ連盟加入団体の経営数値を見ていった際に一番驚
これを他の娯楽と比較してみると・・・
2015年の観客動員比較
プロ野球(全体) 2423万人
セ・リーグ 1351万人
パ・リーグ 1072万人
J1リーグ 544万人
オーケストラ 423万人
J2リーグ 316万人
Vリーグ女子 33万人
昭和時代からの国民的娯楽のプロ野球には及ばなかったが、
オケ連加盟団体だけでこの数字で、
ついでに言うと「クラシック音楽」という括りだと、ピアノ、ヴァイオリンをはじめとした器楽独奏や室内楽だけでもオーケスト
もちろん、この数字の中には学校を対象とした音楽鑑賞教室や、
以前、拙ブログでも取り上げたが、韓国の中央日報「
国内のクラシック音楽の雑誌や関連サイトを見ると、『
岡山フィルをはじめオーケストラで都市の文化芸術の振興を行おうとしている自治体関係者は、この「全国で400万人の動員力」という事実を前面に打ち出してほしい。
ちなみに、音楽趣味の世界でいえば、FUJI ROCK やSUMMER SONICなど、いわゆる8大夏フェス(野外コンサート)が、
しかし、喜んでばかりは居られない。
「そうは言っても周りでオーケストラを聴きに行くのは少数派、
コンサート情報のフリーペーパーである、「ぶらあぼ」
上の二重円グラフ、内側は実際の各地方の人口分布を表しており、
南関東(東京、神奈川、埼玉、千葉)
一方で近畿(2府4県)も意外に検討している。人口比では16%
他の地方はおしなべて人口比を下回ってる。
南関東と近畿をあわせると、全体の3/4を占めることとなり、
次は第1回目の記事でも取り上げた、事業規模(総収入額)/
両者には一定の相関関係がみられ、事業総収入(事業規模)=
この散布図から、事業規模別にオーケストラを分類してみよう。
① 御三家型4管編成オケ:事業規模・
② 業界牽引型4管編成オケ:
③ 100万都市型3管編成オケ:年商10億円を超え、
④ 地方都市型2管編成オケ:
⑤ 非常設オーケストラ:
この5つに分類に実際のオーケストラを当てはめてみよう。
① 御三家型超4管編成オケ:N響、読響、都響
② 業界牽引型4管編成オケ:東フィル、日本フィル、東響
③ 政令指定都市型3管編成オケ:京響、名フィル、
④ 地方都市型2管編成オケ:群響、九響、OEK、広響、
関西フィル、大阪響、山形響
⑤非常設オーケストラ:千葉響、静岡響、中部フィル、
岡山フィル、瀬戸フィル
4管編成というのは、弦楽器だけで50人、
3管編成は、管楽器が各パート3本を基本単位とする編成で、80人前後の奏者で編成される。
2管編成は、管楽器が各パート2本を基本単位とする編成で、40人~60ぐらいの奏者(弦楽器の規模により増減)で編成される。バロック・古典派を中心に、
編成が大きくなると、当然人件費も高くなる。つまり、総収入額(
上の散布図「事業総収入/総入場者数」
次回は、私もお世話になっている関西のオーケストラの観客動員について見てみます。
国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その1:岡山フィルの現在のポジション) [オーケストラ研究]
国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(まえがき) [オーケストラ研究]
国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究 目次 [オーケストラ研究]
『第2期』シェレンベルガー&岡山フィルの体制を見据えて(その3) [オーケストラ研究]
「ファジアーノ岡山も念願のJ1昇格に向けて盛り上がっている。シーガルズもVリーグで、湯郷ベルもなでしこリーグで、みな国内各都市のトップチームと戦っている。岡山市は文化でも国内のトップレベルを目指す。その目玉として岡山フィルは、N響や大フィルなど日本のトップオーケストラがひしめく、日本オーケストラ連盟への加盟を目指します』
もちろん、J1への昇格とは違って、オケ連盟へ加入するのと実力が認められるのは全く別問題だということは、私だってわかっています。そこはそういうストーリーを使って盛り上げていく、というしたたかさが必要だと思います。。
というのも、あまり世間では知られていないことですが、今や公務員も成果主義で評価され、ボーナスはおろか、査定によって昇給額が変わって来るようになっています。年功賃金が居る程度維持されたまま、目標達成度の成果主義で査定されると、どういうことが起こるか?勝ち組の政策に乗っかり続けた場合、退職時点で数百万の違いが出ることだってありえるということです。
このお役所の力学のベクトルが変わった今を逃す手は無い。政令指定都市としての成熟した文化都市を目指す岡山市が「オケ連加盟(準会員)」というわかりやすくも実はハードルが高くない(評価目標になりやすい)コミットメントを掲げ、それに役所の人事力学を絡めて色々な人を巻き込んでいくわけです。「これは自分たちの評価が上がるタネになる」と思わせれば、後は勝手に動いていきます。
その証拠に、岡山では来年に『第1回岡山国際現代芸術祭』を開催することが決まっています。明らかに香川の後追いですが、それだけライバル関係にある自治体からの刺激が有効であることを表しています。
岡山フィルの関係者の、皆さん。この際、岡山の文化行政関係者の危機意識を煽りに煽って、岡山フィルの成長につなげるという強かな戦略を取りましょう。
今はシェレンベルガーという稀代の指導者が来て、芸術面でも運営面でも勢いがついていますが、これはあくまでカリスマ頼みのマンパワーオンリーの運営です。シェレンベルガー氏が去ったら、元通りになりかねないわけです。行政面からの責任をもった補佐を担保する意味でも、市と楽団が一体になって日本オケ連加盟を成し遂げるのは大きなメリットである筈です。
この地図を見れば無理もない事でしょう。日本のオーケストラ業界地図には、文字通り岡山は空白地帯、というよりよく見るとほとんど大阪に近い兵庫PAC管が岡山の位置に書かれている。本当の位置に書くとバランスが悪いからこうなるんでしょう。西宮より西には、広響と九響しかない訳ですから。
『第2期』シェレンベルガー&岡山フィルの体制を見据えて(その2) [オーケストラ研究]
発足十二年となる岡山フィルハーモニック管弦楽団(岡フィル)が本年度、初めて「音楽アドバイザー」のポストを設置、十年来の親交がある指揮者小泉和裕氏(54)を迎えた。就任記念を兼ねた第二十四回定期演奏会(定演)のため来岡した小泉氏に、抱負を聞いた。
<岡フィルでは、一九九五年の第六回定演に始まり、二年前の創立十周年記念公演を含めて客演指揮者としては最多の計五回タクトを振った。これから二年間、企画立案や演奏指導、人事的アドバイスを通じ、岡フィルの音楽性を高めていく>
小泉:率直に言うと、この楽団は今、岐路に立っている。創設十年が経過したこの時期に、今後どういうオーケストラを目指したいのかを明確にし、音づくりをしっかりしておくかどうかが将来を左右するだろう。音にスタイルがなければ存在にも特徴が出ない。
とはいえ、その無色なところに逆に可能性を感じる。悪い癖や、技術的に弱いパートがないのは美点で、団員から音楽への純粋な意欲も伝わってくる。定期的に接してきて「助けたい部分がたくさんある」「もっと良くなる」と感じたため、この役を引き受けた。
<小泉氏が早速、着手したのが定演の強化。これまでの年二回から、来年度は五回に増やす。子ども向けコンサートなど 啓蒙 ( けいもう ) 公演も“活動の両輪”だが、楽団の基本である音楽性の向上を披露する定演が少ないのは、致命的との考えからだ>
小泉:今回の定演ではどのオーケストラでも「挑戦」と位置づけているブラームスを取り上げたが、まだ息遣い、音の組み立て方、曲が持っているものへの理解が十分ではない。ほかにハイドン、モーツァルト、ベートーベンなど古典の重要なレパートリーを最初からやり直す。
その上で、「岡フィルはどんな曲をやっていくのか」を考える。公演回数が増えれば系統立ったプログラムを計画的に組めるようになる。だが、それもメンバーが確立していない現状では容易ではない。
<現在岡フィルの運営は県、岡山市、経済界が担い、予算は年間約五千万円。厳しい台所事情を反映し、四十人の登録団員も月給制ではなく、演奏会ごとに日当で呼ぶという状態にある。結果としてその都度顔ぶれが異なる点を、小泉氏は「最大の弱み」と指摘する>
小泉:これまでの岡フィルは「確かにそこにあるけれど姿がつかめない」という印象だ。これを払しょくするには、メンバーの固定化が急務。スタイルを固めるためだけでなく、どんなコンサートマスターがいて、どんなプレーヤーがいるオケなのか“姿”を人々に見てもらうことが不可欠だからだ。
結局は、どのオーケストラも抱える財政の問題にぶつかる。だが、音楽は社会、人の心を豊かにするため必要な栄養のようなもの。せっかく本拠地となるホールがあるのだから、良い演奏をつくり上げ、企業や聴衆の理解・援助を求めていきたい。何年もしないと答えは出ないが、後々どの客演指揮者が来ても「とてもいいオーケストラになった」と言われるよう、最善を尽くしたい。
(2004年9月25日 山陽新聞掲載)
岡山フィルの長所・足りない部分、今後どうするべきか?という諸問題に関して、これほど明確なビジョンを持っていた人物(小泉和裕氏)が居たことを岡山フィルのファンは記憶にとどめておくべきでしょう。
そして、この『小泉音楽アドバイザー』が、なぜ任期が更新されなかったのか?集客が厳しかったのか?小泉氏の要求する体制を整備できなかったのか?などなど、岡山フィル側からファンに十分な説明がなかったことも併せて記憶にとどめるべきです。
少し(いや、かなり)話は脱線します。
もし、私のブログを初期のころ(2006年あたり)からご覧いただいている方がいらっしゃるとしたら、以前の私が岡山フィルに対して、けっこう醒めた目で見ていたことを覚えていらっしゃるかもしれません。
なぜなら、小泉アドバイザー制にしろ、サントリーホールとの提携にしろ、N響の岡山定期演奏会にしろ、最初だけ華々しく新聞やマスコミに発表するのに、その後どうなったのか?年会費を払っているファンにすら十分な説明が無かった。せめて「諸事情があって止めます」というアナウンスひとつぐらいは欲しかった。
シェレンベルガー氏が就任する数年前の岡山フィルは、こんなふうに岡山市民に「根付いていない」どころか、岡山のクラシック・ファンからもそっぽを向かれかけていた。ネット上でやり取りをしていた岡山のクラシックファンの間でも『ああいう姿勢では、おらが街のオーケストラ!という気にはならない』というやり取りをしたことが何度もあった。
その後、色々な関係者から話を行く機会があって、小泉アドバイザー時代の萩原市政から高谷市政へ移り、緊縮路線になり、県の財政危機とともに橋下徹・維新の大阪府市政もビックリの補助金削減のスパイラルに陥り、楽団運営が窮地に追い込まれていたことも知りました。
それだったら、苦しい時は『楽団が苦しいんです』と、せめて会費で支えているファンには説明すべきだったんです。
シェレンベルガーが首席指揮者に就任し、事務局にもアウトリーチや市民との交流事業に経験豊富な方が入ったとのことで、現在の岡山フィルは本当に変わった。
その日の演奏者が(立楽団からの助っ人も含めて)必ずプログラムに明記されるようになった。年間プログラムがきちんと発表されるようになった。ホームページが更新されるようになった。書いてて思わず遠い目をしてしまう。ほんの6,7年前までこんな「当たり前」の事が出来ていなかったんですよ。
それに加えて、facebookなどでリアルタイムの情報がきちんと更新され、見どころ聴きどころの情報が発信されて本番までのワクワク感が演出されるようになった。プログラムの楽曲解説が充実してきた。演奏会の前に色々なメディアでPRしている姿が目につくようになった。特に昨年10月定期の前に世界の至宝ともいえるシェレンベルガー氏が岡山市役所のロビーで定期演奏会のPRをしていた姿は神々しかった。あれだけのキャリアのある音楽家が、ファンのために汗をかいている。今まで岡山フィルが定期演奏会のPRのために、不特定多数の人が集まる様な街角で演奏することはほとんど無かった。それをあのシェレンベルガーがやった。その姿がファンの心を動かし、楽団員を発奮させ、事務局の姿勢を変化させた。
そして会員をリハーサルへ招待、賛助会員はパーティーでおもてなし、岡山大学でのワンコインコンサートの年間シリーズ(シェレンベルガーも登場する)。そして今年度はついに定期演奏会会員(マイシート)の導入。
細かいところでは、チケットホルダーにホールの座席表が印刷されるようになったこと。僕はこの取り組みを見た時、「ああ、岡山シンフォニーホールも本当の意味で顧客目線になったのだな」と思いました。しかし、まだまだ努力する余地はある。
2008年に橋下徹が大阪府知事に就任以降の大フィルは、ホームページやツイッターなどのネットメディアを活用して、①まず市民の税金を使って運営していることに感謝しつつ、②楽団の厳しい経営状態をすべて公開し理解を求め、③市民のより根付いた楽団になるための様々な改革案を示し、④ファンからの忌憚のない意見を求めた。
大フィルのコンサートでは、プレトークサロンと称した事務局とファンの交流の時間がありますが、経営に関する厳しい質問や意見にも誠実に応えている姿勢が印象に残ります。
大阪交響楽団では、自身のホームページに評論家の演奏批評を掲載し、厳しい批判を正面から受け止める姿勢を見せているし、関西フィルは徹底した顧客目線と関西だけでなく中国・四国地方にまでその地域密着型の営業を展開し、近隣では高松で毎年のように第九を演奏し、近年では岡山フィルが抑えておくべき筈の倉敷にまで関西フィルの営業の手が伸びている。
競争が厳しい関西のオーケストラ業界。大フィルのような国内屈指の老舗オーケストラでも、ここまでやってるんです。岡山フィルは成立過程で東京のプランナーが深くかかわってきた経緯から、運営に関してもスマートな在東京オーケストラの手法を参考にしているフシがありますが、今後は大フィルや関西フィルなど在阪オケの方が学ぶべきことが多いのではないかと思います。そうすれば岡山フィルには出来ることがまだまだある。
『第2期』シェレンベルガー&岡山フィルの体制を見据えて(その1) [オーケストラ研究]
今年の10月定期の(ブラームス・チクルスを思わせるような)プログラムから、シェレンベルガー・サイドも続投の意欲を見せていると推察します。
そこへシェレンベルガーが風穴を開けました、その穴を拡げて外部にまで旋風を巻き起こす必要がある。
ここで一点、確認したいことは、その残りの10分の9の人に足を運んでもらうにはどうしたらいいか?という命題を立てるわけではありません。というか、それは無理な注文です。
しかし、岡山フィルも(金沢や広島や山形に比べれば極めて少額ではありますが)市や県の財政補助で維持されている側面がある以上、その10分の9の人々に向けた対策を怠ってはならないということ。大阪の街であれだけ歴史的にも定着し、大阪の文化を牽引していた大阪フィルですら、あっさりと財政負担を引き揚げられてしまう時代ですから・・・。
とにかく、「私はあまり行ったことは無いけれど、岡山には岡山フィルというオーケストラがあって、色々街のために頑張ってくれてるんだなあ」という好意的な市民を少しでも増やすこと。それが第一段階として必要です。
後楽園での撮影が難しいようなら、シンフォニービルの1階でもいいし、上ノ町商店街の、ときどきイベントをしているところでもいい。
岡山の街に飛び出し、溶け込み、岡山の文化を体現する存在になる。その宣言になるようなプロモーション写真を何枚か持っておくことが重要だと思うのです。