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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その3:集客分析 関西のオーケストラ) [オーケストラ研究]

 このシリーズ記事も今回が第3回。岡山フィルからは少し離れますが、私自身も足しげく通い、多少なりともも事情がわかる関西のオーケストラの集客についての分析してみようと思います。

これまでの記事

 大阪・関西地区は2008年の「リーマンショック」と「橋下ショック」以来、苦境に立たされていると言われてきましたが、一方で、前回記事でも取り上げたように、もはや「国民的娯楽」といってもいい動員を叩き出すオーケストラ鑑賞の需要のなかで、「南関東」と「関西」はその人口に比べるとかなり強力な動員力があることも述べました。

 皮肉なことに「オーケストラは根付いていない」と橋下氏が根拠もなく放言したこの関西こそが、全国的に見ても有数の「オーケストラの動員力がある地域」だったわけです。その大阪・関西のオーケストラの観客動員について、もう少し詳しく見ていこうと思う。
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 まずは大阪以外の関西の状況だが、この10年で劇的とも言える観客動員の伸びをみせている。2006年の19万人に対し、2015年は48万人と、2.5倍もの伸びを見せているのだ。
 これはいわゆる「橋下ショック(オーケストラに対する公的補助の打ち切り)」による大阪のオーケストラの奮起によるものでは・・・もちろん、無い!(笑)
 実際はまったくその逆で、兵庫県が潤沢な投資的資金を投入して劇場整備とソフト事業を進めたことが関係している。兵庫芸術文化センター管弦楽団(兵庫PAC管)が設立され、オーケストラ連盟に加盟が認められたこと(2008年)と、それ以後も同オーケストラの観客動員が著しい伸びを見せていることが関西全体の観客動員の増加に寄与している。定期演奏会の会員数・総入場者数とも、大阪も含めた関西の楽団の中で、ぶっちぎりのトップを走る。

 次の要因としては京響の動員数の増加があげられるが、意外にも京響は11万人(2008年)→12万5千人(2015年)と伸びは大きくない(京都市直営時代は判で押したように11万人を計上し続けているので、これがどこまで実数を把握したものかどうか…疑わしいのだが、2015年の数字は公益財団法人として決算監査を受けているので間違いはないと思う)。

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兵庫県立芸術文化センター管弦楽団の年度別数値(人数は人単位、金額は千円単位)
※全体を見るためには画像をクリックしてください

 PACの経営数値を見てみると、やはり目に付くのは地方自治体助成の金額であろう。PACは兵庫県立芸術文化センターの座付きオケであり、その兵庫芸文センターにも兵庫県からの多額の補助が入っていると聞く。私は兵庫芸文センターの無料チケット会員になっているが、毎月多彩な催し物が開催されており、なかでも海外オーケストラ公演や東京でしか見られなかったような舞台が、東京の30%~50%安い価格で見ることが出来る。     
 オーケストラの客演指揮者陣の顔ぶれも蒼々たるメンバーで、人気指揮者:佐渡裕を筆頭にフェドセーエフやマリナー、スダーンなど、西日本のオーケストラの中でも随一の顔ぶれをそろえ、アメリカのオーケストラ並みの定期演奏会同一プログラム3日連続公演を打ち、そのほとんどが完売する。劇場の充実したプログラムと、価格破壊とも言えるチケット代の安さの原資は、間違いなく兵庫県からの公的支援である。その公的資金がプライミングポンプ(呼び水)となって、総入場者数の伸びや事業規模の拡大の基盤になっている。
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 一方で大阪のオーケストラの観客動員はというと、2006年の38万人に対し、2015年には43万人と堅調な伸びを見せている。ということは数字だけを見ると兵庫PAC管にしろ京響にしろ、大阪から観客を奪っての動員増加ではなく、新しいマーケットの開拓による新規顧客の獲得によるものと見ることが出来る。じっさい、『関西+大阪』の観客動員を集計しても伸び率は57万人→92万人で、160%の伸びを見せているのだ。これほどの伸びを見せているのは、前述したとおり他の地方には無い。世界的に見ても珍しい現象かもしれない。

 北摂の交通の要衝:阪急西宮北口という立地は、繁華街やオフィス街のど真ん中ではなく、どちらかといえば住宅街に近い立地ということで、開館前はそんな住宅街に大・中・小ホールを要する巨大な箱モノを作ることにかなりの批判があった。しかし開館効果が薄れてくるころに、ちょうど団塊の世代がリタイヤした時期と重なった。以前は平日の仕事帰りにホールへ寄っていた客層が、自分の居住地からアクセスのいいこのホールの常連となった。。
 兵庫県立芸術文化センターでは、クラッシックのみならず演劇や伝統芸能などの動員も好調で、これらの背景には、戦前からの「阪神間モダニズム」と呼ばれる、文化芸術を牽引してきた地域性や、宝塚歌劇の伝統など、莫大な「生もの」需要があったのだ。阪急沿線を中心としたこの地域は、今後も関西のオーケストラにとって、重要なマーケットとなるものと思われる。

 次回は、そんな関西のオーケストラ動員の隆盛の流れに、一つだけ波に乗り切れていないオーケストラを取り上げて、オーケストラ経営の厳しさにスポットを当ててみたいと思う。

国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その4:安定財源を失った先にあるもの


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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その2:オーケストラは国民的娯楽!?) [オーケストラ研究]

  今回は第2回ということで「オーケストラ鑑賞は国民的娯楽!?」と題して、国内のオーケストラ業界全体の集客状況を中心に見ていきます。

これまでの記事


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 日本オーケストラ連盟加入団体の経営数値を見ていった際に一番驚いたのが、オーケストラ鑑賞人口の意外なパイの大きさと推移。加盟団体の集計値によるとオーケストラ鑑賞人口は2006年では約360万人だったものが、2015年には423万人に増加しているのだ。

 これを他の娯楽と比較してみると・・・

2015年の観客動員比較
プロ野球(全体) 2423万人
 セ・リーグ   1351万人
 パ・リーグ   1072万人
J1リーグ     544万人
オーケストラ    423万人
J2リーグ     316万人
Vリーグ女子    33万人

 昭和時代からの国民的娯楽のプロ野球には及ばなかったが、ファジアーノ岡山も所属するJ2リーグの観客動員数を軽く凌駕し、J1リーグの動員数に迫りつつある莫大な入場者数を、オーケストラは動員している。
オケ連加盟団体だけでこの数字で、他にも水戸室内管や神戸市室内管のような非加盟団体や、大晦日恒例のコバケンさんのベートーヴェン交響曲全曲演奏会や、いずみシンフォニエッタなど、その時だけ集まってくるオーケストラの観客はここには含まれていない。海外オーケストラの日本公演も100万人を超えるボリュームがありそう。これらを合わせるとJ1の観客動員数の550万人を超えるかもしれない。
 ついでに言うと「クラシック音楽」という括りだと、ピアノ、ヴァイオリンをはじめとした器楽独奏や室内楽だけでもオーケストラに匹敵する動員がありそう。オペラなども合わせるとクラシック音楽の観客人口は1000万人を突破するかもしれない。
 もちろん、この数字の中には学校を対象とした音楽鑑賞教室や、ポピュラー音楽のアーティストとの共演など、クロスオーバー的なコンサートも含まれるが、これほどの人口がオーケストラやクラシック音楽の「生演奏」に接している事実を前にすると、オーケストラが「国民的娯楽」といってもいいと思う。

 以前、拙ブログでも取り上げたが、韓国の中央日報「プロオケ32楽団、聴衆400万…欧州も凌駕する"ジャパン・パワー"」という記事が、日本のオーケストラの観客動員の多さを『欧州も凌駕する』という最大の賛辞をもって報じていた。

 国内のクラシック音楽の雑誌や関連サイトを見ると、『クラシック音楽は少数者の趣味』という前提に立った記述が多くみられるが、実はそれは思い込みに過ぎない可能性があるのだ。

 岡山フィルをはじめオーケストラで都市の文化芸術の振興を行おうとしている自治体関係者は、この「全国で400万人の動員力」という事実を前面に打ち出してほしい。

 ちなみに、音楽趣味の世界でいえば、FUJI ROCK やSUMMER SONICなど、いわゆる8大夏フェス(野外コンサート)が、のべ20日間のイベントだけで88万人も動員するという・・・(2016年データ)、ポピュラー音楽界の観客動員数は、それこそ年間で数億人億単位であろう。「音楽を趣味とする人々」自体が莫大なボリュームがあり、オーケストラの観客動員数がその莫大なボリュームの中で霞んでしまう、というのはあるかもしれないが、オーケストラのもつ400万人を超える動員というのは評価されるべきだと思う。
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 しかし、喜んでばかりは居られない。

 「そうは言っても周りでオーケストラを聴きに行くのは少数派、としか感じられないなあ・・・」、特に私のように地方都市でこの趣味を嗜んでいると、これが実感だろう。

 コンサート情報のフリーペーパーである、「ぶらあぼ」誌を見ると、掲載されているのはほとんどが東京圏での公演で、地方都市の公演は月に数えるほどしかない。

 実際にデータを調べてみると想像以上の結果が出た。
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 上の二重円グラフ、内側は実際の各地方の人口分布を表しており、外側はオーケストラの観客動員を表している。

 南関東(東京、神奈川、埼玉、千葉)のえげつないほどの寡占状況がわかる。人口にしてほぼ29%ほどの南関東が、オーケストラの総入場者数では54%を占めている。正確に言えば、2015年度の1年間に日本オーケストラ連盟に加盟するオーケストラを聴いた人のうち、「半分以上が南関東に本拠を置くオーケストラを聴いている」ことになる。

 一方で近畿(2府4県)も意外に検討している。人口比では16%であるが、オーケストラの総入場者数では22%を占めている。
 他の地方はおしなべて人口比を下回ってる。経済の活況が著しい名古屋を抱える東海地方を見ても、これまた意外にも人口比の半分程度の動員しかない。
 南関東と近畿をあわせると、全体の3/4を占めることとなり、これでは「オーケストラ鑑賞は国民的娯楽」といっていいのは南関東と近畿のみであり、今後、オーケストラ鑑賞が真に「国民的娯楽」となるには、いっそう地方でのすそ野の拡大が図られる必要がある。

 次は第1回目の記事でも取り上げた、事業規模(総収入額)/総入場者数の散布図である。
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 両者には一定の相関関係がみられ、事業総収入(事業規模)=いわば企業で言えば「年商」が多額になれば事業規模が大きくなり、観客動員も増えることは第1回でも述べた。

 この散布図から、事業規模別にオーケストラを分類してみよう。

① 御三家型4管編成オケ:事業規模・総入場者数ともに別格に大きな(4管編成)オーケストラ。
② 業界牽引型4管編成オケ:年商も総入場者数も大規模で日本を代表する大型(4管編成)オーケストラ。
③ 100万都市型3管編成オケ:年商10億円を超え、10万人台後半の動員力がある大型(3管編成)オーケストラ。いわゆる「100万都市」に本拠を持つ。
④ 地方都市型2管編成オケ:年商数億円かつ数万人の動員のある中小規模(2管編成)のオーケストラ。
⑤ 非常設オーケストラ:日本オーケストラ連盟の正会員の基準を満たさないオーケストラ
 この5つに分類に実際のオーケストラを当てはめてみよう。

① 御三家型超4管編成オケ:N響、読響、都響
② 業界牽引型4管編成オケ:東フィル、日本フィル、東響
③ 政令指定都市型3管編成オケ:京響、名フィル、新日本フィル、札響、仙台フィル
④ 地方都市型2管編成オケ:群響、九響、OEK、広響、日本センチュリー、兵庫PAC、
 関西フィル、大阪響、山形響
⑤非常設オーケストラ:千葉響、静岡響、中部フィル、京都フィル、テレマン室内、
 岡山フィル、瀬戸フィル

 4管編成というのは、弦楽器だけで50人、管楽器が各パート4本を基本単位とする編成で、総勢100人前後の編成。バロック・古典から後期ロマン派・現代曲の巨大編成までオーケストラの楽曲のほとんどをレパートリーとする。欧米の名門オーケストラはこの編成のうえに交代で休暇が取れるように130人以上の奏者を擁している。
 3管編成は、管楽器が各パート3本を基本単位とする編成で、80人前後の奏者で編成される。オーケストラ楽曲の大部分はカバーできるが、19世紀末以降の大編成を要する楽曲はカバーできない。
 2管編成は、管楽器が各パート2本を基本単位とする編成で、40人~60ぐらいの奏者(弦楽器の規模により増減)で編成される。バロック・古典派を中心に、ブラームス・ドヴォルザークなどロマン派中期までのシンフォニーの演奏の際に採用される。

 編成が大きくなると、当然人件費も高くなる。つまり、総収入額(事業規模)と需要の大きさ(総入場者数)のサイズが、その都市のオーケストラの編成を決定する、といってもいいだろう。その観点から本シリーズ記事では総収入額(事業規模)と総入場者数の散布図を重視している。

 上の散布図「事業総収入/総入場者数」を見ても東京のオーケストラの優位性は圧倒的なもので、それに対抗しうる印象だった関西地区では、オーケストラ単体では業界牽引型の完全な4管編成に分類されるオーケストラは皆無。京響が準・4管編成で政令指定都市型の雄、といったところ。大フィルは表向きは3管編成だが事業規模では地方都市型2管編成の規模でしかない。関西は政令指定都市型の京響を筆頭に、中規模オケがひしめく団子状態、ということが言える。

 次回は、私もお世話になっている関西のオーケストラの観客動員について見てみます。


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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その1:岡山フィルの現在のポジション) [オーケストラ研究]

 「国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究」と題したシリーズ記事、今回は第1回として国内オーケストラの中での岡山フィルのポジションを見ていきます。
これまでの記事
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 今年の6月に、岡山フィルも晴れて加入した「日本オーケストラ連盟」のホームページには、楽団の収支や入場者数・公演数などの経営指標が年度別に公表されている。そして、公益財団法人に属する岡山フィルも実績報告と会計資料が公開されているため、同一項目の数値を集計して比較することで、全国の加盟オーケストラの中での岡山フィルのポジションを把握することが可能です。
 今回のデータ集計については、記事作成時点で把握できる最新データとして、連盟加盟オーケストラについては2015年のものを、岡山フィルについては2016年のものを使用して比較研究を行った。元は、今年の夏ごろに某SNSにて「日本オーケストラ連盟の公表数字を分析する」という題名で連載したものを、「岡山フィルの将来展望」という要素から再構成しています。 
 公表されている様々な数値の中から、今回はオーケストラの活動規模を把握するため、y軸に「事業総収入額」をx軸に「総入場者数」を設定し散布図に表したものが次のグラフ。
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 事業総収入(事業規模)/総入場者数の散布図
 このグラフから事業規模(=事業総収入額)と総入場者数の間には強い相関関係がみられ、回帰直線よりも左上側に位置するオーケストラは総入場者数の割に事業規模が大きいことを表し、回帰直線より左下に位置するオーケストラは事業規模の割に総入場者数が多いということになる。
 これを見ると、やはりN響・読響・都響といういわゆる「御三家」と言われるトップオーケストラは事業規模が大きい、それに次ぐ東京フィルも都響に迫る事業規模であるが、「御三家」に比べると倍以上の入場者を集めてようやく現在の地位を維持している、とも言える。
 次に、事業規模10億円あたりに固まっているのが京響・名フィル・仙フィル・札響などの大都市にあるオーケストラ。かつては「100万都市」と言われた頃の政令指定都市ばかりで、3~4管編成(オーケストラの大部分のレパートリーをカバーできる編成)のオーケストラである。オーケストラの総収入額の原資には①チケット代収入(依頼演奏出演料含む)と②公的補助、③民間補助の3種類があるが、「100万都市」には10億円ぐらいの事業規模を支えるだけの聴衆や自治体の支援、民間の支援が得られる、ということなのだろう。
 その次に広響・群響・センチュリー・大フィルが7~8億円規模に位置する。センチュリーは小規模オーケストラなので不思議はないが、大フィルがこの位置にいるのは意外。調べてみると2008年頃には10億円の事業規模を有していたが、自治体からの支援が一気に0になったことで経営バランスが崩れ、現在では地方の中規模都市のオーケストラの地位に甘んじている。大フィルについては回を改めて分析してみようと思う。
 さて、我らが岡山フィルのポジションは?というと、左下に沢山の点があるうちの一つになる。東京の「御三家」オーケストラから見ると、これほどちっぽけな事業規模なのか!?と驚きを隠せない。
 岡山フィルだけでなく、事業規模7億円を下回るオーケストラはいずれも回帰線の右下に位置しており、事業規模2億円未満で入場者数数万人の事業を展開しているが、回帰線を下回る状況というのは入場者数の割に事業規模が小さいことを表しており、経営環境の厳しさが見て取れる。
 次に日本オーケストラ連盟に「準会員」として加盟しているオーケストラ、つまり「常設ではないオーケストラ」を抽出して散布図を見てみよう。
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 事業総収入(事業規模)/総入場者数の散布図(準会員オーケストラ抜粋)
 準会員オーケストラの中でも岡山フィルのポジションは平均以下の位置にいるが、ここ数年で加盟した瀬戸フィル・奈良フィル・静響の中と比較すると、事業規模・総入場者数ともに岡山フィルが上回っている。また、15~20人規模の京都フィルやテレマン室内管弦楽団は、プロの楽団として高い評価を得ており、需要の大きい大都市圏であれば、小編成オーケストラが生き残れるニッチな市場が存在することを表している。。
 岡山フィルは現状でも10型2管編成の規模であり、楽団・聴衆・市当局ともにベートーヴェンやブラームスを過不足なく演奏できるこのサイズのオーケストラを望んでいる感じがある、そうなると現在の事業規模では非常設オーケストラはおろか、年間8回程度の定期演奏会の開催も難しい。実際に、山陽新聞の記事に掲載された事務局長さんの話では、現在の収入額では年に4回の定期演奏会が限界とのこと。
 こうして全国のオーケストラと比較してみると、現在の岡山フィルのポジションからから発展させて「都市格を向上させるオーケストラ」に育てていくのが、どれほど至難の業であることかがおわかり頂けるだろう。
 しかし、今の岡山フィルには強力な財産がある。こんなちっぽけなポジションにいるオーケストラを、シェレンベルガーという世界一を知る人物が関わってくださり、ドイツの堂々たる3管編成のオーケストラ(上の一つ目のグラフで言えば上位に位置するオーケストラ)でコンサートマスターの地位にあった高畑さんが、首席コンサートマスターに就任した。これらがどれほど奇跡的なことであるかも、一層浮き彫りになったと思う。
 次回は、オーケストラ業界そのものの現状について、データから読み解いてみようと思います。

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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(まえがき) [オーケストラ研究]

 岡山市の広報誌の11月号中の「議会だより」に次のような記事が掲載されていました。
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 岡山フィルは今年度、創立25年目にして楽団史上初めての常任のコンサートマスターを招聘、同時に10パートの首席奏者の招聘に踏み切った。この大改革は岡山市当局の予算措置とバックアップがあってのことだったことがわかった。
 24年間の長きにわたって、岡山フィルの演奏を聴いてきたファンとしては、これでようやくプロ・オーケストラとしての体制を整える、出発点に立ったのだと思うと、たいへん感慨深い。
 
 思えば当ブログで次のような記事を連続シリーズで掲載したことがある。
 
 
 
 
 今から読み返してみると、(その3)については我ながら未来を完全に予言していますな。岡山フィルよりも先に高松の瀬戸フィルが先に日本オーケストラ連盟に加盟したのも、この記事で危惧した通り、それでおしりに火が付いたのか?どうか解りませんが、岡山フィルもようやく今年の6月に加盟を果たしました。
 
 「日本オーケストラ連盟の加盟」と「岡山市の全面バックアップの約束を取り付けること」という2点が、記事掲載からわずか2年でかなえられ、このたび市議会において市当局から支援と予算措置を明言されたことは、非常に重要ですし、僕が思ったよりも速い速度でシナリオが進んでいますね。それだけに関係者の尽力には脱帽するほかないありませんが、それを支えたのは私を含めてシェレンベルガー&岡山フィルを応援する市民の声ではないかと思うのは自惚れでしょうか。
 
 しかし、まだまだ安堵はできない。何しろ「10パートの首席奏者」とは言っても、1回4~5万円の演奏手当しか出せない状況であり、広響や大フィルといった周辺のプロ・オーケストラのような「常設オーケストラ」(=楽団員を専属で雇用し演奏活動に専念する携帯)との待遇格差は極めて大きく、現状の体制の延長上で「都市格」を高めるオーケストラを創っていくのはほぼ不可能であると断言できる。
 普段、我々が「格」という言葉を使うときは、「格が違う」や「別格」といったように、他とは一段上の実力を持ったものを指します。都市格を向上させる(=岡山は他の地方都市とは別格である)ためのオーケストラとなるためには、それ相応の体制と実力が当然に伴っていなければならない。
 市議会の質問で言われた「都市格を向上させる」ようなオーケストラとはどのようなものを想定しているのか?それはわからないが、市当局が現実よりも甘く考えていることは容易に想像できます。
 現状の体制でも、まずは地域に愛されるオーケストラに育て上げることは可能な環境になりつつある。シェレンベルガーのもと、高畑コンマスと新しい首席奏者が中心になって楽団を作っていけば、これは本当に楽しみな展開が期待できそう。でも、シェレンベルガー氏の退任後は?高畑コンマスの退任後は?音楽ファンをわくわくさせるような活動が継続的に出来るのか?やはり相当に難しいのではないだろうか。
 今の岡山フィルの集客や熱気は、たぶんに属人的要素に頼っているわけです。これでは「都市格の向上」どころか、現状での活動を継続する未来予想図すら描けない。
 
 これらを踏まえて拙ブログでは、「国内オーケストラ業界研究と、岡山フィル発展への研究」と称して、国内のオーケストラの経営資料から、岡山という都市にふさわしいオーケストラのすがたを数字で見ていくことにします。次回は第1回として「国内オーケストラの中での岡山フィルのポジション」を見ていく予定です。
〇各記事へのリンク
(11月4日 追記)
 岡山市が制定した『文化振興ヴィジョン』の中にもこのような記載がありました。
『楽団独自の音楽スタイルを確立することにより、本市の都市ブランドの向上に寄与する楽団をめざしていく必要があります』
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 『都市ブランドの向上』という言葉も「都市格の向上」と、実質的な意味合いは同じであると思いますが、「都市ブランドの向上に寄与する楽団を目指していく『必要がある』」と、強い決意が表明されています。「そういうオーケストラになったらいいなあ・・・」的な曖昧な表現ではないわけです。
 これって、期待していいんですよね!岡山市長さ~ん!!

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国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究 目次 [オーケストラ研究]

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『第2期』シェレンベルガー&岡山フィルの体制を見据えて(その3) [オーケストラ研究]

 「ぶり」が付いてきたので、引き続きの更新です。シェレンベルガー&岡山フィルの『第2期』への提案第3弾。
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(岡山シンフォニーホールのステンドグラス)
 今回はオーケストラの体制整備について、ですが・・・当然、素人にはテクニカルな事は解らない。
 しかし、オーケストラ・ウォッチャーとして提案したいのは、ただ1点の公約を掲げ、それに向けて関係者が尽力すれば、この問題を前に進めることが出来る、ということ。
 そんな、魔法のようなことがあるんかいな?     あるんです。
 シェレンベルガー氏が契約更新をする際に、記者会見を開いてもらいます。そこで、シェレンベルガー氏が、こう宣言するのです。
「岡山フィルハーモニック管弦楽団は、日本オーケストラ連盟の加盟を目指します」
 会見には岡山市長(無理なら市の偉いさん)も同席します。そこで岡山市長がこう宣言する。

「ファジアーノ岡山も念願のJ1昇格に向けて盛り上がっている。シーガルズもVリーグで、湯郷ベルもなでしこリーグで、みな国内各都市のトップチームと戦っている。岡山市は文化でも国内のトップレベルを目指す。その目玉として岡山フィルは、N響や大フィルなど日本のトップオーケストラがひしめく、日本オーケストラ連盟への加盟を目指します』
 
 日本オーケストラ連盟というのは、日本国内の30以上のプロ・オーケストラで組織される団体です。加盟には一定の条件をクリアすることが必要です。

 もちろん、J1への昇格とは違って、オケ連盟へ加入するのと実力が認められるのは全く別問題だということは、私だってわかっています。そこはそういうストーリーを使って盛り上げていく、というしたたかさが必要だと思います。。
 このアイデアは先例があります。2008年に日本オーケストラ連盟への加入が認められた静岡交響楽団のホームページには
「2008年、承認条件が難しく永年の夢であった社団法人 日本オーケストラ連盟の準会員の承認を受け、名実ともに一流オーケストラの一員となりました。」
との文言があります。
 これを見て以来色々と調べて「なるほどなあ~」と思った。クラシック音楽に関心が無い一般の市民の関心を引くには、分かりやすいストーリーのプロットが必要。静響は、そのストーリーとして「日本オーケストラ連盟に加盟が認められ、一流のオーケストラになった」というプロットを使ったわけです。
 日本オケ連加盟に向けた宣言にあたっては、当然、岡山市側の支援を取り付け、巻き込まなければいけません。これは必須条件です。しかし「岡山フィルの日本オーケストラ連盟への加盟」をなんとかして政策目標として盛り込ませさせればこっちのものです。
 お役所の習性として、①政策目標としていったん掲げられたものはなかなか引き下がれない、というものがあります。それを逆手に取ることが出来るのです。
 日本オーケストラ連盟はまず準会員として加盟します。準会員としての加盟の条件は、実はそれほど難しくない。
(1)「管・打楽器」と「弦楽器」を擁するプロフェッショナルの合奏団であること。
(2)プロフェッショナル・オーケストラとしての演奏活動実績が2年以上あり、定期演奏会をはじめ年間30回以上の演奏活動を行っていること。
(3)演奏者の構成員は他の会員のオーケストラと重複していないことを原則とする。
(4)演奏者の構成員は半数以上が固定的に在籍していること。
(5)専門の経理担当者、楽譜係、舞台担当者を擁する事務局組織を持っていること。
 
 岡山フィルは(1)(2)(5)は文句なしにクリアしていますし、(3)(4)も恐らく大丈夫でしょう。それほど難しいミッションではない。
 そんなにうまく岡山市が関与してくれるか?ことなかれ主義の岡山市は動かないんじゃないか?という意見もあるでしょう。
 しかし私はここ5年で、お役所の体質が(よくも悪くも)劇的にまで変化しているとみています。

 というのも、あまり世間では知られていないことですが、今や公務員も成果主義で評価され、ボーナスはおろか、査定によって昇給額が変わって来るようになっています。年功賃金が居る程度維持されたまま、目標達成度の成果主義で査定されると、どういうことが起こるか?勝ち組の政策に乗っかり続けた場合、退職時点で数百万の違いが出ることだってありえるということです。
 岡山市も、ここ近年、「伝説の岡山市」キャンペーンや西側緑道公園や石山公園のイベントなど、なんかイベントごとに力が入っていると感じませんか?
 それは、そのイベントが成功すると関係したお役人さんの評価もお給料も上がるようになったからです。

 このお役所の力学のベクトルが変わった今を逃す手は無い。政令指定都市としての成熟した文化都市を目指す岡山市が「オケ連加盟(準会員)」というわかりやすくも実はハードルが高くない(評価目標になりやすい)コミットメントを掲げ、それに役所の人事力学を絡めて色々な人を巻き込んでいくわけです。「これは自分たちの評価が上がるタネになる」と思わせれば、後は勝手に動いていきます。
 岡山マラソンなんかが典型例で、あのイベントって2万人の参加者から1万円の参加費を取って2億円集めて、走らせるのは公道なわけですから大失敗のしようが無いんですよ。私は他所の街の猿真似にしかならないこのイベントは斜めから見ていますが、これだけ色々な都市が手を出すほど「失敗の少ないおいしいイベント」であることは認めます。そうすると、お役人さんは自分の評価が上がるこのイベントに乗っかろうとする。スポーツ課だけでなく観光から広報から、はては福祉部門まで、様々な部署の人が関わろうとしますから、巨大組織の役所が一体となってどんどん事業が進んでいったわけです。
 こういうお役所の習性である②成果主義の導入による「勝ち馬に乗る」という人事力学、をうまく使わない手はないということ。
 あと、もう一つ戦略上重要なファクターがあります。オケ連準会員加盟にあたっての条件、特に注目すべきは『(3)演奏者の構成員は他の会員のオーケストラと重複していないことを原則とする』、これなんですよ。ここでまた私、悪知恵を考えました(笑)
 役所の習性③:役所は(人口規模・財政力で)ライバル関係にある自治体の後塵を排することを嫌う
 この習性、結構強烈にあるんですよ。私も市役所の人と交渉するとき「こんなこと、高松や福山でもやっていますよ」っていうと、市の反応が変わることが多いんです。民間でいえばライバル関係にある同業他社のような存在を引き合いに出すわけです。これが例えば「神戸や広島では常識ですよ」とやると、『あちらさんは人口も経済も規模が違いますから・・・』とハナから乗ってきません。
 ここで、準会員の加盟条件の(3)他の会員のオーケストラと重複していないこと、がポイントになってきます。
 岡山フィルの団員さんは、実は対岸の高松にある瀬戸フィルとメンバーが何割か重複しているんです。今は演奏手当のみの報酬体系だから、両方の楽団に登録して何ら問題は無い。 
 でも、先に瀬戸フィルが日本オーケストラ連盟に加盟するような事態になったら?瀬戸フィルと重複して活動する奏者を、岡山フィルの団員として申請することが出来なくなるんですよ。そうなれば日本オーケストラ連盟への加盟へのハードルが一気に上がる。
 実際に高松市なり香川県なりが本気を出したら?という可能性は無くはないんですよ。たとえば瀬戸内国際芸術祭、主催者は香川県です。プロデュースはベネッセグループの総帥:福武総一朗氏。岡山屈指の財界人が岡山県ではなく香川県と手を組み、見事にあれだけのイベントを成功させ、香川県の長年の課題であった離島振興に大きな成果を上げた。このことは岡山の行政関係者に大きなショックを与えたようです。

 その証拠に、岡山では来年に『第1回岡山国際現代芸術祭』を開催することが決まっています。明らかに香川の後追いですが、それだけライバル関係にある自治体からの刺激が有効であることを表しています。
 瀬戸内国際芸術祭で水を空けられ、この上、瀬戸フィルが「中四国2番目の日本オーケストラ加盟のプロオーケストラ」として先を越されたら、岡山は文化事業において香川に対して周回遅れともいえる差をつけられることになります。

 岡山フィルの関係者の、皆さん。この際、岡山の文化行政関係者の危機意識を煽りに煽って、岡山フィルの成長につなげるという強かな戦略を取りましょう。
 考えてもみてください。今まで岡山市は都合のいい時だけ、「オーケストラのある街」と言い、イベントなどで「ええ恰好」している一方で、岡山フィルへの補助は絞られ、運営はマンパワーに頼り、組織も脆弱で財務は常に火の車。何より悲惨なのは、プロの音楽家がプロとして処遇されないから次の世代が育たない。設立時には在京オーケストラ奏者の方など、かなりの人材を集めて結成されましたが、創設時のメンバーもいつまでも健在というわけには行きません。これって、いわゆる『限界集落』と同じ構図じゃないですか?
 今はシェレンベルガーという稀代の指導者が来て、芸術面でも運営面でも勢いがついていますが、これはあくまでカリスマ頼みのマンパワーオンリーの運営です。シェレンベルガー氏が去ったら、元通りになりかねないわけです。行政面からの責任をもった補佐を担保する意味でも、市と楽団が一体になって日本オケ連加盟を成し遂げるのは大きなメリットである筈です。
 オーケストラ連盟の加盟にあたってのメリットは他にもあります。パブリシティ上の効果が見込めるということ。これは大きいですよ。現状、岡山フィルは「音楽の友」誌に演奏会評もほとんど掲載されていないばかりか、毎年1月号の「全国のクラシック音楽事情」には関西→広島→九州、という風に岡山は無視されてきました。岡山市がいくら「オーケストラのある街」と言ってみても、岡山から一歩外へ出たら全く通用していない。

 この地図を見れば無理もない事でしょう。日本のオーケストラ業界地図には、文字通り岡山は空白地帯、というよりよく見るとほとんど大阪に近い兵庫PAC管が岡山の位置に書かれている。本当の位置に書くとバランスが悪いからこうなるんでしょう。西宮より西には、広響と九響しかない訳ですから。
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 逆に、加盟を果たした静響は、音楽の友の連載特集記事「オーケストラのある風景」に掲載されるなど、やっぱり加盟団体は露出度が高い。
 シェレンベルガー&岡山フィルがどれほど凄い演奏を繰り広げても、それを発信できず、全国のオーケストラ業界的には存在しないのと同じことになってしまうのは、なんとも残念です。情報戦略の面でも加盟のメリットは大きいと思います。
 次は、連盟加盟を目指すことになった岡山フィルが果たすべき役割について、考えてみたいと思います。次回はちょっと時間を置いての更新になりそうです。

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『第2期』シェレンベルガー&岡山フィルの体制を見据えて(その2) [オーケストラ研究]

 最初の記事から時間が経ってしまいましたが、あれから高畑壮平さんのお話からも、シェレンベルガー氏の首席指揮者契約延長を確信。第2弾の提案記事を起こしたいと思います
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(岡山音楽の殿堂、岡山シンフォニーホール)
 第2回は現状の「問題点」を把握するところから始めたいと思いますが、分析するのは僕ではありません。
では、だれか?
 岡山フィルには創立10年目に小泉和裕氏を音楽アドバイザーに迎えていた時期がありました。小泉さんと言えば、都響のイメージが強いかもしれませんが、仙台フィルや日本センチュリー響、九響など、国内の地方オーケストラをことごとくトップレベルに引き上げてきた、屈指のオーケストラビルダーです。
 その小泉和裕氏が山陽新聞のインタビューで応えている内容が、今の現状の岡山フィルの課題そのものであると感じたため、掲載したいと思います。
 


 発足十二年となる岡山フィルハーモニック管弦楽団(岡フィル)が本年度、初めて「音楽アドバイザー」のポストを設置、十年来の親交がある指揮者小泉和裕氏(54)を迎えた。就任記念を兼ねた第二十四回定期演奏会(定演)のため来岡した小泉氏に、抱負を聞いた。

<岡フィルでは、一九九五年の第六回定演に始まり、二年前の創立十周年記念公演を含めて客演指揮者としては最多の計五回タクトを振った。これから二年間、企画立案や演奏指導、人事的アドバイスを通じ、岡フィルの音楽性を高めていく>

小泉:率直に言うと、この楽団は今、岐路に立っている。創設十年が経過したこの時期に、今後どういうオーケストラを目指したいのかを明確にし、音づくりをしっかりしておくかどうかが将来を左右するだろう。音にスタイルがなければ存在にも特徴が出ない。
 とはいえ、その無色なところに逆に可能性を感じる。悪い癖や、技術的に弱いパートがないのは美点で、団員から音楽への純粋な意欲も伝わってくる。定期的に接してきて「助けたい部分がたくさんある」「もっと良くなる」と感じたため、この役を引き受けた。

<小泉氏が早速、着手したのが定演の強化。これまでの年二回から、来年度は五回に増やす。子ども向けコンサートなど 啓蒙 ( けいもう ) 公演も“活動の両輪”だが、楽団の基本である音楽性の向上を披露する定演が少ないのは、致命的との考えからだ>

小泉:今回の定演ではどのオーケストラでも「挑戦」と位置づけているブラームスを取り上げたが、まだ息遣い、音の組み立て方、曲が持っているものへの理解が十分ではない。ほかにハイドン、モーツァルト、ベートーベンなど古典の重要なレパートリーを最初からやり直す。
 その上で、「岡フィルはどんな曲をやっていくのか」を考える。公演回数が増えれば系統立ったプログラムを計画的に組めるようになる。だが、それもメンバーが確立していない現状では容易ではない。

<現在岡フィルの運営は県、岡山市、経済界が担い、予算は年間約五千万円。厳しい台所事情を反映し、四十人の登録団員も月給制ではなく、演奏会ごとに日当で呼ぶという状態にある。結果としてその都度顔ぶれが異なる点を、小泉氏は「最大の弱み」と指摘する>

小泉:これまでの岡フィルは「確かにそこにあるけれど姿がつかめない」という印象だ。これを払しょくするには、メンバーの固定化が急務。スタイルを固めるためだけでなく、どんなコンサートマスターがいて、どんなプレーヤーがいるオケなのか“姿”を人々に見てもらうことが不可欠だからだ。
 結局は、どのオーケストラも抱える財政の問題にぶつかる。だが、音楽は社会、人の心を豊かにするため必要な栄養のようなもの。せっかく本拠地となるホールがあるのだから、良い演奏をつくり上げ、企業や聴衆の理解・援助を求めていきたい。何年もしないと答えは出ないが、後々どの客演指揮者が来ても「とてもいいオーケストラになった」と言われるよう、最善を尽くしたい。

(2004年9月25日 山陽新聞掲載)
 



 岡山フィルの長所・足りない部分、今後どうするべきか?という諸問題に関して、これほど明確なビジョンを持っていた人物(小泉和裕氏)が居たことを岡山フィルのファンは記憶にとどめておくべきでしょう。

 そして、この『小泉音楽アドバイザー』が、なぜ任期が更新されなかったのか?集客が厳しかったのか?小泉氏の要求する体制を整備できなかったのか?などなど、岡山フィル側からファンに十分な説明がなかったことも併せて記憶にとどめるべきです。

 少し(いや、かなり)話は脱線します。 

 もし、私のブログを初期のころ(2006年あたり)からご覧いただいている方がいらっしゃるとしたら、以前の私が岡山フィルに対して、けっこう醒めた目で見ていたことを覚えていらっしゃるかもしれません。
 なぜなら、小泉アドバイザー制にしろ、サントリーホールとの提携にしろ、N響の岡山定期演奏会にしろ、最初だけ華々しく新聞やマスコミに発表するのに、その後どうなったのか?年会費を払っているファンにすら十分な説明が無かった。せめて「諸事情があって止めます」というアナウンスひとつぐらいは欲しかった。

 当時の私の心の中は『なんや、結局ぼくらのことなんか眼中にないんやな。市からもらった補助金の範囲内で出来ることやってればいい。いちいち説明して、うるさいファンから色々難癖つけられたくない、と思うてるんやろ。それやったら応援してやるかい』というのが正直な気持ちだったんですよ。

 シェレンベルガー氏が就任する数年前の岡山フィルは、こんなふうに岡山市民に「根付いていない」どころか、岡山のクラシック・ファンからもそっぽを向かれかけていた。ネット上でやり取りをしていた岡山のクラシックファンの間でも『ああいう姿勢では、おらが街のオーケストラ!という気にはならない』というやり取りをしたことが何度もあった。

 その後、色々な関係者から話を行く機会があって、小泉アドバイザー時代の萩原市政から高谷市政へ移り、緊縮路線になり、県の財政危機とともに橋下徹・維新の大阪府市政もビックリの補助金削減のスパイラルに陥り、楽団運営が窮地に追い込まれていたことも知りました。
 それだったら、苦しい時は『楽団が苦しいんです』と、せめて会費で支えているファンには説明すべきだったんです。

 シェレンベルガーが首席指揮者に就任し、事務局にもアウトリーチや市民との交流事業に経験豊富な方が入ったとのことで、現在の岡山フィルは本当に変わった。
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 その日の演奏者が(立楽団からの助っ人も含めて)必ずプログラムに明記されるようになった。年間プログラムがきちんと発表されるようになった。ホームページが更新されるようになった。書いてて思わず遠い目をしてしまう。ほんの6,7年前までこんな「当たり前」の事が出来ていなかったんですよ。

 それに加えて、facebookなどでリアルタイムの情報がきちんと更新され、見どころ聴きどころの情報が発信されて本番までのワクワク感が演出されるようになった。プログラムの楽曲解説が充実してきた。演奏会の前に色々なメディアでPRしている姿が目につくようになった。特に昨年10月定期の前に世界の至宝ともいえるシェレンベルガー氏が岡山市役所のロビーで定期演奏会のPRをしていた姿は神々しかった。あれだけのキャリアのある音楽家が、ファンのために汗をかいている。今まで岡山フィルが定期演奏会のPRのために、不特定多数の人が集まる様な街角で演奏することはほとんど無かった。それをあのシェレンベルガーがやった。その姿がファンの心を動かし、楽団員を発奮させ、事務局の姿勢を変化させた。
 そして会員をリハーサルへ招待、賛助会員はパーティーでおもてなし、岡山大学でのワンコインコンサートの年間シリーズ(シェレンベルガーも登場する)。そして今年度はついに定期演奏会会員(マイシート)の導入。
 細かいところでは、チケットホルダーにホールの座席表が印刷されるようになったこと。僕はこの取り組みを見た時、「ああ、岡山シンフォニーホールも本当の意味で顧客目線になったのだな」と思いました。しかし、まだまだ努力する余地はある。

 2008年に橋下徹が大阪府知事に就任以降の大フィルは、ホームページやツイッターなどのネットメディアを活用して、①まず市民の税金を使って運営していることに感謝しつつ、②楽団の厳しい経営状態をすべて公開し理解を求め、③市民のより根付いた楽団になるための様々な改革案を示し、④ファンからの忌憚のない意見を求めた。
 大フィルのコンサートでは、プレトークサロンと称した事務局とファンの交流の時間がありますが、経営に関する厳しい質問や意見にも誠実に応えている姿勢が印象に残ります。
 大阪交響楽団では、自身のホームページに評論家の演奏批評を掲載し、厳しい批判を正面から受け止める姿勢を見せているし、関西フィルは徹底した顧客目線と関西だけでなく中国・四国地方にまでその地域密着型の営業を展開し、近隣では高松で毎年のように第九を演奏し、近年では岡山フィルが抑えておくべき筈の倉敷にまで関西フィルの営業の手が伸びている。

 競争が厳しい関西のオーケストラ業界。大フィルのような国内屈指の老舗オーケストラでも、ここまでやってるんです。岡山フィルは成立過程で東京のプランナーが深くかかわってきた経緯から、運営に関してもスマートな在東京オーケストラの手法を参考にしているフシがありますが、今後は大フィルや関西フィルなど在阪オケの方が学ぶべきことが多いのではないかと思います。そうすれば岡山フィルには出来ることがまだまだある。
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(市役所の玄関ホールで大フィルの奏者の演奏を待ちわびる、『大阪クラシック』の熱気にあふれた会場)
 かなり脱線してしまいましたが、小泉さんが指摘した演奏面や楽団経営面での問題点も、以前の岡山フィルのファンに対する姿勢も、すべて同根の問題がある。 
 それは楽団としての体制の脆弱さです。岡山フィル20年の歴史のなかで常に抱えてきた懸案。それに向けて私は一つ秘策を提案しようと思います。それについては次回。

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『第2期』シェレンベルガー&岡山フィルの体制を見据えて(その1) [オーケストラ研究]

 音楽関係者の中から、2016年シーズンの公演の情報が漏れ聞こえてくる時期になりました。
 来シーズンの具体的な内容については、9月号の音楽の友に掲載されてくるものと思いますが、現在はその下準備の時期だと思われます。
 われわれ岡山のファンにとって一番気になるのは、3年の任期が今シーズンで満了となる、岡山フィルとシェレンベルガー氏の首席指揮者契約。
 一ファンの意見を言わせていただくと、これは
 契約更新するしかあり得ないでしょう!!
 岡山フィルが次のステージに進むためには、音楽的にも集客的にも、地域の継続的な音楽文化の成長の点でも、シェレンベルガー氏の力が絶対に欠かせない。これほどのキャリアを持った音楽家が、自らの経験・技術・人脈を惜しげもなく投入する。シェレンベルガー氏を超える貢献を岡山フィルや岡山の街にもたらせてくれるような選択肢はまったく見当たらない以上、契約更新に向けて関係者は全力を尽くしていただきたいと思います。
 今年の10月定期の(ブラームス・チクルスを思わせるような)プログラムから、シェレンベルガー・サイドも続投の意欲を見せていると推察します。
 契約更新を当然のこととして、さて具体的に『次のステージ』とは何か?
 1つ目は、演奏能力の一層の強化。これに関しては全くの門外漢の私が口を出すことではありません。2つ目は、このシェレンベルガー旋風と呼ぶにふさわしい『風』を一般市民のレベルまで吹かせること。要するにオーケストラ文化のすそ野を広げることですね。
 3つ目は楽団の体制強化。これも門外漢の私ですが、オーケストラ・ウォッチャーとしての提言を、無謀にも述べさせていただきたく思います。
 シェレンベルガー旋風を、どうやって一般市民にも感じられるものにするか?その一つとしてイメージ戦略を大幅に変更するということがあります。若干の手間はかかりますが、お金は殆どかかりません。
 岡山フィルの現在のプロモーション用の写真。
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 シェレンベルガー氏を前面に押し出したいいプロモーション写真だとは思いますよ。岡山クラシック音楽の殿堂:岡山シンフォニーホールのステージから感動をお届けします、というような意気込みやよし!
 定期演奏会のチラシなど、クラシック音楽ファン向けのプロモーションにはいいと思いますが、まったく関心が無かった層からどう見えるか?という視点で考えてみると・・・・
 私の家人がそうだったんですが、岡山シンフォニーホールに行ったのは学校の芸術鑑賞と、友人が出演した吹奏楽のコンサートのみ。それ以外はホールに全く足を運ばなかったし、関心もなかった。ホールの前にはチラシや看板が沢山掲示されているが、「正直、私には関係が無い」と思っていた。そういう市民が多いんです。

 
 ホールやオーケストラ側もファン層の拡大に様々なイベントで応えているのも解っていますが、あえて書きます。岡山市民70万人のうち、自らの意志で(招待券ではなく)自らの財布を痛めて聴きに来たことがある人。10分の1も居ないと思います。結局のところ現状の岡山のクラシック音楽「経済」は同じようなメンバーの間でグルグルとまわっている。クラシック音楽興業の『敷居の高さ』というのは関係者の想像以上に深刻だと思います。
 そこへシェレンベルガーが風穴を開けました、その穴を拡げて外部にまで旋風を巻き起こす必要がある。

 ここで一点、確認したいことは、その残りの10分の9の人に足を運んでもらうにはどうしたらいいか?という命題を立てるわけではありません。というか、それは無理な注文です。

 しかし、岡山フィルも(金沢や広島や山形に比べれば極めて少額ではありますが)市や県の財政補助で維持されている側面がある以上、その10分の9の人々に向けた対策を怠ってはならないということ。大阪の街であれだけ歴史的にも定着し、大阪の文化を牽引していた大阪フィルですら、あっさりと財政負担を引き揚げられてしまう時代ですから・・・。
 とにかく、「私はあまり行ったことは無いけれど、岡山には岡山フィルというオーケストラがあって、色々街のために頑張ってくれてるんだなあ」という好意的な市民を少しでも増やすこと。それが第一段階として必要です。
 話を戻しまして、オーケストラのプロモーション写真、私が写真に注目するようになった切っ掛けは、海外オーケストラのパンフレットやプログラムには、様々な趣向が凝らされた写真が使われていたからです。国内オーケストラでも色々な工夫が行われています。
 僕が最初にプロモーション写真で「おっ!」と思ったのは、北ドイツ放送フィルのプログラムの写真。
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 当時の常任指揮者の大植英次さんを中心に、歴史的な建造物をバックに非常に自然体です。まさに『街のオーケストラ』という強い印象を与えます。
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 こちらはバンベルグ交響楽団(バイエルン州立フィル)。バンベルグは人口6万人程度の小さな農業主体の町、それを逆手にとって、緑豊かな自然の中での写真になっています。

日本のオーケストラもなかなかやりますよ
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 日本センチュリー交響楽団。センチュリーの本拠地がある豊中の服部緑地での撮影だと思います。ホールから飛びだして街のオーケストラとしての宣言のような写真。小泉音楽監督時代に消滅の危機に瀕したセンチュリー響、そういう悲壮な時期にもこういう自然体の写真が使われていて、写真の中の楽員さんが笑顔で映っている。素敵だな、と思いました。

 
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 これはドレスデン・フィルですね。たぶん音楽ホールの中でしょうか?ステージ以外でもこういうホワイエのような場所を使うと、まったく印象が変わりますね。

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 最後にオーケストラアンサンブル金沢。ホールのステージ上での写真ですが、これは秀逸ですね!メンバー同士の親密さが感じられ、こういう人たちだと何かをやってくれる、という期待感が出てきます。

 僕が岡山フィルに提案したい撮影場所は、ズバリ!ここです!
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 天下の名演、後楽園。ミシュランガイド☆☆で、世界の後楽園になりました。7月か10月の来日時期に、ぜひシェレンベルガーと団員さんがここに集まって撮影会をやって欲しい。同時にシェレンベルガー氏のスナップ写真を撮影して、それをプロモーションに使っていただくようにお願いしてもいいと思います。
 岡山市・県も、後楽園の観光プロモーションに非常に力を入れているので、(直接、後楽園の事務所へアポを取るのではなく、文化振興課から観光課へ働きかけて貰って)趣旨を説明すれば、協力するはずです。協力が得られないようなら、そういった消極的な姿勢は批判されてしかるべき、のブログでも山陽新聞の「ちまた」欄でも、批判には協力しますよ。
 センチュリーの写真もそうですが、楽器は別に持たなくてもいいんですよ。後楽園まで歩いて行けるとはいえ、大事な楽器を直射日光に晒したくないという人が出て来たとしても、プロの奏者として当然のポリシーだと思いますから。でも、何人かの弦楽器と木管楽器や小さめの金管楽器、打楽器の方はマレットだけでも持っていただいた方が、オーケストラとしてのアピール度は上がると思います。

 後楽園での撮影が難しいようなら、シンフォニービルの1階でもいいし、上ノ町商店街の、ときどきイベントをしているところでもいい。

 岡山の街に飛び出し、溶け込み、岡山の文化を体現する存在になる。その宣言になるようなプロモーション写真を何枚か持っておくことが重要だと思うのです。

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