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東京都交響楽団倉敷公演 指揮:下野竜也 Pf:牛田智大 [コンサート感想]

オーケストラキャラバン2022
東京都交響楽団倉敷公演

ニコライ/歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番ト長調
 〜 休憩 〜
ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調

指揮:下野竜也
ピアノ独奏:牛田智大
コンサートマスター:山本友重


2022年8月28日 倉敷市民会館


20220828.jpg


・コロナ禍における文化芸術団体の振興事業のオーケストラ・キャラバン。去年に続いて都響が岡山に来てくれた。今年は倉敷市民会館へ。指揮は下野竜也さん。

・今年も岡山シンフォニーホールで聴きたかったのが正直なところ。倉敷市民会館の開館は1972年ということで、今年で50周年を迎える。この時期のホールとしては音響はかなりいい方だと思うが、1980年代のコンサートホール革命を経て1992年に開館した岡山シンフォニーホールの音響性能とは歴然とした差があるからだ。

・客席は9割近い入り。平日夜に開催された昨年の岡山公演よりも席は埋まっていた。 演奏中の客席の雰囲気も心地よい静寂があり、くらしきコンサートの解散後もこの良質な聴衆層という遺産は生き続けているようだ。

・編成は2管編成で、弦五部は協奏曲は1stvn12→2ndvn10→Vc6→Va8、上手奥にCb4、序曲と交響曲は1stvn14→2ndvn12→Vc8→Va10、上手奥にCb6。14型の弦部隊は岡山ではなかなか聴けなくなっているので、思う存分味わった。

・1曲目はウィンザーの陽気な女房序曲。全体的にはウォーミングアップな感じが漂う演奏(たぶん通しで1回ほどやっただけだでは?)で、演奏精度は都響の水準にはなかったが、それを個々の奏者の技倆で補って余りある。冒頭のヴィヴラートを抑えたピアニッシモから息を呑む美しさに惚れ惚れ・・・

・2曲目はベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番。ソリストは牛田智大さん。この曲は5(+1)曲あるピアノ協奏曲の中でも最も好きな曲だ。この曲こそがベートーヴェンの素の姿に触れられる曲なのだと確信する。

・9つの傑作交響曲、特に奇数番の第1楽章のような、力強い破壊力のある楽曲のイメージが強いベートーヴェン。しかし彼の緩徐楽章の美しさは比類ないもの。この4番協奏曲はベートーヴェンの豊かな感受性と繊細さを如実に現している。それだけに演奏によっては退屈するような演奏も出てきてしまう。

・牛田さんの生演奏は初聴き。リリカルでありながら一音一音を繊細に組み上げていき、曲が進んでいくにつれて聴き手のビジョンに現れるのは組木細工を見るような構築美。

・オーケストラも緻密な伴奏を付け、ピアノと共に創り上げるハーモニーの清冽なこと!牛田さん&都響は、そよ風でさえも水面にさざなみが立つように、豊かで繊細すぎるベートーヴェンの感受性を受け止めて音列に魂を込めるように表現。そうなんよ、ベートーヴェンって本当はこういう人なんよな。

・アンコールはシューマンのトロイメライ。心に染みる演奏。訥々と繊細に組み上げていく音の輝きのなかに、牛田智大というピアニストの深い部分に触れるような感覚があった。

・後半はドヴォルザークの8番。下野さんのタクトが冴え渡り、オーケストラもさすがの表現力で、終始都響サウンドに酔いしれた。2階席に飛んでくる音の圧力は、欧米の一流楽団と比べても全く遜色のない迫力で、木管・金管(トランペット首席の方は岡山出身みたい、素晴らしかった!!)は言わずもがな、弦の歌いっぷり、泣きっぷりは艷やかでグラマラス。

・第1楽章や第4 楽章の後半のテンションが張り詰めたとき、この曲で各声部がこれほど厳格に整然と鳴っている演奏は初めて聴いたように思う。弦部隊の分厚さ、馬力全開の管楽器も「無理してる」感は皆無なのだ。下野さんのバトンテクニックも素晴らしく、音量、音色、表情、どの旋律を浮き立たせるかなど、素人が見てもよく解る。

・惜しむらくは、岡山シンフォニーホールだと内声に回ったヴィオラ、チェロや金管の音や動きがはっきりわかって、もっと凄さを感じられたのにな〜ということかな。

・大いに盛り上がった会場を鎮めるかのように、プーランクの「平和のためにお祈りください」という歌曲を下野さん自身の編曲で演奏された。余韻に浸りつつ会場を後にすると、舞台裏では慌ただしく撤収作業や楽員さんたちがタクシーに乗り込んでいく。どうやら楽員の皆さん、17:05岡山発の特急南風に乗って高知に向かったみたい(笑)今年も都響 サウンドを聴けて本当に良かったです。次にこのオーケストラの音を聴けるのはいつになるかな。

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秋山和慶 岡山フィルミュージック・アドバイザー就任会見の記事から [岡山フィル]

 これまた随分時間が経ってしまったが、5月の岡山フィル定期演奏会の直前に、秋山和慶ミュージック・アドバイザーの就任会見でが開かれ、地元紙や放送局で報道された。

 記事を書きはじめたものの、完成させられないままお蔵入りしていたが、時間ができたので記録として書き残しておこうと思う。


「一目置かれるプロオケに」 岡フィル 秋山氏、藤原氏就任会見:山陽新聞デジタル|さんデジ https://www.sanyonews.jp/article/1264115


岡山放送



山陽放送




これらの地元マスコミで報道された、就任会見での秋山さんのコメントをまとめてみた。


「岡フィルで最初に指揮した時、団員の目つきが違うと思った。これは楽しみなオーケストラになるなと」
「日本で指折りの楽団となるにふさわしい状況が整っている。」
「中国地方で一目置かれるようなプロオケを創り上げていく」
「名だたる楽団に比べると小編成だが、一生懸命でアドレナリンが湧き出るような充実した演奏会ができた。もっと楽しく、面白い楽団になっていく」
「子どもたちへの演奏会を大事にしたい」
「小さな演奏会でも演奏家たちが真摯に取り組む姿勢を見てもらうことがとても大事」



 秋山さんが「ミュージック・アドバイザー」に、藤原浜雄さんが「ゲストソロ・コンサートマスター」に就任するというニュースに接した際、一抹の不安を覚えていた。理由は、そのポスト名にある。

 これまでの首席指揮者:シェレンベルガーさん、首席コンサートマスター:高畑さん、は楽団の顔として責任を背負う感じがあったが、「ミュージック・アドバイザー」「ゲストソロ・コンサートマスター」というポスト名には、どうも一歩引いたというか、深入りを避けた様な印象を覚えたのだ。


 しかし、秋山さんの会見でのお話は、意欲と情熱に溢れるとともに、具体的なプランが示されており、定期演奏会だけではなく小さは地域コンサートや教育的コンサートにも力を入れるという、広響などで見せた秋山イズムを強く感じさせるもので安堵した。藤原さんも富士山静岡響でも同じポスト名でご活躍とのことで、それに合わせたのだろうが、一般の聴衆から見た印象では損をしている。どうもこの音楽業界のポストは複雑怪奇で、名前と仕事内容や責任は必ずしも一致しないというのはクラシック、オーケストラ界の「悪弊」といって良く、世間から見た敷居の高さにも繋がっているのではないだろうか。


 秋山さんの発言内容の具体化の参考になるのは広島交響楽団の事例だろう。広響をよく知るファンの方が「川上作戦」(元来は地方の小さな集落から演説を開始して都市部に攻め上るという国政選挙の必勝戦略から来ているようだが)と仰っていたが、岡山での川上作戦はどのようになるだろうか。


 まずは学校訪問の公演の規模や回数は増加するだろう。子供たちだけでなく、地域住民にも開放されるようなコンサートを積み重ねて、一見、岡山シンフォニーホールから遠いように思える人々に、岡山フィルの強い印象を植え付ける。

 次は、「マイタウンオーケストラ」という地域の500人〜1000人規模のコミュニティ・コンサート。広島市の場合には全8区に区民センターがあり、立派なホールで事業展開されているが、岡山市は広島市のような地域インフラとしてのホールは充分には整備されていない。そんな中で可能性があるのは


 中区:岡山ふれあいセンター 約300席

 南区:岡山南ふれあいセンターふれあいホール 約200席
 東区:百花プラザ多目的ホール 約560席
    西大寺公民館大ホール 約800席
    西大寺ふれあいセンター 約300席


 あたりが会場候補になるだろうか?うーん、オーケストラ演奏に耐えうる規模となると、百花プラザ多目的ホール、西大寺公民館大ホールぐらいしかないか?



 最後には「地域定期」

 岡山フィルは県からの補助を得て、県内各地域での公演を行っているが、どうも集客は芳しくないようだ。やはり、開催場所を固定して毎年あるいは2年に1回の「恒例行事」にしないと固定客が着かないだろう。

 倉敷・笠岡・高梁(または新見)・津山あたりが地域定期の固定開催地候補になるだろうか。


 とりわけ重要なのが、倉敷との関係。

 私は兼ねてから岡山フィルが飛躍するためには、いかにして倉敷に進出するかにかかっている、と主張している。静岡交響楽団が浜松に進出して富士山静岡交響楽団(静岡定期・浜松定期の2公演体制)に発展しているのを見て、確信を深めた。
 シビックプライドの高い倉敷は、子供向けのコンサートなども含め、コストがかかっても在阪オーケストラを招聘し、岡山フィルを相手にしていないように見える。


 ここにどう食い込むか?


 倉敷のプライドに配慮した形、例えば楽団の理事会に倉敷市やくらしき作陽大学音楽学部などを取り込んだ形にするなどの思い切った方法を取る必要があるのではないか?

 静岡市と浜松市の2都市をフランチャイズとする富士山静岡交響楽団のプログラムをみると瞠目の充実度だ。


 静岡・浜松の2都市での定期演奏会2日制に加え、元東京カルテットの原田幸一郎さん(倉敷音楽祭の音楽監督?もされていたと思う)によるハイドンシリーズ、定期演奏会とは別ラインナップでの名曲コンサートなど、全方位で楽団の発展に目配りした素晴らしい年間プログラム。

 5年ほど前までは財政規模や主催公演の数は岡山フィルと変わらなかった(集客者数は岡山フィルのほうが勝っていた)のに、静岡・浜松両都市のタッグによってこれほどまでに差がつくとは。


 秋山&岡フィル体制になって静響のように、これまでの殻を破れるだろうか。

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