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岡山フィル第71回定期演奏会 指揮&Vn:福田廉之介 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第71回定期演奏会

〜 FOUR SEASONS 〜


ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「和製と創意への試み」から『四季』
〜 休 憩 〜
ピアソラ(デシャトニコフ編)/ブエノスアイレスの四季「夏・秋・冬・春」


指揮・ヴァイオリン独奏:福田廉之介
ゲストコンサートマスター:関朋岳
2022年3月13日 岡山シンフォニーホール


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 後日更新します。数行の簡単な感想にしようと思っていたが、あの演奏を聴いてしまうと、もっと丁寧な感想を残しておかないと自分が後悔する。

 とりあえずひとことだけ。福田廉之介さんを産み育てた岡山を、そして今日のような演奏を聴かせてくれる岡山フィルを心から誇りに思います。岡山フィルは30周年だが、私がこの街に住み始めてから29年。こんなに豊かな時間を共有できることに感謝したい。


・今年は岡山フィル創立30周年の記念の年のようだ。しかし、1月の定期演奏会は感染者数の爆発的増加のために鑑賞を自粛したので、私にとっては今年はじめての岡フィルの演奏になる。

・当初の予定では、今回のコンサートはシェレンベルガーの岡山フィル首席指揮者としてのファイナル・コンサートだった。しかし例によって新型コロナウイルス蔓延防止のための入国制限により、外国籍の方の入国が事実上不可能に。そこで楽団から、2023年度に「延期」されることが発表され、代役として岡山フィルが白羽の矢を立てたのが福田廉之介だった。


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※右がプログラム、左は変更後のチラシ


・コンサートマスターは廉之介くんが主宰する「THE MOST」のメンバーの関朋岳さん。廉之介くんと掛け合う場面でのソロも素晴らしかったが、それ以上に彼の目となり耳となって、オーケストラ全体に廉之介くんの意図を(目立つことなしに)スマートにさりげなく波及させていたのが印象に残った。

・廉之介くんはデジタル楽譜をiPadに入れているようで、足元に譜めくり用のスイッチを置いて(おそらくBluetooth接続になっているのだろう)、足で踏みながら無線で譜めくりしていた。もっとも、譜面を見るのは要所要所を確認するのみ、な感じで、ほぼ頭に入っている様子ではあった。

・コンサートから2ヶ月近く経過してから、当時のメモを基に感想を書いているわけだが、時間を置くことで見えてくるものも、入ってくる情報もある。情報として大きかったのは、福田さんのラジオ番組(福田廉之助の音楽の旅:レディオMOMIO、FreshmorningOKAYAMA内の「音楽の扉」ゲスト出演:FM岡山)で、今回のコンサートの裏話を聴けたことだ。

・コンサート直後に、twitterでこんな感想を書いた


「岡山フィル71回定期。福田廉之介の弾き振りによるヴィヴァルディとピアソラの四季。控えめに言って「最高だった!」。廉之介くんのソロの技巧や表現力も凄いが岡フィルもメンバーもすごい。奏者一人ひとりの「音の表情」や個性がよく見え、個と個がぶつかって、大きな世界を描き出す演奏に圧倒された。」

「今回は弦楽合奏だったが、奏者の個性が爆発したとき、これぞ岡山フィルの音が感じられたのが面白い。前半も後半もオーケストラが退場するとき、ソリストに捧げるものと同じ熱さの会場の拍手が、今回の演奏を物語っていた。廉之介くんは岡山の救世主、本当にありがとう。」

このときの印象は基本的には今でも変わらない。恐らく、廉之助くんが幼少の頃から共演を重ねてきた岡山フィルの関係性に基づいた、充実したリハーサルが展開されたことははっきりとわかった。しかし、廉之助くんがラジオ番組で語っていたリハーサルの様子から、舞台裏では僕の想像を超えることが起こっていたようだ。

・このコンサートにあたり、4時間✕3日間のリハーサル+ゲネプロという時間が与えられたそうだ。4時間という時間はあくまで最大限の時間枠であって、ある程度仕上がってくると早めに切り上げることが通例のようだ。しかし、廉之助くんが言うにはやるべきこと・徹底すべきことが沢山あり、時間の枠をほぼすべて使い切った。その過程で廉之介くんの声が潰れて、事務局がのど飴を差し入れるなどしていた。

・時間面だけでなく、廉之介くんのラジオ番組での発言を借りると、岡山フィルメンバーに対してかなり「キツイことを言った」らしく、それは廉之介くんと古くからの付き合いのある楽員から「廉之介じゃなかったら、みんなキレてたよ」と言われるほどだったという。

・廉之介くんは「音楽面では絶対に妥協しない」ことと、年齢やキャリアで上下関係を作るのではなく、音楽家同士が意見をぶつけ合って音楽を作り上げること、この2点を信条としているそうだ。恐らく、岡山フィルの個々の奏者の実力もよく解っているから、「もっと出来るのでは無いか?」という思いで忌憚ない指摘や指示が出せたのだろう。客演で振りに来る指揮者だと「今回はこのあたりで纏めよう」と目処を付けて音楽を創ることもあろうが、廉之助くんと岡山フィルは時間いっぱい使ってギリギリまで攻めていった。それが今回のコンサートを聴いた聴衆たちに特別な感動を与えたのだ。そして、リハーサルが進むに連れて岡フィルからも「こうしてはどうか」という意見が出始め、そのことにも手応えを感じたようだ。

・廉之介くんの信頼は聴衆に対しても示されている。今回の定期演奏会のシェレンベルガーの来日不可によるプログラム・出演者の変更後、ほとんどキャンセルが出なかったそうで、終演後に「本当にありがたかった、ありがとうございました」と頭を下げていた。
 しかし、彼は岡山フィルとの共演で度々、その成長する姿を岡山の聴衆に披露してきたし、「THE MOST」の構成メンバーの大部分が東京を拠点にしているにも関わらず、法人の事務局は岡山に置いている。そんな廉之介くんの岡山への思い入れを岡山の聴衆もよく解っている。


◆ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「和製と創意への試み」から『四季』

・前半は1stVn4→2ndVn3→中央にチェンバロ→Vc2→Va2、Vcの後ろにCb1名という編成。2年前の郷古廉さんの弾き振りによる「四季」の時と比べると半分ぐらいの編成。舞台上の配置を見た時は「さすがにこのサイズだと、音量的に物足りないのではないか?」と思ったのだが、それは完全な杞憂に終わった。本当に豊かな響きがホールを満たしたのには驚いた。

・全12楽章の場面ごとの音楽の描き分けが見事で、それぞれの曲のキャラクターの立った演奏だった。例えば「春」の第1楽章での鳥のさえずりの表現にナチュラルな間を取ったり、新緑の中を流れる川は、雪解け水の冷たさも感じるようだったし、春のつむじ風は舞台から実際に風が吹いているようだ。

・廉之介くんのヴァイオリンは、まさに天衣無縫というにピッタリの音で、常に13人のオケメンバーと対話しながら、色々なアイデアを盛り込んでいく。その場で生まれたものもたくさんあったのだろう。各パート首席との掛け合いの場面では、「よし来た!」と言わんばかりに首席メンバーが腕前を披露、廉之介くんもそれを受けて、いっそう挑発していき、オーケストラがまたそれに答える。

・この曲の見せ場の一つ、「夏」の第3楽章(プレスト)でのマッシヴな音には圧倒され、その中から突き抜けてくる廉之介くんのヴァイオリンにも圧倒された。特に一丁しかないコントラバスがこれほど多彩な音と豊かな響きを奏でられることは驚きだった。この日の演奏に限らず、首席の谷口さんが今の岡山フィルの音・表現の幅を決定づけていると思う。本拠地は東京の方だが、末永く岡山フィルにいて欲しい逸材。

・よく、いい演奏の表現として、絵を見ているような、と言われることがあるが、この日の演奏は四季12場面の中に、自分が身を置いているかのようなリアルさがあった。

・岡山フィル✕廉之介くんの共演、というよりは、個性を持った13人の職人たちと一人のヴィルトゥオーゾによる、とても手の込んだ「手仕事」を感じさせる演奏だった。奏者たちの個性が出れば出るほど、岡山フィルの特徴である暖かく明るいサウンドが前面に出てくる。

・休憩時間に入り、頭がのぼせてることに気づく。カフェテリアでドリンクを注文してゆっくりした時間を過ごしたいが、生憎、コロナ対策で営業していないので、入館前に買っておいたるペットボトルの紅茶をロビーで喫する。このホールはロビーでの節度を守った飲食は見逃してくれるのがいい。


◆ピアソラ(デシャトニコフ編)/ブエノスアイレスの四季「夏・秋・冬・春」

・後半は前半の倍の1stvn8→2ndvn6→Vc4→Va4、Vcの後ろにCb2名という編成。前後半ともに立奏だった。舞台上は赤いライティングの演出が施されていて、これは廉之介くんのアイデアなのだろうと思う。

・廉之介くんが、プログラムをどうするか、楽団事務局と相談した際、「ボレロ」に負けない曲目として推したのが、このピアソラの四季だったようだ。ヴァイオリン・ソロのの楽曲の中では大曲とも言えるこの2曲を並べるヴァイタリティーには脱帽だ。それだけ岡山の聴衆の期待に応えたいという思いの現れだろう。
 
・いやー、廉之介くんのソロは凄かった。この曲をこの日本でこれほどまでにエキサイティングな演奏が出来るヴァイオリニストは一握りだろう。

・そして岡山フィルの演奏もよく練られていて、鳥肌が立つ場面が幾度となく訪れた。決して岡山フィルの実力を低く見積もっていたわけではないが、ここまでの演奏を聴かせてくれるとは、ホンマに思わなかった。予習用として聴いていた、クレーメル&クレメラータ・バルティカの演奏と比べても遜色のないものだった。心底「すげーな、この人たち」と思った。

・各パートの首席との絡みでは、チェロの松岡さんが獅子奮迅の活躍。都響での長年の経験を故郷の岡山フィルに注いで下さっているが、オーケストラの中の誰よりも燃焼し弾けていた!こういう楽曲は得意中の得意にしているのかも知れない。心をうつ演奏を聴かせてくれた。

・松岡さんに限らず、奏者たちの「顔の見える」演奏だった。自身の音楽性を前面に出して音をぶつけあって合わさって・・・・プロが本気になって「遊んで」いる。この日にはじめて会場に聴きに来た聴衆は、クラシックの、岡山フィルの見方が180度変わったと思う。

・廉之介くんがラジオ番組で、「ここが決まったらカッコいいのに、と思っていたところがバッチリ決まった!」と言っていたのは第2楽章の終結部ではなかったか。ちゃいますか?ボウイングを弓の半分で止め、何かが突然終わるショック状態を演出していた。歌舞伎的な大見得を切る形になり、見せ方としても最高だった。

・第3楽章での廉之介くんのソロは心を鷲掴みにする美しさだった。ただでさえ平々凡々とした日常を送っていた自分であったが、コロナ禍でその傾向にますます拍車がかかり(日常を恙無く過ごすことは尊い営みであることは無論なのだが)、自分の人生から輝きが失われたような感覚になっていたところに、この演奏を聴いて涙腺が緩まないわけがない。コロナ下でのモノクロームの日常世界に輝きをもたらせてくれるような演奏に泪した。

・第4楽章に入って演奏に益々熱が帯び、まさに火花散るような演奏になっていく。「ここでカルロス火を吹いた」ならぬ「ここで廉之助と岡フィル火を吹いた」である

・終演後の会場の聴衆・ソリスト・オーケストラ奏者の心が一つになったような時間が印象に残った。オーケストラがはけたあとも拍手が続き、廉之介くん呼び戻しての一般参賀。このオーケストラのコンサートに(途中、足が遠ざかる期間はあったにせよ)30年近く通ってきた者として、こんなに豊かな時間を共有できることに感謝したい。福田廉之介を産み育てた岡山を、そして今日のような演奏を聴かせてくれる岡山フィルを心から誇りに思う。

・5月から秋山体制へ移行する訳だが、これほどの音楽的成果を岡山フィルにもたらせてくれる廉之介くんを、正式に何らかのポストを委嘱したほうが良いのではないか?お忙しいのは重々承知だが、しがみついてでも岡山フィルと関わってもらう方策を考えてほしいと思う。

・まずは今回の演奏、youtubeにアップしてもらえないだろうか。もしくは先日のような深夜のテレビ放送でもいい。

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