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岡山フィル第69回定期演奏会 指揮:園田隆一郎 Vc:佐藤晴真 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第69回定期演奏会

ワーグナー/ジークフリート牧歌
ハイドン/チェロ協奏曲第2番
〜 休 憩 〜
ドヴォルザーク/交響曲第7番

指揮:園田隆一郎
チェロ独奏:佐藤晴真
コンサートマスター:高畑壮平
2021年7月4日 岡山シンフォニーホール


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 弦4部のトッププルトだけの室内楽で始まるという、味のある演出で始まったジークフリート牧歌の、真綿で包まれるような柔らかい響き。チェロ協奏曲での佐藤晴真の美音など、前半も聴きどころがあったが、今日の演奏はなんと言っても後半のドヴォルザーク。

 園田さんは2年前の7月定期(ドビュッシー/イベール/ラベル編「展覧会の絵」というフレンチ・コース料理)では、緻密でバランス重視のタクト捌き、という印象だったが、君子豹変!獰猛とも言える強烈なエネルギーをオーケストラから引き出す「轟演」のドヴォルザークの7番。それでいてよく歌い、よく泣く心動かされる演奏。

 管楽器も素晴らしかったが、今回は、ティンパニと弦5部にMVPを贈りたい。オーケストラからの音のエネルギーの放射が半端ない圧力だった。


(7月15日 追記)

・感想の更新がまた延び延びになった。google keepにメモはしてあるので、それをトリガーにして演奏を思い起こす作業は楽しいが、まとまった文章として編集するのが骨折りになる。なので、箇条書きでご容赦を。

・お客さんの入りは1000人ぐらい?5月定期は緊急事態宣言期間中での開催ということも有り、500人ぐらいしか入ってなかったそうなので、回復してきた、と見るべきか。でも、この調子だと収支は大赤字だろうな。

・弦楽器はほとんどの奏者がマスクをつけての演奏。演奏に熱が入ってくると汗をかいておられるのが解る。これは大変だ。去年の秋頃はソーシャルディスタンスを取って、ノーマスクでの演奏だったが、やはりマスクをして息苦しい思いをしても、距離を縮めたほうが演奏のクオリティは上がるのだろう。

・ヴァイオリンのトゥッティに上野真樹さん(元広響・フィルハーモニアフンガリカのコンマス)がおられた。しかし、全体的には若手奏者の活躍が目立った。守屋剛志さんらと室内楽や弦楽アンサンブルを組んでいる腕のあるメンバーも何人かおられた。

・前半の編成は下手から1stVn6→2ndVn6→Vc3→Va4上手後方にCb2、木管はClとHrが2本でFl,Ob,Fgが各1本。

・ジークフリート牧歌は、ワーグナー家の家族愛が結晶となった音楽だが、私がこの曲でイメージするのは銀河英雄伝説(銀英伝)のアニメ版だ。主人公ラインハルトが、自分の身代わりとなって凶弾に倒れ夭折した、かけがえのない親友のジークフリート・キルヒアイスとの思い出を回想するシーンで印象的に使われている。なので、私には亡き友を思うような胸を掻きむしられる切なさを感じてしまう。

・このプログラム1曲めから、岡山フィルの音は素晴らしい。弱音なのに、芯のある豊かな音がホールいっぱいに拡がって、ホール全体をしっかり鳴らす。10年前の岡山フィルからはこういう音は聴かれなかった。

・冒頭では、トッププルトのみが室内楽的に掛け合いをするように始まった。指揮の園田さんのアイデアか。(緊急事態宣言中の)前回の定期は自粛して行けなかったので、4ヶ月ぶりのオーケストラの音。この冒頭の演奏は心にしみた。特に高畑コンマスの音が心の琴線に触れて感動。

・中間部での低音弦、特にコントラバスの透明なのに重厚な音の土台の上に、繊細だが華やかなハーモニーが重なっていく。

・曲の最後のピアニッシモは、ホールを柔らかな空気を満たしつつ、丁寧で繊細な終結だった。以前はこういう弱音部に差し掛かると、音に雑味があったのだが、この日は最後まで透き通るような音だった。本当に素晴らしかった。

・2曲めは、当初の発表ではダニエル・オッテンザマーの演奏による、ウェーバーのクラリネット協奏曲のはずだったが、5月ごろにソリストの差し替えの発表があった。ウェーバーのクラリネット協奏曲を激ウマのソリストで聞く機会は、今後に取っておこう。

・とは言え、去年の「THE MOST」での佐藤晴真さんのドヴォルザーク/森の静けさ を聴いた時の衝撃は忘れられない。コロナ禍で生演奏から8ヶ月も遠ざかって聴いたものだから、彼のこの美音・麗音が本当に心にしみたのである。

・余談になるが、なぜかこの日のプログラムをドヴォルザークのチェロコンだと思っていて、ステージ上の楽器が少ないことに気づいて慌ててプログラムを確認。ハイドンの2番だったことを知った。

・このハイドンの2番、第3楽章では超絶技巧を楽しませてくれたが、やはり佐藤さんの音は特別だ。本当、美音の持ち主だと思う。チェロって奏者によって音がかなり変わってくる楽器だと思っていて、古今東西さまざまな奏者の中でも、この美音は際立つものがある。

・オーケストラは堅実な伴奏だったが、少々物足りなさが。センチュリー響のハイドン・マラソンに何度も通ってわかったこと。ハイドンの音楽は耳を傾け、体中の皮膚の「耳」も傾ける感覚でシンプルに音楽に体を預けることに愉悦を感じるのだが、今回はちょっと退屈してしまった。もっとソリストの作り出す世界に、挑発したり会話を仕掛けていったり、というのが欲しかったな。

・佐藤さんも、1回めに聴いた時の衝撃(後光が差しているように見えた、といっても過言ではない)からすると、ちょっと物足りなさが残った。できれば、エルガーやドヴォルザークのコンチェルトを聴きたいな。

・アンコールのバッハ/無伴奏チェロ組曲6番から、たぶんサラバンドだったかな。

・後半のドヴォルザーク7番は、編成が拡大。1stVn12→2ndVn10→Vc8→Va8、上手奥にCb6の12型2管編成。前半とはほぼ倍の編成になった。

・この曲は中学2年の時にハマった曲で、ノイマン&チェコ・フィルの新盤をほとんど毎日のように聴いていた時期があった。その時期に聴きすぎてその後は食傷気味になり、最近は殆ど聴くことはなかったが、この曲、改めて聴くと、あの時期の青春の疾風怒濤の心情と、美しいものがとことん美しく見えた感性にピッタリくる曲だったんやなあ、と合点がいった。

・名曲は名曲だけに飽きるほど聴いてしまうことがある。それでも、あらためて実演に接して「やっぱりいい曲だなあ」と感じられるのは、その実演が素晴らしかったことの証左だ。 

・第1楽章の憂いを帯びた主題からのトゥッティーの場面でのオーケストラの鳴りっぷりにまずは驚いた。園田さん、前に振ったときとは違う。のっけからこんなに鳴らして大丈夫?と思うほどの雄渾な演奏。

・こんなに濃密な音になるのは、ヴィオラ・チェロ・コントラバスの音が

・長調に転調したあとの弦の泣きっぷり、歌いっぷりに圧倒され、酔いしれた。この弦の分厚い響と、歌いっぷりはクーベリック&ベルリン・フィルを思わせる圧巻の演奏。

・そこからの各パート感が呼応仕合い、絡み合いながら曲想が展開していく。

・この楽章最後のテンポを速めて盛り上がっていく場面は、ちょっとファナティックさすら感じるほどの盛り上がりを見せた。もうオーケストラもノリノリ!ロッケンロール!俺たちは誰にも止められない!といった感じで、この場面は僕の記憶に長く留められると思う名場面だ。

・ほんでもって、楽章の締めくくりは熱狂のあとの余韻を残しつつ、静かに終わる。ドヴォルザークの得意のパターンながら、しみじみ感じ入ってしまう。

・第1楽章もそうだったが、第2楽章も木管が良かった。空まで突き抜けそうなオーボエの音、華やぎと気品にあふれるフルート、ヨーロッパの情景が目に浮かぶようなクラリネットの音。

・第2楽章の中間部で盛り上がる場面も、オーケストラをしっかり鳴らす。トゥッティーから弱音に切り替わるところでの残響の響きが美しい。うん、本当に岡フィルからは素晴らしい音が出ている。

・第3楽章は弦楽器が浪花節的なこぶしが効きつつも、木管の生き生きとしたタンギングで、スラヴ舞曲の活気に満ちた音楽がめくるめく展開する。

・第4楽章は、まずもってティンパニ近藤さんのバチさばきに痺れた。カーテンコールでめちゃくちゃ拍手したが、なにぶん四十肩で左手が上がらないのでYMCAの「C」みたいな体勢で拍手したので、ちゃんと感謝の気持ちが伝わったか心配(笑)

・第1楽章から岡山フィルは本当によく鳴っていたが、この楽章に入ってギアがもう1段上がった感じで、私のマイシートはホールの壁から空中に突き出す感じのバルコニー席なのだが、舞台からの音と天井から降って来る音に挟まれ、座席の椅子も共鳴するし、桟敷全体が振動していた。「やっぱ生演奏はこれよなあ!」と最高の気分。

・園田さんもオケのメンバーも「いい曲だなあ」と感じながら演奏されていたのでは?楽曲への共感と献身が半端なかった。園田さんと岡山フィルとの相性もよく、このオーケストラを一段上のステージへ引き上げる指揮者だと思う。

・園田さんは2年前の7月定期にも登場していて、年間5回しか定期演奏会がないこのオーケストラで、2年間で2回も登場している。2023年には岡山芸術創造劇場が開館し、本格的なオペラ公演を指揮する指揮者を人選中というが、もしかすると意中の人は、この園田さんなのではないかと思うのだ(私の思い込みです)。オーケストラコンサートのタクトも素晴らしいが、彼の潜在能力を遺憾なく発揮する演目はイタリア・オペラだと思う。

・終演後の拍手は物凄かったなあ。半分しか入っていないとは思えないぐらいのボリューム。ドヴォルザークの7番交響曲は、8番9番のようにおなじみメロディーが目白押し、という曲ではないのに、本当に盛り上がったコンサートだった。

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