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9月の「 I am a SOLOIST」 が楽しみだ [岡山フィル]

 4月、7月と、今年度に入っての岡山フィルも、指揮者やソリストの差し替えが続いている。自分でもわけがわからなくなりそうなので、1月のエントリー記事をその都度更新するようにしている。




 今月には、「I am a SOLOIST」のスペシャル・ガラ・コンサートのプログラムが発表された。


 この企画は、例年だと地元の小中高生を中心とした若い音楽家に、プロのオーケストラと共演する大舞台を踏むチャンスを用意するという企画で、20年近くの歴史があるこの企画に登場した小さなソリストたちの中には、すでにプロとして活躍している人も多い。

 今年は、コロナ禍で出演者のオーディションなどの開催も難しく、また、岡山シンフォニーホールが開館30周年を迎えたこともあり、この企画の卒業生で、超バリバリの第一線で活躍する3人がソリストとして登場する。東京や関西でよくある「3人の豪華ソリストによる三大協奏曲の夕べ」みたいな祝祭的な目玉企画が、地元のプロ・オーケストラと、地元の「若手発掘プロジェクト」出身のソリストだけで出来てしまうというのは、けっこう凄い事かもしれない。

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 中桐さんの粒立ちの良い、気品あふれるピアノで聴くグリーグも楽しみだし、森野さんは、フィガロの結婚で見せてくれたスザンナ役に魅了された私としては、モーツァルトのアリアが聴きたいと思っていて、アリアだけではなく、ガッツリとモテット「Exsultate Jubilate(踊れ、喜べ、幸いなる魂よ)」を聴けるのはとても楽しみだ。


 一番驚いたのは、廉之助くん(「くん」付けは失礼なのだが、地元では皆が親しみを込めて、こう呼んでいるのでご容赦を)がブラームスに挑戦するということ。

 ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、楽曲の構成や40分という規模など、恐らくヴァイオリンのソリスト最大の壁、といってもいい作品。

 高度なテクニックも要求されるが、60人からなるオーケストラがほとんど交響曲とも言える重厚な演奏に対峙してアンサンブルを作っていかないといけない。


 並の演奏家であれば、雄大なオーケストラの前奏が終わった後に登場するヴァイオリンのソロの5小節ほどで跳ね返されてしまう恐れもある。じっさいに、ヴァイオリンのソロが入ってきた瞬間、「えっ、全然ソリストの音が聞こえて来ない・・・」という演奏に接したこともある。


 廉之助くんにとって、今回の共演が初挑戦なのかどうかは分からないが、20歳になった彼が、この巨大な作品をどう料理していくのか?今から興奮を抑えられない。

 廉之助くんが登場したラジオでの情報によれば、彼は現在、ジャニーヌ・ヤンセンに師事しているという。ヤンセンもブラームスの協奏曲を得意にしていて、N響のと共演で聴かせた、骨太で重厚な演奏は、本当に素晴らしかった。


 スイスで色々な影響を受けながら、敢えてブラームスに挑む選択をした廉之助くんの演奏が、本当に楽しみになってきた。

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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その3「都心4コーナー構想」の一角を担う) [芸術創造劇場]

 2023年夏に開館する岡山芸術創造劇場について考えていくシリーズ。
 前回のエントリーから、この劇場の建設地や役割について考察するために、岡山の政・財・官・学界の総力を結集して1995年に提言が出された「人と緑の都心1kmスクエア構想(大構想)」について、今回も見ていこうと思う。
 前回の本シリーズのエントリーから4ヶ月も経過してしまった。このペースで行くと、完結する前に劇場が竣工してしまいそうである(笑)
 このブログを書いていることを知っているリアル知り合いからは、「こんな構想があったなんて知らんかった」「最近、『1kmスクエア』とかいう言葉をよく聞くが、これが元にあったんじゃ」という声をかけられた。一方で、行政関係者の友人は大体がこの構想を知っていた。
 ということは、岡山芸術創造劇場が千日前に建設される歴史的背景について、行政関係者の中ではコンセンサスがあるかも知れないが、一般市民にとっては、「なんであげーなとこに建設しとるんかの?」と言う疑問がまだまだあるということだ。
 前回は「大構想」の3つのコア・プロジェクトのうち、「①路面電車環状化構想」「②文化公園都心構想」について、25年後の現在において着々と形になりつつあることに触れた。
 今回は、「③都心コーナー4拠点開発構想」について取り上げてみようと思う。
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 都心部を環状化された路面電車のネットワークが循環し、岡山都心を形成する1km四方の市街地の内部に緑の多い街路・空間を作る。その最後の総仕上げとして、1km四方の市街地の4つのコーナー部分に、「岡山の文化性を生かし、中四国をはじめとした広域エリアから集客できる特色と魅力のある施設を整備する」というプロジェクトである。
 まず、大構想提言から25年間で、もっとも整備が進んだのが都心コーナー①「JR岡山駅周辺」だ。
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 このエリアは1990年代には既に高島屋百貨店、中四国最大規模の地下街の岡山一番街、ドレミの街(当時はダイエー岡山店が主要テナント)などの大規模商業施設が存在していたが、岡山駅の橋上駅舎化に伴い、駅ナカ商業施設の「さんすて」が2006年にオープンしたことによって、表町と駅前という商業中心地の2極のバランスが崩れはじめ、表町のクレド岡山から有力テナントが撤退するなどの影響が出た。
 そして2014年に年間2000万人もの集客力のある、イオングループ内でも西日本の旗艦施設と位置づけられた、イオンモール岡山がオープンしたことによって、岡山の商業の中心は駅前地区に重心が一気に移行した。現在の岡山の市街地の問題は、この強くなりすぎた岡山駅周辺地区の集客力を、どのように他の地区に分散させていくかに焦点が移っている。
都心コーナー②市役所・大供周辺
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 イトーヨーカドーとジョイポリスが入るジョイフルタウン岡山が1998年にオープンし、堅調な集客を見せていたが、2014年のイオンモール岡山の登場により、イトーヨーカドーとジョイポリスが閉店に追い込まれた。現在は両備グループによる「杜の街づくりプロジェクト」が進行しており、OHK岡山放送などが入るオフィスビルの登場により、市役所筋を挟んだ向かいには山陽新聞・テレビせとうちの本社屋や、上場企業の支店なども集結しており、オフィス街としての性格が強くなっている。

 そして、耐震性能に問題のある岡山市役所庁舎の建替え計画が進行中である。庁舎を南側にセットバックすることにより、平時にはイベント広場として、有事には防災拠点となる緑地を整備し、「大構想」のコア・プロジェクト②の文化公園都市構想の一翼をも担うことになるだろう。
都心コーナー③城下周辺
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 この地区は、1992年に整備された岡山シンフォニーホールが建つ「城下交差点」を中心に、美術館・博物館などの文化芸術施設が集積する「岡山カルチャーゾーン」の整備が進められてきた。私が岡山に移住してきた1990年代頃は岡山シンフォニーホールの開館直後の時期で、毎月のように海外オーケストラや国内一流オーケストラ、著名アーティストの公演などがあり、上之町商店街もかなりの賑わいを見せていた。
 岡山の人々にとっては見慣れた風景だが、徒歩15分圏内にこれほどの文化芸術施設が集積しているというのもかなり特殊であり、岡山独自の魅力・強みだ。バブル期の地方都市での美術館や博物館やコンサートホールの建設は、車での来客の利便性などから郊外に建設される都市が多かった中で、この地区に集積させてきた岡山の先人たちの見識に敬意を抱いてしまう。
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 1997年の「岡山城築城400年」と2000年の「後楽園築堤300年」の記念の年に様々なイベントが開催されたが、2000年代は岡山県や岡山市の財政危機が表面化、県や市の施設の予算が削減され、このゾーンにも冬の時代が訪れた。
 しかし2010年代に入ると、2013年のシェレンベルガーの岡山フィル首席指揮者就任により、岡山フィルを中心とした音楽文化活動が活発化、
2016年と2019年に開催された「岡山芸術交流」によって、歩いて回れる岡山カルチャーゾーンが全国のアート・ファンに知られるようになった。
 2020年には、全天候型の能楽堂を備えたRSK山陽放送の新社屋も竣工した。
 岡山フィルはオリエント美術館や岡山県立美術館などで、展示内容にちなんだコンサートでの演奏活動や、後楽園・岡山城での演奏など、岡山カルチャーゾーンのハード施設同士をつなぐ、ハブとしての存在感を高めている。
都心コーナー④京橋、表町三丁目周辺
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 上の地図を見てみると、何やら見慣れない文言がある。
 「岡山フィッシャーマンズ&ファーマーズマーケット構想」・・・・
 現在、京橋においては、月に一回たいへんな賑わいを見せている「京橋朝市がある」
 岡山フィッシャーマンズ&ファーマーズマーケット、とは京橋朝市のことなのだろうか? 
 確かに構想の中には京橋朝市も含まれているが、もっと壮大な構想だったようだ。
 「瀬戸大橋、山陽自動車道をはじめとする広域交通網の整備により、岡山市と数時間で行き来できる地域は一挙に広がりました」
 「京橋周辺のウォーターフロントという地理的特性と岡山の拠点性を加味し、瀬戸大橋・日本海・太平洋から届く新鮮な“三海の幸”を最大の売り物とする新しいにぎわいの拠点を作ろうというものです」
 2021年に岡山に生きる我々から見ると、「なんじゃそりゃ!?」と首をかしげるプランではあるが(笑)、当時の状況を振り返ってみると
 ・本州と四国を繋ぐルートが瀬戸大橋しかなかったため、四国からの物流・人流は岡山に集まる構造だった。
 ・インターネットがまだ一般化されておらず、ネットショッピングで気軽に「お取り寄せ」することが出来ない時代だった。
 その後、1995年のwindows95の登場以降、インターネットが爆発的に普及。1999年頃には「Eコマース」という言葉が普及するなど、個人レベルで産地直送の農産海産物をお取り寄せする時代に入る。また、明石海峡大橋(1998年)、しまなみ海道(1999年)の開通によって、岡山の地理的優位性は失われる。
 この「1kmスクエア構想」の改訂版(2009年提言)から「フィッシャーマンズ&ファーマーズマーケット」構想は完全に姿を消した。
 この間、表町三丁目・千日前地区では映画館街の相次ぐ閉館表町三丁目劇場の大失敗など、経済的地盤沈下が進行していく。それゆえ、都心4コーナーのうちこの表町三丁目・千日前地区のみが取り残されたことで、岡山都心の面的な活性化が進まなかった。
 オセロで言えば表町三丁目・千日前という「角」を取らなければ、一気に形勢を変えることは難しい。
 そこで浮上したのが「新岡山市民会館の移転新築」=『岡山芸術創造劇場の建設』であったのだ。
 次回は、茨の道を進むであろう『岡山芸術創造劇場』が生き残っていくために考えられることについて、一音楽ファンの立場から脳みそを捻り出して考えたいと思う。

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