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どうなる!?岡山フィルの『次期』指揮者(その2) [岡山フィル]

 この1ヶ月の間に、相思相愛と思われていたシェレンベルガーと岡山フィルについて、今後を憂慮すべき情報が飛び込んできた。前回は日本オーケストラ連盟の配信番組の中で、岡山フィル側から発せられた「次の指揮者の人選を進めている」という発言がもたらす波紋について考えてみた。



 今回は、まずはもう一つのニュースについて。


 と、その前に断っておきたいことがある。ニュースについては事実ではあるが、そこから導き出される想定については、あくまで筆者の想像である。シェレンベルガーと岡山フィルとの良好な関係がこれからも続いていくことを願うファンの思いを書き綴ったに過ぎないことをご諒解ください。 

ベルリン発 〓 ベルリン交響楽団の次期首席指揮者にハンスイェルク・シェレンベルガー(月刊音楽祭サイトより)



 ベルリン交響楽団といえば、岡山にも何度も来日している団体で、2016年の来日の際に私も聴きに行ったのだが、その際の感想はリンク先の記事をご覧いただくとして(ただし、辛辣な感想を書いていることをご了解ください)、2000年代には経営破綻も経験しているこのオーケストラの首席指揮者という困難な仕事を、よく引き受けられたなあ、というのが正直な感想だ。

 もっとも、現地から見れば、極東の聞いたこともないような街のオーケストラの首席指揮者を引き受けたことも驚きだったろうし、こういう困難な仕事ほど自分の持てるものをすべて投入するという人柄なのは、僕たち岡山の聴衆が一番良く知っている。歴史もあり市民に愛されてきた楽団だけに「シェレンベルガーさんならなんとかするかも知れない」とも思う。

 気になるのはその仕事量で、シェレンベルガーの公式HPを見ると、毎月のようにベルリン交響楽団との仕事が入っており、2022年以降、岡山フィルのためにスケジュールを空ける余裕があるのだろうか?と思うほどのボリュームだ。

 ワクチンが普及したとしても変異株の流行によってワクチンが無力化される可能性もある。このコロナ禍の収束が見通せない中、国境を超える必要のない仕事を優先することは合理的な判断であるし、現状では首席指揮者の職責を果たせていないと考えているかも知れない。

 シェレンベルガー・サイドから岡山フィルの仕事量を減らす要望があったとすれば、先日の「次の指揮者を選定している」という発言も納得せざるを得ない。


 しかし、もし、シェレンベルガー以外の『次期首席指揮者』を選定すると仮定すると、当然、シェレンベルガー以上の人材であることが条件になってくるだろう。


 私なりに岡山フィルにとってシェレンベルガーが何をもたらせてくれたのかを整理し、私がシェレンベルガーの続投を強く願う理由を述べてみようと思う。



①:オーケストラビルダーとしての卓越した能力

 これはシェレンベルガー就任前から岡山フィルを聴いてきた人は、誰しもがまざまざと目のあたりにしてきた。就任前も堅実な演奏をしてきた岡山フィルだったが、シェレンベルガーの就任後は、表現の質が明らかに変わったと感じる。そのプロセスを見て聴いていくのも楽しみになっており、シェレンベルガーがタクトを振るたびに、岡山フィルの魅力が引き出されていくのだ。


 それはオーケストラ演奏に留まらない。タクトをオーボエに持ち替えて演奏される岡フィルのメンバーとの室内楽のコンサートはもっとエキサイティングだ。シェレンベルガーのオーボエ奏者としての凄さもさることながら、岡フィルメンバーの潜在能力を引き出し、「この方はこんな音楽を演奏するんだ」「凄い、シェレンベルガーに対して一歩も引かずに渡り合っている!」という興奮の瞬間を目にするたびに、マエストロがこのオーケストラに対してもたらしているものを認識させられるのだ。


 演奏改革のドラスティックさとは対照的に、楽団改革については現実路線を貫く。聴衆が増加するのを確認しながら定期演奏会を2年に1回づつのペースで増やしていく。はじめは特別演奏会として設定し、行けると判断すれば定期演奏会に組み込んでいく。首席奏者の8パートの大オーディションは話題を集めたものの、チェロや第2ヴァイオリン、ティンパニなどはベテラン奏者の特別首席を招聘し、若いエネルギーと熟練の技術とのバランスを考慮する。もちろんこれらはシェレンベルガーだけの功績ではないが、彼が来る以前の岡山フィルとは全く違う展開を見せてくれたのは間違いない。


 芸術面での課題には天才的な能力を発揮する一方で、経営的な問題に対しては現実的なソリューションを提示できる。そんな両面を兼ね備えた稀代のオーケストラビルダーと言える。



②楽団員と向上心を共有した良好な関係を築いている
 指揮者と楽団員の関係と言っても、50人からなるプロの音楽家の総意の存在などというのは、聴衆の幻想なのかも知れない。しかし、シェレンベルガーが来る前は、楽団の実力と存在意義を賭けて開催する「定期演奏会」の回数は年に1回〜2回のみだったが、現在は年に5回に増え、更に聴衆も増えて、地元の人々の岡山フィルを見る目も明らかに変わった。楽団員にとってこの8年間で得られた充実感は何物にも代えがたいだろう。そして、音楽家としての表情が見える室内楽で、シェレンベルガーとの共演で見せる彼らの表情は本当に充実している。もちろん定期演奏会での表情も。

 ある首席奏者は、シェレンベルガーを「子供の頃から私のヒーローだった」と言い、夢はシェレンベルガーとの海外公演と語る(山陽新聞のインタビュー記事)ほどだ。



③聴衆の圧倒的な支持
 シェレンベルガーが初めて岡山フィルを振ったのが2009年の定期演奏会。その頃の客席は半分も人が入っていなかった。
 しかし、シェレンベルガーが首席指揮者に就任してから客席の8割は埋まるようになり、定期演奏会の回数を5回に増やしても客席は埋まり続けた。単純計算で定期演奏会の動員は年間2000人→8000人に4倍に増えた。
 このようにシェレンベルガーは岡山の聴衆に圧倒的に支持されており、この聴衆を新劇場の客層として取り込もうとしないなんて、クレイジー!!、とさえ思う。
 シェレンベルガー&岡山フィルへの支持は岡山だけに限らない。当ブログにコメントをくださる方やSNSでつながっている方の中には岡山フィルを聞きに他県から通っている方がおられる。その範囲は香川・備後などの近隣に留まらず、兵庫、大阪、京都、広島(安芸)、愛媛など広範囲にわたる。京阪神にはコンサートが沢山あるなかで、岡山にわざわざ来てくださるのは、それだけシェレンベルガー&岡山フィルのコンビが、他では聴けない音楽を演奏してくれるという期待感・信頼感にほかならない。
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※岡山シンフォニービルの吹き抜けにはシェレンベルガーの巨大パネルが設置されるなど、楽団も積極的に岡山フィル=シェレンベルガーのイメージを推していた。

④シェレンベルガーと開拓すべきレパートリーがまだまだ存在する

 通常のオーケストラの常任指揮者との共演回数は年に10回程度確保されおり、10年100公演も共演すればレパートリーは一巡する。

 しかし岡山フィルとシェレンベルガーとの共演は、就任当初は年に2回しか定期演奏会がなかったこともあり、年に3〜4回。おそらく8年間でもまだ二十数回程度だろう。通常のオーケストラの1/4程度しか共演回数をこなしていないのだ。

 レパートリーを見ても、ベートーヴェン・ブラームスの交響曲チクルスは完了しているが、就任当初のインタビューで語っていた、ハイドン、モーツァルト、シューマン、ブルックナー、マーラーはまだほとんど手つかずである。シェレンベルガーが他楽団との共演のプログラムあるいは、オーボエ演奏のアルバムでもイタリア・バロックやフランス物が高く評価されている。独墺系以外にもラテン系の楽曲も得意としている可能性が高い。まだまだシェレンベルガーから得られるものがあるのに、ここで任期が満了するのはあまりにももったいない。



⑤国内のオーケストラのヒエラルキーに属さない個性・独自性


 シェレンベルガーと岡山フィルというコンビは岡山フィルを一介の「地方都市オーケストラ」として埋もれさせることがない個性を発揮している。

 少し話は飛ぶが、日本のオーケストラにおける常任指揮者の顔ぶれの傾向について軽く(乱雑に)触れておきたい。
 日本国内のオーケストラを概観すると、在東京の有力オーケストラの常任指揮者はパーヴォ・ヤルヴィやジョナサン・ノット、セバスティアン・ヴァイグレなど、世界の一流オーケストラで活躍する指揮者が兼任しているが、地方の諸都市オーケストラの多くは、実力派の日本人指揮者が『輪番』のような形で常任ポストを務めている

 これらの実力派指揮者たちの中には若い頃の海外での実績がある者も多く、国内の有力オーケストラで演奏上の成功を収めると、次々に他のオーケストラからも声がかかる、結果有能な指揮者が様々な諸都市オーケストラ のポストを輪番のような形で歴任することで、この20年で実力が飛躍的に底上げされたと言われる。その一方でオーケストラの常任ポストは数が限られているため、(実力だけでなく、めぐり合わせや運の要素も大いにありつつ)輪番の席取りレースから弾かれる指揮者も出てくる。
 ならばこうした実力・実績はあるが現在ポストに付いていない日本人指揮者に後任を頼む手があるじゃないか?と言われると、僕は「否」と答えたい

 理由の一つは岡山フィルの個性が弱まってしまうことだ。③でも触れた県外からリピートする聴衆は「あのシェレンベルガーがどんな音楽づくりをするのか?」という興味で聴きに来られ、そこで大いに感銘を受けてリピートしてくれている。国内を中心に仕事をしている指揮者は、(言葉は悪いが)「どこでも聴ける指揮者」でもあるということ。岡山フィルの常任に就任した場合「まあ、わざわざ岡山まで行かんでもええわ」となる可能性が高くなる。

 また、指揮者の現在のポジションや評価がオーケストラのポジション・評価に影響し、国内オーケストラヒエラルキーの中で岡山フィルのポジションが定まってしまう恐れもある。
 また、シェレンベルガーはドイツを拠点に、欧州・北米・南米・アジアと指揮者としても器楽奏者としても、未だに世界の第一線を舞台に活躍している音楽家だが、もし海外にポストを持っておらず、また海外から指揮のオファーが無い指揮者が岡山フィルの常任ポストにつくと、世界の音楽シーンへの扉が閉ざされてしまう恐れもある。
 クラシック音楽の世界は、今、急速に変化している。だからこそ在東京のオーケストラは、まさに世界の一線級で活躍している指揮者の招聘に躍起になるのだ。東京だけでなく、札幌交響楽団(バーメルト)、オーケストラアンサンブル金沢(ミンコフスキ)、山形交響楽団(首席客演指揮者としてバボラーク)など海外での「経験」だけではなく「今」を知るマエストロを招聘する楽団はやはりファンの間でも話題だ。



 岡山芸術創造劇場の館長に就任された草加叔也さんは、山陽新聞のインタビューで「(新劇場は)劇場法の前文にもあるように『世界に開かれた窓』を目指したい」と仰っているが、ならば音楽部門をになうのはシェレンベルガー以外にいないじゃないか!と思う。

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※世界最高の木管アンサンブルのツアーの際、岡山フィルが日本のオーケストラで唯一共演を果たした。まさにシェレンベルガーは「世界に開かれた窓」だ。




※岡山フィルとシュテファン・ドールとの共演動画は42万回の再生回数(2021年5月現在)を稼いでいる。見に来る動機はドールのホルンだろうが、それでもこの再生回数は国内のオーケストラの動画の中でもトップクラスだろう。


 岡山フィルが想定する次期指揮者が誰なのかは分からないが、こういったことを踏まえて、果たしてシェレンベルガー以上の人材が居るのか?



 私はほとんど居ないと思う。


 もし岡山フィルとの契約をシェレンベルガー側の事情で更新できない場合も、功績に相応しい花道を用意するとともに、シェレンベルガーが開拓した聴衆層を失わないように、何らかの対応(桂冠指揮者のようなポストを作るなど)を行う必要があるだろう。



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