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静岡交響楽団と浜松フィルとの合体のニュースから岡山フィルの可能性を考える [各地プロ・オケ情報]

 コロナ禍の中で、各地のオーケストラの経営にも影響が出ている中、岡山フィルと同じく日本オーケストラ連盟(以下、「連盟」)準会員であり、非常設オーケストラの静岡交響楽団に大きな動きがあった。
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 静岡交響楽団は創立以来32年、静岡県で唯一の常設プロオーケストラとして、定期演奏会や特別演奏会、音楽鑑賞教室、老人福祉施設訪問など積極的に取り組んできました。そしてこの度、2021年4月に特定非営利活動法人から一般財団法人への改組を行うことになりました。
 加えて、浜松で活動していた浜松フィルハーモニー管弦楽団と合体することとなりました。同楽団の浜松地域でのレガシーを新法人が引き継ぎ、音楽活動を展開してまいります。
 こうした一連の動向に伴い、楽団名を「富士山静岡交響楽団(通称:静響)」に変更し、2021年4月から「一般財団法人富士山静岡交響楽団」として新たなスタートを切ります。名実ともに静岡県を代表するプロオーケストラとして、全国に、そして世界に飛躍したいとの思いを込めた名称です。
 今後、財政基盤の強化や演奏活動の拡大を図るため、2022年の公益財団法人化、日本オーケストラ連盟正会員を目標に、邁進していく所存でございます。
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静岡市清水文化会館マリナート.jpg
静岡交響楽団の本拠地:静岡市清水文化会館マリナート(マリナートHPより)
 以前の特集記事「国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その1:岡山フィルの現在のポジション)」を作成している時に、日本オーケストラ連盟の準会員オーケストラの中で、正会員に近い位置にいるのは、この静岡交響楽団、もしくは名古屋の中部フィル、そして岡山フィルだろうと思っていた。国内のオーケストラ・ウォッチャーの僕としては、静岡交響楽団の動向を気にしていた。

 その静響が、同じ静岡県のオーケストラの浜松フィルと『合体』(「合併」でも「統合」でもなく『合体』と表現しているところにヒントが有る)し、新たに「富士山静岡交響楽団」として新法人を設立、2022年に公益財団法人化と日本オーケストラ連盟正会員の認証を目指すと明言されている。
 浜松フィルは人口80万人の浜松市を本拠地とし、プロ・オーケストラとして年に1〜2回程度の定期演奏会をするなど活動してきたが、従来から資金面の問題を抱えていて、このコロナ禍によって解散が決定的となったそうだ。オーケストラの解散は楽団員の活躍の場が奪われ、聴衆の楽しみが失われるだけでなく、過去の演奏会などでの経験の蓄積や共演者らと作り上げてきた楽譜などの遺産が失われてしまう。そうした問題を解決するために、静岡交響楽団が浜フィルとの『合体』という形を取ることに依って、そうした浜フィルのレガシー(遺産)を引き継ぐことになったようだ。
 日本オーケストラ連盟正会員として認証されるためには
  1. 法人格を有する非営利団体に所属するプロフェッショナル・オーケストラであること。
  2. 固定給与を支給しているメンバーによる2管編成以上のオーケストラであること。
  3. 定期会員制を採用し、年間5回以上の定期演奏会をはじめとする自主演奏会を10回以上行なっているオーケストラであること。
  4. 運営主体としての事務局組織を持っているオーケストラであること。
  5. 正会員より推薦を受けたオーケストラであること。
 という条件をすべてクリアする必要がある。とりわけ一番厳しいのが2の「固定給与を支給する」という部分で、これを達成して、「常設オーケストラ」となるためには少なく見積もっても3億円程度の予算を確保していく必要がある。
 岡フィルも静響も、現在は演奏会のたびに演奏報酬を支払う形態で、オーケストラの団員は他のオーケストラにエキストラとして出演したり、音楽教室の講師などと掛け持ちしながら生計を立てている。
 岡山にはサッカーではJ2リーグのファジアーノ岡山、あるいはVリーグの岡山シーガルズなどのプロ・スポーツチームがあるが、選手には固定給(年俸)が支払われている。もし、これが試合に出た際の報酬しか支払われず、普段はスポーツ教室などで生計を立てざるを得ないとしたら・・・そのチームが強くなれると思う人は皆無であろう。
 しかし、正会員として認められる経営基盤を確立して、固定給を支払うことが出来るようになれば、演奏に専念できる環境を求めて優秀な楽団員が集まり、演奏レベルは確実に向上する。また専業の音楽家がその街で生活することによる文化的・社会的な波及効果も大きい。
 N響や都響、大フィルや名フィルといった大都市の一流オーケストラとも同じ土俵で勝負ができるようになるわけで、対外的な街のプレゼンスも確実に向上する。実際に群馬交響楽団、オーケストラアンサンブル金沢など、岡山や静岡と同規模の都市でも高い評価を受けているオーケストラがある。山形交響楽団は岡山・静岡の半分程度の都市規模でも実力の高いオーケストラが育っている。
 ここで、静岡交響楽団と岡山フィルのデータを比較してみようと思う。それと同時に連盟正会員(常設)オーケストラの事業規模の目標値として、都市規模(人口・経済)では静岡、岡山と同規模ながら、地方都市オーケストラのトップランナーである群馬交響楽団(高崎市)のデータとも比較する。
       静岡交響楽団   岡山フィル    群馬交響楽団
設立年月日  1988年    1992年    1945年
プロ改組   1994年      〃      1947年
本拠地    静岡市      岡山市      高崎市
本拠地人口  70.5万人   72万人     37万人  
専任指揮者  高関 健    シェレンベルガー  小林研一郎
年間公演数    50回      19回    165回
主催公演数    17回      13回    127回
定期演奏会     9回       4回     12回
総事業費   1億5167万円   1億1972万円   8億3909万円
演奏収入     4887万円     4879万円   3億6719万円
総入場者数   27100人      37988人    119000人
法人格     NPO法人    公益財団法人   公益財団法人
※公演数〜会員数は2018年のデータ
 こうして見ると、静岡交響楽団と岡山フィルは本当によく似ているな、と感じる。総事業費や公演数では静岡交響楽団が大きくリードしているが、演奏収入には差がなく、総入場者数を見ると岡山フィルのほうが集客力がある。岡山フィルを運営する岡山文化芸術創造はすでに公益財団法人になっており、運営母体も岡山フィルのほうが整備されている。
 ということは、岡山フィルも静響に続いて、連盟正会員の常設オーケストラになれる可能性があるということだ。
 それにしても群馬交響楽団の公演回数や8億円を超える総事業費、3億円を超える演奏収入には驚かされるが、大都市ではない地方都市でもここまでの運営ができるのだ。
 静岡交響楽団としては人口70万人の静岡市の都市内オーケストラから脱皮し、楽器メーカーのヤマハやカワイが本社・工場を構える80万人の浜松市をも取り込んだ、静岡県域全体をカバーするオーケストラとしてアイデンティティを再構築し、静岡県全体で聴衆や協賛企業を確保することで、正会員の条件をクリアしようとしているのだろう。
 この手法は岡山にも参考になるのではないか?
 つまり、岡山市の都市内オーケストラから脱皮し、特に人口50万人の倉敷市と岡山市の両方に本拠地を置くようなオーケストラに脱皮するので。
 倉敷市が主催する音楽イベントは、主に関西からオーケストラを招聘している。私の知る限り、アルスくらしき(倉敷市文化振興財団)主催のオーケストラ・イベントで岡山フィルが呼ばれた例は殆どないと思う。
20201107.png
※こういう子供向けのコンサートでも、倉敷は岡山フィルを呼ばない。いや、たしかに大フィルの演奏で聴けるのは凄いのだが・・・
 詳しい事情はわからないが、岡山フィルは『岡山市のオーケストラ』のイメージが強く、じっさい岡山市の外郭団体が運営しており、強烈なシビック・プライドを持つ倉敷市としては岡山フィルを使う=文化面で岡山市の風下に立ちたくない、という面があるのではないか?
 岡山フィルがもし倉敷も巻き込んだ、東瀬戸経済圏全体を活躍の場とするオーケストラに成長すれば、常設オーケストラに向かう道筋が見えてくると思う。
 これについては、また(気が向いたら)記事を改めて書こうと思う。

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