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岡山フィル特別演奏会(2020第九代替公演) 指揮:川瀬賢太郎 [コンサート感想]

岡山フィル特別演奏会
ベートーヴェン生誕250年記念
ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」
  〜 休 憩 〜
ベートーヴェン/交響曲第7番
指揮:川瀬賢太郎
コンサートマスター:福田悠一郎
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※プログラムに表示されているbeyond2020・・・オリンピックの先に、のはずが、コロナ後の世界の変わりようを表しているようだ
 本来であれば市民合唱団による『第九』のコンサートが開催されるはずだったが、covid-19の感染リスクのため、交響曲第5番/第7番に差し替えて開催された。

 川瀬さんが岡フィルを指揮するコンサートは2回目、その時に比べて、まずはオーケストラの音・反応が劇的に変化している。川瀬さんのタクトは激しく情熱的。F1レーサーで言えば、命知らずのアタックを仕掛け、シケインに乗り上げようがお構い無しに突破していく。しかし岡フィルもさる者、指揮者の情熱に呼応して音楽を盛り上げていく。
 我らがシェフのシェレンベルガーは音楽にパッションは込めつつも、全体のフォルムやバランスを崩すことはしないタイプなので、久しぶりに荒々しい岡フィルのサウンドを聴いた。

 半年以上、生演奏を聞けない時期があって、今回は始めてほぼ満席に近い会場で、あんなに捨て身とも思える爆発するような情熱的な演奏を聞かされたら・・・これを聴いて感動しないほうがおかしい。5番の第4楽章で本当に泣けた。

【12月9日追記】

 前回、川瀬さんが岡山フィルを指揮したのはちょうど10年前の2010年の第九で、川瀬さんがまだ26歳のとき。
 当時のブログ記事(今は閉鎖しており、アーカイブは保管している)を読み返してみると、川瀬さんのダイナミックな指揮は当時も強い印象を残したが、当時の岡山フィルは活動低迷期で、2009年と2010年は定期演奏会が1回づつしか開催されておらず、その定期演奏会も各パートの首席奏者は東京・関西のオーケストラから連れてききた「日替わり首席」で、リスクを取るような突っ込んだ演奏は期待できなかったし、10年前は3階席で聴いたのだが、音がなかなか飛んでこなかった。指揮者が力めば力むほどオーケストラの鳴りが悪くなり、正直、いらだちを感じたコンサートだった。
 しかし今回のコンサートを聴いて、川瀬さんのオーケストラドライブの見事さはさることながら、岡山フィル自体があの頃とは全く違うパワフルさを手に入れた、10年前の岡山フィルが1500ccの車だとしたら、今の車は2500ccぐらいにはなっている。絶対的な馬力が向上した感じ。
 
 今日のお客さんの入りは9割以上入っていた。1階席の前5列(オペラ公演時はオーケストラピットになる部分)の座席を外しているものの、全座席を開放。2階〜3階席はほぼ満席に近く、1階席の(あくまで主観だが)音がよろしくない席が空席になっている。みなさん、だんだんこのホールのことが判ってきたね(笑)
 それから、5番の第2楽章で携帯鳴動をやらかした人がいた(よりによって静かな場面に限って勃発するんよね。コンサートあるある)のを除いて、咳一つない静かな環境。

 配置は1stVn10→2ndVn8→Vc6→Va6、上手奥にCb4。ホルンを下手に配置。弦楽器はSD(ソーシャル・ディスタンス)配置を解消して1プルト2人。管楽器はまだSD配置で前後をかなりスペースを取っており、TpやTbは反響板ギリギリに座る。ティンパニは下手奥。
 岡フィルは、チェロをアウトに、ヴィオラをインに配置することが多いが、今回のように最近ヴィオラをアウト(客席側)に配置してチェロをインに配置することが多くなってきているね。

 客演コンマスの福田悠一郎さんは10月定期に続いての登場、フォアシュピューラーはこの春にコンサートマスターに就任した田中郁也さん。田中さんて後ろのプルトにいるときには気が付かなかったけれど、背筋が伸びて演奏する姿がきれいですね。そして、指揮者も若いし、この先頭プルトのコンビは若い!!

 楽団の入場は本鈴が鳴ってからではなく、予鈴の前から舞台上で音出しをして、そのまま座席で本番を迎えるアメリカンスタイル、岡フィルでは記憶がない。客席はコロナ対策で私語を謹んでいるから予鈴から本鈴まで静寂に包まれ、いつもとは違う空気になった。
 岡山シンフォニーホールは商店街の再開発ビルの中に組み込まれている関係上、舞台裏は広くはないので、控室から出てしまうと管楽器などが密な舞台裏で音出しをする状況を作らないためにステージに出るスタイルを取ったんじゃないかと思う。

 川瀬さんは、第5番、第7番ともに金管はソリッドな音を中心に、ここぞという力の入る場面にはティンパニとともにビビッドな音楽を引き出していたが、弦5部と木管は場面によって音のテクスチャーを使い分け、ざっくりと荒々しい音色を引き出したかと思うと、穏やかな場面ではシルキーな音を引き出していた。テンポの変化やダイナミクスの強弱について、身体全体で表現する川瀬さんのダイナミックな指揮にオーケストラが演奏で呼応し、それに対して川瀬さんがもっと劇的な指揮で応じる、という相乗効果は見て・聴いていて胸がすくような演奏だった。特に第5番の第3楽章から第4楽章に入り、曲のフィナーレまでの演奏は、指揮者や各パート観の緊密な連携と融合により、まるでポルトガル代表のパスサッカーを見ているよう。
 
 川瀬さんはコンサートに先立ったプレトークで
・ここに来るまでに不安や葛藤があった方もいらっしゃると思う。眼の前で奏でられる音楽を聞くことは、今生きている実感につながる、必ず来てよかったと思える演奏をする。
・この曲(5番)でベートーヴェンが「自由を、自由を、自由を!」という叫びが聞こえる。
・200年以上前の古典とされる曲だが、今、この瞬間に生まれた新鮮な音楽を届ける。
 この言葉を裏切らない演奏だった。
 コロナ禍の時代はなんと不自由な世の中になったことか。ベートーヴェンの時代のように(少なくとも我が国では)封建制も身分性も存在せず、一人ひとりの人間の存在が尊重され、社会を作っていっているはずなのだが・・・・。克服すべきは感染症そのものではなく、人の心や社会の問題であることを、ベートーヴェンの音楽が伝えてくれている。
 
 7番は第1,2楽章と第3,4楽章がそれぞれアタッカで演奏された。これは先日NHKで放送された「クラシック音楽館」での川瀬&名古屋フィルの演奏と同じ。
 前プロの5番は、かなり力技なところもあって、怒涛のような演奏だったの、7番もリズムに乗って重戦車のように突破していくかと思いきや、確かに躍動感溢れる演奏だったのだが、例えば第1楽章の中間部や第3楽章などでは、かっちりとした形式感を出し、指揮者の冷静な視点で緻密に複雑なパズルを組み上げていくようなタクト捌きに痺れた。木管陣が絶品で、Fg首席は客演の中野さん(京響)だったものの、岡フィル自慢の木管陣の実力がいかんなく発揮された。
 梅島首席が抜けたホルンは客演の方が中心で、5番と同様ナチュラルホルンのようなソリッドな音を競争する場面が続く。弦とともにホルンがオーケストラの演奏を先導して曲のモチーフをリズムを刻みながら奏でている場面が多かったため、第4楽章ではかなりバテている感じがあったが、こういう敢えてリスクを取った思い切った演奏に心が熱くなる。弦5部も素晴らしく、常に音楽を牽引し、特にチェロ・バス・ヴィオラが素晴らしい!
 そうそう、ティンパニに触れておかねば!特別首席の近藤さんはやはり得難いティンパニスト。7番では鮮やかすぎるティンパニのバチさばきに目が釘付けになった。
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※自転車でホールへ向かう途中にて。感染リスクはほぼゼロ。
 お客さんも驚くほどルールを守っていて、ブロックごとの退場ルールをほとんどの人が守り、終演後の階段や通路でも私語をしている人は少なく、でもどこか一体感や満足感を共有しているようでもあった。岡山フィルにとっては久しぶりの座席制限が解かれての公演だったが、嬉しい誤算だったのが、ご高齢の方がホールに戻ってきていることだ。ホールの徹底した感染症対策がニュースなどで伝えられたことも大きいし、やはりみんな音楽に飢えているのだ。
 先月はウィーン・フィルが超厳戒体制(チャーター機とバス・新幹線貸し切りで移動。ホテルに缶詰状態)で来日してくれたが、これは例外中の例外。岡山のような地方都市において、地元のプロの音楽家やオーケストラの演奏を聴けることが本当に貴重なことだと改めて感じた。

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