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4台のピアノと8人のピアニストによる饗演 [コンサート感想]

4台のピアノと8人のピアニストによる饗演
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松本和将
中桐望
梅村知世
中島尚子
友光雅司
重利和徳
片山舜
稲垣拓己
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2020年2月16日 岡山シンフォニーホール
 規格外の企画に、集まったピアニストも松本、中桐、梅村という世界を舞台に活躍されている3名を筆頭に、全員がソリストとして活躍している方々(岡山出身でこれだけの人材が集まるというのは、改めて凄い)、プログラムもソロ演奏から1台4手、2台4手、4台8手、4台16手と徐々に「編成」を拡大しながら。ベートーヴェンの交響曲第5番の4人8手編曲版を頂点に、「展覧会の絵」ではピアノの音のポテンシャルを思い知る演奏になったし、「くるみ割り人形」でのトップレベルの競演、「ウェストサイド・ストーリー」は二人のピアニストがジェッツとシャークスの対決を、トニーとマリアの愛と悲劇を演じる迫真の二人芝居。
 まあとにかく、どの曲も濃厚で濃密な時間で、演奏時間は3時間に迫ろうかというボリューム、会場は1階席から3階席までビッシリと埋まる満員盛況。
 終演後は演奏と会場の熱気で頭がぼーっとしてしまって今夜は冷静に感想を書けそうにない。また後日じっくり更新します。
(2月21日追記)

 岡山シンフォニーホールが演奏用に保有されている4台のピアノ(スタインウェイ、ヤマハ、ベーゼンドルファー、カワイ)を全部出して、調律師も1台に1名、計4人付けるという『前代未聞のコンサート』(松本さん談)。まずは、これだけのレベルのピアニストを8名揃えたのが凄いし、実質的なメイン曲にベートーヴェンの交響曲第5番を据えるという決断も凄い。それぞれの分野のプロたちが能力を結集して作ったコンサートだった。
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ショパン/ポロネーズ第6番「英雄」 松本和将によるソロ演奏(スタインウェイ)
 恐らく、会場と聴衆を温めるという意味合いが強い選曲だったと思うが、松本さんのショパンはさすがの迫力で、温めるどころか火がぼうぼうと燃え盛るような演奏で始まった。ピアノを鳴らしている、というよりもホールの空気を振動させているという感じ。凄い。

ドヴォルザーク/スラヴ舞曲集より72−1,72−2 重利和徳、友光雅司による1台4手(スタインウェイ)
 1台4手の演奏はスペースや動きの制約が大きいのか、あるいは1曲めの松本和将の演奏がすごかったのか、迫力の点では少し物足りなかった。いや、この規模のホールを鳴らし切る演奏というのは、恐らく選ばれた者だけが可能な特殊能力なのかもしれない。
 友光さんはスイング感のある演奏で、一方の重利さんは没頭型で対照的なように見えて、息はピッタリ。音の強弱・テンポが自由自在の愉悦に溢れた演奏だった。お互いの手をクロスさせながらの演奏もあり視覚的にも面白かった。

ドビュッシー/小組曲 片山舜、中島尚子による1台4手(スタインウェイ)
 1曲目の松本さんの印象が強烈で、やはり音量に物足りなさを感じたものの。ドビュッシーなので、これはアリかな。ドビュッシー独特の色彩の移ろいや繊細なニュアンスを存分に聴かせた。この演奏、ルネスホールあたりで聴くと最高に愉しめそうだ。
 それにしても皆さん、演奏もさることながらトーク能力もハイレベル(笑)

チャイコフスキー(ニコラス・エコノム編)/「くるみ割り人形」からマーチ、トレパーク、花のワルツ
梅村知世(ベーゼンドルファー)、松本和将(ヤマハ)
 アフタートークでは、岡山出身で東京芸大、ベルリン音大・・・と同じルートを歩んだ二人ということで、ドイツ的なチャイコフスキーかも知れない、という話だったが、テクニック・迫力のみならず、音楽の構成力が凄い。かわいらしい行進曲からトレパークのリズムの躍動。さらに最後の花のワルツが圧巻。幻想的に始まって間をゆっくり取った冒頭から、どんどん音楽が昂揚していき、最後はバレリーナたちの大団円の踊りがステージ上に見えるような、そんなヴィジョンが見えるような華やかな演奏だった。

バーンスタイン(ジョン・ムスト編曲)/「ウェスト・サイド・ストーリー」より《シンフォニック・ダンス》
中桐望(ベーゼンドルファー)、重利和徳(ヤマハ)
 いや、これはちょっと凄い演奏だったんじゃないでしょうか。この曲の肝であるラストの描写が凄い。バーンスタインの「人と人を繋ぎ、心とこころを繋いでいく」力と、その真逆の「人と人は、結局は分かり合えない」という絶望の淵・・・それを見事に表現されていて、本当に泣きそうになった。こんな演奏を聴くと、オーケストラ版よりもピアノ連弾のほうがいいんじゃないか?そう思わされる演奏だった。フィンガースナップや「マンボ!」の掛け声も入れながらのジャジーな演奏に魅了された。ファンタスティック!
 中桐さん、ぜひ岡山フィルと「不安の時代」(交響曲第2番)を演奏して欲しい。あなたならバーンスタインの希望と絶望というアンビバレントな価値を内包する音楽を表現できる(もっとも、岡山フィルがこの曲を取り上げてくれるかは別問題だが)。
 ショパンやベートーヴェンだけじゃなく、こういう曲も自在に操れるピアニスト、これからも聴きに行きたい。重利さんの演奏も素晴らしかった。結構、ジャズ演奏の場数も踏んでいるのでは?と思ったがいかに。

ベートーヴェン(テオドール・キルヒナー編)/交響曲第5番「運命」
 プログラム(上の画像)には2台4手の編成になっているが、「せっかく4台あるのだから、4台すべて使ってしまおう」ということで、4台8手での演奏になった。
 下手側からか中島尚子(ヤマハ)、松本和将(スタインウェイ)、梅村知世(ベーゼンドルファー)、中桐望(カワイ)という編成。
 4台使うという判断は大正解だった。配置がステレオ配置になり、ストコフスキー配置のオーケストラのような上手側で低音が鳴り、下手側で高音や主旋律が鳴るようになり、例えば第3楽章の中間部のハ長調に転調したあとのフーガの場面は、これままさにオーケストラだ!と思った。中桐・梅村の2人の若手女性ソリストの奏でる低音が重厚かつ瞬発力に満ちていたのが印象に残る。
 ピアノは弦楽器・管楽器のように音を伸ばすことが出来ないので、鍵盤を連打して伸ばして鳴らすことになるが、この曲にはそうした音作りが合っている。「田園」や「合唱付き」になるとこうは行かなかっただろう。
 松本さんが時折指揮をしてタイミングを合わせるが、全員が反響板に向いて座っているので、アイコンタクトも取れず、「気配」で感じるしか無いはず。壮絶な緊張感の中での演奏に痺れた!新発見だったのは、第2楽章の美しさ。オーケストラ曲とは全く違う響きになり、後期ピアノソナタの緩徐楽章のような光りに包まれるような音楽になった。
 松本・中桐・梅村というメジャーレーベルからCDをリリースしている実力者の中で、高音の旋律部分を担当した中島さんの演奏も光っていた。室内楽の伴奏で何度も聴いているが、これほどの実力者だとは。このコンサートで得た収穫の一つ。

ムソルグスキー(長尾淳編)/展覧会の絵
友光雅司・中島尚子(ヤマハ)、松本和将・稲垣拓己(スタインウェイ)、梅村知世・片山舜(ベーゼンドルファー)、中桐望・重利和徳(カワイ)
 この曲はもはや長生淳作曲「ムソルグスキーの展覧会の絵へのオマージュ」といってもいい内容で、この曲が持つエッセンスを上手くつなげて、全く別の曲にしていた。この曲からまだ高校生の稲垣さんが登場。これだけのメンバーに混じって、まったく気後れしない演奏は凄い。実は前の曲のベートーヴェンにのぼせてしまって、ボーッとしながら聴いてしまったのだが、15分程の作品の中に組み込まれたプロムナード、殻をつけた雛の踊り、リモージュの市場、ビドロ、バーバ・ヤガーの小屋などの有名なモチーフを宝探しをするかのように聴いたのでまったく飽きさせなかった。

長生淳/世界の行進曲メドレー
(編成は全曲と同じ)
 いやあ、この長尾さん、編曲の天才ですね。これも有名な行進曲のモチーフを宝探しのように聴いた。ラデツキー行進曲に始まり、ワーグナー、ヴェルディー、スーザなどなど、名だたる行進曲を10分の間に堪能した。


 アンコールは「ふるさと」を原曲にしたもの。終演予定を40分以上超過したが、満席の客席はほとんど帰る人も出なかった。それぐらい充実したコンサートだったということ。なかなか曲(楽譜)探しやスケジュール調整、2台・4台のピアノの練習場所の確保など、大変な企画だと思うが、また続編を期待したいコンサートだった。

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