岡山フィル第61回定期演奏会 指揮:園田隆一郎 Sax:上野耕平 [コンサート感想]
岡山フィルハーモニック管弦楽団 第61回定期演奏会
ドビュッシー/小組曲
イベール/アルト・サクソフォーンと11の楽器のための小協奏曲
〜 休 憩 〜
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
指揮:園田 隆一郎
アルト・サクソフォン独奏:上野 耕平(小協奏曲および「展覧会の絵」の『古城』)
コンサートマスター:高畑 壮平
2019年7月21日 岡山シンフォニーホール
会場は9割り近い入り、 気鋭のサックス奏者の上野耕平の登場ということで、 3階席には吹奏楽部の高校生が多く入っていたので、 学生券がかなり出たものと思う。
当日は、 特に弦楽器奏者にとっては鬼門の蒸し暑い気候となったが、 岡山フィルは3つの曲、 それぞれの曲調に合った音を見事に奏き分けていた。
プレトークの園田さんの説明では、展覧会の絵もさることながら、 ドビュッシーの小組曲も、 まるで4枚の絵のように情景豊かな音楽なので、 今回は上野さんの見事なソロを挟んで、 14枚の音楽で奏でる絵を堪能してほしい、という説明。
1曲目のドビュッシーの小組曲は岡大オケがよく演奏するのだが、 プロの演奏で聞くのは意外にも初めてかもしれない。 編成は1stVn:10-2ndVn:8-Va:6-Vc:5- Cb:4のストコフスキー(ステレオ)配置の2管編成。
園田さんの棒が、 まるで本当に空中に絵を描いているように優美で美しく、 岡山フィルから淡いパステル調の色彩の音を引き出していた。 弦もとても良かったが、岡山フィル自慢の管楽器首席陣たちの演奏 も見事だった。フルートの畠山さんのソロからしてもう素晴らしく 、この方の音はフランス音楽が最も合うかもしれない。いつか、「 牧神の午後への前奏曲」も取り上げてほしいなあ。
今回のコンサートの主役は、何と言っても上野耕平さんだっただろう。上野耕平さんを知ったのは、いつも楽しみに読んでいる24hirofumiさんの「音楽徒然草」がきっかけで、「生演奏で聴いたらどんな感じなんだろう」という興味が湧き、続いてNHKの「鉄オタ選手権」という番組に鉄道オタクの一人として出演されていて、阪急電車の駅でかかるメロディーをSAXで再現するという、才能の無駄遣いを笑顔でやってのける姿に、勝手に親近感を持ってしまっていた(笑)
イベールの小協奏曲でのソロ演奏は、 物凄いテクニックを披露してくれているのだが、 まるで何でもないように吹いているのが印象に残った。 そしてテクニック以上に印象的だったのは、 その聴く者の心を打つ多彩な音だ。 天を翔るような軽やかで爽快な第1楽章、 第2楽章前半のラルゲットでの心に染み入る音に目頭が熱くなる。 アニマート・ モルトに入ってからも超絶技巧の連続なのだが軽妙洒脱に音と『 遊んで』いく。
岡山フィルの伴奏もキレキレの演奏だった。1stVn:6- 2ndVn:5-Va:4-Vc:3-Cb: 2の管楽器は1管編成というシンフォニエッタ・サイズの編成で、 このサイズになると、特に弦5部は選抜チームと言ってよくて、 スピード感あふれる純度の高い音を聴かせてくれた。 管楽器も素晴らしく、クラリネットの西崎さん、 トランペットのソロも上野さんと渡り合っていた。 トランペットの横田さんは首席ではないが、 在阪オーケストラでの経験も豊富で流石の貫禄の演奏だった。
アンコールはニュー・シネマ・パラダイス。いやあ・・・これは涙なしでは聴けないよ。しっかりとしたテクニックに、自らの思いを音に昇華する・・・まだまだお若いのにこんな音が出せるなんて素晴らしすぎる。
この上「展覧会の絵」の『古城』 でもソロを聴かせてくれるという大サービスまであった。通常、 ソリストは前日ぐらいに入って、 コンチェルトのリハだけ出ればいいはずが、おそらく「 展覧会の絵」のオーケストラ・ リハーサルも出て準備をされておられた筈で、 それだけ時間も労力を割いてくださってることに、「本当に音楽が好きな方なんだなあ」と感激した。
後半の「展覧会の絵」は1stVn:12-2ndVn:10- Va:8-Vc:8-Cb6の3管編成。 パーカッションも多彩で舞台狭しと楽器が並ぶ。この曲でも( 上野さんも加わった)管楽器の充実ぶりは 最高潮に達した。 打楽器も素晴らしくラヴェルの魔術的なオーケストレーションを隙 の無い演奏で表現。トランペットの小林さんを始め、 客演のファゴット首席の方、前回に引き続いて協力なチューバ& トロンボーン隊がぐいぐい牽引。
園田さんのタクトは、 流石にオペラ劇場叩き上げの指揮者と思わせる、 ドラマチックな音楽づくりだったが、響きが混濁することが一切無い、 各楽器の音が緊密に連携しながら様々な色彩を帯ながら響かせるよ うな、研ぎ澄まされた音楽を引き出した。 各楽器に明確なキューは出さないが、 タクト捌きに全く無駄がないので、 奏者も入りやすかっただろうと思う。「古城」 での上野さんのソロはたっぷり余韻を聴かせたりと、 なかなかニクい演出もあった。
トランペットとホルンのトウッティ奏者に、 それぞれナエスさんと垣本さんという、 国内有数のブラスセクションを誇る京響の首席が入っている姿を見 たからそう感じたのかも知れないが、バーバ・ ヤガーでの鉄壁で堅牢なブラスのサウンドは、 京響を彷彿とさせるものがあった。
弦5部は、最初のプロムナードからして、暖かみと煌めきのある「 岡フィル・サウンド」を響かせ、小人での半音進行で下がっていくユニゾンで、聴き手のこちらが酔いそうな程のうねりを起こし、「ビドロ」や「バーバ・ヤガーの小屋」では、 重心の低い厚みと迫力のあるサウンドを展開。この曲の本籍がロシア音楽である事を存分に感じさせてくれる重量 感だった。
ただ、例えば僕の一番好きな「リモージュの市場」で、 多少アンサンブルの乱れがあったり、「 死せる言葉による死者への呼びかけ」 でピッチに疑問符が付く場面があったり( バルコニー席では誰がどんな音を出しているのか、一「聴」 瞭然なのだ)、もう少し頑張ってほしいと思ったのも事実。イベー ルで聴かせたキレキレのアンサンブルや、前回の定期での全く隙の 無い素晴らしいアンサンブルからすると、若干の不満は残った。
でもねえ、最後のキエフの大門での絢爛豪華なサウンドを聴いてし まったら、最後は大いに満足させられてしまったのですよ。 チューブラベルが鳴って弦のトレモロが入ってくる辺りからの天から光が 射して何かが降臨してくるかのようなきらめくサウンド、 そしてラストへ向けての宝石を散りばめたような世界に陶然とせず にはいられない。「岡フィルサウンド」 というもの形になってきていると感じた。 カーテンコールがいつまでも止まなかったのは当然だろう。
さあ、次回の定期は岡山フィル史上初めてのブルックナー。 非常に楽しみにしています。
岡山フィルの野外コンサートが10月12日(土)に開催 [岡山フィル]
9~10月に開催されるおかやま国際音楽祭の中のイベントとして、「オーケストラの祭典」と称した、岡山フィルの野外コンサートのイベントが開催されるようです。
以下、7月2日付けの山陽新聞の情報から。
※岡山フィル会報誌の情報も追加
2019年10月12日(土) 17:00開演
オーケストラと歌の祭典(下石井3DAYSの1日目)
プログラム/不明
ソプラノ:佐藤 瞳
メゾ・ソプラノ:松浦 恵
テノール:杉浦 奎介
ガドゥルカ:ヨルダン・クラシミロフ・マルコフ
指揮:福島 頼秀
管弦楽:岡山フィルハーモニック管弦楽団
下石井公園特設野外ステージ(幸町図書館隣)
※雨天の場合は岡山市民会館に変更
ガドゥルカというのは、ブルガリアの民族楽器だそうです。岡山市とブルガリアのプロヴディフ市が姉妹都市になっており、その関係で招聘されたものと思いますが、過去の姉妹都市関係で招聘されたアーティストたち(サンホセの弦楽四重奏団や、ブルガリアのコストフ・ヴァルコフ・デュオなど)は、たいへん質の高い演奏で多いに楽しませてもらいました。今回は我が地元のプロ・オーケストラとの共演です。佐藤瞳さんも岡山出身のソプラノ歌手ということで、岡山ならでは、岡山でしか聴けないライブになりそう。
岡山フィルも、音楽祭のオープニングコンサートなどでは野外で演奏したことがあるものの、恐らく「国際音楽祭」になってから、初めて岡山フィルが主役のステージに上ることになります。
せっかくプロ・オーケストラがある街なんだから、こういう企画を待望しておりましたですよ。このイベントが成功して、この音楽祭がもっと岡山の芸術・文化が感じられるものに変貌するきっかけになって欲しいと思います。
他にも、岡山フィルの奏者による街角コンサート、今年もあるようです。