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戸澤采紀ヴァイオリン・リサイタル 岡山(早島)公演 [コンサート感想]

戸澤采紀ヴァイオリン・リサイタル 岡山(早島)公演
モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第18番
ミルシテイン/パガニーニアーナ
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番
 ~ 休 憩 ~
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調
プーランク/ヴァイオリン・ソナタ
ヴァイオリン:戸澤采紀
ピアノ:丸山晟民
2018年8月10日 早島町町民総合会館ゆるびの舎
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 いやー、すごいもんを聴いてしもうた。今夜も若き才能にひれ伏した。こんな高校生が居ていいのか?というほど完成されたヴァイオリンに圧倒された。
 1曲目のモーツァルトは庄司さんのリサイタルの際にも1曲目に持って来ていた曲。なかなかかわいらしい曲で、可憐な十代の天才ソリストの演奏を堪能して聴いていた。
 しかし、2曲目からが凄かった。ミルシテインのパガニーニアーナは、例のパガニーニのカプリス第24番を「それでは物足りない」とばかりに、20世紀の大巨匠のミルシテインがさらに難しく編曲したような曲。技術的にまったく綻びは見えなかったことはおろか、変奏が進むごとに変化する多彩な表現に魅了された。この時点で、「これは天才少女の演奏を聴きに来たんじゃない。一人の1人前のソリストとして聴かないと」という気持ちにさせられた。
 3曲目のイザイは、百戦錬磨のプロの奏者でも大きな挑戦と位置付ける曲。6曲ある無伴奏ソナタだが、4楽章形式の第2番から第6番へかけて、よりシンプルに、より難しくなる。戸澤さんは完全に曲を自分のものにして、静寂をも支配するような圧巻の演奏。第1楽章は「夜明け」と名付けられているが、宇宙的なスケールを感じたし、第2楽章の「田舎の踊り」も素朴な田舎の祭りというよりは、神々の降臨を呼ぶような踊りに感じた。演奏終了後、会場で「ほお~」というため息が漏れたのが印象的。
 後半の1曲目はベートーヴェンのソナタの8番。この演奏で彼女がもう完成されたソリストであることを確信させられた。音楽の骨太さ、舞台上で発するオーラ、ベートーヴェンに必要な要素はすでに兼ね備えられていた。この曲の第3楽章で、大きく盛り上がった後に休止がある(つまり、誤って聴衆が拍手するポイントでもある)のだが、そこで客席に正面から顔を向けて、その彼女の視線とオーラに支配されたように客席の時間が止まった瞬間には鳥肌が立った。
 最後のプーランクのソナタも、なかなかに激しく、そして難しい曲。伴奏者の丸山さん(東京芸大在学中)の演奏も素晴らしく、プーランクこの曲に込めた、友人の死への悲しみや戦争への怒りを、2人の体当たりな演奏で見事に表現されていた。
 戸澤さんは、東京シティフィルのコンマスで、モルゴーアQのメンバーの戸澤哲夫さんのご息女。現在、東京芸大附属高校の3年生。早島公演は、9月の浜離宮朝日ホールでのリサイタルに先駆けての疲労だったとのこと。十八番はシベリウスのヴァイオリン協奏曲だそうなので、手の届かないところに行ってしまう前に、岡フィルさん、来年あたりシベリウスのコンチェルトで定期演奏会に招聘、なんてどうでしょうか。
※追記
今回のリサイタル(8月岡山、9月東京)に向けた戸澤さんのインタビューです。
 なんと、戸澤采紀さんはオーケストラ奏者志望で、ベルリン・フィルに入団するのが夢なんですね。マーラーの交響曲を全曲演奏するまで死ねない、というほどマーラ好きでもある。実力が高くても入れるかどうかはわからないのがベルリン・フィルですが、彼女なら大丈夫だと思ってしまいます。

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