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おらが町のオーケストラ ~岡山フィルの新たな挑戦~ RSK地域スペシャル [岡山フィル]

RSK地域スペシャル「メッセージ」
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2018年6月20日放送  山陽放送テレビ 
 
 たいへん見応えのある番組でした。
==番組HPから================
1992年に岡山初のプロオーケストラとして産声を上げた岡山フィルハーモニック管弦楽団。演奏者は、学校の先生や音楽教室などを掛け持ちしながら代わる代わる出演する「登録団員」。それに関東・関西の大手オーケストラから助っ人に駆けつけた「エキストラ」で構成されている。岡山フィルの魅力は、登録団員の堅実な演奏とエキストラが持ち込む都会的な香りの融合とされてきたが、一方でこんな指摘もあった。「楽団員の顔が見えない」「独自の音を持たないオーケストラ」。
そこで岡山フィルは結成以来初めてのプロジェクトに踏み切った。
各楽器の首席奏者をオーディションで選んで専属契約を結び、楽団の顔を作るのだ。
専属で楽団員を抱えるには新たな予算を組む必要がある上、楽団の顔として登録団員に溶け込めるのか、一つ間違えばオケの運営に亀裂が入るリスクも伴う。しかし、岡山フィルには賭けに出なければならない背景があった。
クラシック音楽業界は、昭和20~30年代初頭に、戦後復興で国民が西洋文化に傾倒し黄金期を迎えたが、その後、ポップス、フォーク、ジャズ、あらゆるジャンルの西洋音楽が登場したために音楽ファンが分散化。その結果、現在のクラシックコンサートの観客は、昭和20~30年代に青春時代を過ごした高齢者が目立ち、このままでは興行、すなわちオーケストラの運営は先細る一方との危機感がある。加えて、地方オーケストラの経営は企業や自治体の支援に負うところが大きいが、世の中の合理化が進む中、費用対効果が説明にくい文化活動への協賛は、最も予算カットの対象になりやすい。岡山フィルのオーディションには、新たなファン層の開拓と協賛各社に岡山フィルが地元になくてはならない「おらが街のオーケストラ」に生まれ変わることをアピールする狙いがあった。
オーディションには全国から200人以上が応募。去年10月、実技試験と面接を経て7つのパートで候補者が絞りこまれた。最終審査は今年3月と5月の定期演奏会。実際に首席奏者を任せて適性を試し、正式採用するか否かが決まる。7人の演奏家たちのサバイバル。岡山フィルの新たな挑戦が始まった。
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 番組冒頭のシーンは、シェレンベルガーが「日課」としているジョギングをするシーン。
 『おお~~!ウチの近所の河原をシェレンベルガーさまが走っとうやないか』とすでに興奮。それはさておき。
 オーディションに受かった7人の首席奏者候補の、3月と5月の2度の定期演奏会での最終選考の様子を追ったドキュメンタリーで、クラシック音楽ファンだけでなく、一般の視聴者も惹き込まれる内容だったのではないかと思います。同時に、岡山フィルの運営面での課題や将来展望についても詳しく解説されていて、取材班が山形にまで飛んで山形交響楽団の運営について取り上げられているのには驚きました。
まず、7人の首席奏者候補の顔ぶれです
ビオラ首席:七沢達哉(東京都在住)
コントラバス首席:谷口拓史(神奈川県在住)
フルート首席:畠山奏子(茨城県在住)
オーボエ首席:工藤亜紀子(東京都在住)
クラリネット首席:西崎智子(東京都在住)
ホルン首席:梅島洸立(東京都在住)
トランペット首席:小林鴻(東京都在住)
 
 全員が関東圏に在住している方で、7人中6人が東京芸大の出身。年齢も芸大大学院在学中の方から、30代半ばの中堅世代で豊富なキャリアの持ち主の方まで多士済々。コンサートで聞く限り、皆さんかなりの腕前の持ち主で、5月の定期演奏会でのチャイコフスキー/交響曲第5番のソロパートを聴いた手ごたえは「これはもう全員合格で決まりだろう」と思わせられたほど。
 しかし、これほどの腕前の持ち主でも、例えば梅島さん(ホルン)が「芸大に入ったから、プロの奏者なれると、ちょっと甘く考えていたけれど、甘くないですね。この業界は」と語り、自ら出場する室内楽のコンサート会場の椅子を並べたり、釣銭を用意したり、と、まさに手弁当で運営しているシーンが取り上げられます。
 谷口さん(コントラバス)は、その経歴を見ると、PACオーケストラにも居られたんですね。コントラバスの講師をしながら、オーケストラのエキストラ奏者などで演奏活動を続けてこられた苦労人。若い頃には学歴コンプレクスがあった(でも彼だって、洗足音大の出身の音楽エリート)が、東京芸大出身でもこの世界から去って行く仲間が多い中で、自分が生き残れたのは「何か他の人には無いものがあるから生き残って来れた」と自信を持てるようになったと語っています。
 クラシック音楽の1ファンとして、本当に厳しい世界だということはわかっていたつもりでしたが、我々ファンがスポットライトを浴びるステージで見る・聴く奏者たちは、いわばエリート中のエリート、その中の圧倒的な勝ち組なんだ、という事実。オーケストラの専属プレイヤーになるというのは、おそらくプロ野球選手になるよりも狭き門かもしれない。
 岡山フィルだけではなく、素質のある音楽家に安定した活躍の場がもっと増えてもいいのに、と思います。
 定期演奏会のリハーサルのシーンも興味深かった。ホルン首席候補の梅島さんが、3月の定期演奏会では日本一のブラスセクションとの評価も高い読響のホルン奏者:久永重明さん、国内オーケストラ初の女性金管奏者の東響の曽根敦子さん、東京シティ・フィルの小林祐治さんなど、サイトウキネン・オーケストラ級の錚々たるメンバーのホルンセクションの中で首席奏者としての能力を試されます。そして、周囲の先輩たちの、暖かくも的確なアドバイスを受けながら成長していく様子が描かれていきます(いや、ホンマ皆さん、暖かくも優しい・・・)。
 他にも興味深いシーン(三度の飯よりゲームが好きなフルートの畠山さん、自転車が趣味で旭川沿いのサイクリングロードを水を得た魚のように疾走するヴィオラの七澤さん、岡山フィルの創立時から聴衆として聴いてきて、「岡フィルで演奏するのが目標だった」と語っていた西崎さん(倉敷出身)、など)が沢山ありましたが、ブログではとてもすべてを取り上げることは出来ません。
 岡山フィル創立時からの団員へのインタビューも印象に残りました。創立時からコンサートマスターを務められた上月さんの「責任感に押しつぶされそうな日々だった」という懐想と、大都市のオーケストラからの助っ人エキストラ奏者との演奏について「いろいろなものを吸収させてもらった」と語っておられました。
 シェレンベルガー体制後の「おらが街のオーケストラ」として地域に根差し自立したオーケストラを目指す方向性は、絶対に正しいと僕は思っていますし、このブログなどでも『オーケストラの顔が見えない』『独自の音がない』さらには『素晴らしい演奏をしても、奏者が変わるので次への蓄積が感じられない』と、コメントしてきましたが、この番組でエキストラ奏者時代の岡山フィルについて、楽団員さんの声が記録されたことは今後、岡山フィルの歴史を語るうえで貴重な証言だと思います。
 
 番組のラストシーンは、首席候補最終選考の最後のコンサート(5月の定期演奏会)後の7人の表情や言葉。
梅島さん(ホルン):「やれるだけのことは、やり切りました」
小林さん(トランペット)「楽しみに(結果を)待ちたい」
畠山さん(フルート)「どうなっても、まあ・・・、(力は)出しきったかな、っていう感じです」
工藤さん(オーボエ)「うまくいけばラッキー」
七澤さん(ヴィオラ)「これからも、ご縁があったらぜひ(来たい)」
谷口さん(コントラバス)(10月の定期演奏会に)「来たいです、すごく来たいです」 
 
 そして番組最後に7人の候補者全員が、岡山フィル初代首席奏者として採用が決定したことが発表されました。昨日の山陽新聞でも記事になっています。
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 彼らがこれほど岡山フィルで演奏したい!という熱意を持ってくれていることに、こちらまで熱くなります。在東京や関西のオーケストラからの助っ人エキストラさんには経験も実績もありますが、やっぱり今の岡山フィルや岡山の街には、この7人の「サムライ」たちの熱い思いのこもった音楽が必要なのです。
 10月の定期演奏会を楽しみにしたいと思います。
 この番組のもう一つのメインテーマであった、岡山フィルの楽団運営改革の部分については、拙ブログの連載「国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究」の新たな記事(7月中に更新予定)の中で改めて触れてみたいと思います。
 

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