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岡山フィル第75回定期演奏会 指揮:山下一史 Vn:黒川侑 [コンサート感想]

岡山フィルハーモニック管弦楽団第75回定期演奏会


ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲

ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲ニ長調

  〜 休 憩 〜

シューマン/交響曲第3番変ホ長調「ライン」


指揮:山下一史

ヴァイオリン独奏:黒川侑

コンサートマスター:藤原浜雄


2023年3月12日 岡山シンフォニーホール


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・指揮の山下一史さんは、ミュージック・アドバイザーの秋山さんと並んで、国内で最も忙しい指揮者。岡山フィルとはちょっとお久しぶりで2012年の第九以来だろうか。シューマン解釈の第1人者ということもあって、「ライン」は暗譜だった」(「オベロン序曲」も暗譜)。仙台フィルとの録音もテンポ設定・バランス・響の作り方、どれも私好みで、今日の演奏の期待も高まるというもの。

・編成は1stVn12→2ndVn10→Vc8→Va8、上手奥にCb6の12型2管編成。

・1曲目のオベロン序曲。ドイツの音を響かせるホルン、みずみずしい生命を描く木管。中世の英雄たちのドラマが見えるような弦の旋律。よく練られた見事な演奏でカーテンコールが起こる。

・2曲目のベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲は、案外岡山フィルではやっていないのではないか?名曲ということに異存はないが、チャイコフスキーやメンデルスゾーン、パガニーニのような超絶技巧が前面に出る曲ではなく、音の絶対的な美しさや構成力が必須で、ヴァイオリニストの真の実力が試される大曲だと思う。

・ソリストの黒川侑さんの実演に接するのは、これで5回目(もしかしたらもう少し多いかもしれない)。最初に接したのは彼が弱冠17歳で登場した関西フィルの定期演奏会でのブルッフのコンチェルト。天翔るような才気溢れる演奏、指揮の藤岡幸夫さんも首席指揮者就任披露公演ということもあって、指揮者とともにたいへんな熱演でもあった。

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・2回目は京響の定期演奏会。20世紀の天才:プロコフィエフの2番を21世紀の天才ヴァイオリニストが演奏する、インスピレーションあふれる演奏に度肝を抜かれる。この演奏はNHKで放送され、のちにCDにもなった(たぶん、天神町のアルテゾーロ・クラシカに置いてあるはず、店長さんと「凄いヴァイオリニストが出てきたねえ」と話したのを思い出す)。

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・彼は倉敷音楽祭にも度々登場し、そこでの室内楽の演奏でも2回接した。で、今回のベートーヴェン。たぶん33歳になる筈。ヴァイオリニストとして脂が乗っていくこの時期に、よくぞ彼をソリストに招いてベートーヴェンを組んでくれたと思う。

・私のこの曲を聴く楽しみ方は、難しい事を抜きにして、ひたすらヴァイオリンの音色を愉しむ・・・それに尽きる。特に第1楽章のシンプルなオーケストレーションをバックにハイトーンが続く場面が好きだ。そして黒川さんのヴァイオリンの伸びやかで真珠のような輝きのある音に「そうそう、この曲はこの音なんだよ」とドンピシャの演奏だった。長大な第1楽章が夢のような時間に感じた。

・第1楽章のカデンツァも至福の時間だった。このホールに神が棲んでいるとしたら、黒川さんのヴァイオリンは、その神に愛されているな・・・。観客だけでなく、ホールも喜んでいるような幸せな時間。

・ベートーヴェンの完璧な音楽を完全に手の内に入れている黒川さんの演奏に巨匠の風格さえ感じた一方で、少し若手時代の情熱的な顔を垣間見たのが第3楽章、飛び跳ねるような天衣無縫の演奏は、彼のヴァイオリンを初めて聴いたとき面影を感じた。


・ヴァイオリニストの真の姿が見えるこの曲をこれほどまでに純化された美しさを湛え、堂々とした骨太な世界を顕現させた黒川さん。40代、50代になった彼のヴァイオリンを聴いていきたいと感じた。


・アンコールはバッハの無伴奏ソナタ第3番の第3楽章。

・後半はシューマン/交響曲第3番「ライン」。実はシューマンの4曲の交響曲の中で、私の中ではこの曲が一番評価が低かった。順番としては2番が至高の名曲で、少し離れて4番→1番「春」→3番「ライン」という順番だ。第1楽章、第2楽章は文句なく素晴らしい。第5楽章も悪くない。ただ5楽章編成の交響曲の座りの悪さが冗長さに繋がっている気がする。幻想交響曲やマーラーの5番のように巨大な第3楽章を中心に据えないと5楽章形式の交響曲は中途半端に感じてしまう。

・そんな「帯に短し襷に長し」な印象の曲を、シューマン解釈の第1人者の山下さんのタクトに掛かれば、まったく冗長にも物足りなくも感じない。シューマンというのは独特の色彩感覚=色使いを持っていて、絵の具が混ざりすぎるとグレーに近づいて行くのと同様。ドイツ音楽の重厚さを保ちながらも、各パートのボリュームを整理し、響きを重ねすぎない配慮が必要だと思っている。山下さんのタクトはその匙加減が絶妙なのだ。ホール全体を満たし切るグラマーでありながら、とてもスッキリとした響きに感じる。


・まずN響アワーのオープニングにも使われた、超有名な冒頭が素晴らかった。どこでもドアを開けた瞬間、ヨーロッパの夏の風景が風とともに目に飛び込んでくる、そんな感じ。ちょっとこみ上げるような感動が体を走った。


・ティンパニにチェロ+バスが爽やかな風を起こしヴァイオリンとヴィオラが朗々と歌い上げる自然賛歌。客演首席の細田さん率いるホルン隊がパリッとしたドイツの音を響かせる(第4楽章のホルン、最高だった!!)、木管・トランペットもトロンボーンも良かった。


・先日の高畑前首席コンマスのレクチャーコンサートで、ドイツ流のフレージングのお話を聴いたお陰で、「なるほど、ここからここまでを一括りで大きな流れを作っているのか?」「ここに頂点を持ってきているのだな」など、見えるものがあった。そういう意味では「ライン」は構造は複雑だが、フレージングを意識して聴くにはもってこいの曲だったかも。


・メロディーラインだけでなく、内声を担う中低音域のパートがフレーズを作って歌っていることで、音楽が芳醇になり、勢いがつき、迫力が漲る。今回も中低音域の弦の素晴らしさが印象に残った。ヴィオラ、チェロ、コントラバスは都市部の楽団に引けを取らないのではないか?ヴァイオリンは艶のある美しい音(浜雄さんの音色に、いい意味で染まって来ている感じ)が素晴らしかった。当たり前だが『やっぱりプロって凄い!』その一言だ。


・客席の入りは5割程度か?秋山さんが指揮する回はかなり認知されていてお客さんが入るが、客演指揮者の時は苦戦している印象だ。こんなにいい演奏なのにもったいない。一方でtwitterを見ると県外からの遠征客もいらっしゃった。新年度に入ってネットチケットが買いやすくなるので、SNSなどを通じたプロモーションをもっと力を入れるべきだろう。今回、ハレノワのこけら落とし(発売日が4月に迫っている)のチラシが入っていなかったのも解せない。

・帰り道に漕ぐ自転車のペダルのスピードが自然と上がる・・・そんな活力を貰ったコンサートだった。

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コメント 6

サンフランシスコ人

サンフランシスコ交響楽団の定期演奏会で、あまり接しない曲目だらけの (?) 貴重な (???) 演奏会でしたね.....
by サンフランシスコ人 (2023-03-16 02:00) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 私はシューマン大好きですが、岡山でもあまり人気がなかったのか、お客さんの入りは良くなかったですね。
by ヒロノミン (2023-03-18 15:16) 

サンフランシスコ人

米国の演奏会で、ブルックナーやマーラーが中心 (?) になったみたいです....
by サンフランシスコ人 (2023-03-21 01:28) 

ヒロノミン

>サンフランシスコ人さん
 それはそれで羨ましいです^_^
by ヒロノミン (2023-03-21 17:28) 

サンフランシスコ人

クリーヴランド管弦楽団の来シーズン....

http://www.cleveland.com/entertainment/2023/03/cleveland-orchestra-reveals-star-studded-2023-24-severance-music-center-season.html

定期演奏会で、シューマンはひとつも見つかりません....
by サンフランシスコ人 (2023-03-22 02:07) 

サンフランシスコ人

ミルウォーキー交響楽団の来シーズン....

http://www.jsonline.com/story/entertainment/arts/2023/03/24/what-you-need-to-know-about-milwaukee-symphony-season/70013358007/

定期演奏会で、シューマンはひとつも見つかりません....サンフランシスコのテレビ局が、2021年か22年にミルウォーキー交響楽団の演奏会を放送しましたが、結構良かったでした....
by サンフランシスコ人 (2023-03-28 03:51) 

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