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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その6 集客力への不安) [芸術創造劇場]

 2023年に開館が予定されている岡山芸術創造劇場について考えるシリーズ。

 なかなか更新が進まないこのシリーズですが、今回はあまり前向きな記事にはなっておりません。どちらかとうと悲観シナリオ。
 今月、山陽新聞で岡山シンフォニーホール開館30周年の特集記事が出ていました。
岡山シンフォニーホール30周年・かさねてひびく(上)羽ばたく 郷土の若手、大舞台へ導く:山陽新聞デジタル|さんデジ https://www.sanyonews.jp/article/1198972
岡山シンフォニーホール30周年・かさねてひびく(中)いざなう 利用回復へ新たな魅力を:山陽新聞デジタル|さんデジ https://www.sanyonews.jp/article/1199311
岡山シンフォニーホール30周年・かさねてひびく(下)つながる 新劇場とともに 連携模索:山陽新聞デジタル|さんデジ https://www.sanyonews.jp/article/1199965

 記事の内容をここで詳しく書くわけにはいかないが、ざっくり言うと、岡山シンフォニーホールは福田廉之助、森野美咲など、世界一線級の音楽家を輩出する土壌になった、その一方で入館者数は1999年の31万人をピークに2013年には16万人に半減した。そこからはやや持ち直すなかで、コロナ禍が襲った。そんな中で新劇場とシンフォニーホールを一体運営する組織を発足させ、連携を模索する、という内容だった。


 この記事の中で「音楽芸術のシンフォニーホールに対し、岡山芸術創造劇場ハレノワは『身体表現』が中心となる、それぞれの特性を生かしていければ」「岡山は音楽や舞台の鑑賞人口がまだまだ少ない」とのコメントが採り上げられていた。新しい劇場は岡山シンフォニーホールにとって、あるいは岡山市街地の活性化、このシリーズ記事で見てきた「都心4コーナー構想」の一角としての集客力への期待に応えられるのか、「創造型劇場」の主要コンテンツとなる演劇や舞台芸術の集客力などを考えてみたい。


 今年の8月、岡山芸術創造劇場の愛称が「ハレノワ」に決まった。



 個人的には、3つの最終候補(『岡藝』『mirare』『ハレノワ』)の中では、『岡藝』が場所+催し事も含意する可能性があると思って投票したのだが、『ハレノワ』も悪くないと思う。『mirare』は「札幌コンサートホール kitara」「札幌文化芸術劇場 hitaru」の2番煎じ感が強く、コレは無いなと思っていた。


 岡山芸術創造劇場は貸館事業だけでなく、舞台芸術を自ら生み出していく「創造型劇場」を目指している。一方、表町商店街を中心とした旧城下町地区の活性化の起爆剤に、という地元経済界・行政界からの期待も背負っている。

 シリーズその3の「「都心4コーナー構想」の一角を担う」で見てきたとおり、1kmスクエアの中で、再開発や活性化が遅れた千日前地区に、岡山の内外から集客できるような施設をという構想がまずあった。90年代に計画された「フィッシャーマンズ・ファーマーズ・マーケット」が具体化することなく頓挫したあとに、形を変えて計画されたのがこの劇場。

 果たして、期待通りに多くの人を呼び込み、常に人で賑わうような劇場になるのか?劇場の主要コンテンツとなる「演芸・演劇・舞踊鑑賞」のデータを集め、予測を立ててみた。

 まず別のエントリーでも紹介した、文化庁の文化芸術関連データ集から「実演芸術(分野毎の公演回数)」を見てみよう。

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 これを見ると、新しい劇場の創造型事業の主力を担う演劇の公演数・団体数ともに衰退傾向にあることがわかる。最盛期の2004年と直近の2015年のデータを比較すると、36%もの落ち込みで、10年余りで2/3になっているのだ。

 この数字はオーケストラ公演数・団体数とは対象的な数字を辿っている。2013年以降にシェレンベルガーが岡山フィル首席指揮者に就任後、岡山フィルの集客力は飛躍的に伸びた。しかし、その背景にはオーケストラ業界自体の成長力が背景にあったことを、このデータは示している。


 上記のデータは団体数や公演数のデータしか解らないので、具体的な観客動員を時系列で追えるものとして政府の「社会生活基本調査」という調査がある。

 社会生活基本調査は、国民の生活時間の配分や余暇時間における主な活動の状況など、国民の社会生活の実態を明らかにするための調査で、趣味やスポーツについて抽出調査した項目もある。
 以下に挙げる表の数字はすべて%で、国民全体の中で当該項目を趣味と考えている人の割合を表していると考えて良い。

 まず、「演芸・演劇・舞踊鑑賞」についてみてみよう。

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 これを見ると、上記の文化庁のデータほどには衰退傾向は見られない。これは調査の対象が文化庁のデータは日本劇団協議会に加盟する団体のみのデータであり、社会生活基本調査は、演劇団体だけでなく、喜劇や漫才などのお笑い系や歌舞伎・狂言などの伝統芸能、大衆演劇、ダンス・バレエ、アイドルグループなどの公演も含まれるなどの母集団の違いがあり、それらが演劇の落ち込みをカバーしていることが見て取れる。
 しかし、年齢別のデータを見ると、若年層では顕著な減少傾向は見られないが、40代以上の世代で軒並み3〜5ポイントの顕著な落ち込みが見られる。
 これは筆者の推測になるが、一昔前の年配者は「芝居を観に行く」という行動がもっとメジャーだった印象がある。また、筆者の二回り以上上の世代(1960年代〜70年代に青春を過ごした世代)は、アングラ演劇全盛の時代で、若者に対する演劇の影響力は強大なものであったと聞く。データだけでは細かい動きは読み取れないが、観劇にアクティブであった年齢層が、軒並み高齢層に入り、業界全体として集客力に陰りが見えるのは事実だろうと思う。


 クラシック音楽鑑賞や、スポーツ観戦、映画館などのデータについては、以下の記事にて考察しているので参照をお願いしたい。


 上記記事で気になったのは若者の動きだ。スポーツ観戦やポピュラー音楽のライブなどでも、若者の実演・実技の生体験は軒並み数字を下げている。一方で、日時や場所の制約のハードルが低い映画鑑賞や、自宅で楽しめるゲームや動画配信などが急速に伸びている。本シリーズ:その4 「劇場の概要と計画」で取り上げた岡山芸術創造劇場の長期計画に『更なるデジタル社会への対応』が挙げられているが、「演劇や音楽は、生で体験してこそ真価がわかる」という訴えは若者には通用しない可能性がある。新しい劇場は自宅での同時鑑賞や、オンラインコンテンツとしての制作・配信や、あるいはネット空間と現実の舞台とを融合したあたらしい形の実演芸術のあり方などを模索する必要があるだろうし、2023年の開館までにこうした取り組みを想定した設計変更も検討すべきであろう。



 また、岡山芸術創造劇場の創造事業の主要コンテンツとしての演劇を中心とした舞台芸術の「集客力」は中心市街地の活性化の起爆剤になるとは考えにくく、この劇場に狭い意味での「賑わいの創出」という期待はあまり出来ないのではないかという結論になる。

 冒頭に上げた山陽新聞の記事でも触れられているように、岡山シンフォニーホールの集客はピーク時の60%程度に留まっており、岡山シンフォニービルも空き店舗が目立っている。そういった状況と同じことが繰り返されることになりはしないか。


 現在は、「新しい市民会館は「創造型劇場」なんですよ!」というPRが全面に出ているが、「創造型事業は」集客力の面では期待できない以上、その集客力不足をお笑いや歌舞伎などの古典芸能、ダンス・バレエ公演、アイドルの公演、それに加えて市民会館でやっていたポピュラー音楽の公演などで頼らざるを得ない。

 私自身は「創造型劇場」の役割に対する期待は大きいし、人口減少・超高齢社会化する中で、どのように社会を刷新し活力を生みだしていくか?という命題に対する一つの希望になりうる。ただ、「創造的劇場」が前面に出すぎると、ただでさえ高い演劇・舞台芸術の敷居がを更に高くしてしまう恐れもある。まずは「市民ホール」として、利便性や鑑賞の快適性が向上するなど、どのような魅力が増しているのかを、もっとPRしていく必要があるのではないだろうか。


 別の言い方をすれば、「創造事業」をが20年、30年スパンで長期的に成功するためには、貸館事業をいかにして軌道に乗せるかにかかっているのだと思う。もし、貸館事業の集客に苦戦するようになり、周辺地域の活性化もままならない状況になれば、結果にシビアな岡山市民のこと、「あがな不便なところに建ててしもうたから、ほれ見てみ、お客が入らん劇場になってしもうた。ありゃ失敗じゃ」といったように、必ず「創造事業」への風当たりも強くなるだろう。


 また、本シリーズ(その1:建設地に関する危惧)で、この劇場の「立地」が成功への足かせになると書いた。それは今回書いた「集客面での不安」と負のシナジーを形成することが怖い。


 今月の上旬に姫路にできた文化コンベンション施設「アクリエひめじ」では、新施設への市民の関心の高さや熱気が感じられた。その一因として開館前から新型コロナウイルスのワクチン接種会場として開放されたことで、SNSなどで採り上げられ、関心が広がっていったことがある。もう一つはアクリエ姫路が非常に守備範囲の広い施設、音楽芸術だけでなく、舞台芸術、会議やコンベンション、展示会、コミケやファッションショー、スポーツイベントに至るまで、あらゆる趣味や市民生活がこの施設とリンクしていくため自然と関心が惹起されていったのだろうと思う。


 ハレノワも、創造的事業(舞台芸術、身体表現)以外にも、ポップスやコメディ、アイドルや韓流などあらゆる分野のコンサートやライブの楽しみ方が変わること、あるいは旧市民文化ホールや市民会館を拠点に活動してきた合唱や吹奏楽をはじめとした市民の晴れの舞台が劇的に変わることへのアピールと、コストは増えない方策を考えることなどを、もっと前面に出して進めていくべきだろう。今のままでは舞台芸術に端から関心が無い層は無関心なまま開館を迎えることになる。もっと拡がりのある広報を望みたい。


 このシリーズ、もっと掘り下げて検討して行きたかったが、現状、調べたり書いたりする時間が取れないため、これで打ち止めとしますが、書きたかったことを端的に残しておくとすると、この劇場が長期的に成功していくためには、使いやすい行きやすい施設となることを極限まで追求したうえで、創造的事業については、岡山市が創造都市になると明確に名乗りを上げていく必要がある、創造都市を目指す中でこそ、この芸術創造劇場の位置付けが明確になるだろうと思います。また創造都市シリーズを書いていく中で、この劇場についても触れていこうと思います。

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