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2023年開館!『岡山芸術創造劇場』について(その1:建設地に関する危惧) [芸術創造劇場]

 今回から2023年夏に岡山市に開館予定の新しい劇場についての考察記事のシリーズを開始します。
 現在、連載中の「オーケストラが拓く『創造都市』シリーズ」は並行して進めていますが、新劇場の話題は鮮度の問題があるので、こちらを優先して更新することになります。
 新しい劇場の名は『岡山芸術創造劇場』。このネーミングから、単に外から舞台や演者を呼んでくる「ハコ」としてのホールに留めず、地域の芸術家・クリエイター、市民の創作活動が活発化していくセンターとしての役割が期待されている。
 明言はしていないが、市当局としては、この劇場のコンセプトが創造都市(文化庁の用語では「文化芸術創造都市」)に影響を受けているであろうことは当ブログでもすでに述べた。

オーケストラが拓く『創造都市』(その3:『創造都市』とは何か)

 岡山芸術創造劇場の構想は、現在は石山公園向かいの風光明媚な地に建つ「岡山市民会館」と旭川の東岸、県庁の斜向いに建つ「岡山市民文化ホール」の老朽化に伴う建て替え議論から端を発した。報道などでは『新岡山市民会館』と呼ばれていたが、2018年に表町商店街南端の千日前地区に建設地を決定するとともに、1750席程度の大ホールと、800席程度の中ホールをまとめた名称として『岡山芸術創造劇場』と発表された。
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※岡山市HPより
 この岡山芸術創造劇場の議論の大きな論点は大きく分けて3つあった。
①劇場の建設場所について
②ハコモノを作るだけではなく、中身をどう整備していくか
③岡山の市街地の再生のために劇場が果たす役割
 ①と②については劇場を整備する上で必要不可欠な検討事項である。②については下の動画にもあるとおり、どういう劇場をつくっていくか、という議論が活発に行われている。専門家の間からは厳しい意見も飛んでいるが、こういう厳しい意見を言ってくれる委員の存在は貴重。劇場の設計や設備の整備は、竣工してからでは変えられない部分も多く、じっさいに平成時代に開館したホールを見ると、最初に掲げたコンセプトがしっかりしているホールしか成功していない。議論の内容を踏まえた整備が現在すすんでいるものと思う。
 一方で、この劇場建設にあたって、地元政財界にとっての最大の論点は③に対する期待だった。この「岡山の市街地の再生のために劇場が果たす役割」に対する期待が、最終的に①の「建設地」についてかなり影響を与えている。
 私はクラシック音楽と全国のオーケストラ・ウォッチャーを趣味としているので、演劇や舞台芸術のことは詳しくはないが、ここ最近開館した全国のホールと比較して、この岡山芸術創造劇場には決定的な問題を抱えている。この問題ゆえに、この劇場の前途はまさに茨の道を歩んでいくだろうと考えている。
 それはずばり、立地場所の問題だ。
 この劇場の立地については3箇所の候補地があった。天神町(旧後楽館中・高跡地)、表町商店街の南端に位置する表町三丁目地区と千日前地区。
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※岡山市HPより
 上記の三箇所の候補地のうち、「文化芸術拠点施設」だけの成功を考えた場合、ベストな場所は後楽館高校天神校舎跡地(現:山陽放送イノベーティブメディアセンター)だ。県立美術館・オリエント美術館や岡山シンフォニーホールに囲まれ、もともと文化芸術施設が集積している立地であり、市内交通・市外からのアクセスも良い。ネックになるのは敷地面積の狭さぐらいのもので、創作活動をしている市民の声は「天神町に決めて欲しい」という意見が多かった印象だ。
 表町三丁目地区と千日前地区は、地権者らで組織する再開発に乗っかるスキームである。そこには典型的なシャッター街と化している千日前商店街・西大寺町商店街の活性化の起爆剤に、との意図があった。
 最終的には千日前地区に決定したのだが、この決定を聞いたときに僕は「劇場の立地としては、果たしてどうなのか」と疑問を持ったことを覚えている。
 天神町に立地していれば岡山カルチャーゾーンの施設との連携も図りやすく、イベント開催時以外でも自然と人が集うような施設になれた。
 敷地面積の狭さから来る練習スタジオの不足などは天神山文化プラザとの連携を図れば解決可能であろうし、開演前の共用スペースの問題は周辺にいくらでも時間を過ごせる場所があるので、他のホールがやっているように、チケット半券を持っていれば出入り自由にすればさほど問題にはならないだろう。
 千日前地区と表町三丁目地区は、典型的な『衰退する地方都市のシャッター街』であり、「シャッター街化」するのはそれなりの原因がある。ここは岡山市の商業の中心の中之町地区や、公共交通も至便な城下や天満屋バスセンターから少し距離があるばかりか、バス路線も(集客施設の立地場所としては)貧弱なのだ。最寄りの「新京橋西詰」バス停に岡山駅方面から来られるのは、新岡山港方面行き1路線のみ、土日の日中は1時間に3本という頻度だ。もちろん、天満屋バスセンターから10分もかからずに歩いてこれる距離ではあるが、今後は観客の高齢者が顕著になっていくことを考えると、この立地の問題をナメてかかると劇場の成功は覚束ないと断言できる。
 例えば、大阪のザ・シンフォニーホールが環状線福島駅から徒歩10分という、決して悪くない立地にありながら、阪急西宮北口駅直結の兵庫芸文センターや、京阪渡辺橋直結・大阪メトロ肥後橋駅5分のフェスティバルホールに対して集客面に苦戦を強いられ、この僅かな利便性の差が、最終的には経営権の売却(朝日放送が滋慶学園に経営権を売却)まで行き着いたことを鑑みると、公共交通の立地の微妙な差を甘く見てはいけない。
 京都コンサートホールは地下鉄北山駅から徒歩5分の好立地にありながら、雨天時には集客が伸びない事態を受け、県の公文書館の敷地を削って近道となる屋根付き遊歩道まで追加で整備した。このように他府県のホールでは、聴衆の利便性へのバリアを取り除くためにたいへんな努力をしている
 さらに、これは今更言っても詮無いことだが、劇場のみの成功を考え、他の地方都市の動きに目を向けていたならば、もっといい立地場所があったと思う。
 2010年台の後半頃から、岡山は『都市改造』とも言えるような再開発のラッシュで、岡山駅前周辺から市役所筋にかけての地域が最も活発である。
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 岡山芸術創造劇場が建設されている千日前地区の事業主体は、再開発事業組合であり、岡山市は劇場の部分のみを買い取る、という仕組みになっている。この形態は岡山シンフォニーホールと同じ形態であり、故に岡山シンフォニーホールは現在でも色々と苦労を強いられているのであるが、その問題については触れない。
 この再開発に乗じたホールの設置という形態を許容するのであれば、駅前町の再開発に乗っかるという選択肢はなかったのか?
 目を岡山の外に向けると、バブル崩壊後に停滞していた地方都市の芸術文化施設の建設は、平成10年〜20年代に再び全国でも活発化していて、近年の例では山形県総合文化芸術館(やまぎん県民ホール)と高崎芸術劇場がある。
 山形県総合文化芸術館は、近年その優秀な録音作品から世界的にも評価されている山形交響楽団の本拠地である。
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 高崎芸術劇場は日本の諸都市オーケストラの草分けであり、これも評価の高い群馬交響楽団の本拠地になる。
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 これらの、充分な集客力を有するコンテンツの確保がすでに保証されているホールが、まさにJRの中心駅の目の前!!に建設されたのだ。これぐらい好条件の立地でないと、人口減少社会の中での地方都市での文化芸術施設の成功は難しいという判断だろう。
 バブル崩壊以降の公共の文化芸術施設の成功例を振り返ると、兵庫県立芸術文化センター(阪急西宮北口駅直結)、石川県立音楽堂(JR金沢駅直結)などの中心駅直結のホールが成功している。時代の趨勢は中心駅直結ホールなのだ。
 他にも岡山芸術創造劇場が大いに参考にしているという北九州芸術劇場、あるいは新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあは、JR駅から少し距離があるものの、前者は小倉城目前のバス路線至便の地にあり、後者は市立体育館・陸上競技場などが集まる白山公園の中にある。岡山の案で言えば最有力候補だった天神町に近い環境の立地、イベント開催時以外でも自然と市民が憩える立地であるといえる。
 シャッター街化して、手のつけようがなかった商店街に文化芸術ホールを建設する、というのはかなりのリスクを抱えながらの船出になるだろう。
 しかし、なぜ市当局は全国的な趨勢を無視してまで、この場所にこだわったのか?なぜ駅前や天神町地区ではなく、中心駅である岡山駅からもっとも離れた場所にあるこの地区なのか?
 実は、その理由は今から25年前に出された「ある構想」にあるのだ。
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 ※次回は、その「ある構想」と岡山芸術創造劇場の関係について触れてみようと思う。

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