岡山フィル第66回定期演奏会 指揮&Vn独奏:郷古廉 指揮:熊倉優 [コンサート感想]
岡山フィルハーモニック管弦楽団第66回定期演奏会
ヴィヴァルディ/「和声と創意への試み」作品8から『四季』
第4番『冬』→第1番『春』→第2番『夏』→第3番『秋』
(指揮・ソロヴァイオリン:郷古 廉)
〜 休 憩 〜
シューベルト/「ロザムンデ」から間奏曲第3番
〃 /交響曲第7番ロ短調「未完成」
(指揮:熊倉 優)
ゲストコンサートマスター:福田悠一郎
2020年10月18日 岡山シンフォニーホール 岡山フィルが帰ってきた。しかも、よりアグレッシヴに、そしてパワフルに。
前半のヴィヴァルディは、郷古さんの弾き振り。この郷古さんの描き出す音楽の世界観がアグレッシヴにして壮大!緊張と安堵、激しさと優しさの入れ替わり、それは荒ぶる自然と生命力、その中で息づく人間の暮らしへの温かい眼差しを表しているようだ。
先月末に、7ヶ月のブランクを経てフルオーケストラでの活動をようやく再開した岡山フィル。定期演奏会は実に9ヶ月ぶりの開催となったが、郷古さんの壮大でアグレッシヴで、かつ愛情にあふれた世界観を見事に描き出していた。変化するテンポや間合い、ダイナミクスやアーティキュレーションの変化にも拘る郷古さんのディレクションに対し、躊躇を微塵も感じさせず突っ込んでいく演奏に感動した!郷古さんとオーケストラが同じヴィジョンを共有し、音楽生命体として一体化していた。郷古さんも凄いが、さすがは我ら岡山の人々が誇るのオーケストラだ。
後半のシューベルトは熊倉優さんの指揮。前半に比べると派手さは無いが、彼独特のセンス・感性なのだろう。岡山フィルの持っている温かいサウンドを引き出しつつ、特に第2楽章に入ってからの滑らかな質感の音を重ねて、この上ない和音の美しさを巧みに引き出していた。今回は35分程の共演に終わったが、岡山フィルとの相性はいいのではないだろうか?
(10月22日追記)
思えば異例ずくしのコンサートだ。9ヶ月ぶりの定期演奏会、 座席は市松模様の配置で奏者もSD(ソーシャル・ディスタンス) を取った配置。 指揮者と首席コンマスはドイツから日本に来られず、 9月の初旬に指揮者はシェレンベルガーから熊倉優さんに交代が告 げられる。当日プログラムを開けてびっくり、 前半はヴァイオリン独奏の郷古廉さんの弾き振りとなった。
※変更前、変更後のチラシ
岡山フィルは10年ほど前までは年に2回程度( 年に1回の年もあった) しか定期演奏会は開催されていなかったから、 9ヶ月というブランクは、以前にも見られたこと。しかし、 今の2ヶ月に1回のペースに慣れてしまうと、 やっぱり9ヶ月は長かったなー。 再開一発目の定期は泣いてしまうんじゃないかと思ったが、 結果は久しぶりにのオーケストラの音に感動の涙を流す暇なんて無 かった。特に前半のヴィヴァルディは夢中になって聴いた。
ヴィヴァルディは1stVn5→2ndVn-5→Vc3→ Va4、上手奥にCb2という室内アンサンブルサイズの編成で、 チェロ以外は椅子を使わないスタンディング・スタイルでの演奏。
郷古さんのアイデア・解釈が非常に個性的。いや、 個性的というのは違うな、独自の世界観を持っていて、 既存の演奏とは一線を隠しているから、 耳にタコが出来るほど聴いてきた曲なのに、 3秒先に何が起こるのか全く読めないのだ。この曲の生演奏を、 こんなドキドキ・ワクワク・ 手に汗握りながら聴いたことは無かった。そしてその音色も研ぎ澄まされている。鋭利な刃物のような音・鳥がさえずるような音・嵐の風の音・・・・いろいろなイメージを聴き手に持たせてくれる。
当日の演奏を反芻するために、 色々な音源を聴きながら書いているのだけれど、 どの演奏も生ぬるく感じる、 それぐらい郷古さんと岡フィルの演奏は良かった。 特に各パートの首席が絡んでいくところは郷古さんの挑発を楽しみ ながセッションしているし(チェロの松岡さん、 2バイオリンの釈さんが若い郷古さんと真剣の殺陣でもやっている かのような火花散る演奏に「カッケー!」と鳥肌が立った)、 ゲストコンマスの福田さんがこれまた切れ味抜群の演奏で郷古さん との相性もバッチリだった。
演奏順を『冬』から始めるという異例の順序によって、『春』 から始まる通常の演奏に比べて、 この曲が持つ緊張感や激しさが一層浮き彫りになった。 冒頭から驚くような仕掛け。最初「えっ音が外れてる」 と思ったが、 クレッシェンドの先に現出した不協和音の嵐への助走だった! 極端な不協和音の中から背筋がゾクッとする鋭い郷古さんのソロ・ ヴァイオリンが入ってくる。
『春』で同じフレーズが繰り返す場面で、 ボウイングを変えるたり強弱を強調したりして、飽きさせない。『 春』 の第2楽章冒頭では物憂げなヴァイオリンソロに絡んでいくヴィオ ラの七沢さんが、ヴァイオリンソロをかき消すような、 かなり強い2つの音で応えるという他の演奏では考えられない解釈 だった。
『夏』も冬に負けないような迫力だった。 強弱の変化もかかり極端で、郷古さんの音は突き抜けてはいたが、 岡フィルも郷古さんと一体となった見事なアンサンブルを聴かせた (これ、ほんまにyoutubeで出して欲しい!)。
先週の「THE MOST」 が12人でホールいっぱいに豊かな音を鳴らしていることに驚いた が、ここを本拠とする岡フィルも負けていない。 この人数では考えられないぐらい弦の音は響いていた。
指揮者交代の末に弾き振りという決断をしたこともさることながら 、金・土の2日(郷古さんは木曜日になんと日本センチュリー定期 でベートーヴェンの協奏曲を弾いた後に、 この四季のパワフルな演奏をしてくれた)でソリスト& ディレクターとしてここまで仕上げた郷古さんには感謝しか無い。
オーケストラも凄い集中力だ。何度もこの曲を演奏しているとはい え、郷古さんの解釈はこれまでの四季とは全く勝手が違っただろう 。プロの演奏家たちが本気になったらこんな凄い演奏をする。 そのプロ集団が岡山にある。そのことを噛み締めた演奏だった。
去年の7月定期で上野耕平さんと共演したイベールの小協奏曲も、 室内アンサンブルのサイズの演奏で、 光る演奏を聴かせた岡山フィル。 恐らくシェレンベルガーさんがこの曲を取り上げた狙いも、 小編成の弦楽アンサンブルに磨きをかけ、 また聴衆にもこのサイズの演奏の魅力に気付いてもらう目的だった はずで、その目的は充分に達成されたと思う。 これは今後のプログラム展開にとっても大きな手応えを得られたの ではないだろうか。
郷古さんのアンコールのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ ソナタ第3番の第3楽章も良かった。郷古さんのバッハの無伴奏、 全曲で聴きたいねえ。
休憩後はシューベルトの劇音楽「ロザムンデ」から間奏曲第3番。 熊倉さんの選曲かな?この選曲が絶妙で、 前半に出番のなかった木管が解き放たれたように朗々と歌い上げる 。岡フィルの木管はやっぱりいいですね。
この日のメインはシューベルトの未完成交響曲。 後半からは座席に座って弦は1人1プルト、1stVn8→2ndVn6→Va4→Vc4、上手奥にCb3、1.5m程度離してのSD配置。 木管金管は前後に充分スペースを取りつつ、 客席と同じように市松模様状の配置。
第1楽章は、タメやテンポの揺らしなど外連味を一切排し、 淡々と進む印象で、正直、 前半の四季の演奏と比較すると物足りなく感じていた。
第2楽章に入って、 暖かみのあるハーモニーにハッとする瞬間が次々に訪れ、 熊倉さんの音色や音の質感への拘りに気付いてからは、 心も体も開いて、岡フィルサウンドに陶然と聴き入った。
「さあ、N響のパーヴォ・ ヤルヴィのアシスタントをきっかけに各地の有力オケから引っ張り だこの期待の若手指揮者、どんな仕掛けをやってくるか?」 といった期待をして聴き始めたため、 第1楽章での熊倉さんの音づくりに耳が行かなかったのが悔やまれ る。
この完成しなかった交響曲、しかも緩徐楽章でコンサートを締めくくる、 というのはとても難しいプログラムだろう。 通常は前半に置く楽曲だからねぇ。 熊倉さんは第2楽章後半の盛り上がる場面にエネルギーをピークに 持ってくる演奏設計だったのだろう。それが奏功して、聴き終わった後には非常に満足感があった。
熊倉さんは自分の音楽の個性を強く打ち出すタイプではなく、 そのオーケストラの特徴や美点を引き出しつつ、 自分のアイデアやイメージを入れて音楽を纏め上げていくタイプな のではないかと感じた。 各楽器が歌う場面では奏者に気持ちよく演奏させる。 この日はクラリネットの西崎さんのソロが良かった。作り出す音は違うがシェレンベルガーも同じ方向性で岡山フィルを 引っ張っていくタイプなので、 このオーケストラとは相性がいいのではと思う。 SD配置という制約の中で、木管・ 金管と弦楽器の響きが溶け合い、 惚れ惚れするような輝きと暖かみのある「岡フィルサウンド」 を現出させた。 客演指揮者でこれほど見事に引き出した指揮者は居なかった。
演奏後は、 岡山の聴衆にとって待ちに待った岡フィル定期演奏会ということも あって、カーテンコールが止まなかった。 最後は熊倉さんが弦の1列目奏者と肘タッチで締めくくってお開き となった。
終演後は大阪から来られていたコンサートゴーアーのぐすたふさん と、久しぶりのアフターコンサート(SDに気を付けて、 駅前のホテルのカフェにて)で、盛り上がりましたが、 この9日間で三度も郷古さんのコンサートを聴いたぐすたふさんと 「やっぱり郷古廉は凄い」「岡山まで来た甲斐があった」 と讃えあい、岡山フィルのことも「 あんな前のめりで演奏される四季は、 大阪でもなかなか聴けるものじゃない」「前回(第47回定期) 聴いた時から音が変わった、 暖色系のとても魅力のあるアンサンブルだね」と、 仰ってくださいました。毎回聴いてると、 アンサンブルが良くなった事は解っていても、 そこまで音が変わっていることに気づかない。 岡山フィルシェレンベルガーのもとで、 本場の音楽をエッセンスを入れつつ、 瀬戸内岡山のオーケストラとして独自の音を獲得しつつあることに 確信が持てました。
今回の『復活定期演奏会』は地元メディアも注目していて、山陽新聞の一面に掲載されたのには驚いた。
記事のよると今回はSD配置のため900席完売だったそう。 来れなかった人も多かっただろうな。
NHKでも夕方のニュース番組で5分以上に渡って取り上げられていた。その様子の動画を見ることが出来る。
シェレンベルガーさんと高畑コンマスが復帰して、 シェレンベルガーさんが指揮台で構えたときのホールの緊張感。 ここぞというトッティでのゲルマンの血がたぎるような迫力・・・ あの感じがやっぱり恋しい。
祝・定期復活!
まだ油断はできませんが、少しずつ日常生活が戻ってきて、定期演奏会にもでかけられるようになりました。私達が音楽のない日常を味気なく感じるように、演奏家の皆さんは応援してくれる聴衆の存在を強く感じたのではないでしょうか。街に音楽があるのは素晴らしいことですね。
by narkejp (2020-10-19 05:17)
>narkejpさん
いつもコメントをありがとうございます。
今月に入って2回コンサートに行くことが出来ましたが、やっぱり生演奏の音楽はいいですね。コロナ自粛中は灰色の世界にいたのが、一気にカラフルな世界に戻ってきた感じがあります。
岡フィル定期の開催復活は京の地元紙の1面を飾り、夕方のNHKのローカルニュースでも特集で取り上げられました。このオーケストラは岡山の人々にとって、無くてはならない存在になって来ていると感じます。
by ヒロノミン (2020-10-19 23:17)
こちらこそ、ご一緒できて楽しかったです。
いきなりの逆境でしたが、これからのオーケストラ。楽しみですね。
by ぐすたふ (2020-10-30 14:29)
>ぐすたふさん
当日はありがとうございました。
今にして思えば、『四季』の演奏順を冬から始めて実りの『秋』で締めくくった郷古さんの意図の一つに、こんな状況でも踏ん張って行きましょう!というものもあったのではないかと感じています。
次回、お越しいただく際は、もっと進化した岡山フィルを聴いていただけるように、応援していこうと思います。
by ヒロノミン (2020-11-01 22:17)