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「THE MOST」2020 岡山公演 [コンサート感想]

THE MOST in JAPAN 2020 岡山公演
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音楽監督・コンサートマスター:福田 廉之介
ヴァイオリン: 北田千尋、倉冨亮太、小島燎、小林壱成、周防亮介、竹田樹莉果
ヴィオラ:正田響子、田原綾子
チェロ:上村文乃、佐藤晴真
コントラバス 岡本潤
モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525
バッハ/2つのヴァイオリンのための協奏曲 BWV1043
    1番ソリスト 第1楽章:三好逞斗、第2楽章:西江春花、第3楽章:春名夏歩
    2番ソリスト:福田廉之介
 〜 休 憩 〜
ドヴォルザーク/森の静けさ(ソリスト:佐藤晴真)
チャイコフスキー/ワルツスケルツォ(ソリスト:福田廉之介)
チャイコフスキー/弦楽セレナード
2020年10月9日 岡山シンフォニーホール
 自分にとっては実に8ヶ月ぶりのコンサートになった。
 18:30分からのプレ・コンサートを途中から聴けたが、あまりにも生演奏から遠ざかっていたので、演奏が耳からしか入ってこない。
 「あれ?コンサートってどうやって聴くんやったっけ???」という状態に陥った。
 最近は、コンサートから遠ざかっているだけでなく、音楽鑑賞もイヤホン・ヘッドフォンで聴いてばかりいたので、身体全体で聴くことを忘れてしまっていたのだ。
 しかし、プレ・コンサートのハイドンの皇帝カルテットを聴いていくうちに、身体全体で聴く感覚、身体も心も、毛穴まで開いて聴く感覚を思い出していった。
 この「THE MOST」は凄い、凄すぎる。メンバーの経歴を見て、いい演奏になりそうだとは思ったが、若くて才能があって、まさに昇龍の如き伸び盛りの音楽家が12人集まったら、想像を超える化学反応が起こった。チャイコフスキーの弦楽セレナーデは、自分の中では長岡京室内アンサンブルで聴いたものが生演奏では最高だったが、この「THE MOST」の演奏は、それを超えるものだった。
(10月11日 追記)
 この「THE MOST」というのは、岡山県赤磐市出身の福田廉之介さんが立ち上げたアンサンブル。去年から地元のメディアに精力的に福田さんが出演して意気込みを語っていて、僕は単純に「これから世に出ていく若手演奏家のプロジェクト」と思っていたのだが、メンバーが具体的に発表されて驚愕。「おいおい、これは国内トップレベルの弦楽奏者を揃えとるやないか!」と・・・。
 実際、演奏を聴くと本当にソリストレベルの奏者ばかりで、一人づつを岡山フィルの定期演奏会でソリストとして招聘して欲しいぐらい。
 しかも、この「THE MOST」は、打ち上げ花火的なイベントではなくて、クラシック音楽の普及を本気で目指していく団体になるようで、すでに5月に社団法人を設立して、福田さんが理事長として会見を行っている。
 福田さんは現在20歳。ついこないだは中学生で岡山フィルの定期演奏会に登場して、見事な演奏を聴かせてくる『神童』だったのに、一介の音楽好きのおっさんの想像をどんどん超えていくスケールのデカさに驚かされてばかりだ。
 拠点を岡山に置いて活動されるとのことで、このハイレベルの室内アンサンブルを毎回岡山でも聴くことができるのは、もう楽しみでしか無い。
 1曲目のモーツァルトを聴いて、生演奏を聴ける喜びを噛み締めた。第1楽章が終わった後に、つられて思わず拍手をしてしまった。「THE MOST」は常設のアンサンブルではないし、今回が初めてのコンサートツアーにも関わらず、細かい強弱や音色の変化、特に弱音部の質感に徹底的に拘っていて、メンバーの能力・柔軟性の高さが光っていた。
 次はバッハの2つのヴァイオリンのための協奏曲。オーディションで選ばれた3人のソリストは、三好くんは小2,西江さんは小6,春名さんは中3。小学生2人は見事な技術を見せてくれ、それに福田さん以下メンバーが合わせる感じ。しかし、中学生の春名さんになると、他の12人の奏者の音を聴きながらアンサンブルの一員に参加し、自由自在な音楽を奏でていく。
 休憩を挟んでドヴォルザーク。佐藤晴真さんは、なんとミュンヘン国際コンクールの覇者。本当に美しくも叙情的なドヴォルザーク、素晴らしい!三顧の礼を尽くして岡山フィルでドヴォルザークのコンチェルトを演奏して欲しいし、彼のリサイタルを岡山でも開催してほしい!
 チャイコフスキーのワルツスケルツォは福田さんのソロ。彼は本当に聴くたびにヴィルトゥオーゾの階段を登っていく。その音に本当に惹き込まれる。ステージではなくホールの天井を見上げて聴くと、福田さんのソロと、このアンサンブルの紡ぎ出す音楽が空中で踊っているのが見えるようだ。
 最後はチャイコフスキーの弦楽セレナーデ。躍動する部分ではとにかくアンサンブルが濃密。12人で演奏しているのに、こんなに迫力のあるサウンドになるものなのか?凄いね。そして、弱音部の表現の多彩さにも。第3楽章での氷点下の冬の朝のような肌がピリピリするような空気が、第4楽章に入ると柔らかく暖かくなっていく。
 このコンサートは「THE MOST」の創立記念コンサートであると同時に、実質的に岡山シンフォニーホールでのコンサートの本格的な開始となる、いわば決起集会と言ってもいいコンサート。ホールの歴史の中でも、サヴァリッシュ&N響の杮落とし公演やシェレンベルガーの首席指揮者就任記念と並ぶ、歴史的公演として記録されることだろう。
 会場は1席飛ばしの「ソーシャルディスタンス席割り」で、85%ぐらいの入り、翌日の新聞記事によると850人入ったそうだが、最後の拍手のボリュームは満席のそれに近い熱気があった。
 開演時には、私自身がこの半年ぐらい、これだけの人が1箇所に集まっているのを見ていなかったので、正直、ちょっとギョッとした(笑)。冒頭でも書いたとおり、生演奏を聴く感触も忘れて身体全体が凝り固まっていのだが、コンサートが終わった後は心も身体もウキウキとほぐれた感じ。大げさかも知れないが、ホールに入る前には、灰色の別の世界に行っていたのが、ホールを出た後はようやく元のカラフルな世界に戻ってこれた、そんな感じだった。

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