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10年後に「あのコロナ騒動がターニングポイントだった」といい意味で振り返るようになって欲しい [クラシック雑感]

 岡山フィルの第63回定期演奏会の中止が決定となり、岡山でのクラシックの主要なコンサートは全滅・・・となった。
 
 払い戻しとなったチケット代は今年の賛助会員の会費に充てさせていただきます。
 岡山フィルは近年目覚ましい演奏成果を出しており、組織面でも充実させている途上だっただけに、定期演奏会を始めとしたコンサートの中止は大打撃だろう。それ以上に「リーマンショック以上」と危惧されている経済不況が現実化すれば、賛助会員企業の岡山フィルへの支援にも陰りが出るかもしれない・・・。これは全国のオーケストラやクラシック音楽家、ひいては音楽業界全体にも言えること。
 とはいえ、現時点での憶測で悲観的な話題ばかりしていても仕方がない。明るい材料を探すことにします。
 先週末は東西で中止公演がストリーミング配信され、クラシック音楽ファンのみならず、一般のニュースにも話題に登った。
 一つは『びわ湖リング』の締めくくり公演となるはずだった、ワーグナー『神々の黄昏』の無観客生演奏のYOUTUBEでの配信。
 僕はリアルタイムで見ることができなかったが、夜8時まで追っかけ再生が出来たので、ブリュンヒルデの自己犠牲の部分の一部だけ見ることが出来た。定点カメラのみの映像だったが、歌とオーケストラの迫力は胸に響いた。DVDが出たら買いたいと思っている。
 
 東ではミューザ川崎での東京交響楽団による第155回名曲全集の無観客生演奏のニコニコ生放送での配信。こちらは定点カメラ・ヴァージョンとカメラの切り替わるヴァージョンの2チャンネルでの配信となった。
 「びわ湖リング」の記録用映像のための機材を急遽ストリーミングに転用した設備とは異なり、ニコニコ動画はカメラワークやカット割りなど、周到な準備での配信のように感じた。楽団や指揮を努めた大友直人さんも手応えを感じているようだ。
 リアルタイムで10万人のリスナーが見た、というのは凄いことだ。クラシック音楽界には聴衆の現象と高齢化など、先行きを悲観する見方が固定化している。それに対して、過去に拙ブログでは過去にこんな記事を書いたことがある。

国内オーケストラ業界と岡山フィル発展への研究(その2:オーケストラは国民的娯楽!?)

「オーケストラの聴衆は年間400万人でサッカーJ1リーグに迫ろうかというボリュームがあり、J2リーグやバレーボールのVリーグを凌駕する動員がある。まずはその凄い現実の数字を踏まえて未来を考えよう」と訴えてきた。その記事を書いた私でさえ、このニコニコ生放送の10万人という視聴者数は予想外だった。
 まず、「観客のいない音楽会」というネーミングがキャッチーだった。そしてプログラムが秀逸だった。
ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
サン=サーンス/交響曲第3番「オルガン付き」
 という、初めて聴く人にも魅力が伝わる力のある楽曲が揃ったことが大きい。
 しかし、一番の成功の理由は、ライヴ配信を見ながら、視聴者がコメントで盛り上がれたということだろう。
 いい演奏のあとには楽章間でも「88888888(拍手)」の『弾幕』が流れ、サン=サーンス3番の第2楽章後半の、スポットライトに照らされたオルガンが鳴り響く場面では「ラスボス登場!」「まさにラスボス」とオルガンをキャラ化して楽しむ雰囲気はニコ生ならではだった。
 これまでの年末のベートーヴェン交響曲全曲演奏や、金聖響&神奈川フィルが推し進めたU-STREAMでのライヴ配信など、クラシック音楽界も生演奏のライヴ配信の試みはあったが、このニコ生の配信は新しい地平を見た思いがする。
 「気持ちいい」「脳が溶ける」「心震える」「涙が出てくる」「こんな上質な世界があったとは」という、クラシックに馴染みのないニコ生民の声に、「これ、ホールで聞いたら体全体が震えるからね」「ミューザは上から降ってくるよね」「現場で聞いたら鳥肌ものよ」とコンサートゴーアーたちが答える。
 
 「絶対コンサートに行く」「ふらっとコンサートに行ってみたいんだけど、次はどんなのがあるかな」「東京だと毎日何かやってるよ」「そんなに頻繁にやってるものなのか」
 といったやり取りを見ると(話半分に評価したとしても)聴衆層の拡大の可能性を感じる。オーケストラ音楽そのものの魅力に開眼した人たちがこれだけ存在することが可視化された瞬間だった。
 余談だが、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」は来年3月の岡山フィル定期演奏会でも取り上げられる。今回のニコ生で色々な人の鑑賞ポイントを知ることが出来て、生演奏で聴くのが楽しみになった。
 閑話休題
 これまでも2ちゃんねる(現5ちゃんねる)でN響の生演奏を見ながら「実況番」と言われる掲示板でのやりとりや、twitterでのリアルタイムでのコミュニケーションなどはあったが、クラシック音楽の愛好家が敷居を上げすぎているきらいがあり、音楽からどう感じるかよりも、クラシック音楽に関する知識や鑑賞経験が豊富な者の発言権が強く、このニコ生のようなフラットなコミュニケーションは見られにくかった。
 ラヴェルのピアノ協奏曲の第2楽章が始まる前に「ハンカチの用意を」、あるいは「オルガンが入る30秒前に教えて」に対して「そろそる来るよ」「くるぞくるぞ」「そわそわ」といったやり取りや、「只今、開演五分前です。お席にお着きください」の会場放送に、「はーい」「はーい」「急げ〜」と何十人も答えている、そんな、ほのぼのとした居心地の良さがあった。
 東京交響楽団の演奏は本当に素晴らしく、休憩時間中には何万人もの人が生放送を見ていることが伝えられたようで、サン=サーンスの演奏は燃えに燃えていた。姿が見えない10万の聴衆を意識した熱演、と言ってもいいと思う。
 僕は、夜にタイムシフト再生で見たので、コメントは書き込めなかったが(笑)、いい音楽に接し、その演奏に感動する喜びは、等しく共有できるという大切なことを、改めて実感できた時間だった。
 古瀬幸広さんのブログ「クラシック界に変革がやってきた」が面白いです。
 新しい職業としての「クラシックのライブ解説者」が誕生したら面白い。NHKもやろうと思えば明日にでもできそうだけれど。
 出来れば他のオーケストラの奏者が、別のオーケストラの演奏を聴いて。「ここは簡単そうに見えて実はとてもむずかしい」とか「第1ヴァイオリンは内側と外側で別の音符を弾くんです」、あるいは「透明感のあるいいアンサンブルですね、ウチのオーケストラは濃厚な音が特徴ですが、こういう透明感も出していきたいですね」みたいなコメントがあったらめちゃくちゃおもしろいかも。
 そんな妄想を、ちょうど今、山形交響楽団のストリーミングを聴きながら書いている。神尾真由子の生演奏がストリーミングで聴けるとは・・・。山響の伴奏も素晴らしい、本当に聴いていて気持ちいいいアンサンブル。シューマンでは(我が家のネット環境の問題なのか)途切れ途切れになる場面があり、それに伴って視聴者数が減っていったのが残念だった。この山響のストリーミングを手掛けたカーテンコールというストリーミングサービスは2020年の4月から本格開始されるそうなので、それまでに問題点を潰していっていただければと思う。

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木曽のあばら屋

こんにちは。
東京交響楽団、ライブビューングではちょっとしか見られなかったのですが、後から全部見ました。
コメントが楽しいですね。
以前よくニコ生を見ていたので、なんだか懐かしかったです。
それにしても10万人はすごい。
これを機にクラシックファンの裾野が広がってくれると嬉しいですし、
コロナ騒ぎが終わった後も、コンサートの新しい楽しみ方となる可能性が感じられます。

クラシック以外のアーティストも同じような試みをしていますね。
はBAND-MAIDというバンドが好きなのですが、出演予定のフェスが中止になったらしく、
3月20日の19時から無料ウエブライブをやるそうで、いまから予定を空けて楽しみにしています。
by 木曽のあばら屋 (2020-03-15 13:23) 

ヒロノミン

>木曽のあばら屋さん
 普段、クラシック音楽ばかり聴いている自分にとっては、なんの演出もない正統派のコンサートのストリーミングに、これほどの人々が集まるとは思いませんでした。
 最近、クラシック音楽館のN響の演奏に、毎回唸らされていますが、東京交響楽団も凄かったです。東京のオーケストラは世界トップレベルだと、改めて思いました。
 今後はクラシックに限らず、きちんと課金してアーティストが対価を得られるような仕組みが出来るといいですね。ニコ生でまたストリーミングがあるようだったら、有料でも見てみようと思いました。
by ヒロノミン (2020-03-16 21:25) 

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